第2便・・・ウィーンの蚤の市


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 今日は歴史ある街、ウィーンの蚤の市のお話です。

 我が家に一番近い地下鉄の駅ピルグラムガーセ(Gasseとは小さい通りを意味します)から一駅行ったところが、有名な蚤の市が開かれる「ナッシュマルクト」です。毎週土曜日に開かれると聞いて早速出かけてみました。「駅を出たらどっちに行くんだろう」などと思いつつ階段を上ると迷う心配など全くなく、その出口から蚤の市が始まっていました。

 急にたくさんの人とたくさんの物が目の前に迫ってきて圧倒されましたが、ベニヤ板の上に広げられている物を眺めてまたびっくりしました。「がらくたも出ている」とは噂に聞きましたが、それにしてもここのがたくたは、正真正銘のがらくたです。古びたお人形、明らかに動かないだろうと思われる電気器具、はきつぶされた靴、しわしわの衣類の山。ええ、そう、ここでは人々が自分の家で使えなくなったもの(使わないものではありません!)を持ち寄っているのです。

 一番面白かったのが、出店しているおじいさんの横にちょこんと並んだ年の頃7〜8歳というお嬢さんです。彼女の前に広げられているのは明らかに彼女の物だったと思われるおもちゃと絵本です。プラスチックの電話やぬいぐるみ、積み木もありました。ここで店を出して手に入れたお金で何を買うのか言葉が通じたら是非聞きたいところでした。

 日本のゴミ捨て場に捨てられているものの方がずっと新しくてきれいで使えそうと思うほどの物ばかりが並んでいる光景を見ながら、よく留学生が「どうして日本人はまだ使える物を捨てるんですか」と聞いていたのをふと思い出しました。そしてまた、現実にここに並んでいるがらくたや古着を実際に買っていく人々がいるということに驚くと同時に、自らを含めて物があふれかえっている日本の状況に対して反省の念を覚えました。それにしてもいったいいくらで買うんだろうと思いましたが、ほしくもない物の値段を聞くわけにもいかず、人の波に押されながらあちこち歩き回り続けました。

 ところがこうして歩く間に、がらくたに混じってなかなか面白い物も置かれているのに気づきました。店によっては古いレコードもあれば、本もあり、いかにも骨董品という装飾品や食器類も置いてあります。どうも駅の周りはあとから群がったいわば臨時参加のお店で、駅から遠いコーナーにむしろ価値の高い品々を置いている店が多い様です。そう、何と行ってもウィーンは、あのハプスブルグ家のオーストリア大帝国の都です。蚤の市とはいえ、置いてあるのは決してがらくたばかりではないのです。ところがあれこれ面白い物、ほしい物が目に入りだしても、今度はどのくらいがここの相場か単位自体がわかりません。100シリングなのか5000シリングなのか、まるで見当がつきません。さて、いったいいくらでこれらの品々は売買されているのでしょうか。

 市場の雰囲気に慣れ、人々の会話を聞くうちに、かろうじて人々の価格交渉のやりとりが聞こえてきました。古い骨董品の(多分中に石炭か炭を入れて使うのであろう)アイロンが300シリング(現在は円高なので1シリングが7円です。)ガラスの壺が500シリングと言うのを聞いている時に、ふと銀のナイフとフォークのセットが目に留まりました。手にとってみると、やっぱりクリストフルです。以前からあこがれてはいても、日本では1本が何万円もして買えなかったあのクリストフル製です。ただ、いかにも年代物で、古びて汚れていたのをかろうじて磨きあげたという感じでしたし、ナイフとフォークとスプーンが揃ってはいるもののそれぞれが別のシリーズです。でもこれをどのくらいと言うんだろうという好奇心の方が先に立ち、おそるおそる聞いてみました。すると「2000シリング」という思いがけない安い値段を言われて驚いてしまいました。「ふーん、そうなんだ。ここでは1本の値段でセットが買えるんだ」と妙に神妙な顔をしてしまったのを見て、突然店主は「これ銀だよ、本物の銀だよ。ここに刻印があって・・・」と言い始めました。ところがクリストフルの「ク」の字も言いません。面白くなって「でもこれはばらばらでしょ」と英語で切り出すと「俺は英語はわからん」と奥から少年を引っ張ってきて通訳に。そして「わかった。じゃ、1000シリング」と言い出すではないですか。そうなるとどうしてもほしくなり、かといってばらばらのものをそのままセットで買うのもちょっと馬鹿らしくて、結局ナイフとフォークだけを600シリングで手に入れて意気揚々と帰宅したという次第です。

 実はこれには後日談ではなく同日に起こった続編があります。

 家に帰って先程の戦略品?を開けてみるとどうでしょう。フォークは6本あるのですがナイフは5本しかありません。今頃行ってもないだろうな、どこかに落としたのかなあ、それとも元々なかったのかなあ、などと考えつつ、フォークを歯磨き粉で磨いてみました。すると、これがまた美しく輝きだし、ナイフの残りの1本もさることながら、あのスプーンも手に入れなかったのが悔やまれ始めました。ええ、そうです。で、再びナッシュマルクトへ。

 先程のおじさんを見つけ、スプーンも見つけ「これと一緒にあったナイフとフォークをさっき買ったんだど・・・」と英語で話しかけると、あちらはあちらでなにやらドイツ語でまくし立てます。その会話に何度もJapanとかJapanischとか出てくるところを見ると「日本人が残りを買って行っちゃったからスプーンしかない」と言っている様子。これはもうナイフはあきらめるしかないと今度はスプーンの商談に切り替えました。すると、一本いくらだと言ったと思いますか。なんと「1本200シリング。でも6本なら1000シリングにしとくよ。」というのです。「300シリング」「じゃ、600。だってこれは銀製だよ」しかたがないので英語で「でも私はナイフとフォークと・・・」それをおじさんは「おれは英語はわからん」とさえぎります。その時そこにいてやりとりを聞いていたお客さんの一人が通訳を買って出てくれました。すると突然「わかった、わかった。300でいいよ。」とひそひそ声。というわけで結局スプーンもまた買ってしまいました。

 以上が蚤の市からご報告です。そこで、本日の教訓
   1.蚤の市の品物にはピンからキリまである
   2.蚤の市の物の値段はあってないようなものである
というわけで、その買い物が果たしてそれ相応の価値ある買い物だったかどうかはまるでわかりません。ただその晩の食事がいつになく豪華に見えたことだけは確かです。

 では、またお便りします。