第12便・・・雪の降る街を


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 雪が降りました。この冬すでに数回雪が降ったのですが、これまではさして積もるでもなくすぐに溶けてしまいました。ところが、昨日の朝の冷え込みはいつになく厳しく、あ、雪になるかなとちょっと期待していました。そしてちゃんと雪が降りました。

 ウィーンでは今年の冬は例年なく暖かい冬でした。日本から来るにあたって、寒い寒いと脅かされて冬のコートばかりたくさん荷物に詰め込んで来たのに、「え?この程度」と拍子抜けしたほどでした。11月になっても12月になってもそして年が明けても、朝起きて外に置かれた寒暖計を見ると5度6度という日が続き、マイナスになったのはほんの数回です。むしろ日本の我が家の辺り(埼玉県の高麗川沿いにあります)のほうが、よっぽど寒かったようですし、雪もたくさん降ったようです。でも今回はちゃんと雪が降り、積もりました。

 雪は昨日のお昼ごろから舞い始めました。昨日はザルツブルグ大学のS先生がチュウ太のことでウィーン大学まで訪ねてきてくれていました。「急行列車に乗れば3時間半で来られます。一番速いのなら3時間。でもそれは朝晩1本ずつしかないですけどね。」とのこと。オーストリア人である彼自身の専門は言語学なのですが、日本語に興味を持ちさらにコンピュータを利用した日本語教材を自ら作成し CD-ROM 化したという先生です。
 チュウ太の話、CALL 教材の話、研究の話等々、ひとしきり英語で話をした後で(残念ながらまだ複雑なことはドイツ語では話せません)昼の食事に出かけようとすると、雪が降っています。傘を取りに戻ろうかと一瞬思ったのですが、S先生はおもむろにポケットから毛糸の帽子を取り出すだけで慌てる風もありません。そこで私も持っていたストールを頭からかぶり雪の中を歩き始めました。気づいてみると道行く人々もほとんど傘をさしていません。このくらいの雪ならわざわざ傘などささないようです。そしてたいていの人がフードか帽子をかぶり、何事もないかのようにゆったりと歩いています。ウィーンでは冬に入ると急に街ゆく人々が帽子をかぶり始めましたが、その理由を再認識した次第です。

 たっぷり2時間もかけて食事をし、外に出ると雪はさらに激しく降っています。これから急行列車に乗ってザルツブルグへと帰っていくS先生と別れ、私も家路につきました。
 そして、せっかくだから雪景色を楽むために2番の市電に乗ろうとしたのですが、電車はなかなか来ません。ウィーンの旧市街地をぐるりととりまくリング、そこを走っている市電が1番と2番です。2番は外回りの上、車は一方通行という道を逆に走っています。そのため時間もかかります。でも大学の最寄り駅ショッテントア Schttentor からはこちら回りのほうが見所がたくさんあります。というわけで、「雪のため電車が大変遅れています」というアナウンスがあったにもかかわらず待ち続け、10分後にようやく来た電車に乗り込みました。ところが乗ってわずかに2駅行ったところで、市庁舎前の景色のあまりのすばらしさについ途中下車してしまいました。

 降りしきる雪の中、木々の向こうにかすんでみえる市庁舎(Rathaus)。クリスマス市の時のイルミネーションに照らし出されたあの姿とはまた違った、まさに物語の世界に出てくる森の奥深くにある古いお城という風情です。雪化粧している木々はその枝振りの見事さを際だたせています。ここウィーンでは木々の剪定は最小限にしか行わないようです。そのため葉を落とした木々を見ると、それぞれの木が思い思いの方向に自由に枝を伸ばしているのがよく分かります。そして、今、その小枝の1本1本が美しく薄化粧しているのです。

 遠目には古城に見えた市庁舎ですが、近づいていくと市庁舎前広場はスケートリンクになっていました。人々は手に手にスケート靴を持って集まってきています。大人も子供も楽しそうに滑っています。リンクのこちらでは温かいグリューワインを飲みながらそれを眺めている人がいます。声を立てて笑いながらおしゃべりしている人々がいます。湯気の立つジャガイモをほおばっている人、カメラを構えている人、いろいろな人を見ていて気づいたことは子供から老人までそこに集う人々の年齢構成が多様なことです。

 この広場にあるのはスケートリンクばかりではありませんでした。このリンクの他にもう一つ小さなリンクがあり、そこでは初めてみる競技が行われていました。直径30センチはあろうという円盤で、真ん中に棒が突き出ています。その棒を掴んで円盤を持ち上げ、放り投げて氷の上を滑らせるという競技です。若い人もお年寄りも一緒になって遊んでいます。丁度ボーリングの玉のようにちょっと後に振り上げ、その反動を利用して前方に投げるのですが、この円盤もなかなか重いようで氷の上にごとっと鈍い音をたてて落ちてから滑っていきます。(この競技の名前や競技方法をご存じの方は是非教えてください。)またトランポリンも用意され子供達が楽しそうに跳び上がっていました。市庁舎前広場は皆で冬の寒さを楽しむための広場になっていたというわけです。

 帰り道は市電がなかなか来ないので、結局地下鉄の駅まで歩くことになってしまいましたが、そのおかげで、一番上の写真も撮ることができました。犬を連れた老婦人が散歩しているのは、昔は王宮内の庭園だったというフォルクス庭園(Volksgarten)で、遠くに見えるのが市庁舎です。

 さて、一夜明けた今朝、窓の外は雪景色です。でも期待したほどは降らなかったようです。一面の銀世界というほどではなく、屋根や庭が降った雪に覆われているという程度でした。

 ところが道路に出て「あれ?」と思いました。かなりの量の雪が道路脇にあります。しかも歩道はきちんと雪かきされ、人の歩く道ができています。あ、これが噂に聞いていた除雪部隊の仕事なんだ、と気づきました。ウィーンでは雪が降るとすぐに除雪部隊が動員されます。そして雪かきされた公道には砂利がまかれ、人々が雪で足を滑らさないようにという配慮がなされます。今回の雪も積雪量はたいしたことなくほんの数センチほどだったのですが、それでも除雪部隊はきちんと仕事をしてくれたようです。さすがに雪国だなと撒かれた砂利を踏みしめながら感心して歩いていると、その「除雪隊員」に会うことができました。でもオレンジ色の作業服は清掃局の職員と同じです。それで思い出しました。ウィーンの除雪は確か市の清掃局の管轄でした。