第11便・・・子供=犬=自転車


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 まずは謎解きから。犬とかけて自転車と解く。その心は?
 さて、おわかりになりますか。これはウィーンならではの答えかも知れません。その心は「地下鉄に乗れる」です。そうなんです。ウィーンでは犬も、自転車も、地下鉄に乗れるんです。上の写真をご覧ください。これはU-Bernと呼ばれている地下鉄のプラットフォームです。盲導犬ばかりでなく、普通の犬もちゃんとフォームに入ることができ、列車に乗ることもできるのです。

 初めて地下鉄のフォームで自転車を目にしたのはウィーンに来たばかりの日曜日の朝でした。最初は何か特別の事情で持ち込まれたのだと思ったのですが違いました。自転車は正式に持ち込んでいいことになっているのです。ただし、地下鉄に持ち込める時間帯は決まっています。ラッシュアワーの時間を避けて、平日は午前9時から午後3時までと午後6時半以降、土曜日は午前9時以降、日曜祭日は終日可となっています。ウィーンの人達が早起きであることは前にもお話ししましたが、この掲示が示すように朝のラッシュは9時には終わり、夕方のラッシュは6時半には終わってしまいます。店も6時には閉まりますし、多くの人々にとって夕方からの時間は自分たちの時間なのです。

 地下鉄に持ち込まれる自転車の大半はスポーツ自転車です。さすがにママチャリを押して地下鉄に乗り込んでくる人はいません。ほとんどの人がスポーティな格好をしていますから郊外まで行って自転車を乗り回そうというのでしょう。さすがに冬のこの時期になると、自転車を持ち込んでくる人はそう多くはありませんが、秋にはよく見かけました。そして、ドナウのほとりやウィーンの森にはそんな人々のためのサイクリングロードも整備されています。地下鉄は人々のこうした楽しみにもちょっとしたお手伝いをしているというわけです。

 そして次に驚いたのは、地下鉄には犬たちも乗り込んでくるということです。これまた最初は、駅員さんの数も多くないことだし、きっと内緒で乗せているんだろうと思いました。ところが気がつくと、地下鉄の車内には口輪をはめた犬の掲示が出ています。掲示だけ目にしたらウィーンでは口輪をはめないと犬は生活させてもらえないんだと思いますが、これはあくまでも「列車内では必ず犬に綱と口輪を」という掲示です。犬もまた正式に地下鉄に乗ることができるのです。

 犬が地下鉄に乗れるということには驚いただけでなく、うらやましいとさえ思いました。ウィーンには単身赴任で来ていますが、日本に家族だけでなく犬2頭も残してきているので、時折、犬たちはどうしているだろうかと気になります。(家族とは毎日のようにメールで話ができても、犬たちとメールごっこはできません。)そして、街を歩いていて大きな犬を見かけるとつい目が向いてしまいます。我が家の犬に似たゴールデン・レトリバーやラブラドルを見ると、立ち止まってしまいます。そんな状況ですから、実は地下鉄にだけでなく、バスにも市電にも乗れると分かったときには、ここだったら、狭い車に押し込めなくても、自由に山や川に犬を連れて行ってやれるんだ!連れてきてやりたいな、とつい思ってしまいました。

 ウィーンの犬たちは地下鉄に乗るのもバスに乗るのも慣れているのでしょう。エスカレータに乗り、地下鉄のホームに入り、なんということなく車内に乗り込んできます。車内ではちょっと居心地悪そうに居場所を探す犬もいますが、たいてい飼い主の足下にすぐうずくまります。いそいそとバスに飛び乗る犬もいます。見ていると、小型犬は口輪などしてない犬がほとんどです。大型犬になるとさすがに半分くらいの飼い主が車内では口輪をはめさせています。

 犬たちはかなりお行儀がいいし、外を歩いているときも飼い主を引っ張る犬はほとんどいません。そして地下鉄やバスの中でのおとなしさときたら、まるで訓練を受けた盲導犬のようです。日本と比べて総じてよくしつけられているという感想を持っていました。ところが先日ウィーン大学の学生達に意見文を書かせていたところ、たまたま犬に関する一文がありました。曰く

 今日の日本でもオーストリアでも犬の数は多いが、日本とオーストリアの間に犬を飼っている面で差があると思う。オーストリアでは犬が糞をした後、犬の飼い主が片付けることがあまり見られない。だから、ウィーンの歩道どこでも糞を踏みそうになる。東京では鳩に糞を落とされたことはあるが、犬の糞を踏んだことは思い出せない。ウィーンの町を歩くと、犬にくんくん嗅がれたり、洋服を汚されたり、吠えかけられたりする機会がどこでもある。一般的に言えば、ウィーンの犬は教育が悪いという体験がいっぱいある。

 私の印象とのこの格差はなんなのでしょう。聞けば彼女は犬は大嫌いだとのこと。同じ距離に近づかれ、同じ事をされたときでも、感じ方が違うからこんなに違った印象になるのでしょうか。ウィーンの犬たちの行儀の悪さを私はまだ知らないにすぎないのでしょうか。ただ、犬の「落とし物」に関しては日本に比べて確かに多く、街の歩道のそこここに見かけます。足下にはいつも気を配って歩く必要がありますし、トランクやバックをごろごろ引いて歩くときには要注意です。でもこれって犬の行儀の問題ではなくて、飼い主の行儀が悪いのでは、とつい犬の肩を持ってしまいたくなるのですが......

 さて、地下鉄やバスに、人間様と一緒に乗り込んでくる犬たちですが、切符は必要なのでしょうか。どんな制度になっているのでしょう。ふと気になって改めて券売機のところまで行ってみました。すると前には気がつかなかっただけで、ちゃんと書いてありました。子供と犬と自転車は全部同じ「半額料金」でした。え?犬の無賃乗車の罰金?それについては何にも書いてありませんでした。