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第4話 海人邦夫の魚たち

 イリムティヤの朝は、常にまったりと、そして慌ただしい。

 大音量のNHKのせいで早まる起床(続第1話参照)そして朝食作りに加え、漁れたて新鮮な黒島産魚類の下処理(うろこ取りと内臓取り)をしなければならないからだ。それに加えて日常作業の掃除・洗濯・皿洗い、トイレ・風呂掃除をこなす。超優秀な我らヘルパー3人娘は、毎日この朝のメニューをばりばり消化し、お客様の快適イリムティヤライフを陰で支えていたのである。(笑)

 このように私達にとっては厄介な魚の下処理なのだが、お客さんから見れば、これほど興味をそそるものは滅多に見られないぞ、という感覚のようだった。
『これぞイリムティヤ、邦夫&ヘルパーの宿』を感じてもらうため、好奇心たっぷりのお客さんの心を充足させるべく、ウロコ取り、内臓取りを半ばアトラクションのように楽しんでいたので、実際、大漁の時はほとほとうんざりするが、お客さんがびっくりしたり面白がったりする様子がとても嬉しかった。

 その驚きと感動に至るまでを順を追って見てみよう。

  1. だいたいAM8:00〜10:00の間にかかってくる邦夫コール
    「たくさん漁れたよー。いつもの浜ねー。」ガチャップープープー。
  2. その超短い一方的通話内容を解読。
     訳「めでたく大漁だが魚が重いので、いつも舟をつける浜まで車で迎えに来て欲しい」
  3. 車を出し、浜まで急ぐ。この時行きたい人がいれば乗れるだけ乗っけていく。
  4. 海へざぶざぶ入り、魚袋を預かる。

     2月のとある朝は大漁大漁。しめて24匹。このように桶や大鍋を使って2人がかりで「イリムティヤ←→浜」を3往復した。
  5. 帰宅して早速ウロコ取り。
     この様な形をしたイリムティヤに1台しかないウロコ取り専用マシーンと、自らの腕力と、魚たちに注ぐ少しの愛情を持ちさえすれば、誰でもウロコ取り名人になれます。

     南国の魚たちの鎧は上等である。特に(沖縄口で)シチューと呼ばれる魚のウロコは超が付くほど頑強で、手強い。ちょうどこの写真の女の子が苦戦している魚である。ひとそぎするたび、ゴリッバリッゴリッガギギギなんて痛かわいそうな音を出す。飛び散るうろこは鉄砲玉のような勢いでいくつも顔に命中する。

  6. 内臓取り。
     これはオジサンと呼ばれる魚の腹に包丁を入れるところ。周りに散っている桜の花びらのようなものは全て魚のウロコ。ウロコのうちで一番美しい色を持つ、私の大好きな魚は、このオジサンであります。黒島魚の中でもウロコの取りやすさはダントツで、薄紅色のガラスの花弁のよう。魚肌も黄色と白とピンクがうまい具合に配色され、艶やかでなまめかしい。が、オジサンという名だけあって、アゴにヒゲの様なものがついている、なんとも愛嬌のある魚くんである。

     つい先日図書館に立ち寄った際、あの時自分が毎日食していた魚や貝がどういう名だったのか気になって魚図鑑を手に取って見た。『スズキ目ヒメジ科オジサン』これがオジサンのフルネーム、立派である。学名もオジサンだなんて......

 ついでに紹介します。邦夫氏がよく漁ってきてくれる美味しい魚さん達です。

 上から『スズキ目フエフキダイ科ハナフエフキもしくはイソフエフキ』(沖縄口『タマン』かな?)、同じく『スズキ目イスズミ科イスズミ』(沖縄口で『シチュー』)、オジサン、『キンメダイ目イットウダイ科アカマツカサもしくはウロコマツカサ』これは味がとても良い。

 次の写真はいかにも南国の魚という感じです。

 上から『キンメダイ目イットウダイ科ウケグチイットウダイ』、真ん中の3匹は『スズキ目ニザダイ科ニセカンランハギ』これはなんと刺身が美味しいのです。皮がぶ厚く、とてもさばきやすい。美しい魚ですが尾の方にトゲのような突起があり注意が必要です。
 そして、出ました、虹色の魚!『スズキ目ブダイ科ナンコウブダイもしくはオビブダイ』(『イラブチャー』かな?)刺身でもいいのですが、私達は塩焼きにして食べるのが好きで、身は高級な味であります。茶色いナンコウブダイもいて、ナンコウブダイの雌なのか、それともブダイという魚なのか不明であるが、茶肌の方が美味であったと記憶しております。

 次の写真は下から紹介します。

 『ボラ目ボラ科ボラ』身がぶりぶりしてます。縞模様の2匹は『スズキ目イサキ科ムスジコショウダイ』、そして、憎らしい顔つきの『フグ目モンガワラハギ科ムラサメモンガラ』こいつは黒島でシュノーケルをしている時必ず出くわす厄介な奴。色や形はまあ美しく、描きたくなるような特徴的な魚だが、人を見ると自分の縄張りを侵害されると思い突進してくる。アゴの歯並びからして屈強そうで、頑固者。あやつの顔を見るたび突進を警戒せねばらなず、シュノーケリング中の私の心拍数は上がりっぱなしであった。そして先ほどの紹介にも登場したこの魚、イスズミ君。大型で肉質が厚く、食べるところが沢山あって、30cmが1匹あれば5人分の刺身になる。内臓を取り出してみると、腸は緑色で肥大している。好物の海草(ハバノリが好きらしい)を沢山食べているからだ。また外見が白っぽいものほど脂がのっている。黒島で最もよく漁れる魚(2〜3月中)である。

 写真に載っている魚だけをざっと上げただけだが、なかなかいろいろ食べてきたのだなあとしみじみ思う。魚の知識の乏しい私達は、今まで邦夫氏の教えてくれた通りの名で魚名を記憶し、お客さんにも説明し、調理した。毎日のように食卓を飾るイスズミ君は黒鯛だと思っていたし、漁れたら何でも美味しく食べて、あらも捨てずに出汁とりに使い、身はこそげ醤油をつけて食べた。これがなんともうまかった。「黒鯛じゃなくてイスズミじゃんかよー」と言いたいところだが、魚の図鑑がいつの間にかなくなった......と淋しそうに語っていた邦夫氏の事を思うと、「なんくるないさー、ちばりよー邦夫!」という気持ちになった。
 美味しい魚をありがとう、海人邦夫。

続イリムティヤ
......まだまだつづく......

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