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第2話 やいまの空気 その1

大空を仰ぐ

 青空が澄み渡り、風も心地よい。

 昼食の後片づけを済ませ、夕食準備に取りかかるまでの間の暇な時間、ヘルパーふみちゃん(仮名)と私は西の浜をぶらぶら歩いていた。真っ白な砂浜、うごめくやどかり。薄紅、純白、クリーム色、斑や縞模様、あるいはグラデーションのかかった綺麗な貝殻を掌で玩びながら、遠くに映るパナリ島をぼんやり眺める。ふみちゃんは太い流木に腰をかけ、ピンク色のやどかりをいじくっている。

 この西の浜と伊古の海岸には、いろんなものが流れ着く。旅人達に座ってくれと言わんばかりの太い流木や、珍しい貝殻が沢山流れ着くのはこの西の浜。どでかい浮きやらアジアンテイストなお面やら、珍品の数々とゴミが流れ着いてしまうのが伊古の海岸である。自然が作った芸術を拾うも良し、珍品探しをするも良し。魚を追うも良し、アーサーを採るも良し、ぼんやりするも良し、三線弾いて“もーあしび”するも良し。黒島の浜は遊びの宝庫なのである。

西の浜南口の浅瀬。この日はパナリがよく見えた。3月28日

 そうそう、その日は、ただゆっくりと流れる時間を二人でまったり味わっていたのだ。すると突如、携帯の短い呼び出し音が鳴った。『今すぐ津波が来るって。テレビで大騒ぎだよ』なんとふみちゃんのおとうさんからのメール。変だね、地震なんてあったかね?2人で首をかしげていると再び携帯の呼び出し音が鳴り響く。
「ふ〜みちゃん?邦夫さん〜だけどぉ〜、津波がくるからね〜。帰っておいで〜。」
いつもながら要件のみの唐突な邦夫コールだったが、その後も次々と友達から津波を心配する電話やメールが届いた。

 私達はちっとも気づかなかったが、石垣島沖が震源の震度1の地震のせいで、八重山諸島と宮古に津波警報が発令されたようだった。メールの内容や皆の話しぶりに、ただならぬ緊張感を感じた私達は、すぐさま浜から引き上げた。遅れて黒島の有線放送の拡声器からも津波を警告するアナウンスが流れる。
「住民は今すぐ高い所へ避難するように」と言われても、今私達は浜辺を歩いているのだからどうしようもない。貝殻拾いに夢中で、随分南へ歩いてきてしまったことを悔やみながらも、黙々と家路を急ぐ。自転車を置いた所まできて、私はふと、あるべきものがないことに気付いた。
『お父さんのカメラがな〜〜い!』
 慌てて浜から退散した私は、大事なカメラを西の浜入り口からだいぶ離れた波打ち際に置いてきてしまったのだ。精密機械が塩水に飲まれたらひとたまりもない。私のバイト代で買い替えれば、ちょっと怒られるだけで済むけれど、あのカメラの中には奇想天外なイリムティヤ生活とお客さん達との大切な想い出がぎっしり20枚は詰まっているのだ。

 後悔に打ちのめされ、軽いパニックに陥って浜へ戻ろうとする私。それをなだめる冷静なふみちゃん。さぁどうなる!!

次回へ続く!!! 

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