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第3話 黒島の「伊古桟橋」


ブーゲンビリヤやアカバナーが咲き乱れる島

 イリムティヤは本当に居心地が良く、へたをすると何もせずにただまったりと、おいちゃんやヘルパーさんと「ゆんたく」・・・・・・ということにもなりかねない。そんなゆったりした時間を過ごすのも、とってもいいけれど、せめて黒島をイリムティヤ号で一周したい!と私は思った。そしてすぐ実行。

形の小さな島さ、すぐ回れるだろう・・・」なんて安易に考えていたけれど・・・、いやいやけっこう広いもんで、いい運動になった。牛や木々、家並みを眺めながら島を散策すると、必ずと言ってよいほど迷う。この小道はどこへつながるのだろう・・・・・と興味津々で進むのだが、行けども行けども白い道、牧草地そして牛と青い空。ちょっとおかしいな?と思ったら戻りましょう。しかし頑張って進めば海へ出るでしょう。

 ヘルパーのゆうかちゃんから聞いて、絶対にいっておこうと思っていた場所が1つだけあった。それは「伊古桟橋」。地図を見ないで自力で探してやる!!と思い、遠回りしながらもたどり着いた。の看板がある。奥へ進む。うっそうと繁った森のトンネルを抜けるとそこは遠浅のエメラルドグリーンの海だった。でも悲しいことに浜にはゴミがたくさん流れついて溜まっている。このゴミは何処から流れてきたのだろう。波に洗われて白くかすれたプラスチックが多い。島に来て初めて胸がつまった。こういうのを見ると、心が痛くなる。しかし、それでもみんなはこの桟橋が好きだというのだ。

しましまの魚君に気づいた?
 私は、海へ吸いこまれてゆくかのような長ーい桟橋を渡りはじめた。ゆっくり海を眺めながら。『なんだ、この橋は? いくら歩いてもちっとも突端につかない・・・・・』そう思っていると、突然と道が崩れ落ちていた。そして私の足音を察知して、茶色い大きなカニがカサカサカサッと崩れたコンクリの塊の陰へ入っていった。それにしても、どうしてこんな風に崩れたんだろう。崩れ具合があまりに豪快で、おかしくなった。
 崩れた岩をうまくひょいひょいとかわして、先へと足を進める。前方180度に広がる風景の中は、とうとう、海と桟橋のみになる。すると不思議と何かこみ上げてくるものがあり・・・・・・「わたしの(オレの)!!」と叫びたい気持ちになった。海の中を注意ぶかく見ると、黒と白のしましまの小魚や、青い蛍光色の魚がちらちら泳いでいる。しばらくその可愛いらしさに見とれていると、カニがちょろちょろ顔を出してきた。小さな命が、安全なこの海で生まれ育っているようだ。ゆっくり腰を上げ、先へと足を踏み出す。

 しばらくすると、またもやどっかん・どっかんと橋が崩壊している。うれしくて笑いたくなる。こんなに豪快に壊れていても、修復しようとせずそのままにしている島の人たちの心意気に触れた気がしたからだ。この桟橋はこのままでいい。壊れているから大好きになれるんだ。
 わたしはぴょんぴょんとその岩塊をとび越し、先っちょへ向けて歩き出す。静かだ。波の音だけがさわさわと優しく、風は心地いい。突端についた。足をぶらんと投げ出して座る。そして何も考えずに、ただ海の中を見つめた。魚がちらちら泳ぎ、アーサがゆらゆらゆれている。ぼーっとしている私の足を、カニが「エサかな?」とつんつんつついている。どのくらいしてからだろうか。ぼーっとしている私の目前に、キラキラした小さな、せいぜい6センチくらいの魚の群れがピシャピシャピシャッと飛びはねた。群れになって順序よく、まるで私に見せようとしているみたいだ。

 V字になるように後ろのグループから順々にリズムよく飛びはねてゆくその様子は本当に見事だった。なぜだかわからないけれど、ほんのり涙がでた。ここに来れたことを、黒島に、八重山に来られたことを、本当にうれしく思った。もう一度魚たちのジャンプが見たくて、ひたすら海を見つめていた。そして、20分おきくらいに魚たちが一斉に飛び跳ねることを発見した。それがものすごく嬉しくて、誰かに伝えたい気持ちになった。カメラに納めようかな、なんてチラリとも思わなかった。


手前のチャリンコは「イリムティヤ号」
無料乗り放題ヨ。

 ここから感じる海を心の中に納めておきたい。本当に感動したことを、小さな写真の中に納めようとしてしまったら、その時の感動が安っぽい思い出になってしまう気がしたから。

......つづく......

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