その5 「ルル」

2001.3.31 19:30〜
 場所:シュターツオパー(Stehplatz)
 演目:『ルル』(Lulu)(プロローグ+2幕+エピローグ)(初演:1937)
 作曲:アルバン・ベルク(Alban Berg1885〜1935)
 原作:フランク・ヴェデキント(Frank Wedekind)『パンドラの箱』
 指揮:ミヒャエル・ボダー(Michael Boder)
 演出:ヴィリー・デッカー(Willy Decker)
 舞台装置/衣装:ウォルフガング・グスマン(Wolfgang Gussmann)

 ルル:アナート・エフラティー(Anat Efraty)

 観客の半分はまだ席についておらず、何人かがまだ舞台上で練習している中、幕が上がる。湾曲した白い壁にドアが11個。壁の向こうは黒一色で、階段状になっている。舞台中央、壁のこちら側に三脚が一つ。その三脚には、白いワンピースを着たオレンジ色の髪の女性が後ろ向きにまたがって座っている。マネキンだろうか、ぴくりとも動かない。壁の向こう側に、一人、また一人と、黒いスーツに黒いコートを羽織り黒い帽子をかぶった男性が入ってくる。総勢30余名が出そろうと、指揮者が登場し、音楽が始まる。そして舞台に猛獣使いと道化が登場すると、物語の始まりだ。11個のドアから、それぞれ猛獣たちが顔を覗かせる。動き出した三脚の上の女性はルル。「不幸を呼び起こすために創造され」「女性の原始的な魔力」を体現する危険な蛇。黒服の男性達(=大衆)は、ルルを見ようと群がってくる。

 猛獣たちが引き下がり舞台は第1幕へと移行する。壁の外の男たちによって、舞台には次々と白いキャンバスが運び込まれる。画家がルルを描く。その後、幕が下りて登場するのは真っ赤な唇の形をしたソファー。ルルと彼女の夫である医学顧問は、このソファーと同じ唇の模様がたくさん付いた黒いガウンを着ている。第2場では画家が描いたルルの絵が登場する。女性の裸体が5枚のキャンバスに分かれて描かれている。画家はこの絵で名声を得た。人が裏に隠れるなど、小道具としても巧みに利用される。この絵はその後ルルがダンサーとなったときにも、ポスターとして用いられる。

 第3幕。ルルはダンサーとして登場。公演中ルルはシェーン博士と彼の婚約者が客席にいることに気付き、舞台に出ることを拒否する。楽屋へ行ったシェーン博士がルルをなだめると、彼女は婚約者への別れの手紙を書くよう迫る。ルルがポスターの裏に手紙を口述筆記させると、壁の向こうの黒服の男達もそれぞれ手にしたポスターに手紙を書く。そして男達が博士の婚約者にポスターを投げつけて去ると、最後にルルが博士に書かせたポスターを渡すのである。黒服の男たちはこの他にも猛獣使いを舞台におろしたり、はしごを持ってきたり、最後には壁のこちら側に来て、切り裂きジャックとなって刃物を振りかざしたりといろいろ活躍する。

 演出や舞台装置、衣装など、とてもわかりやすい。ただ、平戸間の観客と指揮者は、目のやり場に困ったのではなかろうか。なにしろシュテープラッツの私にも、しょっちゅうルルのパンツが見えるのだから。話が話だけに仕方がないかも知れないが。

 アルバン・ベルクの音楽は、私にはあまり面白く感じられない。陰鬱な音楽が、幕が下りている間もずっと流れ続ける。歌手たちの歌も無調。ところどころに語りの部分があるが、歌の部分では、ルルは始終金切り声をあげている。2時間半ほどのオペラだが、立ち見であることを除いても精神的にかなり疲れた。しかし、ウィーンのオケマン達は私とは感覚が違う様子。かなり気合いの入った演奏だった。観客の拍手も、ルルの次に指揮者へのものが大きかった。

 先日見たツェムリンスキーの『カンダウルス王』もちょうど同じ頃作曲されたもの。『カンダウルス王』は1939年、メトロポリタンに上演を拒否されている。ルルは1937年にチューリッヒ市立歌劇場で初演されているのだが、評判はどうだったのだろう。この時代、社会的背景とともに音楽を見ていくと面白いのだろう。が、こうもどろどろした話ばかりだとすると食傷気味。