その4 「カンダウレス王」

2001.3.26 19:00〜
 場所:フォルクスオパー(Parterre 後方中央)
 演目:『カンダウレス王』《Der Koenig Kandaules》全3幕
 原作:アンドレ・ギデ(Andre Gide)
 作曲:アレクサンダー・ツェムリンスキー(Alexander Zemlinsky)
 指揮:アンドレアス・ルッペルト(Andreas Ruppert)
 演出:ハンス・ノイエンフェルス(Hans Neuenfels)

 ☆あらすじ☆

第1幕
 カンダウレス王が祝宴を開き、それまで誰にも見せることの無かった王妃ニシアの顔を公開した。
 ニシアがヴェールを取ると、彼女の美しさに宮廷人達は圧倒される。宴席に巨大な錦鯉の料理が運ばれる。(こう筋書きには書いてあるんだけど、錦鯉って食べるもの?観賞用のは知ってるけど。確かに舞台に登場した鯉は、巨大かつ金色だった。)
 料理の中から「私は幸福を隠す」という謎めいた刻印がなされた指輪が発見される。王がこの鯉を売った漁夫を呼びつけると、それは彼の旧友ギゲスだった。カンダウレス王がギゲスの妻を見たいというと、彼は妻の裏切りを知って彼女を殺したという。

第2幕
 カンダレウス王はギゲスに王妃ニシアの裸の姿を見せたいという密かな望みを打ち明ける。
「なぜなら、私の隠された幸福は、他人の中にこそその力の源泉を有しているように思えるからだ。つまり、私の幸福は私が何を所有しているかを他人が知り、そのことを私が知っているという事実の中にのみ存在するのだ。」
 鯉の中から見つかった指輪は、はめた人を透明にする魔法の指輪。その夜、ニシアが寝室にはいると王は彼女から離れ、ギゲスが王に代わって彼女と一夜をともにする。

第3幕
 翌朝、事実を知らないニシアはカンダレウス王に昨晩がこれまでで最高の夜だったと語る。一方ギゲスは王妃への愛と罪の意識に苦しみ、ニシアに真実を告げに行く。彼がニシアに自分を殺すよう迫ると、事実に恐慌した彼女は復讐としてカンダウレス王を殺すよう命じる。ギゲスは王を殺し、ニシアはギゲスを王とする。ギゲスにとって罪の意識にさいなまれる暗澹たる人生が始まる。(完)

☆コメント☆

 はっきり言って、かなりえぐい話だ。こういうストーリーだと、一番注目すべきは第2幕の演出だろう。第2幕、幕が上がると舞台中央にベットがあり、その後方は幕が掛けられて何か隠されているよう。カンダウレス王とギゲスのやりとりの後、ギゲスが指輪をはめ、ニシアの入場。覆いがとられ、大きな絵がでてくる。その絵は寝室の情景。王が横たわり、王妃が衣を脱ぎ、ギゲスが横から見ている図。絵は薄いスクリーンで、その向こうにもベットがあるのが透けて見える。そこで後半の演技はなされる。観客からはスクリーンの絵と重なって演技が見える。
 なるほど、という演出ではあった。今回一緒に見たY氏の話では、これがウィーンでなかったら多分もっと過激な演出になるんだろうとのこと。ウィーンは保守的な街なので、あまり過激な演出は好まれないらしい。
 全幕にわたって要所で作曲者のツェムリンスキーが舞台に現れ、事の成り行きを見ている。指輪をはめて姿が見えなくなることを金色のフラフープのような物の中に入る事で示すのだが、これを持ってくるのもツェムリンスキー。
 ツェムリンスキー(本人)は以前アルマ・マーラー(グスタフ・マーラーの妻)に恋をしてこっぴどく振られたらしい。夫である王を殺して・・・というストーリーは、ツェムリンスキーの願望が込められていると考えると、舞台上でツェムリンスキーがギゲスの様子を見続け、魔法の行使にも介入する、という演出はちゃんと必然性があるのだと思えてくる。
 第3幕では、まだ幕が開かないうちにツェムリンスキーが第1幕の始めにも持っていた譜面台を持って登場し、譜面台を舞台の端に置いて去る。幕が開いてもそのまま譜面台は残される。舞台上の大道具は他にアップライトピアノだけ。書き机として使われる。ストーリー上はそれがピアノである意味はない。ツェムリンスキーは、舞台から去っても存在を臭わせ続ける。この演出は、全てがツェムリンスキーの心中の出来事(願望の現れ)だということの暗示なのだろうか。
 2時間ほどのオペラだったが、もう充分という感じ。これ以上の長さがあったら、とても見てられない。さらに後味の悪さが残る。そう考えるとワーグナーのオペラは良くできてるのかなぁ。