その22 ロストロポーヴィチ チェロ協奏曲

2001.5.21 19:30〜
 場所:楽友協会大ホール(Stehplatz)
 楽団:ウィーン音楽大学交響楽団(Hochschul-Symphonieorchester)
 指揮・ソロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
       (Mstislaw Rostyopowitsch); Violoncello
 曲目:アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi)
     チェロ協奏曲 G-Dur, RV413(弦楽+チェンバロ)
    ルイジ・ボッケリーニ(Luigi Boccherini)
     チェロ協奏曲 D-Dur, G479(弦楽)
    ヨーゼフ・ハイドン(Joseph Haydn)
     チェロ協奏曲 C-Dur, Hob. VIIb:1

 今日は立ち見。少し早めに行くが、並んでいる人は少ない。見やすい位置を確保できた。その後続々とお客さんが増え、座席も立ち見席も満員になった。やはりロストロポーヴィチはウィーンで人気があるようだ。

 ヴィヴァルディ。ロストロポーヴィチは今回弾き振りをする。台の上に座りチェロを構えているので、体をひねって後ろを振り返りつつ指揮をすることになる。爽快な滑り出し。オーケストラの音は勢いがあり、かつよくそろっている。ロストロポーヴィチのチェロが入る。この前のウィーンフィルとの共演ではオケの編成が大きかったせいか気付かなかったのだが、ロストロポーヴィチのチェロの音は大きい。楽器を完全に鳴らしきっている。ムジークフェライン大ホールは低音が良く響くのだが、それにしても細かい音まできれいに響いて聞こえる。そして、彼は早いパッセージでも顔色一つ変えずに弾く。「この人は本当に70過ぎなのか?」と思わず疑いたくなるほどだ。先日の演奏会の曲目はドン・キホーテだった。あの時は、老騎士になりきっていたのだろう。今日は共演者が若いせいもあるのか、とても若々しい。この曲では、この時代の音楽に良くあるようにソロ(パートで1人のみが弾く)や、ソリ(パートで数人のみが弾く)がしばしば出てくる。問題はこのときだ。ロストロポーヴィチのチェロの音にオーケストラのソロ・ソリの音が隠れてしまうのだ。おそらくピアノやメゾピアノの指示があるのだろうが、聞こえないのでは意味がない。ムジークフェラインの音響特性もあるのだろう。そう言えば、ウィーンフィルのトップは、ソロの時、驚くほどきれいな音を出す。だから、前回のウィーンフィル、ロストロポーヴィチの共演は見事な掛け合いになっていた。きっと彼らは、ソリスティックな音を出さないとよく響かない事を知っているのだろう。

 ハイドン。ハイドンがオーケストラに重点を置いた曲作りをしたためか、それともオーケストラがムジクフェラインでの演奏のコツがつかめてきたのか、のびのびと演奏しているように聞こえた。ロストロポーヴィチの音楽がオーケストラをぐんぐん引っ張っていく。ハイドンの曲がきらびやかに聞こえた。

 そして、万雷の拍手に応えてのアンコール。ロストロポーヴィチはソロでバッハのニ短調を聴かせてくれた。あんなに叙情的で心にしみるバッハは初めて聴いた。感動した。涙が出た。74歳の彼のそのものが滲み出ていた。以前にロストロポーヴィチがNHKの小林記者との対談でこう語っていた。
「演奏家の出す音はいわば電線であり、電流が流れていなければ何も伝えることはできない。今の演奏家には技術はうまくても電流の流れていない人が多い。」
 彼の演奏には、まさにその電流が流れていた。