その10 ゲルギエフ指揮「復活」

2001.4.10 19:30〜
 場所:コンツェルトハウス大ホール
 楽団:サンクトペテルブルク・マリンスキー劇場オーケストラ&コーラス
   (Chor und Orchester des Mariinsky Theaters St. Petersburg)
 指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ(Vaiery Gergiev)
 ソリスト:イリナ・デョエヴァ(Irina Djoeva);Sopran
      ツラタ・ブリチェヴァ(Zlata Bulycheva);Alt
 曲目:グスタフ・マーラー(Gustav Mahler)
     交響曲第2番 「復活」 c-moll《Auferstehungs symphonie》

 当日の朝、だめだと知りつつもチケット売り場へ行ってみる。やはりない。あとは開演45分前、ラストミニッツのチケットがあるかどうか・・・。開演は7時半だが、ちょっと早め、6時に家を出る。チケット売り場には既に人が並んでいる。そちらは母に任せて私は「KARTEN BITTE!!(チケット求ム)」と書いた紙を持ち、コンツェルトハウスの前に立つ。6時半頃からちらほらと中に入っていく人が出始める。道行く人は、たいてい私の持つ紙を見ていく様子。時たま、おじいちゃんやおばあちゃんが微笑みかけてくれたりする。一人のお兄さんが声をかけてきた。チケットを売ってくれるのかと期待したのだが「チケット売り場で売れ残りを買えるよ」と教えてくれた。「ありがとう、母が並んでます」と言っておいた。時間はどんどん過ぎてゆく。会場に向かう人の数も増えてきた。だんだん心配になってきた。その時、50代後半くらいの身なりの良い女性が声をかけてくれた。「チケットを買いたいのかしら?連れが病気で余ってるんだけど」やった!!ついにチケットを手に入れた。原価の225シリングで売ってもらった。母に1枚手に入った旨を伝えに行き、また外に立つ。しばらくすると先刻から横に立っていたおねえさんが「あなたはもうチケット手に入ったでしょ?」と、声をかけてきた。「母の分がないの」と応対する。数分後、背の高い紳士が「チケットあるんだけど」と。250シリングの券を購入。「KARTENBITTE!!」の威力は絶大である。母の元へ行こうとすると、先程のおねえさんがすかさず「その紙頂戴!」。「もちろん」と手渡して、中に入った。

 さて、大ホールの中へ。私の席はパールテールの左側面の席。母の席は3階だった。しばらく座っていると先程チケットを売ってくれた婦人が隣の席に来た。もう一度お礼を言い、しばらく英語混じりでおしゃべりをした。

 オーケストラの入場。ワーグナーチューバはいないが、昨日と同じく大編成のオケ。合唱も入り、ソリスト2人はオルガンの演奏台に登る。昨日も来ていたお客さんはどのくらいいるのかな、などと思いつつ、期待が高まる。ゲルギエフ登場。

 ゲルギエフの手が上がり、小指が動き出した瞬間から音楽が始まる。高・中弦の刻み。弓を半分以上使ったフォルテッシモから1小節間での急速なデクレッシェンドでピアノに。このピアノの刻みがあまりに小さく驚いた。こんな演奏は聴いたことがない。ホールの空気が静まりかえる。静寂以上の静かさ、とでも言ったらいいだろうか。しかしその静寂も、次の小節には低弦のフォルテシシモ(フォルテ3つ)によって破られる。突然空気が動き出す。低弦の響きは本当にそろっていて、これまた驚くほどしっかりした音で音楽を支え上げる。その後も音楽が進むに連れてさらにテンションが上がる、打楽器も大張り切り。特に、ティンパニの2人の息の合い方は信じられないほどで、まるで1人で叩いているかのようである。しかも、1人で叩いていたのではあれほどのアクセントはつけられないだろう。第2楽章はわりとあっさりめ、しかし楽しげに。途中、一瞬だけ見えたゲルギエフの横顔がなんとも穏やかな、優しげな表情だったのが印象的だった。これだから団員達はこの人についていくのだろう。アルト、ソプラノの両人とも、とても澄んだ声で歌っていた。そして、何より感動的だったのは合唱の入りの場面。研ぎ澄まされた歌声は、北の大地の冷たい空気を思い起こさせる。そして、その後の燃えるような音楽は、まさに生への賛歌。復活はこれまでCDでしか聴いたことはなかったが、これほど起伏に富んだ演奏はなかったのではないかと思う。終曲に向けて、第1楽章をはるかに上回る熱気と音量で音楽が膨らむ。最終音の余韻が消えて一斉の拍手。昨日のようなフライングのブラボーもなく、気持ちよく拍手ができた。団員達が握手を交わし舞台を後にしてもまだ拍手はおさまらず、もう一度ゲルギエフが舞台に現れる。

 昨日の「最高」をもう返上しようか・・・しかし、どちらも良かった。だからもう一度言い直そう。ゲルギエフとマリンスキー劇場オーケストラ&コーラスの演奏は、これまでで聴いた中で最高の音楽だった。