号外4 バロックコンサート当日

2001.6.26 20:00〜
場所:ミノリーテン教会
曲目:ヘンリー・パーセル(Henry Purcell)
    弦楽組曲「アブデラザール」(Suite for Strings ABUDELAZER)
   ヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach)
    管弦楽組曲第3番より「アリア」
(弦楽バージョン)(Air aus der Suite Nr.3)
   べネデット・マルチェッロ(Benedetto Marcello)
    オーボエ協奏曲 D-Moll (Konzert fuer Oboe und Streichorchester)
   アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivardi)
    グローリア D-Dur (Gloria fuer Solo, Chor und Orchester)

 本番当日。最後の練習が行われた。初めて出演者全員が集まった。

 控え室の場所は地下だそうだ。シュテファンの地下にはカタコンベがあるが、ミノリーテン教会は大丈夫かな・・・などと少々不安に思いながら地下に下りた。壁は白塗りで照明もきちんとあったので一安心。しかし、部屋の奥にある古びた扉には最後まで近づけなかった。

 リハーサル後、外に休憩に出た。皆それぞれ食事や散歩に出掛ける。しばらく付近をぶらぶらした後、最後に練習しようかと思い教会に戻ると鍵が開かない。どうやら閉め出されてしまったようだ。本番30分前になれば表玄関が開くだろうと公園で待つことにした。ここはウィーン。私もウィーン流に気楽に考えよう。

 本番30分前。教会の扉は開き、既に観客が入り始めている。今日は皆にならって黒の上下を家から着て来たので、着替えの必要もない。軽く指馴らしをした後、友人にチケットを渡すために外に出た。オーストリアは夏時間制度を採用している。しかもウィーンは緯度が高く(南樺太と同程度)、今は夏至を過ぎてまだ数日という日の長い時期。20時前でも、まだ日は落ちていない。教会の入り口に立って友人を待っていると、教会の白い壁がだんだん赤く染まっていく。教会の入り口には列ができている。開演5分前に現れた友人にチケットを渡し急いで中に入る。席は既に埋まってしまい、補助椅子を出しているところだった。それでも座りきれないほどの人だ。どうやら観客は、団員の身内ばかりではないようだ。

 1曲目はパーセルの弦楽組曲。指揮者から、この組曲の曲順を教会での演奏用に入れ替えたとの説明が入った後、演奏が始まる。曲順の入れ替えに伴い繰り返しや強弱記号も変わっているため、楽譜への書き込みも多い。だが、シュルツさんの指揮はとてもわかりやすい。強弱や音符の長さから音の処理の仕方まで、きちんと奏者に伝わってくる。私がドイツ語力がまだ不十分ながらもこうして演奏会に出られるのは、彼の明確な指揮のおかげと言ってもいいだろう。ただ、若い指揮者に多いように全体的にテンポを早めに取る傾向がある。それはこの曲に関してはあまり良くなかったように思える。パーセルの曲は和声(縦の響き)がとても美しい。もう少し遅めのテンポで演奏した方が、その美しさが聴衆に伝わったのではなかろうか。残響時間の長い教会では残響音と後続音がぶつかってしまうので難しいところだが。

 バッハのアリア。前日ようやく決まった弓順を、コンミス(コンサートミストレス)が間違えた。が、第1ヴァイオリンのメンバーはさっとコンミスの弓順に合わせた。さすがウィーンっ子!(実際は皆私と同様、楽譜が汚くて読みにくいためにコンミスの弓順を見ながら演奏していたのだろうが。)この曲はテンポも遅く、教会での音の重なりを十分に楽しみながら演奏できた。

 マルチェッロのオーボエ協奏曲。この曲では、特に教会で演奏することの難しさを感じた。オーボエの音色のせいか、曲の和声進行のせいか、どうしても響きが濁って聞こえてしまう。この曲を弾いたことで、改めてバッハのアリアが教会での演奏にいかに適しているかを感じた。

 ヴィヴァルディのグローリア。3回の練習の成果で、合唱との合わせもなかなかうまくいった。それにしても、合唱が入ると残響の音のぶつかりが気にならないのが不思議だ。教会が人の声に合わせて造られているせいだろうか。グローリアが教会で演奏されることを前提として書かれているせいだろうか。残響の重なりがすんなりと耳に馴染む。

 盛大な拍手でコンサートが終わった。楽屋に引き上げた団員達は「チュス(さよなら)」とだけ言って、次々に帰っていく。今回もやはり前回同様に全員での打ち上げはない。演奏会後の打ち上げは日本だけの文化なのだろうか?聴きに来てくれた友人たちの1人、オーストリア人のアコーディオン奏者に聞いてみた。彼は仲間との演奏会後、毎回仲間と一緒に観客も巻き込んで打ち上げに行くそうだ。そこで私も観客であった彼らと「打ち上げ」に出掛けた。演奏会後、こんなふうに演奏についてあれこれ話しながらの夕食は、やはり楽しいものだと思うのだが。

ミノリーテン教会(Minoritenkirche)の素敵な写真が下記のURLで見られます。
ウィーン大学日本語クラスが作成したホームページです。
http://language.tiu.ac.jp/wien/