番外編 グラーツでオペラ3「サロメ」

2001.4.15 
 場所:グラーツ歌劇場
 演目:楽劇「サロメ」《Salome》全1幕
 原作:オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)
 台本:ヘドヴィッヒ・ラッハマン(Hedwig Lachmann)
 作曲:リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)
 指揮:ウォルフガング・ボツィック(Wlfgang Bozic)
 演出:マルティン・クシェイ(Martin Kusej)

 指揮者が入場し、観客が静まる。すると突然、オケピットを含め全ての電気が消える。舞台の中央あたりがかすかに明るくなり始める。球状のランプを持った女性が見えてくる。全裸のようだ。明るくなるにつれて、舞台上には他にも人が何人もいることがわかる。やはり、皆、裸だ。全員の姿が辛うじて見える程度の明るさになったところで再び灯りが消える。真っ暗。オケピットの灯りがつき、幕が上がると同時に演奏が始まる。舞台上には先程の人々が同じ位置に同じ姿勢でいるが、今度は服を着ている。出だしから、度肝を抜かれた。

 舞台の床には至る所に穴がある。この床の穴は、各場面で様々な演出効果に使われる。穴から腕が何本も突き出されたり、水が湧いていたり、井戸に見立てられヨカナーンが引き上げられたり、落とされたり。極めつけは第4場、ヘロデス王がサロメに惹きつけられていく場面だ。床から、はいはい人形が現れる。人形はそこここの穴から次々に現れ、しまいに舞台ははいはい人形だらけになる。場面が変わった後も、ばらばらに動き回っていた人形達の動きが頭から離れない。そして、サロメの狂気と共に演出はさらに過激になる。足を鎖で縛られたヨカナーンが逆さに吊されて床の穴の中から現れ、天井へと吊り上げられていく。天井から三方の壁に血がたれてくる。そこに突然、天井の真ん中からどばっと黒い血が降ってくる!その後サロメが恍惚とした表情でヨハナーンの首を床下から取り出す。

 演出の奇抜さもさることながら、サロメ(Sylvie Valayre) の演技力が光っていた。これまで現代演出のオペラにはあまり魅力を感じなかった。しかし前衛的な演出であっても、場面設定がしっかりしていて、かつ役者の演技力が十分であれば、人の心を動かすことができるのだ。