(1)ベトナムの自然環境と各地域


1-1. ベトナムの自然環境


1-2. ベトナム全国地図

1-3. 各地域の概況
(北部山岳地域紅河デルタ中北部沿岸地域南中部沿岸地域中部高原東南部メコンデルタ)


1-1. ベトナムの自然環境

 ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は、インド洋と南シナ海を分けるインドシナ半島の東端し、北に中華人民共和国、西にラオス人民民主共和国及びカンボジア王国と国境を接する東南アジアの一国である。ベトナムは、北緯8度30分から22度22分まで南北1650kmにも伸びる反面で東西の幅は最も狭いところで50kmにも満たない非常に細長い本土と南シナ海に浮かぶホアンサー・チュオンサー両群島とタイ湾のフークオック島などの島々からなる。2001年現在、面積は3292万ha(九州・沖縄を除く日本の面積とほぼ同じ)、人口は7869万人(東南アジアではインドネシアに次ぐ人口)、総人口うち75%が農村部に住む。
 その南北に細長い地形からわかるように各地域間での違いが大きい。代表的な農業地帯として北部の紅河デルタと南部のメコンデルタがあげられ、この二つで平地の81%を占める。この二つのデルタ以外では、海岸線に沿う海岸平野,中小河川の河口にある小規模デルタ,山間部に点在する小規模な平地,中央高地の緩やかな起伏をもつ台地が農耕地として利用されている。地形・気候からベトナムを以下七つの地域に分けて分析する(地図参照)。


1-2. ベトナム全国地図(地図上の各地域をクリックすると概況へ)




1-3. 各地域の概況(面積・人口は2001年現在の数値)

北部山岳地域(Vùng Trung Du và miễn núi Bắc Bộ
 山地,台地ならびに丘陵がちの内陸で、広大で貧弱な淡色土壌からなっている。標高は海抜100〜3140mである。雨期は4月中旬から11月上旬、年平均水量は1600〜2500mmで12月から3月にかけては寒冷である。面積は1010万ha(全国土の30.7%)で、うち農地が13%,林地が38%を占める。人口は1135万人(全国の14.4%)。茶が主要作物で、その外にコーヒー,落花生,キャッサバ,桑,トウモロコシなどが栽培され、水牛が飼育される


紅河デルタ(
Vùng Đồng bằng sông Hồng
 北部の最も肥沃な土壌からなっており、米生産の20%を占める。デルタ中央に位置する首都ハノイ(河内)は、11世紀の李(リー)朝が昇龍(タン)城を建設して以来、フエに都した19世紀の阮(グェン)朝を除いて一貫してベトナムの政治の中心地であった。紅河デルタは総面積148万ha(全国土の4.5%)に1724万人(全国の21.9%)の人口が住む、ベトナムで最も人口稠密な地域である。紅河デルタ総面積のうち、農地が58%,林地が8%を占める。紅河デルタは東南味アジアで唯一の亜熱帯デルタである。標高は一般に海抜数mである。7月下旬から8月上旬には北部山岳地域からの河川の運ぶ土砂の堆積のため紅河の水位は平野部より14mも上昇する。雨期は4月から11月上旬で,年平均降水量は約1700mmである。北部ベトナムの稲作は、7月移植→11月収穫の雨季作(冬作)と12〜3月移植→4〜6月移植の乾期作(春作)の二期作である。雨季作には夏の南西モンスーンのもたらす大量で急激な降雨による洪水という問題が待ち構えている。また、乾期作にも低温(東北モンスーンの強い年には1月2月の気温がしばしば10度を割る)と旱魃(絶対的な降水量の少なさに加えて漢土より乾いた風がおしよせる)という問題がある。コメ以外の主要作物はトウモロコシ、甘藷、キャッサバ、などである。また家畜では豚が貴重な現金収入源である。


北中部沿岸地域(
Vùng Duyên hải Bắc Trung Bộ
 海抜100〜2710mの丘陵または山地からなっている。面積は515万ha(全国土の15.6%)で、うち農地が14%,林地が43%を占める。人口は1019万人(全国の13%)。この地域は台風域に位置し、嵐・豪雨を受けやすい。雨季は4月から12月で、ベトナムの最多雨地域(年平均降水量は2890mm)となっている。年平均気温は25.3℃である。主要農産物はコメ、トウモロコシ、ココナッツ、落花生、ケナフの花、柑橘果実、パイナップル、胡椒、牛、水牛である。


南中部沿岸地域
Vùng Duyên hải Nam Trung Bộ
 
地形は北中部沿岸地域と似ているが低地がさらに10%多い。面積は331万ha(全国土の10%)で、うち農地が16%,林地が36%を占める。人口は669万人(全国の8.5%)。この地域はベトナムの最乾燥地域で年平均降水量は1000mm以下で年平均気温は約26℃である。低地はコメが、海抜1000m以上の台地ではコーヒーと茶が主用作物である。


中部高原地域(
Vùng Tây Nguyên
 山地の最高点は海抜2600mに達するが、大部分の地域の標高は1000mである。面積は545万ha(全国土の30.7%)で、うち農地が23%,林地が55%を占める。人口は433万人(全国の5.5%)。雨期は4月から10月で年平均降水量は約2280mm、年平均気温は21〜23℃である。高地は永年生工芸作物の栽培適地である。主要農産物はコメ、トウモロコシ、野菜、茶、ゴム、牛乳である。


東南部(
Vùng Đông Nam Bộ 
 ベトナム最大の都市ホーチミン市(旧サイゴン市)およびその周辺の地域である。経済が最も発展している地域であり、2001〜2002年の一人一月あたり平均収入も62.3万ドン(全国平均は35.7万ドン)と最も高い。また農村人口の比率が47%と飛び抜けて低い(他の地域は概ね70〜80%)。 総面積347万ha(全国土の11%) のうち農地が49%、林地が30%を占める。この地域は地形的には、標高が概ね海抜400m以下である。雨期は4月から10月で、年平均降水量が約2000mm,年平均気温は26℃である。この地域は工芸作物や果樹の栽培に適している。主要作物は、ゴム,トウモロコシ,落花生,大豆,キャッサバ,オレンジ,マンゴ,パイナップル,アボガドである


メコンデルタ(
Vùng Đồng bằng sông Cửu Long
 総面積397万ha(全国土の12%) のうち農地が75%、林地が9%を占める。ベトナム最大のコメ生産地域で、コメ生産の50%を占める。メコンデルタにおける稲作は2〜4月の春作、5〜9月の秋作、10〜1月の冬作、の三期作である。また輸出米のほとんどがこのメコンデルタ地域で栽培されたコメである。標高は一般に海抜10m以下である。年平均降水量は約2000mmその大部分は6月から10月に降る。年平均気温は26〜27℃である。メコンデルタは水産養殖とくに海老・魚の養殖に好適な環境を持っている。コメ以外の主要農産物はココナッツ、果物、野菜、豆類、豚、アヒル、牛乳である。


                                                                                  

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