SCINE01:REPORT "TOGA SPRING ARTS FESTIVAL"

        

【公開稽古】
 11:50am。再び合掌文化村を訪れる。昨日、張り紙にでかでかと書いてあったのだ。11:15amから青年団の、12pmからク・ナウカの公開稽古があると。
 青年団よりは瞑想の郷の方が気になるが、ク・ナウカは別だ。数年来のファンとしては、この好機を見逃すわけにはいかない。
 前日、公演のあった新合掌山房の前に行く。だが、時間ぎりぎりになっても何も騒ぎが起こらない。どうしたのだろう、時間を間違えたのだろうかと心配になっていると、なんでもない様子で10人ほどがトコトコと建物の中の方に入っていく。慌てて後ろをついていった。
 
【私の好きな女の顔】
 稽古はもう始まっていた。昨日観たばかりの舞台なので、どの場面を演じているのかはすぐにわかる。
 空間構成の人がああだこうだと説明をしている。よく見ると、舞台の床にはビニールテープが所々張り付けてある。話を聞いているうちに、この稽古はこの舞台のためではなく、5/8-15の東京公演の舞台にあわせて行われていることが掴めてきた。
 丁寧な口調で指示を出す演出の宮城さん。今は演出に専念しているが、数年前までは役者として舞台に立っていた。一度だけ、私も観たことがある。その時彼は、ホーキンズ博士の役だった。
 語りの人達が一様にマスクをしているのには驚いた。マスクをしたまま稽古に臨んでいる人もいる。
 本番ではないから勿論ノーメイクだが、男優は素顔でもそれほど違和感はない。衣装をつけている人は極わずかだ。その少ない人数のうちの一人が美加里さんだった。
 シーンは次々と進み、いよいよ桜姫の登場だ。
 美加里さんが舞台に立つと、私は緊張した。
 (あれ)
 舞台メイクをしていない顔。初めて見る。
 (もしかして)
 いつもと違ってまばたきをしているから、より人間として見ることが出来た。
 だから気がついた。
 (なんだ。そうだったのか)
 ずっと前から不思議だった。
 初めてク・ナウカの演劇を観たとき、一番大きく見えた役者は美加里ではなかった。だが、私は彼女にひかれた。明らかに彼女は抗しがたい魅力を持っている。だが、それが役者としての技量なのかと問われた場合、それならば他の人を選んだような気がしていたのである。
 それが今、はっきりとわかった。
 (あれは、私の好きな女の顔だ)
 素顔を見て初めて気づいた。大きな瞳。ぺたんとした瞼。寂しそうな頬。筋の通った鼻。どれも中嶋朋子と共通した、典型的くらくらくる顔だった。
 
【夜はまた更け】
 稽古見学の後は、遅い昼食をとりながら原稿に向かい、夕方になってから6pmからの舞台を観るために利賀センターへ移動した。利賀センターは小規模な体育館だ。普段の使われ方としては、公民館のサークル活動のため、といったところだろうか。
 ここで行われたのは演劇ではなくダンス。言葉と動きがそれぞれ重なり、混沌とした「私」の意識を表現していた(と思った)。もっとトータルで観れたなら面白かったのだろうが、主催者の女性のダンスがダントツにうますぎて、どうしても目がその人にばかりいってしまう。まるで、歌うSMAPをみているときの中居状態だ(ほめ言葉のつもり。)。
 このとき、実においしいなあと思ったのは、客席内に、右を見ても左を見ても役者さんがわんさかいるということだ。さすがに公演を観た後なので、主だった役者の顔は覚えている。ク・ナウカについて言えば、稽古場も覗いたので今日着ている彼らの服装さえ知っている。で、それを頼りに大高浩一の姿を見つけたときは、それだけでとても幸せな気分に浸っていた。
 近くにいるのだからサインをもらうとか握手してもらうとか、そういうファン行動に出てもいいじゃないかと思う人もいるだろうが、大切なものに対しては慎重に慎重を重ねて恐る恐る接触を持つのが、私にとっては精いっぱいなのだ。
 ともあれ、観る予定だった公演全てが終わった。フェスティバルは5/4まで続くが、そこまで滞在すると、Super Comic Cityに間に合わない。名残惜しいが明日には帰る。
 宿に戻り、夕飯を食べていると、同じように一人でぶらりと来たお客さんが向かいの席に座った。なんとなく話を始め、気がついたときには酒を酌み交わしていた。宿の人がにこにこしながら、カワキモノと甘いものを出してくれた。(終)

  

[文責:立見野常盤/May/1998]