【感想】
- 今まで観た長野さんのお芝居は、脚本の物足りなさを長野さんのパワーで持って行ってた印象があったが、今回は、内容の面白さは保証付き(かつてロングランしたこともあり、映画にもなったミステリー)なので、長野さんが無理して頑張る必要がなかったのが良かった。 役になりきることに専念できたのでは?
声の調子を抑えたまま、表情や身体で怖さや激しさを感じさせる演技が新鮮だった。
色んな顔が観れた。
第1幕だけでも、
シドニーに連れられてマイラに挨拶するときの好青年。
ちょっとウザいくらいに熱心なスリラー愛好家。
亡霊に扮して(?)、シドニーやマイラを襲うワイルドな動き。
マイラの死を確認した後の、冷酷な態度(V6では聞いたことのないくらい低い声が怖かった)。
シドニーと一緒に暮らせることを喜ぶ小悪魔な可愛い子ちゃん,etc. ,etc.
第2幕では、スリラーや作品への一貫した愛情や名声への野心と、状況(力関係)に応じて目まぐるしく変わるシドニーへの態度のギャップが、自分には実感として掴めないくらい恐ろしかった。
- パンフレットで作品、演出、出演者、舞台装置や音楽、それぞれの立場の人が平等に扱われていたのが新鮮。 「トイヤー」みたいに「こりゃ凄え」という感じではないが、みんなで愛情を持って作っている感じして、なかなか好印象。
格闘シーンだけ別に演出が付いているなんて(ファイトコリオグラファーと言うらしい)、贅沢だわ。
- カメレオンの目が欲しい
セリフを喋っている人に目が行くが、黙っている人の動作も気になる。
きっと、いっぱい見落としている
- 全員、肉声
キャスティングが絶妙。
特に、長野さんと江波杏子さん。
江波さんは、佇まいも活舌も発声も素晴らしかった。
カーテンコールで婉然と客席に会釈する姿に、憧れすら感じた。
- この舞台のために追加された(?) エンディングのどんでん返し。
それまで脇役だったヘルガとポーターのシーンで終わると、「これはヘルガの霊能力がテーマだったの?ほんとうの主役はいったい誰?」と少し戸惑う。
でも、物語の中で何が "現実" かは判りやすいと思う。
そのシーンも含めてクリフォードの創作だった、となると、物語の入れ子が深過ぎて、自分のような単純なアタマには、どのシーンがどのレベルの真実なのか?こんがらがってしまう(まぁ、クリフォードのペンネームがアイラ・レヴィンだと考えれば、同じなんでしょうけど…書き手と同じ名前の登場人物が死んでいるから当惑するだけで)。 "現実らしさ" は少し損なわれるような感じがした。
主役が最後にシメるので、観た瞬間は気分的に落ち着く、とは思う…。
- でも つまるところ、この芝居の主役は『DEATHTRAP』というスリラー作品という気がする(タイトルしかないけど)。
- シドニーの代表作は「殺人ゲーム」だが、この舞台自体が、殺人ゲームそのものという気がした。
- 1幕と2幕で、同じセリフを違う人が言ったり、同じ人が違う状況で言ったりする。
「気を付けろ、刃は切れる」
「死んだ。間違いない」
「真実のもっとも近くにいるものほど、安全だ」
シドニーが好きだという "シンメトリー"?
- シドニーの言葉は、ウソだらけ
ウソをついても仕方ないような場面でも、事実と逆のことを言っている。
(お蔭で、原作を読んだときは いっぱい騙されました)
2幕、出て行こうとするクリフォードを、なかば泣き落としなかば猫撫で声で引き止めようと擦り寄って、クリフォードに冷たくあしらわれているところ、シドニーが哀れだと思ったが、彼は
とっても嘘つきだし動作も芝居がかっているので、クリフォードに対する気持ちもどうだか…と
ふと疑問に思った。
クリフォードが聴講生だったというのも、疑い始めるとアヤシい。
もしかすると、シドニーが街で拾った青年なのかも…(ひとつの可能性として。「DEATHTRAP」完成にかける情熱や、シドニーとスリラー談義をしている様子を見れば、スリラー愛好家なのは確かでしょう)
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