バイク話




車とバイクの性能差について−−−その1

 車(以下「四輪」)を運転するドライバーの方から見て、バイク(以下「二輪」)の存在は危険かつ邪魔なものではなかろうか。

「急に車線変更して危ないって」
「車と車の隙間を使って追越しするかー、しかも猛スピードでー」
「高速道路でふらふらちんたら走ってんじゃねー! ひくぞこらー!」
「こっちが渋滞でイライラしてんのにすり抜けするとは何事ぞ!!」

 ごもっともな話である。そういったマナーの悪さは、単に二輪人口が若い世代が多いので交通マナーに対する配慮が足らないのであろうと納得している人が大多数なのではなかろうか。まぁ多分にそれもある。「てめーらがそーゆー態度を取るんなら〜!!」と二輪を見たらイジワルしたくなる人もいるだろう。「奴らは人類の敵だ!! 消えろ、消えうせろ!!」と二輪を道路から排除すべきだという人もいるだろう。

 ・・・・・・だが、少し考えて欲しい。四輪と二輪は別の乗り物であるということを・・・・・・。

 四輪と二輪の性能差とはどういうものなのか、おわかりになるだろうか。「そんなん小回りきくからに決まってるやんか」とおっしゃる方が多い。確かに間違ってはいない。しかし、「小回りがきく」とはいったいどういうものなのか。「ハンドルの切れ角が多い?」「車体の幅が狭い?」「タイヤが2個しかない(意味不明)?」いやいや、そんなことは四輪と二輪の性能差を説明することにはならない。もっと根本的な問題があるのである。まず、四輪と二輪の性能差の結論から書くと、

「四輪は速度とともに運動性が上がり、二輪はその逆になる」

ということにある。これはどういうことか。四輪は速度とともに運動性が上がる、ということについてピンとくるだろうか。四輪は低速でハンドルを切っても「グイッ」という感じでタイヤの向きが変わっていることを体感できる動きしか出来ないが、高速では少しでもハンドルが動けば「ガンッ」という感じで即横Gを受けるほどの運動性を発揮する。もちろん「速度とともに」といっても限界はあるが。これに関しては御理解いただけるだろうか。

 なぜこういうことになるかということは、四輪の曲がる力、つまり旋回力が「コーナリングフォース」であることが挙げられる。コーナリングフォースとは、走行中に進行方向に対しタイヤを横方向へ傾けることにより発生する横方向の力である。タイヤは走行中に進行方向に対し横方向へ傾けられると、その方向へ向かって進もうとして地面をかきむしるのである。しかし、タイヤは自身で力を発生しているわけではない。車体の運動エネルギーを消費してコーナリングフォースに変換しているのである。よって、タイヤのグリップ限界までは車体の速度が増せばコーナリングフォースも増すのである。つまり、ステアリングの切れ角が同じでも、速度が増せば旋回力も増すのである。

 さらに、四輪はハンドルを切るだけで旋回できるので、高速走行時の強大なコーナリングフォースを実にクイックに発揮させることが可能なのである。これが四輪は速度とともに運動性が上がるということである。

 では二輪の運動性が速度に反比例するとは一体どういうことなのか。しかしそれを説明する前に、どうして低速で二輪が高い運動性能を示すか説明したい。まず、二輪の旋回力は基本的に「キャンバースラスト」である。キャンバースラストとは、走行中に地面に対し横方向に傾けることにより発生する横方向の力である。コインを転がしたとき横方向に倒れそうになるとその方向へ旋回し始める(歳差運動という)が、まさにその旋回力がキャンバースラストなのである。二輪の車体を傾けることによって勝手に発生する力である。基本的にはキャンバースラストで曲がるのだが、さらに前述したコーナリングフォースも上乗せすることが出来る。しかし、だからと言って、私の手元に旋回力のデータが無いので一概に車重/旋回力比が四輪より優れているとは言えない。これは注意して頂きたい。

 十分な旋回力を発揮すると仮定した場合、四輪に比べホイールベースがほぼ半分であり、四輪に比べ出力重量比も高く、コーナリング時にイン側に車体が向くオーバーステア傾向(この説明は割愛)などが高い運動性能につながっているのである。さらに、四輪では旋回半径を小さくするためにはハンドルをぐるぐると回さなければならないが、二輪はバンク角(車体を倒す角度)の度合い(だけではないが)で調節できる。つまり、旋回半径を小さくすることは簡単にできるので、急激な旋回力の発生に対応できるのである。

 しかし、その高い運動性能が速度により妨げられる。キャンバースラストは二輪の車体を傾けることによって勝手に発生する力であると書いたが、速度が増せば車体を傾けることが難しくなるのである。また、旋回力は速度と共に増していくわけではなく、定常円旋回においては速度が増せばそれに見合う旋回力を発生させるためにバンク角を増やさなくてはならない。バンク角は50°が上限とされている(もっと倒せるのだが、それ以上は遠心力が増大する)ので速度とともに最低旋回半径が大きくなっていく、つまり旋回性が落ちていくと言える。しかし、それ以前に無理に倒したところで四輪に比べグリップ限界が近い二輪は簡単にスリップしてしまうのだが。じゃあ四輪のようにコーナリングフォースを使えばいいじゃないか、とおっしゃられるかもしれないが車体を倒さず二輪の前輪だけがいきなり横に動いたら、それこそ足払い状態で反対方向にコケてしまう。二輪におけるコーナリングフォースは車体を倒すことが前提なのである。

 さらにその他の要因を挙げていこう。まず、走行風に対する耐性が四輪に比べて劣ることである。空気を押しのけるのも大変な抵抗になるが、メカ剥き出し、ライダー剥き出しの二輪は凸凹が多いので、負圧(この場合、後ろ向きに引っ張る力)を発生させやすいのである。それに浮力が発生しタイヤのグリップ力が無くなり、空気の乱れ一つで車体が翻弄されるようになるのである。

 こう言った性質の違いが四輪と二輪にあるのである。データが揃ってないので具体的に数値で比較できないので理論だけで申し訳無いが、間違ってはいない。バイクを知らない方に、全てを理解して下さいとは言わないが、バイクとはそういう乗り物であると分かって頂きたい。また、バイク乗りの方も、高速走行では車は性能が上がるので低速時と同じように考えずに走って頂きたい。

 さて、次回はその2「精神面の差」ついて。



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(本ホームページにおける参考文献)

図説バイク工学入門 和歌山 利宏著 グランプリ出版刊(初版1994年)
図説バイクのメカニズム 和歌山 利宏著 グランプリ出版刊(初版1992年)
オールカラー版バイク・メンテナンス百科 源=編著 ナツメ社刊(初版1999年)
月刊タッチバイク 1999年7、9月号 サイクルアンドスポーツ発行
バイカーズステーション 1999年7、8月号 遊風社発行




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