内部事情3/15版


 そうあれは、独奏会終了後とその打ち上げの飲み会までのたわいもない2時間ほどに間に起きた出来事だった。
午後4時、部室でみんな暇つぶしをしていた。独奏会は滞りなく終了したものの、打ち上げは6時から。一回家に帰るのもなんだし、かといって街をぶらつく程の時間でもなく、めいめい、たわいもない話をしていたり、勝手気ままにギターを弾いていたりしていた。

そんなときにある提案があった。
「ちょっと春合宿の下見でもしてこようか。」

春合宿は今年も区界高原という盛岡市内よりも気温差マイナス6度という山の中の少年自然の家で行われる。
「もうすっかり市内では雪は見かけなくなったものの、そこでは雪はどうなんだろう・・・」
実際、春合宿の醍醐味は3月下旬に開かれるにもかかわらず、スキーが楽しめることである。「ぜひ雪の状態をチェックしてきたい!」そんな知的好奇心に駆られたのであろう。部長以下、広報係2名は盛岡市の東のはずれにある峠へと向かったのであった。

路上に雪がちらほら・・・・・
まだ目的地の中間地点。そろそろ夏タイヤに交換かな?という時期でも少し山を登ったらこうだった。いやおうもなく我々の期待は盛り上がってきた。雪の状態はよさそう・・・・

目的地まで残り2km。たしかに雪の量は多くなってはきたものの、たいした以前と代わり映えのしない、期待とは反した景色が広がっていた。除雪がしっかりとしているせいなのか、それともすでに結構な量の雪が溶けてしまったのか・・・・・、謎ではあるがこの時点で私自身あまり期待を抱いてなかった。

残りわずか。カーブの多い山道を登り切り、少し長めの峠のトンネルを通過した。
 トンネルを抜けるとそこは白銀の世界だった!

すべてが白い!もう一ヶ月前にタイムスリップしたように何もかもが雪に覆われていたのだ。山は我々の期待を裏切らなかったのだった。
そして、少年の家へと向かう。下見とはいっても事前に知らせていたわけではないので、あくまでも外からの観察。けれども去年とどこも変わってはいなかった。特に問題はなさそうだ。

そして最も心配していたゲレンデの雪の状態だが、これがまさにパウダースノー!!アスピリンスノー!もう、ウィンタースポーツにはうってつけ、これとない雪の状態。我々の胸は高鳴った。

時刻は5時と少し。6時から打ち上げもあることだしそろそろ引き返すことにした。
しかし、今思えばこのウキウキした気持ちがあの事件を呼び起こしたのかもしれない。

帰り道、もちろん下り坂である。愛知県出身のドライバーはこの目の前に広がる雪の恐怖に気づかなかったのか、坂道をエンジンブレーキもかけずに進んでいく。「おい、大丈夫か?スピードだしすぎじゃない?この先急カーブあるよ。」青森&北海道出身の同乗者が忠告した矢先!。雪の山に突っ込んだのであった。Y字路が曲がりきれなかったのである。幸い雪に突っ込んだだけでけがはなく、車も損傷していなかった。あと1メータ違えば電柱だった。このときほどシートベルトのありがたさと、ぶつかる瞬間のショックのすごさを感じることができた。
「ああ、びっくりした。さあ、早く出ようや!」
ドライバーはバックギアに入れて戻ろうとする。
しかし、駆動輪である前輪がスリップして車はウンともスンともしない。
ちょうどその時近くを散歩していたおじさんに、「車で引っ張ってあげようか?」と親切に言われたにもかかわらず、「いや、大丈夫ですよ。」と強気の返事をしてしまった。このときはまだ、タイヤの下に板でも挟めばすぐに出られると思っていた。やはり雪を甘く見ていたのかもしれない。
  


トランクにあった使えそうなものをありったけタイヤの下に入れてみる。・・・失敗
近くの木の枝も入れてみる。・・・失敗
ジャッキで車を持ち上げてより深く入れてみる。・・・失敗
手袋をも犠牲にしてみる・・・・・・失敗
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 試行錯誤を繰り返した。なんと、タイヤは路外に出ていたのだ。雪でカモフラージュされてはいたが・・・。このときほど、このインテグラがFR駆動の車であったら・・・と。

午後6時、もう辺りは暗かった。いやおうもなく寒さが襲う。もう疲れた。打ち上げが始まってしまう。もう、最終手段に出るしかしかたがなかった。
「近くの民家に頼もう!」
なぜもっと早くあの時のおじさんに素直に頼まなかったのであろうか。そう思いながら、自然の怖さと自分たちの力の小ささを感じずに入られなかった。

民家の方は嫌な顔もせず、親切に救出作業を手伝ってくれた。今まで1時間ほどかかって無駄足に終わった作業とは反対に、RV車でのけん引作業はあっという間の出来事。
難なく脱出に成功したのであった。本当にうれしかった。

念を押すようだが本当に親切な方々だった、これは春合宿でもう一度来たときにお礼でもしなきゃとも思った。そう思いながら帰路についた。もちろんほぼエンジンブレーキかけっぱなしの超安全運転で・・・・・。

教訓:「いつも心にエンジンブレーキを!」


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