→第26回定期演奏会の舞台裏
・前書き
演奏会というものは何よりも多くの練習、そして多くの地味な事務的作業の積み重ねと言っても過言ではない。本当に全てを約30名の部員で作り上げるたもの、それこそが定期演奏会であった。華やかな表舞台とは一見して地味な舞台裏。しかし地味でありながらも重要な舞台裏を有りのままに書き起こしてみようと思う。
・舞台裏を読む前に予備知識
演奏会は午後6時開場、6時30分開演ではあるが、舞台設置、リハーサル、アナウンサー、照明などの打ち合わせ、などなど事前に多くのことをやらなくてはいけないため、会場となる岩手県民会館中ホールは午前9時から借りているのである。
しかし一見、こんなに早くから借りているんだから余裕で準備できるんじゃないかと思うかも知れないが、そうはいかない。
実は大学はもう冬休みに入っているのだが、3年教育学部の必修の集中講義が入っているため、午前中いっぱい3年生2名が来れないのである。しかもその内一人は指揮者。
もう、今の段階では合奏は指揮者がいないと成り立たない。メトロノームで練習しようにもただ指の準備体操をしているようなもので、曲には表情というよりも単なる強弱しかつかない、味も素っ気もないもの。当然合奏練習はほとんど無意味である。
そのためにも、指揮者の到着と同時にリハーサルが出来るよう、素早く準備を進めなければいけない!
→12月20日(土)定期演奏会当日
・午前8時:部室集合
サークルにはそれぞれ個性というものがあって、またその年代ごとにもカラーがあるのだが、ちょうどうちのサークル、うちら代のカラーというので目立つのが「時間にルーズ」という点。県民会館に朝9時に入館するため「朝8時に部室集合!!時間厳守!!!」ということだったのだが、朝8時ちょうど、部室にいたのは1年生2名だけであった・・・
まあ、「いつものこと」とは思ったがギターアンサンブルの中でもっとも重要なイベントなだけに半分笑い事じゃすまなかった。部室にあるギターを外に出し移動用の車まで運ぶのだが、無論まだ車も来ていないのでとりあえず、今部室にいる数名で廊下に並べる。
時間が経つとともにどんどん人もやってきて、8時半には大体の部員は来た(この大体というのが気になるが・・・)。
8時50分車への機材搬入終了!
どうやら9時までには間に合うかも知れない。でも、来年こそはこの体質を改善せねば。
・午前8時50分:会場へ移動
部室から会場である県民会館までは約3km。自転車で行っても近い距離だが、なぜだかこの日だけはタクシーで移動するという伝統がある。らしい・・・。たしかに、昔なら今の時期は雪が積もっていたりして自転車では危ない、それに会場につくころには手がかじかんで練習できない。などの理由があったかも知れないが、今では雪どころか、天気のいい日なんかは手袋がなくてもOK!ぐらいな暖冬。
どうやら今では、
・迅速な移動!
・1年に1回タクシーに乗れる!(部費で)
それくらいしか理由がないような・・・
しかし、1年生数名は立て看板を徒歩で会場まで運ばなければいけないのであった。
・午前9時:会場へ到着
会場へ到着すると同時に楽屋へ物品の搬入が始まった。搬入は手際良く出来たためすぐに終わったのだが、次に会場設置という段階になって、これを取り仕切る係、ステージマネージャー(1年)の姿が見当たらない。話によると、どうやらタクシーにも乗らずに一人で向かっているらしい、どうもこの仕事の重要さを把握してない。仕方がなくステージマネージャー抜きで設営に入る。
・午前9時45分:合奏練習
とりあえずステージ上の設営は終わったので、すぐさま合奏練習に移ることになった。とはいってもまだチューニングもしていないので、みんな一斉にチューニングしようとするが、持っているチューナーは2つ。ギターは約30台。仕方ないことなのだがこのチューニングに大きく時間をとられてしまった。
合奏練習とはいってもまだ指揮者が来ていない以上、曲の練習というよりは大きな音を出す練習という感じになる。
コンサートホールというものは客席にステージ上の音がより良く聞こえるようにと設計されている。ステージで出された音のほとんどが客席の方へと向かっていくのである。しかし、言い換えればステージ上で出された音は、あまりステージ上には来ず、自分たちの出した音が実はよく聞こえないのである。実際には自分のギターの音は一番近い位置にあるので普通通りよく聞こえるのだけれども、たった1mしか離れていない隣の人の音は今までと違い自分の出す音でほとんどかき消されてしまうかのようである。そのため、いつものように弾いても周りの音は小さく、自分の音だけバカデカく聞こえてしまうため、弾いてるうちにどんどん不安になり無意識的に音量を押さえてしまうという現象が起きてしまいます。これを防ぐためにも「みんなで大きな音を出す」という練習が重要になってくるのです。
いざやってみるとやっぱり音量は小さく感じてしまう。客席から聞くとそうでもないらしいが、音に勢いというか自信がない弱々しい音になってしまっていることに間違いはないようだ。何度か音を出し、とりあえず曲を通してみて少しは慣れてきたような気はするものの十分とは言えない音だった。
第1部の2、3年合奏、1年合奏共にやってみたが、こちらは人数が全体合奏に比べて少なくなる分、周りに流されるようなことは少ないようだった。
・午前11時:ステージ進行打ち合わせ
11時からステージ進行のリハーサルを、つまり演奏をせず段取りだけのリハーサルをGHK(岩大放送研究会)にお願いしたアナウンサーを交えて行う。
前日もアナウンサーを交えて通しリハを行ってはいたものの、実際ステージとなると若干の手直しを行う点もずいぶんと出てくる。演奏者とアナウンサーの位置はステージの端と端に別れているため、どこでアナウンスが入り、どこで演奏者が出てくるか。このタイミングをしっかり今のうちに覚えておかないと、スムーズに進行が流れなくなってしまうのだ。
また、これは1年生の仕事である、ステージマネージャーらによる舞台設営の練習でもある。二重奏の時はイスを2個出して、この組は譜面台を使うから・・・とある意味黒子の仕事である。しかし、これも段取りが悪いと無駄な時間を費やし、見ているほうとしてもイライラしてしまう。
実際はじめてみてとても気になった点は、どうも緊張感がないということと、舞台設営の段取りの悪さだった。サマーコンサートで培った経験が生かされてないのか、俊敏とは言えない作業、担当割当ての不適当さ、緊張感のない動作など、とてもこのままで本番を迎えるなどとんでもない。この後で、個別に練習してもらうこととなったのだった。
とりあえずこれで午前中の作業は終了。
・午前12時:昼休み
昼食をとるものもいれば、練習に余念が無いものも居るなど、各々それぞれの昼休みを取っていた。しかし、バクバクと昼食をとる者は時間的にも精神的にもいなかった模様。
・午後1時半:通しリハーサル
午前中、集中講義のために来れなかった3年生も到着し、いよいよ本番さながらの通しリハーサルとなった。さすがに、本番直前のリハーサルとなると全体にも緊張感あふれる雰囲気。多少の段取りの見直し等はあったものの、進行具合としてはまずまずの出来であったと思う。しかし、まだ舞台設営の点と、演奏の出来具合は納得がいかない。また、演奏会が終わり次第、すぐさま後片付けをし、ここ県民会館を午後9時までに退館しなければいけないのだが、このリハーサルの通りで進めるとかなり時間的に厳しいものになってしまうことがわかった。とりあえず、第1部と第2部の間の休憩時間を10分から5分に縮めることにしたが、それだけでは十分とは言えない。ますます舞台設営の俊敏さが重要になってきたのである。
・午後4時:自由時間
リハーサルも終わり、あとは開演待ちとなった。いくら自由とは言ってももう本番直前!「みんな練習ばっかりしているんだろう」と思ったらそうでもなかった。
ステージ上では1年生が合奏の練習をしている。その頃楽屋ではテレビにステージの状況が映し出されるのを利用して「ボケましょう」をやろう!ということになっていた。つまり、「ステージ用のカメラの前で何かボケてこい。」というもの。1年生の邪魔をして(笑)。
たしかに見ているほうはとても面白かったのだけれども、やるほうは、「真剣に練習している1年生の冷たい視線が物凄くつらかった」とのこと。そりゃそうだろう(笑)でも、言い換えれば2、3年生は無理矢理にでも心に余裕を作りたいほど緊張していたのかも知れない。
そんななか、本番直前に「ハイパーヨーヨー」で遊んでいたD先輩の爪が割れるといったハプニングも
幸い、パートナーが持っていた、爪修繕キットによる応急処置でとりあえず演奏はできるようにはなりましたが。
・午後6時:開場
入り口の扉が開いた。控室のモニターで客の入りを気にしつつ、それぞれが何かをしている模様。あと、30分後に我々はステージの上に立つのである。ギターのチューニングを全て済ませた後、ここで気合を入れるべく部員全員であたかも、体育会系サークルであるかのように円陣を組む。そして当ギターアンサンブル部長であり、隠れた美声の持ち主でもある部長がW杯サッカーアジア地区第三代表決定戦・日本対イラン戦 in マレーシアの延長のときのように激を入れた。
部長:「セーーイ、ファイト!」
全員:「オー!」
部長:「ファイト!!」
全員:「オー!!」
部長:「ファイト!!!」
全員:「オーーーー!!!」
これで気合はばっちり!全員一丸となったところで舞台袖に入り、6時30分の開演を待った。
・午後6時30分:開演
ついに開演した。この約2時間のために今まで1年間頑張ってきたのだ。その成果を発揮すべく、我々はステージへと向かっていったのであった。
表舞台については演奏会を観ていただいたみなさんの見解にまかせるとして、裏舞台は一言で言うならば、「あわただしい」とでも言うのだろうか。正直言ってあっという間に終わってしまった。そうとしか言いようがない。ただ、演奏自体はどうも全体的に今までの練習以上の成果を発揮できるところが多く、笑顔で楽屋に戻ってくる人が多かった。自分も、客席を見渡す余裕こそなかったものの、これほど弾いていてワクワクしてくるステージも無かったように思える。
何よりも感動的だったのがアンコール。アンコールは毎年恒例のように「クリスマスソング(今年は「そりすべり」)」、そしてパッヘルベルの「カノン」だった。
アンコールの拍手とともに軽快に鈴が鳴り響きクリスマスソングの「そりすべり」がはじまる。とてもテンポの速い軽快な曲だ。
この曲が終わると一転して静かなパッヘルベルの「カノン」のベースラインが鳴り響く。これをBGMとして部長の最後のあいさつ、そして、この演奏会を最後に引退する3年生の紹介が行われた。一人ひとり部長から名を呼ばれ客席に礼をしていく。もう感動のあまりか、うっすらと涙を浮かべている人もいた。最後に指揮者が呼ばれ、本当に最後の曲「カノン」が始まった。引退する3年生にとって、この3年間弾き続けてきた曲「カノン」にはとてつもないほどの思い入れがあるであろう。今までの演奏会全てはこの曲で終わってきたのだ。そして今、この曲によって3年間にわたったギターアンサンブルでの活動を終えるのである。
もう指揮者は曲が始まると同時に涙がひとしずく頬を伝い落ち、やがて大粒の涙が満面の笑顔の中にあるチャーミングな大きな瞳を潤しはじめたのだった。それの光景はあたかも、日本レコード大賞を受賞した女性歌手が涙をこらえて一生懸命に歌おうとするようでもあった。私は後列に座っていたので前列の3年生の表情を見ることは出来なかったが、おそらく同様に涙を浮かべていたことだろう。本当に感動的な演奏会の終わり方だった。毎回お客さんにアンケートを書いてもらっているのだが、「印象に残った曲」という項目に、アンケートにも、プログラムにも書いていないこのアンコール曲の「カノン」が、アンケート総数約80枚のうち約20枚に「最後の「カノン」に感動した」と書かれていて、「この感動が客席にも伝わっていたんだなぁ」とあらためてこの曲の偉大さ、我々のこの曲への感情の大きさを思い知らされたのであった。
そして、定期演奏会は無事終了したのである。
午後8時30分:後片付けその他
演奏会終了とともに観客入口に急いで向かって、来ていただいたお客さんに感謝のあいさつをする。色々な方々に来ていただいて下さったのがあらためてわかる。色々と懐かしい友人が来ていたという人もいたみたいで、いつまでもこの場にいたいところなのだが、何せ時間がない。
すぐさまステージに戻って集合写真の撮影。OBを交えて「カシャ!」。終わると同時に後片付け。ステージ上を片付けたら、楽屋に帰って着替えて、ギターを車まで運んで、ごみをまとめて、・・・9時を過ぎてしまった。とりあえず、会館から脱出。部室へと今日使った物を運ぶのだ。このときは忘れ物は無いように思えたのにねぇ。まさかあの大きな立て看板忘れてきていたとは・・・・・
午後9時30分:打ち上げ(1次会)
今まで定期演奏会の打ち上げは「お寿司」となっていたのだが、今年は「焼き肉!」お寿司の時は色々と取り合いになったり、時間になっても寿司が出来ていなかったりと問題があったが、今回の「焼き肉」という案はどうやら大成功の様子。みんなおいしそうに食べてるし、その割に値段もお手ごろ。今までの疲れを発散すべく飲んだり食ったりでした。でも、アイスクリームは取り合いになっていたなぁ(笑)
午後11時:打ち上げ(2次会)
今度は普通の飲み屋で打ち上げ、今度は飲み中心。こんなに遅い時間にもかかわらずみんなここでもはしゃいでました。そんなわけで気づいたらもう午前3時。ここでやっと解散。でも、大半のまだ騒ぎ足りない人々は、それぞれのグループに別れて3次会に散っていきましたとさ。
→12月25日午後1時:反省会
定期演奏会の反省会で今年最後の公式活動となる。ここにて正式に3年生から、2年生にへと仕事を受け継ぎ、新たな体制で来年の第27回定期演奏会に向けて岩手大学ギターアンサンブルは活動していくのであった。