YUNON YN300


 このカメラは1992の秋、あるイベントのバザーで売られていたものです。ぼろぼろになったパッケージに「CAMERA」と書いてあります。中を開けてみますと、ビニールの粗末なカバーに入った、これまた粗末なカメラが現れました。プラスティック製のトイカメラです。お値段は100円、こんなものでもカメラはカメラ、このままだと子供のオモチャにされて写真など撮らない内に壊されてしまうのが関の山、哀れに思い僕はためらわずに買って帰りました。
 見ていただいておわかりのように、ペントハウスがあるにもかかわらず一眼レフではなくて、透明プラスティックの入った素通しのファインダーがついています。おまけにその隣にはブライトフレーム採光窓のダミーとも言えないような「模様」があります。しかし右手側にはパームグリップもついています。これは一眼レフに似せて造ったけれど、レンジファインダーのことも引きずっているという人がデザインしたに違いないと思ってしまいますね。
 後ろから見るとこんなのです。ちょうどオリンパストリップという感じでしょうか?これはこれで結構すっきりとまとまっています。接眼窓は出来ればペンタプリズムの真後ろに持ってきて欲しかったと思います。そうすれば、後ろから見ればまるで一眼レフですからね。しかしこうやってみると、本当にとってつけたようなペントハウスで、なんか徹底的に似せる事への躊躇が感じられます・・・って、多分いい加減にデザインしてるだけなんだろうけれど。
 軍艦部はこんな感じ。意外な事にリワインドレバーはばねが効いてきちんと収納されます。ひっくり返してもぺろんと落ちてくることがありません。さらに、裏蓋開閉はこのリワインドノブを引っ張り上げてロックをはずすという、非常にまっとうなやりかたです。そしてペントハウス上にはこれまた意外な事に、金属製のアクセサリーシューとシンクロ接点がついています。このシンクロ、きちんとストロボに同調します。シャッターボタンもきれいなものですが、位置は悪く、指が普通には届きません。フィルムカウンターもまっとうな位置にあります。カウンタなんかは殆ど写ルンですと同じです。
 フィルムゲートから内部です。フィルムゲートの部分は湾曲していて、これも写るんですのコピーでしょう。絞りは涙滴型でF6開放最小絞りはF16です。シャッタは単速。スプロケットのリリースがちょっとひどいもので、底部にあるリリースボタンを巻き戻しの間ずっと押しっぱなしにしなければなりません。良いとしても、そのボタンは即ちスプロケット軸そのもので、ボタンも回転するわけです。しかもリリースのための押力が多く必要なんですが、強く押せば回りませんから、「一体どうすりゃいいのだ?」と云いたくなります。
 後先になりましたがこれがレンズです。「OPTICAL COLOR LENS」「AUTO FIX FOCUS 50mm LENS 1:6」と書いてあります・・・・が。「オプティカル・カラー・レンズ」とは一体なんでしょう?もっと不思議なのが「オート・フィックス・フォーカス」で「フィックス」が入っていてオートフォーカスでは無いのですね。「自動固定焦点」って訳でしょうけれど、どうもなんか変。しかも50ミリレンズという事で、被写界深度もそう稼げるわけでもないし、なかなか不思議なレンズです。でも、なんだかおかしいですね。
 立派な鏡胴がついていますが、レンズは小さい、しかも、一見フォーカシングリングに見えるところは、実は絞りリングなのです。
 これがその絞りリングです。お天気マークがついていて、反対側には絞り値が記載されています。
 絞りの変更が出来ると云うことが写ルンですよりも上級かな?と思わせるところです。最近のものすごくラチチュードの高いカラーフィルムと相まって、晴れた日であれば露出は大概合わせられます。ちょっと面白いですね、これが。
 レンズの描写は写るんですよりもコントラストが低くて、ちょっとパステルトーン気味の柔らかいものです。写ルンですでもなんでもそうなんですが、使い方によっては馬鹿に出来ないものが、トイカメラにはありますね。このYUNONにしても、バックを単純化してたっぷりの光線の中で主要被写体を撮影すれば、結構味のある描写にあることは請け合いです。ストロボを同調させても面白いでしょうね。
 これがファインダーです。素通しのただのファインダですね。しかし視野はものすごくいい加減でして、ズームレンズを使って調べてみたところ、とても50ミリではなくて大体70ミリくらいの視野しかありません。ですからパララックスなんて平気の平右衛門です。

 蔑まれ、馬鹿にされ、子供にさえ大切にされず・・・と三重苦のトイカメラたちですが、僕はそんなカメラ達がひどくいとおしく思われます。こんなものなんか歯牙にもかけないと云う態度は僕には傲慢に映ります。遊び友達にしかならないかも知れませんが、それで充分です。せっかくカメラに生まれてきたのですから、時にはフィルムを詰めて大いに使ってやりたいものだと思います。




作例
フィルムにものすごいスクラッチが入っています。すみません。

逆光でのスナップ。結構いける。派手なフレアは仕方がないか。



F11

順光での撮影。



F16

シンクロでの撮影



F8 オートストロボ

明暗比の比較的高い条件



f11