食人画(後)
 
 
 
 
 
「や、約束だからねっ」
 凍夜町に雪が降り、しかもシンジが抱いてくれるという。それも後ろの方だ。
 気が変わっては大変だとシンジに念を押し、頷くのを確認してからせいらとレイは浴室へすっ飛んできた。
 躊躇いもなく服を脱ぎ捨て、二人揃って浴室に入ってから初めて気が付いた。以前出雲へ行った時、二人で温泉に入ったから互いの裸身は見ているが、それはあくまで裸である事が当然の状況であって、こんな――お互いに乱れる所を見られるのが分かっている状況ではない。
 熱いシャワーを浴びながら、何故か赤くなって互いをちらちらと見ていたが、
「『あのっ』」
 同時に声を掛け、更に赤くなった。
「レ、レイからでいいわ。なに?」
「せいらから言って。こう言う時はマーメイドファーストよ」
「ヴァンパイアファーストよ。レイからどうぞ」
 レディファースト、と言う単語は言わずと知れた女性優先だが、この場合どちらが優先されるべきなのかは分からない。
「『……』」
 お互いに譲り合ってもじもじしていたが、
「『あ、洗ってあげるっ』」
 またも声が重なり、同じ事を考えていたと知った二人が、今度は顔のみならず全身をほんのりと赤く染めた。上気した顔を隠すように横を向いたが、視線の端でお互いを覗うように見合っている。
「『じゃ、じゃあ一緒に…』」
 原因は分からないがまたも言葉は重なり、二人は小さく頷きあった。
 
 
 
「僕は別に良いんだけど」
 白い雪景色を眺めながら、シンジは微妙な表情で湯飲みを傾けていた。
「海の底から仕返しには来ないと思う。でも夜の一族が…夜な夜な血を吸いに来られたら困るし」
 レイとせいらが自分を想っているのは知っている。が、せいらはともかくレイの方は、不死人の青年を好まぬ者が一族に結構居るし、想いに応えて恨まれたらたまらないと、その考えている事は結構わがままだ。
 そもそも。
 シンジ自身は想われている事をどう見ているのか。
 
 
 
「はぅっ、んっ、んんっ…」
「んっ…あぅ…ふっ、ふあっ!」
 通常よりは少し広い浴室内に、美少女二人の喘ぎが充ちた。既に室内には牝の匂いが充満しており、全身を上気させた二人が白い肌を押しつけ合っている。
 洗いっことは言っても、目的が目的だけに身体表面は軽く流しただけで、最も重要なのはアヌスだ。先にレイが、続いてせいらが指を伸ばし、ボディシャンプーをつけた指でアヌスを弄り合っているところだ。洗っているのか弄っているのか分からなくなって来た二人が、熱く喘ぎながら互いの尻穴に指を突き入れている姿は妖し過ぎる。
「レ、レイ…そ、そんなに壁こすっちゃだめぇっ」
「せいらこそ、おっぱい押しつけ過ぎっ…」
 相手の喘ぎと熱い身体につられ、相乗効果でみるみる昂ぶっていく。どこかで、鳥の声がしなかったら、尻に突き入れた互いの指だけで達してしまっていたに違いない。
 達する寸前で我に返った二人が、いきなり肩に手を置かれたかのようにびくっと手の動きを止めた。
 もぞもぞと相手のアヌスから指を抜き出し、
「も、もう十分綺麗になったでしょう」
「え、ええそうねっ」
 頷き合った二人は何故か早口だ。かさかさと浴室から出て、何となく気まずいのを隠すように急いで身体を拭く。来る前はシンジが怒っているに違いないと想っていたから、お洒落な格好はしていない。下着も上下白で揃えたシンプルなものだ。下着だけで十分だろうと、ブラとショーツを穿いた上からバスタオルを羽織る。さすがに、下着姿でシンジの前に出る勇気はない。
「…せいら」
 不意にレイが呼んだ。
 その声は少し固い。
「なに?」
「碇君がどっちを先に選んでも…お互い恨みっこ無しよ」
「ええ、分かってる」
 差し出された小指がきゅっと絡まり合った。道具ならいざ知らず、シンジに抱かれる以上どうしたって前後の差はつく。
 シンジがどちらを先にしたって、それはシンジが決めた事なのだ。妬いても始まらない。
 がしかし。
「『お、お邪魔します』」
 と、まるで家に上がるみたいに寝室へ入ってきた二人だが、待っていたのは、
「綾波にはしない方がいいかと思うんだ」
 と言う、レイをどん底へ突き落とすようなシンジの言葉であった。
「い、碇君どうして?私がわがままだから?碇君を独り占めしようとしたりしたから、私の事を嫌いになったの?」
 元から白い顔から更に血の気が引き、レイの顔はまるで蝋人形みたいになってしまった。一方せいらの方は、予想外の展開に何も言えず戸惑っている。シンジの言葉からすると、別に自分が想い人として選ばれた訳ではなさそうなのだ。
 余計な事を言うと墓穴を掘って、想い人と友達をまとめて喪う可能性がある。
「そうじゃないんだ」
 シンジは緩く首を振った。
「綾波のそういう所は前から知ってるし、それを責めたりする気はないよ」
「じゃあ…ど、どうしてなの…」
 声を絞り出すようにした訊ねたレイの双眸には、涙がいっぱい溜まっている。
「身内の違い」
「『身内?』」
「僕は見ての通りの存在だし、誰かに干渉される事もない。せいらも大体そう。でも綾波は違う。今でも邸には、僕の事を忌み嫌う仲間がいっぱいいるでしょ。事と次第によっては、一族を敵に回す事にもなりかねない」
「……」
 それを聞いたレイは、黙って立ち上がった。
「すぐに戻るわ。待っていて」
「ちょっと待ってレイ、どこへ行くつもり」
「少し掃除するだけ。すぐ戻るから」
 身を翻したその背に、
「却下」
 シンジの冷たい声が突き刺さる。
「いっ、碇…君…」
 そんなに自分を拒絶するのかと、哀しい視線を向けたレイに、
「そういう事を言ってるんじゃない。ちょっとお座り」
「……」
「邪魔者を排除しろとか、理由を付けて綾波を抱きたくないとか、そんな事を言ってるんじゃないよ。大体、凍夜町の吸血鬼が綾波とアスカだけになったら、生態系を狂わせたって言って屍さんに何を言われる事やら。僕が言ってるのは…」
 レイの顔をじっと見て、
「僕やせいらと違って、綾波は自由な立場じゃないし背負ってるものもある。それらが全て根底から崩れても――それでも僕を想ってくれる?」
(碇君…)
 自分から離れるか或いは元凶を断つか、二択で選べという事では無いらしい。
 数秒経ってから、レイは大きく息を吸い込んだ。
 ゆっくりと吐き出し、
「私の想いはいつも碇君(あなた)だけに――いつまでも、ずっと…」
(レイ…)
 潤んだ瞳でシンジを見つめ、想いを打ち明けるレイの横顔を見たせいらは、綺麗だと思いながらも羨望を禁じ得なかった。
 雨降って地固まる――結果的にレイは、告白機会(タイム)を得た事になる。言った者勝ちでもないが、やはりちょっと羨ましい。
 吸血美姫の告白を、シンジは黙って聞いていた。
 何故か、直ぐには反応しない。軽く閉じられた瞳の奥で、告白を受けた不死人の青年は何を思うのか。
 やがてその口が動いた。
「ありがとう」
 とシンジは言った。
「綾波がそこまで想ってくれてるなら、僕が何も言う事はない。でも、久しぶりに良い物が見られたよ」
「良い物?」
「綾波の涙」
「!?」
 レイの顔が蒼白から一転して赤に変わった。首筋まで真っ赤に染めて、羞恥と恨みが微妙に混ざった視線でシンジを睨む。
(睨んでも可愛いだけなんだけど…わざとやってるのかしら)
「なに、綾波?」
「…な、何でもないわ」
 しかもあっさり敗退した。弱すぎる。
「じゃ、懸案も片づいた事だし――しよっか?」
「『は、はい…』」
 初な小娘みたいに、二人が赤くなってこくっと頷く。方や吸血鬼の、方や人魚の一族を幾星霜にも渡ってまとめてきた二人だ、などと信じる者は殆どいまい。
「二人とも、バスタオル取って」
 立ち上がったせいらとレイが、言われるままにバスタオルをはらりと落とす。
「あれ?」
 シンジが眼を見張った。どうやら、下は裸だと思っていたらしい。それを見た二人が、顔を見合わせてくすっと笑い合った。
 が、それも一瞬の事で、次の瞬間その顔色はさっと変わった。
「もう、手っ取り早いかと思ったのに。まあいいや、じゃパンツだけ脱いで」
「シ、シンジ様っ」「だ、だめ、それはだめなのっ!」
 女心を解しないえろえろな台詞に、二人が慌てて股間をおさえる。別にシンジの視線が向いた訳でも触られた訳もないが、下半身だけむき出しというのは想像しただけでも恥ずかしすぎる。全裸の方が遙かにましだ。
「恥ずかしい?」
 ストレートな直球に、二人が勢いよく頷く。
「でも可愛いお尻でしょ?」
「『!』」
 わずかに首を傾げて訊いたシンジの言葉が、脳裏からつま先まで一瞬で駆け抜ける。電流の流れたような、とはこう言うのを言うのかも知れない。ふわっと胸が暖かくなった次の瞬間、体内で子宮がきゅうっと収縮するのを二人は感じ取った。
(だ、だめっ)
 子宮が疼いただけに留まらず、股間までもがじわっと濡れてきたのだ。
「い、碇君お願い脱ぐから全部にして」
「全部?」
「わ、私達は…身も心もシンジ様の物ですから」
 やや早口で言葉を紡ぐ二人に、
(僕の物なら半脱ぎでも素直に脱ぐのが…)
 思ったが、口にはしなかった。いくらシンジでも、そこまで無粋ではない。
「そうだね」
 頷いて、
「じゃ、見せてくれる?」
「『うんっ』」
 何故か嬉々として下着を脱ぎ捨てた二人が、シンジの前にぺたんと座る。シンジは知らないが、全裸を晒した方が濡れた下着を見られるよりは余程良い。もう少し遅れていたら、パンツだけ脱がされた上に濡れたそれを見られたかも知れないのだ。
 二人とも手は膝に置いており、少し秘所を隠す姿勢を取っているが、乳房は隠そうとしていない。大きさはさほどでもないが、こぶりながら形の良い乳房がつんと上を向いており、その先端ではほんの少し色づいた乳首が誘うようにシンジを見つめている。
 さり気なく股間を隠す事だけに気が行っていた二人だが、ふと乳に注がれる視線に気付いた。欲情とはまた異なる視線で、シンジがじっと見つめている。
「碇君、あのっ…」「あ、あまりまじまじとご覧にならないで…」
「だめ」
 甘く否定したシンジが取り出したのは、十五センチほどの毛筆であった。
「『筆…?』」
「そう。用途分かる?」
 揃って首を振った直後、ごくっと生唾を飲む音がした。どちらの物かは分からない。
「今から二人には目を閉じてもらうから。で、僕が二人のおっぱいをくすぐる。先に声を上げた方が負けだからね」
(お、おっぱいって…も、もうっ…)
 もう一度生唾を飲む音が、今度は二つした。食い入るように毛筆を見つめていた二人だが、
「そ、それでシンジ様…」
 口を開いたのはせいらであった。
「なに?」
「あの…勝つとどうなるのでしょうか」
「僕と先にする。それが一番すっきりするでしょ」
「『!』」
 シンジの一存で決めるのではなく、相手よりも耐えた方を先に抱くと聞かされ、二人の目の色が変わった。
「なんか、どちらが先でも恨みっこ無しとか言ってそうだったから筆にしてみたの」
「さ、さっきの話聞いていたの?」
「さっきの話って?」
「え?だって今…」
「二人ならそう言うだろうって思って。二人の事なら大体分かるから」
「碇君…」「シンジ様…」
 二人の顔が僅かに赤くなる。それは、乳房を見られている事や擽られる事への予感から来る物とは、異種のものであった。
 ふわっと胸の中が暖かくなる。
 シンジの言葉に二人は頷いた。
 満足した。
 ただし、ロマンチックとか言う単語はあまり関係ない。かつて二人が死闘を繰り広げ、文字通り互いに食い合った時、シンジは自らの血で補ったのだ。
 今の二人には、シンジの血が流れているのである。
「やる?」
 訊かれて、レイとせいらが力強く頷く。
 ただし、すぐに後悔する事になった。裸身を重ね、互いのアヌスに指を入れ合った二人の身体はかなり熱くなっていたのだ。筆先はまだ触れていないのに、乳首はその気配を敏感に感じ取り、せいらとレイの形の良い唇から熱い吐息が漏れる。人間なら瞑目した時点で感覚は鈍るが、あいにく二人は普通の人間とは違う。視覚など無くとも十分に動けるのだ。
 距離は殆ど離れていないから、互いに相手がどんな反応をしているのかも、手に取るように伝わってくる。それはシンジが、二人の感覚が鋭敏な事を計算した上で、片方だけに偏っていないと明らかにする為に近づけたのだ。ルールは簡単で、吐息が荒くなるまでは可、ただし声を出した時点で負けになる。
 室内にレイとせいら、全裸の美少女が二人乳房を筆で嬲られ、互いの気配を必死に探りながら快感を堪えて身を震わせる。これだけ近いと相手の様子も伝わってくる代わりに、相手の快感までも自分が感じているかのように錯覚しそうになる。
 吐息すらも懸命に抑えながら、それでも堪えきれぬかのように、熱い吐息が時折唇を割る。既に二人とも乳首は思い切り尖っており、硬く勃起した乳首は筆先が触れる度にこりっと弾かれて揺れる。せいらもレイも、太股にぎゅっと手を食い込ませており、何とか頑張っているのだが、もう陥落間近なのは明らかだ。
 二人を擽りだしてから、初めてシンジの口許に小さな笑みが浮かぶ。手の上で筆を一回転させ、それぞれ乳首の先の小さな割れ目に押し当ててこしょこしょっとくすぐった。
「もっ、もうだめぇっ。ふあっ、あああんっ!」
 たまらず上体を仰け反らせ喘いだのはレイであった。続いてせいらが、これも甘い喘ぎを洩らして前に突っ伏す。
「はあっ、はあっ…負けちゃった…。口惜しいけど…せいらに譲るわ」
 濡れた瞳でさすがに少し口惜しそうな表情のレイだったが、せいらの言葉は意外なものであった。
「最初はレイでいいわ」
「…え?」
「やっぱり、レイの方がシンジ様と以前から知り合っていたのだもの。シンジ様、レイにしてあげて下さい」
「分かった」
「い、碇君?」
 何か言うかと思ったら、シンジはあっさり頷いた。
 シンジは見抜いていたのだ――例え賭に勝ったとしても、せいらはレイに譲るだろう、と。反対になった場合は分からないが。
 そしてシンジは気付いていたのだ――レイに譲ったせいらの双眸にある色が、単に自分より想い人との付き合いが長い友人を思っただけのものではない、と。
 おそらく、と言うよりほぼ間違いなく、自分の身体のバロメーターを秤に掛けたのだろう。
「せいら…本当にいいの?」
「ええ。レイだって、最初が良いでしょう?」
「う、うん…」
 ちらちらと、シンジとせいらの間で視線を彷徨わせながら迷っているが、表情が如実に裏切っている。
「せいらもああ言ってる事だし、綾波おいで」
「い、いいの?」
「ん」
「そ、それじゃ…」
 恥ずかしげに、それでも愛液の滴る秘所をもう隠そうとはせず、しっかりとシンジの前に立つ。
「碇君あの…や、優しくしてね?」
「ん。それじゃ綾波お尻見せて」
「!」
 ストレートな台詞にかーっと赤くなったレイだが、小さく頷いて四つん這いになり、シンジの前にお尻を差し出した。あまり色素の沈下が見られないそこは、初めて受け入れる物を期待してかひくついており、秘所から流れ出した愛液で妖しく濡れ光っている。
「拡げて」
「う、うん…」
 羞恥を懸命に堪えてアヌスを左右に拡げるレイだが、身体は違う受け止め方をしたらしい。太股を愛液が伝い落ちてきた。それを見たシンジが、ようやく服を脱ぐ。美少女二人を左右にして、シンジは服も脱いでいなかったのだ。
(あ、あれがシンジ様の…お、大きい…)
 初めて見る男性器に、せいらの喉がごくっと鳴る。レイの方はぎゅっと目を閉じて恥ずかしいのを堪えているから、シンジの様子を見るどころではない。
 亀頭をアヌスに宛がい、
「綾波、少し力抜いてみて」
「や、やってみるわ」
 それでも緊張のせいか却って力んだりしてしまったが、三十秒程経った時、レイの身体からすうっと力が抜けた。
「挿れるよ?」
「き、来てっ…ふああっ!お、お尻にっ、私のお尻に碇君が入ってるぅっ!あ、熱いぃっ!」
 突き入れた途端、今までに聞いた事もないような声で絶叫し、レイががくがくと腰を振る。それに伴い、レイの意志とは無関係にアヌスが強烈に締め付けてきた。僅かにシンジの眉が寄ったが、それでも声を上げるような事は無く、
「綾波大丈夫?」
 優しい声で訊いた。
「だ、大丈夫だから…い、碇君動いてみて」
 頷いたが、貪るような動き方はせず、自分よりもレイを優先したゆっくりとした動きであった。
 言うまでもないが、本来アヌスは挿れられる器官ではないし、指と茶筅しか経験のないレイに取って、いかに相手がシンジでもペニスの挿入はやはり苦痛であった。それでもシンジの穏やかな動き方のおかげか――或いは元々アナルセックスの適正があったのか、数分もすると痛みが快感に変わり始めていた。少しでもシンジのものを受け入れようと腰を振り、あられもない声を上げてよがるレイを見て、予定が狂ったのは無論せいらだ。本来ならとっくに達している筈で、せいらが後からゆっくり楽しむはずだったのだ。
(もう…まだイかないなんて…)
「はうんっ、だ、段々良くなってっ…イ、イイ感じっ」
 四つん這いで、すっかり感じまくっているレイの下に、せいらがするりと身体を潜り込ませる。
「せいら!?だ、駄目っ、そんな所から見ないでっ」
「さて、レイに問題」
「も、問題っ?」
「お尻でえっちに感じてるレイのここは、今どうなってると思う?」
 はふ、と息を吹きかけたのは顔を出して赤く充血しているクリトリスであった。
「ひむっ!?せいら駄目、止めてぇっ」
「本来女の子はこっちで楽しむものでしょう?ほら、レイのクリトリスが構ってもらえなくてむくれちゃってる」
 ちう、と淫核に口づけされた時レイの中で何かが弾け、レイはせいらの意図に直感的に気付いた。
 が、アヌスでの快楽を貪っているレイにそれを制止する余裕はなく――。
 
 かりっ。
 
 せいらの歯がレイのクリトリスを甘噛みした直後、
「だ、だめ、まだっ、まだイくのはいやああっー!!」
 強引に快楽の絶頂まで押し上げられ、目からは涙を、秘所からは愛液を吹き出させてレイは達してしまった。
「失神してしまいましたわね。よほどシンジ様のが良かったみたい」
 シンジがペニスを抜き出すと、レイはそのまま崩れ落ちた。完全に失神しており、目を覚ます気配はない。
「せいら、これで予想通り?」
 はい、とせいらは微笑って頷いたが、その笑みには少し邪悪な物が混ざっている。ウェットティッシュを取り出したせいらが、シンジのペニスを手に取るとそっと拭き始めた。大切な宝玉を扱うように、丹念に拭っていく。
 ただ、舌は使わなかった。
 丁寧に拭き終えると、
「シンジ様、あの…横になっていただけません?」
「横に?」
「はい。仰向けになって下さいませ」
 言われるまま横たわると、まだ放出していないペニスが隆々と上を向く。それを見てほんのりと頬を染めたせいらが、楚々とシンジの上に跨った。
「何するの?」
「あの、わ、私から…」
 無論せいらは、さっきレイが尻穴を拡げさせられる所を見ている。レイはもう失神しており、実質シンジと二人きりだとは言え、さすがにアヌスを見せるのは恥ずかしかったのだ。
 尻穴を晒すよりも騎乗位で淫らと思われる方を選んだのだ。自ら尻を左右に拡げるが、無論シンジからは直接見えない。
「い、行きますわ…」
 蚊が抗議するような声で告げると、自ら尻穴に亀頭を宛がい一気に腰を下ろす。
「ふあ…あぅんっ!?」
 後ろから挿れられるよりも、上から腰を落とした方が深く入る。直腸内を深々と貫かれ、大きく目を見開いた。
「えーと…だいじょうぶ?」
「シ、シンジ様のがちょっときつっ…でも平気。とても…温かいです」
(えーと…)
 男も異性の事を言えないが、女性は時折返しに困るような事を囁く事がある。それもベッドの中だったりすると対応に困る事この上ない。
 ほんの少し眉根を寄せて尻たぶをおさえていたせいらだが、
「シンジ様、あの抱き上げて下さいませ」
「抱き上げるって、座るって事?」
「はい」
 よいしょと身体を起こして、対面座位の姿勢を取ると、せいらが顔を寄せてきた。小さく唇を突き出してキスをねだる。少し積極的なせいらと舌を絡め合い、ぴったりと重なった二人の唇の隙間から混ざり合った唾液が滴り落ちた。
 ペニスに舌を這わせなかったのは、キスの為だったらしい。
「はぁっ…もう、大丈夫。シンジ様動かして」
 甘く濃いキスで違和感も薄れたのか、せいらは自分から左右に尻を振ってみせた。
「じゃ、いくよ」
「はいっ」
 レイは未だ目覚めず、邪魔者はない。これでたっぷり楽しめるとばかりに、下から突き上げるシンジに呼応してせいらも腰を振る。せいらもレイも到底初めてとは思えなかったのだが、余計な膜が邪魔をする膣よりは痛みも違和感も少ない。
 要は――適性があるかどうかの話だ。
「シ、シンジ様、お尻の中が熱いのっ、熱くてもっ、せいらおかしくなるぅっ」
 これもレイに劣らぬ嬌声を上げながら、片手はシンジの首に巻き付けて妖しく舌を絡め、もう片方の手は自分の乳房を激しく揉みしだく。店で歌姫の声に聞き惚れる者達が見たら、ほぼ間違いなく卒倒するだろう。しかも、歌姫がペニスを受け入れているのはアヌスなのだ。
 せいらもまた既に身体の火は点いており、絶頂へ向かって一気に押し上げられていったのだが、その喘ぎが唸りに似たものに変わった直後、むくっとレイが起きあがった。
 せいらの喘ぎで目覚めたらしい。左右を見回し、せいらを認めた途端その双眸に怪しい光が宿る。なお、せいらにレイは見えておらず、シンジからは見えているが、シンジは何も言わなかった。ここでレイだけの邪魔をすると、話がややこしくなる。
「シンジ様私っ、私もうイきそうっ、もっと、もっと激しくしてぇっ」
「いいわ。激しくしてあげる」
「!?」
 レイの存在に気付いたせいらが慌てておさえようとするが、レイはあっさりとせいらに取り付いた。その耳朶を甘噛みしながら秘所に指を突き入れ、もう片方の手は乳首を強くつねる。もう達すると分かっており、最後はシンジにキスされながら…と思っていたせいらにこれは効いた。
 一際甲高い声をあげたせいらが、刹那がくがくと身を震わせ、がくっと上体をのけぞらせる。
 その頬を伝う涙は、明らかに悔し涙であった。
 数十秒後、お互いに望まぬ絶頂を迎えさせられたせいらとレイが、常人ならそれだけで気死しかねないような視線で睨み合っていた。イく時の恨みは相当深いらしく、普段の友情などまるで何処かに吹っ飛んだかのようで、一つ何かを投下すれば取っ組み合い位では済むまい。
(どっちもどっちなんだけど…)
 先に仕掛けたのはせいらだが、レイだって仕返ししたのだし、別にここまで殺気立って睨み合う事もないと思ったが――女の心理は分からない。
「二人とも、そのまま裸で睨みってるつもり?」
「いいえ、今日という今日は許さない。今日こそ塵に帰してやるわ」
「出来るものならやってみなさい。そっちこそ深海に蠢く怪魚の餌にしてあげる」
 まさに裸のまま互いに飛びかかろうとしたその寸前、
「だから続きを、と言う事じゃないんだけど?」
 シンジの言葉に、二人の動きがぴくっと止まる。
「僕に関係ない話だから、喧嘩するなら止めない。でも良い子にしてるならご褒美あげる」
「『ごほうび?』」
「僕はどちらでもいいけど」
「『……』」
 ちょっと睨み合ったが、ご褒美の単語が効いたのかぷいっと互いにそっぽを向いた。
「…ほんとに仲良くする?」
「『…する』」
 あからさまに怪しい。なお、二人は全裸のままで、シンジは腰にバスタオルを巻いている。原始人と人もどき位の差だろうか。
 怪しいから却下、とは言わず、
「せいら、そこへ仰向けに寝て。綾波はその上に覆い被さって。そうしたら少し脚を開いて」
「『!?』」
「一度しか言わないよ」
「『……』」
 真意を問うたり、抗ったりすればシンジはさっさと止めるだろう。腹いせを含んで互いに争い合うなど不毛なだけだ。
 覚悟を決めたようにせいらが横たわり、その上にレイが身体を重ねる。依然空気の直っていない二人だったが、嫌でも尖った乳首と充血した淫唇同士が重なり、二人の唇から熱い吐息が洩れた。無論、揃って開脚した状態では、濡れた秘所がぱっくりと開いているのが後ろからまる見えで、少し拡がった尻穴が縦に二つ並んでいる。
 後ろではなく横に回ったシンジが、二人の横にかがみ込んだ。
「こりこりの乳首も」
 重なった乳房の間に手を差し入れてふにふにと動かし、
「ぐしょぐしょのあそこもぴったり重なってる」
 もう片方の手で淫唇同士をむにっとくっつけ、敏感な所を擦り合わされた二人が小さく喘ぐ。
「そ、そんなこと言わな、あぅっ」「シンジ様そこだめえっ」
「気に入らない相手なのに身体の相性は抜群だから?」
「ち、ちがうもの…せ、せいらと重なって、んんっ、か、感じたりなんっ…ああっ」「わ、私だってレイのおっぱいなんて、ひあっ、か、感じませんっ」
 懸命に否定するが、シンジの手が二大性感帯同士をぴったりくっつけているから、逃げようとする度に擦れてしまい、かと言って動かなければお互いの熱を感じておかしな気分になってくる。
 最初は逃げようともがいていたが、段々と二人の身体が弛緩してきた。諦めた、と言うよりは達した直後で敏感になっている身体同士をくっつけたせいで、逃げだそうとするほどの余力が無くなってきたのだ。
 自分と重なっている相手の柔らかい肢体が気持ちいいと、嫌でも認めざるをえなくなったせいもある。刺激に合わせて喘ぐ二人の声が重なってきたのを確認したシンジは、すっと手を抜いた。
「ふえっ?」「ぬ、抜いちゃいやぁ…」
 舌足らずな声で訴える二人に、
「綾波とせいら、キスして」
 ろくでもない事を告げた。一瞬躊躇った二人だが、もうはねつける気力は残っていなかったのかそっと唇を重ね、おずおずと赤い舌を絡め合い始めた。それを見たシンジが後ろに回り、
「綾波、少しお尻あげて?」
「ちゅっ、ふむんっ、んっ、あむんっ…うん」
 言われるまま腰を浮かせた直後、
「『ふはあっ!?』」
 二人の身体がびくっと揺れた。重なり合った秘所の間に、シンジがペニスを射し込んだのだ。膣内には入らないが、二人が淫唇でペニスを挟み込むような形になり、
「ちゃんと身体くっつけておいて」
「『は、はい』」
 手を握り合った二人が、シンジを出来るだけ感じようと身体を密着させる。シンジが腰を動かすと二人の身体も揺れる。勃起した乳首同士が擦れ合うだけでも気持ちいいのに、シンジの動きによって膣の入り口を亀頭で擦られる上に、腰を引いた時にはクリトリス同士までもが触れ合って脳髄まで突き抜けるような感覚が走る。いつしか、せいらとレイは快感を分け合うように舌を絡め、シンジに合わせて微妙に腰を動かすようになっていた。ついさっきまで険悪だった事も忘れ、この快楽がいつまでも終わらないで欲しいと協力してシンジを貪り合う。
 が、三人が一体化したような妖しい性交は、それだけ快感も高い。せいらもレイも緩く二度達していたが、とうとう完全絶頂の波が押し寄せてきた。密着しているからお互いの動きも分かる。シンジも達しそうだと気付いた二人が、頷き合って身体を離す。
「シンジ様、さ、最後はその…」「わ、私達のおっぱいにっ、いっぱいかけてっ」
 膣内でもアヌスでも放出されるのはどちらか一人だ。それならばと、二人が選んだのは乳射であった。二人がいきなり離れて射精感がふっと薄れたが、濡れた目で見上げる二人を見ると、強烈な射精感がこみ上げてきた。
「二人とも…んっ、行くよっ」
「『来てぇっ、私達に思いっきりっ!』」
 せいらとレイが身を寄せ合った直後、シンジは限界を迎えた。白濁した液が二人の胸元へ勢いよくかかり、二人の白い乳房を精液の色で染め上げていく。やがてシンジの射精が止まるのを見ると、レイはせいらと向き合って抱き合った。二人の間で乳房が潰れ、互いの乳房に精液を塗りたくっていく。
 たっぷりとお互いに精液を塗り合った二人は、満足げに微笑うとその乳房を舐め合い始めた。乳房が相手の顔へ来るように態勢を入れ替え、ちっちゃな舌で丹念に、愛しげに相手の乳房について精液を舐め、乳首を吸い合う。
 やがて、塗り合った精液を全て、舌だけで綺麗に舐め取った二人は、シンジに微笑んでから浴室に消えた。
 がしかし、十分経っても二十分経っても二人は戻らず、しかも音さえも聞こえてこない。
 浴室の窓から出て家に帰りでもしたのかと、怪訝な表情で見に行ったシンジが見たのは、抱き合ったまま寝息を立てているせいらとレイの姿であり――その表情はとても幸せそうなものであった。
 
 
 
 シンジは知らなかったが、この日せいらとレイは一つのおねだり単語を覚えたという。
「また、三人でしましょう?サンドイッチで、ね?具は勿論シンジ様ですわよ」
 と。
 
 
 
 
 
(了)

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