歌姫(後編)
 
 
 
 
 
「さすが不死人の血液、大したものねえ」
 みるみる血色の良くなった自分の肌を見ながら、せいらが感心するように言った。
 透き通るような声には、本心からの賞賛がこもっている。
「深海にはこんな薬はないの?」
 訊いたシンジの声も、僅かながらくすぐったそうに聞こえない事もない。
 だがそれは、訊かれたせいらにはすぐに伝わったらしい。くすり、と僅かに笑うとずいと身を寄せてきた。
「ないわ――こんないい薬は」
 声を更に透き通らせると、吐息のかかりそうな距離まで顔を近づけてきた。依然胸はむき出しのままだが、色仕掛けよりも妖声で迫る事にしたようだ。
「あ、あのちょっとくすぐったいんだけど」
 セイレーンの声に何を感じ取ったのか、僅かにシンジが身を捩った。
「どこが?ねえ、教えて?」
 更に顔が近づき、下水道の淵で絡み合う男女(ふたり)のような格好になった時、
「あのその辺で」
 シンジがその肩を軽く押すのと、
「下等生物が碇君に何をしてるの」
 激情で震えていると、明らかに分かる声がするのとが同時であった。
 
 
 
 海帰りで繋がる、と分かれば後は目星だけ。
 おそらく下水をお泊まりに使っている、と読んだレイだが一人なのには訳がある。
 本来なら部下達を動員する所だが、普段のここは到底入り得ぬ悪臭を放っている。もし、万が一にも予想が外れては彼らがかわいそうだと、レイは一人で降りてきたのだ。
「碇君から離れなさい」
 レイが命じた−闇の声で。
 それを聞いた時、シンジの表情が微妙に動いた。自分を捜しに来たのは分かるが、勝手に討伐されては迷惑だ。
 ちょっと待った、と止めようとした瞬間、
「女同士の話だから」
 せいらの囁きを聞いた刹那、シンジの意識はすっと遠のいていった。一オクターブ上げる度に、中枢神経を自由に操るのだと三度目の失神にしてようやく知ったシンジ−ただし、薄れゆく意識の中で。
 声で眠らせると言うのはあるが、せいらのはそれとは違う。シンジが気づかなかったのも無理はないが、せめて二回目で気づくべきだったかもしれない。
 シンジを横たえると、せいらはゆっくりと立ち上がった。
 引っかかっているドレスを直そうともせずに、あたかも豊かな胸を見せつけるかのようにレイと相対した。
 灼熱にも近い温度の視線が、真っ直ぐにせいらを射抜く。
 その視線に含まれているのは、殺気と言うより妖気に近い。その危険な視線を、せいらの黒瞳が跳ね返した。
 先に口を開いたのはせいら。
「彼がつきまとわれている妖怪がいると聞いたわ、あなたの事ね」
 邪魔なのだ、というのを言外にこめた台詞に、
「日の当たらぬ深海で、おかしな曲を歌っていれば良かったのに。これだから下等生物は嫌い」
「陽光も浴びれぬ日陰者に言われたくはないわ。せめて、陽光の下へ出られるようになってから言う事ね」
 二人の距離はおよそ五メートル。レイならば、軽く跳躍しただけで充分届く距離だ。
 対峙する二人の女を、怜悧な殺気が繋ぐ。
 日の当たらぬ、薄暗い電光だけが明かりとなる中で、徐々に二人の殺気が高まっていった。
 二人とも互いの顔から視線を外さず、既に視線は空中で前哨戦とも言える闘いを繰り広げている。
「ん…」
 眠っているシンジが、僅かに声を洩らした瞬間、二人の手は同時に伸びた。
 すなわち−せいらの手は頭へと伸び、レイの手は刃を指に挟み。もしこれをビデオカメラに撮っていれば、レイの方がコンマ数秒早かったと分かっただろう。
 投擲のモーションはほぼ同時−二人の女が投擲した物は、殆ど同時に相手の肩に突き立った。
 針金と化した頭髪はレイの右肩を貫き、レイの刃もまたせいらの肩を抉っていた。
 がくりと肩が崩れかかるのもほぼ同時だったが、射抜くような視線だけは相手から外さない。
 力量は互角と、無言の内に互いの力を知った二人。肩に刺さったそれを抜こうともせず、無傷な方の手に全ての力を賭して手刀を形作る。
 その意図が、いずれも一撃必殺にあるのは明らかである。
 奇しくも二人が身につけているのは、いずれも真っ白なドレス。せいらは自ら胸元を裂いたとは言え、肩の部分は落ちてはいない。
 一方、レイのドレスは完全なままであり、二人揃って肩を鮮血に染めている様は、鬼気と共にどこか妖美すら感じさせる。
 二人を繋ぐ糸が僅かに震えた刹那、双方の視線がある方向を向いたのは偶然だったろうか−すなわち、壁にもたれて眠っているシンジに。
 そして、その唇が何かを呟いた事も。
 一瞬、ほんの一瞬だけだが、彼女達の目には同じ色があったのかも知れない。
 地を蹴ったのは、どちらが先だったのか。
 刹那肩の激痛に、わずかに顔に苦痛の色を見せた二人。
 だが交差はしなかった−空中で激しくぶつかると、そのまま下に落ちたのだ。
 背中から手が生えている、知らぬ者が見たらそう表現しただろう。そしてその通り、二人の腕は互いの胸を深々と貫いていた。
 レイへの致命傷とならなかったのは、せいらの手が十字を描いていなかったからであり、せいらも死に繋がらなかったのは、その直前にシンジの血を飲んでいたから−不死人のそれは、妖女に命をも与えたのである。
 腕の付け根近くまで互いを貫いた二人の顔は、交差するようにして相手の肩の上にあった。
 血の臭いがレイを、吸血鬼の本性を狂わせたのか、混濁しかけた意識を取り戻すかのように、せいらの肩に乱杭歯を思い切り突き立てた。
「ぐううっ」
 せいらは一瞬呻いたが、これもすぐにむき出しになったレイの肩に噛みついた。
 セイレーンと吸血鬼。
 人の形を取っているとは言え、元は妖(あやかし)の種族だけに、血の臭いに本性が顕わになったのかも知れない。
 がしかし。
 血の臭いに狂ったとは言え、互いに突き立てた牙から、喪った血を奪い取れる訳ではない。早い話が血の臭いに本能を醒まされ、仲間の死体を噛み千切っていく、凶暴な鮫みたいなものだ。
 ビデオカメラが、或いは見物人がいれば知ったかもしれない。レイの背から開こうとしている、巨大な黒翼を。そして、急速に一つに溶け合いつつあるせいらの下半身を。
 鮮血が奔騰させたものか、二人の肢体はその本性へと戻りつつあるのだった。
 その姿をあるべきものへと戻しつつ、その手だけは互いの胸を深々と貫き、その牙もまた剥き出しになった互いの肩へと、力の限り突き立て合っている。
 奇妙なことに、まるで貪るように牙を立て合う姿は、傷つけると言うよりも、文字通り食い合っているようにすら見える。
 彼女達の脳が、互いを食料だと認識したのだろうか。
 だが、血の狂宴にも似たそれも束の間で、みるみる遠のいていく意識と共に、二人はしっかりと絡み合ったまま海水の充ちる下水へと倒れ込んでいった。
 
 
 
 
 
 シンジからアスカの元へ連絡があったのは、レイが下水道へ消えてから、丸一日経ってからであった。
 無論アスカは、病院へ飛ぶようにしてやってきたが、
「シンジっ!」
 ドアを蹴破るようにして入った来たアスカを、
「うるさい」
 開口一番、シンジの視線がじろりと迎えた。
「お姉ちゃんは無事なの?」
「どっちだったかな?」
 二つのベッドを隔てるように、シンジは椅子に座っており、左から右へとゆっくりと顔を動かした。
「あ、こっちだ」
 右側のベッドに視線を向けたが、傍目にはふざけているとも見えない。二人とも全身を包帯で巻かれ、腕には点滴の針が突き立ったままだからだ。
 見た目には、ピラミッドに眠るミイラと言った所だ。
「一体何があったのよ」
 アスカならずとも、首を捻りたくなる所だろう。
 せいらとレイ、二人の肢体から発する凄まじい血臭が、不死人の意識を覚醒させた。 伸ばした手が掴んだのは巨大な翼であり、レイの肢体が戻りかけていた事と、二人の手と牙が互いに食い込んでいたのが逆に幸いした。
 マグロの一本釣りのように、ふたりを引き揚げたシンジだったが、レイはともかくせいらの方は、直前にシンジの血を体内に入れていなければ、間違いなく三途の川まで泳いで行った筈だ。 
 シンジはちょっと考えてから、
「チジョウのもつれ…かな?」
「はあ?」
 あきれ顔のアスカに、
「僕も血を提供して、少し体が重い。あまり騒がないで」
 そう言われて初めて、シンジの顔が少し青白いのに気が付いた。
「ねえ、本当にどうなってるの?」
 真顔で訊いたアスカに、
「彼女を歌姫にする話がまとまっていたのに、綾波が乱入して決闘になった。綾波が貫かれたのは肺の少し上で、彼女の方は肺のど真ん中。僕が血を吸わせてなければ即死だよ。で、その後は丸一日仲良く寝てた」
「…相打ちって事?」
「そうなる」
 頷いたシンジに、アスカの眉が上がる。
「自分を巡って女同士が決闘してるのに、高みの見物してたわけ?」
「アスカは、鶏好き?」
 関係ない事を言いだしたシンジに、更にアスカの顔が険しくなったがシンジは気にもせず、
「凍夜町の住人は、朝が来れば嫌でも活動限界になる−殆どを除いては。瞼が閉じていく横で、子供が轢かれたのを見れば体は反応するか?」
 それを訊いたアスカ、今度は唇に奇妙な笑みを浮かべて、
「じゃ何?シンジ眠らされた訳?」
「…事実だけ言うとそうなる」
「あっはは、不死人が眠らされてどうす…」
 アスカの表情が一瞬にして凍り付く。
 アスカは会ってしまったのだ−シンジの瞳に。その闇を湛えた黒瞳に。
「二人の殺し合いの原因は僕だが、僕は綾波にせいらを討てとは言ってない。僕に危害が加えられた訳でもないのに、嫉妬心で彼女を襲ったのは綾波だ。それとも悠久の海へ海帰りを起こしている下水に、君の姉さんだけ流しても良かったかな」
「…ごめんなさい…」
「寝ていた間抜けも間抜けだが、セイレーンの歌声に抗した経験を持ってから非難してくれると助かる」
 俯いたアスカに、冷ややかな視線を向けていたシンジだが、やがてふっとその色を抑えると、
「あと数秒で起きる。手出しは無用だよ」
「え?」
 アスカが怪訝な顔を見せたちょうど五秒後、
「い、碇君…」
「んっ、ん…」
 呻いた途端、互いの声を聞き取ったかのようにがばと身を起こした。
「さすが僕の血」
 シンジが奇妙な自賛をするのと、二人の首が動いて仇を見つけるのとが、ほぼ同時であった。
 みるみる殺気を帯びて、ベッドから下りようとする二人のミイラの間に、シンジはすっと手を上げた。
「はい」
 一瞬二人の気が削がれ、視線がシンジに向いた。
「二人とも回復が早い生き物だけど、とりあえず僕の血を大量に輸血してある。従って現在僕は蹌踉状態。少し困ってる」
 そう言うとアスカに、
「二人の額の所にある、包帯止めを外して」
 と告げた。
 アスカが見ると、せいらもレイも額の所で包帯が止められている。あまり気乗りはしなかったが、さっきの失態の件もありアスカは素直に従った。
「う、嘘…」
 アスカが呆然と呟いたのもむべなるかな、額のそれを外すと包帯は、みるみるその全身から剥がれ落ちたのだ。
 しかも、更にアスカが驚いたのは重傷者二名の容態であった。アスカは、二人が互いの肩に歯を立てた事までは知らないが、それにしてもきれいすぎる。アスカにそう思わせる程、二人の肌は健康だったのだ。
 ブラとショーツだけの二人だが、シンジの言葉を聞いて慌てて下りようとした。特にレイは、シンジの具合が悪いと聞いて蒼白になっている。
 だがシンジはそれも止めた。
「僕なら大丈夫」
 短いが、そこには抗させ得ない何かが含まれており、せいらもレイも黙って従った。
 二人の上半身に目を向けた後、
「傷跡は残ってないね」
 うん、と頷いた所へドアが開き、リツコが入ってきた。
「二人とも目が覚めたのね、さすがは人外の生き物だけあるわ」
 皮肉の後、シンジに視線を向けると、
「シンジ君、具合の方はどう?」
「なんせ不死人ですから」
「それは良かったわね」
 にこりともせずに、
「さて、この二人事情聴取があるから、署へ連行していいかしら」
 とシンジに訊いた。
「事情聴取?」
「単なる男の取り合い、だけでは済まされないわ。これはれっきとした事件よ」
「調書面倒じゃない?」
 それを聞いたリツコ、何故かにっと笑った。
「でっち上げに調書改竄、どれも警察の十八番よ。マル害を碇シンジとし、暴行傷害罪を成立させるのは簡単ね」
 なお、マル害とは被害者の事を指している。
 さすがにアスカも抗議しかけたが…止めた。警察なら、と言うよりリツコならやりかねないし、アスカは当事者では無いからだ。
「別にいいんだけど」
「けど?」
 シンジの語尾をリツコが捉えた。
「僕も参考人?」
「当然そうなるわね」
「どうしよう」
 考え込む素振りを見せた後、何故かシンジはせいらに視線を向けた。
「僕を連れ去るって言ってるけど」
「その前に殺すわ」
 せいらの返答は早かった。
「そこの娘には少し加減したから引き分けたけど、生身の人間ごときがセイレーンの歌声には抗し得ない事、生命と引き替えに教えてあげる」
 乳房の半ばこぼれた下着を隠そうともせずに、せいらは凄まじい視線をリツコに向けた。そのせいらから、今度はレイへと視線を向けるシンジ。
 こちらは少し羞恥があったらしいが、せいらに対抗したのかこれも隠そうとはせず、却ってシンジに見せるように胸を張っている。
「大丈夫よ、碇君」
 シンジが口を開く前にレイが言った。
「この病院を出る前に、体中が真っ黒になるくらいコウモリを集(たか)らせてやるから。不味い血だけど、うがい位にはなるわ」
「それは頼もしい話で。でもなんであの時にはしなかったの」
「そ、それはその…かっとなってたからそこまでは…」
「と言う訳で」
 シンジがリツコを見た。
「二人とも手加減してたようだし、単なる喧嘩の延長でしょう」
 検事のような口調で言ったが、二人の凄絶な死闘を他に見る者がなかったのは、かなり幸いだったろう。
「では、そっちの女性だけね」
 リツコはせいらに視線を向けると、
「店から被害届けが出てるわ。それと詐欺の届出も。これはどうするの」
 殺気にも似た視線を向けていたせいらだったが、これを聞いて一瞬引いた。でっちあげならともかく、これは正論だったからだ。
「身元引受人もいないなら、そのままにはしておけないわね」
 と、リツコの声は氷のように冷たい。レイほど直情では無いが、やはりシンジを拉致された恨みは深いのかも知れない。
「はい、折衷案が」
「なに?」
「二人が入院した原因は僕だし、一応これでも男の種族なので」
「それで?」
「見捨てるのは少し何とかに関わる気がする。僕に任せてくれない?」
「どうするつもり?」
「セイレーンの歌姫なら、就職先は幾らでもある。とりあえず僕に心当たりが」
「店の方はどうするの?」
「それなら顔役がいるし」
 と、シンジはちらりとレイを見た。
 無論その意味が分からぬレイではないが、それは取りも直さずせいらの為に動く事を指しているのだ。レイがぷいっとそっぽを向くのには、秒と要さなかった。
「いいわ、そこまで言うならシンジ君に任せます。でも」
「でも?」
「猶予は一日しかあげないわよ。その間に身元から就職から、全部決定しておくことね。それともう一つ」
「え?」
「口止め料は高いわよ」
 ちゅ、と言う音がして、シンジの頬にルージュの跡がくっきり残ったのは、二秒後の事である。
 二対の嫉妬に燃える視線が死神の殺気を送る中、リツコはくるりと踵を返した。
 ハイヒールの遠ざかっていく音を、凄まじい視線が追う。シンジがいなければ間違いなく、リツコは生きて病院を出られなかったろう。
 だがその二人を余所に、何か妙だとアスカは首を捻っていた。
 リツコが、あまりにもあっさりしすぎているのだ。第一リツコは鑑識課だし、レイとせいらが死闘を繰り広げたのはマンホールの下、つまり下水の所である。わざわざ犯罪になどするような事でもあるまい。
 それに、二人が完全な健康体である以上、事件としての立件は難しい。血痕でもあれば別だが、今が海帰りである以上満潮に伴って流されているに違いない。
 このアスカの予想は当たっていた。
 海に繋がる、と言うことは当然潮の満ち引きの影響も受ける訳で、満潮に伴って下水の水位もかなり上がっていたのだ。つまり、証拠は何一つ無いのである。
 もしあるとすれば、二人が担ぎ込まれた時に撮られた全身の写真くらいの物か。
(ははあ、これって…出来レースね)
 仕組んだのがシンジかリツコかは分からないが−おそらくはシンジだろう。本来ならせいらは、自分を拉致した敵の筈だが、どういう経緯かシンジは不問に付した。それどころか自分の血まで与えている。
 かといって、レイをないがしろにする訳にも行かず、文字通りの折衷案というのが正解だろう。
(もてると大変よねえ)
 思わず同情したアスカは、表情の変化を抑えるのに必死だった。唇から、つい笑みがこぼれそうになったのである。
 だが。
「何がおかしい?」
 シンジの視線は誤魔化せなかったらしい、じろりと睨まれた。
「な、何でもないわっ」
 慌てて首を振ったが、
「僕は現在血不足。アスカの血、僕に寄越してみる?半分もあればいいよ」
 ぶるぶると首を振ると、観客に徹する事にした。
「碇君」
 真っ先に沈黙を破ったのはレイであった。
「何?」
「随分ともてるのね」
 レイの台詞には、毒々しい真っ赤なバラのように刺がある。
「どうして?」
 頬を軽く拭ったシンジに、
「年増にも海底の生き物にも、随分と人気があるのね」
 だがその視線は、シンジを飛び越してせいらに向けられている。
「あなたが変な吸血鬼に好かれているなんて、私は初耳でした」
 と、これも視線は一直線にレイへ。
 二人の危険な視線が空中で火花を散らす中、シンジはレイに視線を向けた。
「それに付いては少し異論があるよ」
「何?」
 硬い声のレイに、
「碇ご夫妻の件はまだ聞いていない。事情はゆっくり聞かせてもらうよ」
「あっ」
 すっと頬を染めた所を見ると、どうやら思い出したらしい。
 無論、せいらの入った店に誘った時、碇夫妻で予約を取った一件である。
「それとそっち」
 今度はせいらを見ると、
「止めておく、僕はそう言わなかった?」
 こっちもびくりと肩を震わせるのを見て、
「綾波」
 再度レイを呼んだ。
「な、なに…」
 叱られると思ったか、どこか俯き加減のレイに、
「肩に噛み付いた時、妙に食欲が湧かなかった?」
「え?」
 ふと宙を見上げた後、
「そう言えば…」
「食べなくて正解だった」
「正解?」
「そう。もし食べてたら…どうなるの?」
 無責任にせいらに振ったシンジ。
「体の芯から腐っていくか、それとも私の虜になるか。そう言えば…食べさせれば良かったのね」
 せいらの言葉に、再度二人の間を殺気が繋ぐ。不死人の血は、余程元気の源となるらしい。
(この二人…一体何してたのよ…)
 内心で呆れていたアスカだが、事実は知らない方が幸せだったろう。
「それはそうと」
 二人の無言の闘いをあっさり止めると、
「二人とも一つだけ」
 子供に一個だけ、とお菓子を選ばせる親のような口調で言った。
「『何?』」
 期せずして口調が重なり、一瞬視線を見合わせたがすぐにぷいっとそっぽを向く。
 人魚と吸血鬼、いずれも数千の齢を持つと言われており、二人ともかなりの年数は生きている筈だが、これでは子供の喧嘩と変わらない。
「これ以上喧嘩しないようにね−同じ血が流れている同士だし」
『「え?』
 奇妙な言葉に二人の顔に同時に?マークが浮かび−すぐに苦虫でも噛んだような顔になった。シンジの言葉が何を意味するか、分かってしまったのである。
「互いに食い合っている二人、放っておいても良かったのを、僕の血まで入れて助けたのは延長戦させるためじゃない」
 単なる正論であり、他の者の口から出ていれば滅ぼしていたかも知れない。
 たが発言はシンジからであり、言われた二人に取ってシンジは−
「はい」「分かったわ」
 不承不承だが頷いた二人に、
「綾波、本当にいいね?」
 レイの背から、巨大な黒翼が出てくるのをシンジは黙って眺めていた。
 羽根を体の前に持ってくると、
「この翼に賭けて」
 妖々と笑って見せた。
「あなたは?」
 笑顔のまま向けた声には、敵意はゼロだが挑発は有り余っている。
「私の歌に賭けて−聴いてみる?」
 と、これも表情だけは笑顔のまま、何故か背中に冷気を感じて、アスカは帰りたくなった。
「その件で」
 止める代わりに、シンジは別方向へ話を振った。
「歌の話題が出て思い出した。君の再就職は」
「私の?」
「いい店だが、店の魔気が強すぎて歌い手たちが保たないんだ。セイレーンなら不足はない筈だよ」
「あのシンジ」
 そろそろと手を上げたアスカ、
「何?」
 発言権が戻った事にほっとして、
「それ何処の事?」
「恵比寿」
「『え!?』」
 重なったのは、アスカとレイである。無論せいらの方は訳が分からないから、黙ってシンジの顔を眺めている。
「そう、恵比寿」
 うんと頷くと、
「アスカ、そこの鞄取って」
 アスカが持ってくると、中からがさごそと服を取りだした。
「風邪引くからこれを」
 ジーンズにセーターのラフな格好だが、それぞれ二人に手渡した。下着姿を気にもしていなかった二人だったが、シンジの言葉で急に羞恥心が込み上げたのか揃って赤くなった。
 もそもそと服を着だした二人から、視線を外すようにシンジが立ち上がった。
 窓から外を眺めた後ろ姿へ、
「あ、あのシンジ」
 呼んだのはアスカである。
 なに?と顔は向けなかったが、ガラスには女性陣の下着姿が映っている事に、着替えている二人は気付いていない。
 もっとも、ここ黒影町は凍夜町とは違い吸血鬼の支配下にはなく、二人の手当てをしたのはシンジだったのだ。輸血はさすがに医師に任せたが、それ以外は点滴までシンジが針を刺した−無論着替えさせたのも。
 体を全部見られたと二人が知ったら、真っ赤になって怒るか、あるいは?
「え、恵比寿はちょっとあれじゃないの?」
「あれって?」
「ミ、ミサトのせいで歌い手が次々蟒蛇に…」
「人魚なら大丈夫でしょ」
 シンジの呑気な台詞に、
「でもあれは普通じゃないわよ」
 アスカが何か言いかけた時、ドアが開いて一人の女が入ってきた。
「私が何ですって?」
「ミ、ミサト…」
 全身から異様な雰囲気を漂わせているが、成分の半分近く、いやそれ以上はアルコールである。これはほぼ間違いない。
 夜の一族の妖気を物ともせずに入ってくると、つかつかとレイに近寄った。
「久しぶりねえ、レイ」
 そう言うと、レイの顔にくいと手を掛けて持ち上げたのだ。一族の者なら全身蒼白になっていよう。
「派手な修羅場やらかしたんだって?そっちの人魚の子と」
「べ、別にそう言うわけじゃ…」
 引き気味のレイに、せいらは内心で驚きを隠せなかった。
 普通の人間に吸血鬼が引いている!? 
 と、今度は怪しい笑みを浮かべてせいらを見た。
 怪訝な顔のせいらへ、
「初めまして。ミサト、葛城ミサトよ」
 差し出した手を、せいらが握り返した。
「…あなた普通の人間でしょ?あの娘(こ)の妖気感じないの?」
 ミサトはふふふ、と笑って、
「所詮は夜の生き物−シンジ君より怖くないわ」
 けたけたと笑った姿に、せいらはアスカ達が引いた原因がわかったような気がした。
 それにしても、とせいらはちらっとシンジを見た。
 不死人にしても、吸血鬼の当主より怖いなんて。
 それに吸血鬼の二人を前にしても、全然恐れている様子もないのね。
「で、アスカ?わたくしがなんですって?」
 妙に優しげな声に、アスカの全身が硬直した。
「今度ゆっくり話は聞くからね」
 ちら、とただそれだけで威嚇すると、
「シンジ君、セイレーンの歌姫ってこの子?」
 声が一瞬だけまともになると、せいらの全身を品評するように見た。
「この子をうちで貰っていいのね?」
「大事に飼っといて」
「シンジ君の頼みなら是非はないわよ。ところで」
「え?」
「停戦条約は出来てるんでしょうね」
 じろりと視線を向けたのは、シンジではなくせいらとレイ。
「い、碇君がそう言うから…」
「で?」
 と今度はせいら。
「あの方がそう言われるなら」
 ふーん、と意味ありげに頷いたが何も言わない。吸血鬼さえ物ともせぬ女だが、シンジの意は損ねたくないらしい。
 一体どういう関係かと、僅かに心中穏やかでないせいらに、
 “別に恋人じゃないわよ”
 その瞬間、せいらの肩がびくりと震えた。ミサトは唇を動かしていなかったのだ。
(精神感応?)
 “そう言うこと”
 つう、と一筋汗の流れたせいらをみて、ミサトはにっと笑った。
「よろしくね」
「は、はい…」
 セイレーンをあっさりと従えたミサトに、
「すぐに使える?」
 とシンジが訊いた。
 そうね、と一瞬首を傾げてから、
「一日あれば大丈夫よ」
 あっさりと言ったが、今まで数十人入った歌手の中で、一日と言われたのはせいらが初めてである。無論せいらは知る由もないが。
「分かった。じゃ、大丈夫だね」
 勝手に頷いたシンジが、せいらと視線を合わせた。
「勝手に決めておいたけどいい?せいらさん」
 訊かれたせいらは、わずかに首を傾げた。それだけで押し倒したくなるような、危険な妖香を含んだ仕種であった。
「一つ条件があるわ」
「給料なら最高額を」
 いいえ、とせいらは首を振った。
 ただし条件を提示したのはシンジであり、なおミサトとはなんら話はされていない。
「そうではないの。ただ」
 かすかに恥じらうような仕種に、レイの眉がぴくりと上がる。
「わ、私にさんづけは無用です」
 それを聞いた時、今度はシンジの眉が少し寄った。
「えーと…少し恥ずかしいんだけど」
「え?」
「せいら…ちゃん?」
 その途端に、三人の口がぽかんと開いた−すなわち、ミサト以外の女性陣の口が揃って。
 一瞬の静寂の後、哄笑が室内の空気を破った。無論ミサトの仕業である。
「シ、シンジ君?愛称じゃなくて、呼び捨てでいいって言ったのよ、ねえ?」
「え、ええ…」
「ほら見なさい、まった…」
 図に乗った年増の声は、冷ややかな視線の前に沈黙を余儀なくされた。
「生憎そっちには疎い物で」
 告げた声も、どこか闇を思わせるものを含んでいた。
 数秒の沈黙の後、
「その条件なら受けよう」
 その声に、レイまでもがほっとしている自分に気付いてしまい、慌てて渋面を作る。
 だが口出しはしなかった。
 その代わりに、余計な事をとミサトに視線を向けただけである。ミサトが余計な事を口走らなければ、まだ抗議の余地はあったかも知れないのだ。
「頼んだよ−せいら」
 一瞬の間を置いてせいらの顔が崩れた−満面の笑みを浮かべたのである。
「はい…シンジ様」
 あどけない笑みに見えたが、その視界には冷ややかに自分を見ている、吸血鬼の当主がしっかりと視界に入っていた。
「ミサトさん、お願いします」
 せいらの声に、むしろ救われたかのように、
「ええ、こちらこそよろしくね」
 これ幸いと、
「じゃあ、もういいかしら?」
 出て行きかけたが、せいらの足が止まった。
「シンジ様」
「何?」
 様、と呼ばれてもシンジの表情には変化はない。いや、呼称など不死人の青年に取っては、さして感慨はないのかもしれない。
「そちらの娘さんは?」
 その視線の先にはアスカがいる。
「あたし?」
 自分のことと気付き、
「私はアスカ、惣流アスカよ。綾波レイの妹よ」
「実の?」
「…半妹よ」
「違うのはお母さんね」
「…何で分かるの」
 意外そうな顔を見せたアスカに、
「なんとなく、ね」
 と曖昧に笑ってからレイを見た。
「綾波レイさんね…よろしく」
「…よろしく」
 互いに向けた笑顔からは、地下での死闘の痕は微塵も感じられない。
 だが、お互いへの宣戦布告はいやと言うほど分かりきっている。
 せいら、と呼ばせたのは緒戦の勝利だが、付き合いのブランクをどうするか、まだまだ勝負は始まったばかりである。
 笑顔を崩さぬまま、
「シンジ様、私はこれで」
 と胸に手を当てて、優雅に一礼したせいら。シンジが頷くのを確認してから、ミサトの後に続いて出て行った。
「ねえ碇君」
 ドアが閉まるなりレイが呼んだ−これも笑顔のままで。
「何?」
「キスして」
「いやだ」
 返答はあっけなかった。
 だがレイもそれを予期していたのか、
「アスカ、碇君を捕まえなさい」
 有無を言わさぬ口調で命じた。
「え?」
 固まったのはアスカである。無論、姉とせいらの間に勃発した、女の戦いとも言うべき事態には気がついている。
 自分は好意程度で良かったと、ほっとすると同時に巻き込まれまいと決心していたのだ。恋の三角関係は外野に多大な害を及ぼすと、古来から決まってるからだ。
 取りあえずせいらが帰り、安堵しかかったところへこれである。しかも、よりによってシンジとレイの間に挟まれかけたのだ。
 順当に言うならばレイだ。一応姉だし、ここで断ればシンジの血で元気十倍になったレイに、どんなお仕置きをされるか分かった物ではない。
 だが。
 シンジを断るのも、これはこれで怖い。
 吸血鬼のアスカにとって、不死への憧憬がない訳ではないが、むしろシンジへは個人的に気にいっている部分があり、その機嫌はできるだけ、いや最大限損ねたくないところだ。
 それだけに、どっちを取ろうかと言うのは、彼女にとって人生を考える位の意味があったかも知れない。
 しかも、
「僕を捕まえる?」
 などとシンジが訊いたものだから、その懊悩は一層深いものとなった。
「シ、シンジ…」
 泣きそうになったアスカに、さすがのレイも気が咎めたか、
「どうしてしてくれないの」
 ベッドの上でぺたんと座り込んだまま、シンジをじいっと見た。
「どうしてしたいの?」
 と、逆にシンジが訊き返した。
「そ、それは…」
 一瞬ひるんだレイに、
「それと僕が夫になっていた件、あれもまだ終わってないよ」
 これで完全に形勢は逆転し、
「さて、と」
 シンジの口許に危険な笑みが浮かぶ。
「尋問が先か、それともお仕置きが先か」
 びくん、とレイの肩が震える。どうやら、以前のなにやらを思い出したらしい。
 こつ、こつ。
 一歩ずつ、シンジが踏み出すたびに床に硬い音が響く。
 シンジがレイの横に立った時、レイは目をぎゅっと閉じた。覚悟は決まったらしい。
「どうしてくれるか」
 闇に近い声でシンジが言ったが、もはやレイは反応しない。
 生け贄の覚悟を決めたのか、微動だにしないレイだったが、アスカは口を挟む事も出来なかった。
 ゆっくりと空気が危険な色を孕み出し、そしてそれが最高潮に達すると思われた時。
 ちう、と小さな乾いた音がした。
 レイの頬にシンジが唇を付けたのだとは、目を開けていたアスカでさえも、認識するのに数秒を要した。
「シ、シンジ…」
 ほう、と大きくため息をついた途端、
「も、もう碇君…」
 ふにゃふにゃと声がした次の瞬間、
「お姉ちゃんっ!」
 アスカの視界には、ぱたっと倒れ込んだレイの姿が映っていた。
 慌てて駆け寄ったアスカだが、単に気が緩んだだけと知り、再度大きく息をついた。
「僕はこれで帰る」
「え?」
「元気良く取っ組み合いしてたから、僕の血を入れても数日は寝込む筈だ。面倒だったら、杭を打ち込んでも構わないよ」
「シンジっ」
「何?」
「そ、そんな…」
 と言いかけてから気が付いた。
 レイならば、シンジが死を望めば−いや、シンジに忌まれれば間違いなく死を選ぶだろう、と言うことに。
「お、お姉ちゃんのこと嫌いになったの?」
 訊ねた声は少し震えている。
「僕の血はそんなに安くない。じゃ、僕はこれで」
 シンジが出て行ったドアを、アスカはしばらく眺めていた。
 安くない、とシンジは言ったのである。
 嫌いな娘にくれてやる程安くない−おそらくはそっちの意味だろうと、アスカは自分に言い聞かせることにした。
 
 
 
 
 
「セイレーンからも好かれるのね、不死人は」
 どこか皮肉をこめてリツコが言ったのは、担いで来た二人に輸血を施した後である。
「折角来てくれたのに悪いから」
 どこかうつろに笑ったシンジだが、その顔色はかなり青白い。
 相打ちになった二人に、全血液の三分の二以上を提供したのだから当然の結果と言えるだろう。普通なら、さっさと死んでいるところだ。
「ところで」
「何かしら」
「このままだと、起きたらまた殺し合い始めかねない」
「いいじゃない。吸血鬼とセイレーンの男を巡る死闘なんて、映像化したら売れるかもしれないわよ」
 リツコは目の前の友人に、宇宙人でも見るような視線を向けた。
「あの、それは困る。で、もう一つ頼みがあるんだけど」
 冷ややかな視線を送るリツコに、シンジは兵器とも言える笑顔を向けた。
 一瞬で頬が染まりかけるのを抑えて、
「何の用かしら」
 実は、とすっとリツコの耳に唇を寄せた。 
 リツコの爪が手の平に食い込んでいるのは、敏感な耳に息を吹きかけられたからだ。
 興味なさそうに話を聞いた後、
「公衆の面前でのキス−これで手を打つわ」
 リツコは唇の端だけ歪めて見せた。
 
 
 
 
 
「あの子の出来はどう?」
 訪れたシンジを、ミサトは満面の笑みで向かえた。
 ただし、シンジが来たからではなく、シンジが極上の歌姫を連れてきたからだ。これで店の経営も、かなり楽になるのだろう。
「最高よ、もう。お客さんも超満員だし」
 陽光の下を動いたレイは、三日経った今も目覚めていないが、せいらの方は半日休んだだけですぐ元気になったらしい。
「今歌ってるところよ、見ていく?」
 頷いてホールに入っていったが、ちょうど今終わったばかりであった。
 深々と一礼しようとした時、ドアを開けたシンジに気が付いたらしい。こぼれるような笑みを見せた歌姫に、一際大きな拍手が鳴り響いた。
 “元気そうだね”
 口だけ動かしたシンジに、
 “あなたのおかげです”
 これも唇だけ動かして答えた。
 “また来る”
 身を翻したその背に、
「またお越しくださいませ」
 少し艶やかな声が、これは客向けと取れる声でホール一杯に届いた。
 口許に、ほんの少し笑みを浮かべるとシンジは店の外に出た。
「シンジ君」
 追って来たミサトに、
「珠玉の歌姫−間違っても傷つけるな」
 幾分トーンダウンした声に、ミサトの全身が一瞬硬直する。
「じゃあね」
 軽く片手を上げての声は、もう元に戻っている。
 食事でも行こうかと思った時、ポケットの携帯が鳴った。
 寝ていたレイが意識を取り戻したと言う。
「今夜は寝かせてくれないな」
 とんでもない事を呟いたシンジの意識は、もうレイの病室へと飛んでいた。
 起きて早々、絶対に夜間飛行へ連れ出すであろう吸血鬼の当主の元へ。
「碇君、私のこと好き?」
 背後から、絶対にそう訊くだろうなと思いつつ−
 
 
 
 歩き出したシンジの視界に、シャボン玉を作っている少女が映った。
 一つ、二つ、三つと綺麗な虹色を帯びた玉を宙に送り出していく。そのうちの一つがふと、シンジの手の平に乗った。
 壊れずにくっついたそこへ、更にもう一つがくっついた。
 並んだ泡を眺めていたシンジが、ふと反対の手で目をこすった。そこに、誰かの顔が映ったような気がしたのである。
 そしてそれは−両方とも女性の顔をしていた。
「挟まれた」
 妙な事を呟いた青年に、少女が怪訝な目を向ける。にこりと笑って見せると、恥ずかしそうに走り出した。
 それを見送ったシンジは、再度歩き出した−どこか微妙な表情を浮かべながら。
 
 
 
 
 自分をさらった女を不死人は咎めなかった−しかも自らの血まで与えて。
 深海から訪れた歌姫はこう言った、一年前にあなたを見かけたのだと。
 年越しの想いは、不死人の記憶に何かを思い出させたのかもしれない。
 例えそれが…受ける想いをもう一つ増やす事になったとしても。
 
 
 
 
 
 
(了)

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