突発企画「奴らが戦国にやって来た」
 
第三十九話:FINAL――また恥をかかせおって
 
            
 
 
 
 武田信玄の正室は三条氏で、京都の名門三条公頼の娘である。
 無論側室も数名いるのだが、今側室達の前に裸身を晒しながら、信玄の膝の上であられもない声をあげているのは三条氏だ。
 羞恥プレイとか見せつけとかそっちではない。元々この三条、あまり美人ではなく大きいのは態度と乳と嫉妬心であった。
 特に勝頼を産んだ諏訪御寮人こと湖衣姫へのあたりはきつく、あわや女同士の決闘沙汰になりかけたのだが、側室の一人で忍びでもあるあかねが止めた。
 信玄自身はそんなに男尊女卑でもないが、こうまで嫉妬深いと嫌になるというもので、正妻のところへ行くのは実にご無沙汰であった。
 が、そうも言っていられなくなったのだ。
 三条の実家は名門の公家であり、その力が絶対必要になったのである。
 後方攪乱だ。
 既に日本の九割は碇家の手に落ちており、最後の砦となれば後方から引っ掻き回すしかない。幸い東北地方はまだ完全には平定されておらず、僅かながらつけいる隙はある。
 それには三条から頼んでもらわねばならないが、長い間のご無沙汰ですっかりひねくれてしまっている。仕方なしに、肉欲へ訴える事にしたのだ。
 あかねは忍びだから、三条に幻覚を見せて自慰に持ち込む事など容易い事であり、三条が我に返った時にはもう、数年間触れた事もない剛直が深々と突き入れられており、一瞬抵抗したものの、すぐにすすり泣くような声を漏らし始めた。
 色々思う所はあるが、現在はこの嫉妬深い正室に頼るしかなく、信玄に言い含められている事もあって、側室達が周囲から手や舌で愛撫していく。
 とはいえ、一度だけで頷くとは信玄も思ってはおらず、今日で3日目になる。
 そろそろ陥落させねばならぬと、一際激しく突き上げた瞬間、突如としてその動きが止まった。
 文字通りわき出るような殺気を、戦場で鍛え上げた第六感が感知したのだ。
 一瞬遅れてあかねが、全裸のまま湯を蹴って飛び出した。
「御館様、しばしお待ちをっ!」
 あかねには、今まで何度も助けられており、特に閨へ忍び込んできた刺客を倒した事は五指に余っている。
 背後から突き入れてまま――抜くと三条が怒るのだ――動きは止まっていたが、三十ほど経った頃林の中から人間が飛び出した。
 それを見た途端信玄の顔色が変わり、
「里見、刀じゃ!」
「はっ」
 全裸で吹っ飛ばされたのは敵に非ず、あかねだったのだ。
 子宮まで届きそうだったのを不意に抜かれ、不満げな顔を見せた三条も漂う殺気で我に戻ったらしい。
「何奴じゃ!」
 信玄の一喝で、にゅうと姿を現したのは黒装束四名であった。
 そして長髪の男の締めて五人組。
 悪を働くのは昔から五人組と決まっているのだが、
「お初にお目に掛かります十八代目。堺の卯璃屋得留之助ですわ」
 武田家は元々清和源氏の流れを汲んでいる。ご先祖の新羅三郎義光から、正確に数えれば十九代目なのだが、武田が甲斐に定着したのは義光の息子義晴からだから、厳密には十八代なのだ。
「碇シンジの黒幕だな。わしの首を取りに来たか」
「アンタの首など、取るだけ無駄ですわ。正妻の機嫌取りにへこへこ腰振ってるような大名など、シンジが戦場でちょんと首刎ねれば十分や。この卯璃屋が取るにはちと安い首やで。ほなこれで」
「貴様…」
 裸を隠そうともせず、睨んでいるのは信玄に非ず側室達だが、それを尻目に得留之助とその一味は悠々と歩き去った。
 馬場民部を始め、逍遙軒、典厩ら護衛に付けていた者が悉く倒され、皆失神して見つかったのはそれから半刻後の事であり、碇ゲンドウと赤木リツコの両名まで消えたと知れたのは、更に半刻が経ってからであった。
 
 
「それで…ら、拉致って来ちゃったんですか?」
「悪の枢軸国みたいに言わないで下さいよ。それにシンジ殿」
「はい?」
「あの二人、仲直りして欲しいんでしょう」
「あの二人って、母さんとリツコさんですか?」
「ええ。しなくていいなら、また北海道まで返しに行ってきますが。無論、往復の飛行機代と給油代は払ってもらいますからね」
「あの…いくら?」
「一万二千両」
 一両は大体10万円だから、10億円を優に超える値段である。
「あ、あのいくらなんでも一往復で10億円て言うのは…」
「幾らなら?」
「せめていちおくえん位で…」
「いちおくえん?君がエヴァに乗る時要求する一回の報酬か?」
「え?」
「いや、何でもない。こっちの話です」
 咳払いして、
「じゃあ、しようがないから勉強して千両でいいですよ」
 いきなり十分の一以下である。
 が、これで怪しいと思わないからシンジは天下人になれたのだ。
 ここできっちり突き詰めるなら、今頃はせいぜい大名止まりだろう。
「千両ならすぐ払えます」
 それだって一億位の値だが、日本全国の金さん銀さんを全部手中に収めているシンジに取っては、さしたる金額ではない。
 ただ、その割には相変わらず衣装代など、庶民と同じ程度にしか掛けていない。先だって幕府を開く時だって、押入の中から引っ張り出してきたジャケットとジーンズで行こうとするから、アスカ達が必死になって止めたのだ。
「じゃ、お支払いはいつもの口座へ電信扱いで。入金したらメール入れといて下さい」
「分かりました」
 シンジが頷いたところへ、どやどやと足音がやって来た。
 “廊下は走るな”とあちこちに貼り紙がしてある城内で、緊急時以外にこんな歩き方をする者はいない。
 それに今は、信玄が全力を挙げて反攻してくる余裕は無いはずだ。
「シンジっ」
 姿を見せたのはアスカとレイだったが、その様子にシンジはぎょっと目を見張った。
 二人揃って髪はぼさぼさだし、服もあちこち破れている。どう見たってレイプ寸前まで行ったか、大げんかしたとしか思えない。
「二人ともどうしたの」
 口調は穏やかだが、その手はすっと刀を引き寄せている。原因が二人の喧嘩ではなく、外因にあると思ったのだろう。
「い、今ね…」
「とりあえず落ち着いて」
 得留之助が側にあった甘酒を一杯汲んで渡した。
「あ、ありがと」
 一気に飲んで深呼吸したアスカだが、よく見れば得留之助の顔に邪悪な笑みが浮かんでいるのに気付いたかもしれない。
「いまおばさまの部屋からすごい音がして行ってみたら…」
 リツコとユイが、組んずほぐれつの取っ組み合いの最中で、慌てて止めようとしたのだが、結果この有様になったという。
 与えられて罰にしては、あまりにも大きすぎる。
「リツコさんが?」
 立ち上がり掛けたのだが、
「ちょっと待った」
「待ったってシンジ、取りあえず止めないと」
「そうじゃなくて、どうしてリツコさんがここにいるんですか――卯璃屋さん」
「『え?』」
「私が案内したから」
 得留之助はあっさりと言った。
「あ、案内したってそれどうゆう事な…なんですか」
 アスカが一瞬噛み付きかけたが、何とか寸前で思いとどまった。武力の値は不明だが、この商人のキケンなところは嫌と言うほど見てきている。
「戦場で弓隊を率いた二人がノーガードで撃ち合って、次に白兵戦に移行、直接斬り合って勝負が付かず、太刀が折れてなお小刀で斬り合った二人です。普通に顔を合わせて仲直り出来ると思ってるんですか?」
「そ、それは…」
「まあその辺りは、シンジ殿よりアスカ嬢達の方が分かるでしょう」
「言う事は分かるけどさ…でもあれどうするのよ。もしも殺し合いにでもなったら」
「それはありませんよ」
「何で分かるの」
「さて、ね」
 得留之助にしては珍しい言い方だが、得留之助には確信があったのだ。
 放っておいても殺すまでには行かない、と。
 
 
 言葉不要、とは多分こんな事を言うのかもしれない。
 拉致してきたゲンドウは別室に放り込み、リツコだけをユイの部屋に連れて行った。
「お茶を持ってきました」
「どうぞ」
 振り向いたユイが、リツコの姿を認めた途端表情が一変した。穏やかな顔で編み物をしていたのだが、不倶戴天のハブを見つけたマングースみたいな顔になったのだ。
 リツコの方も同じだが、二人とも言葉は発しない。
 つかつかとリツコが歩み寄ると、ユイがすっくと立ち上がった。睨み合う事数秒、先に動いたのはリツコであった。
 手が鞭のようにしなり、ユイの頬が派手な音を立てた。間髪入れずにユイが打ち返し、二人の頬にそれぞれくっきりと紅葉が出来た直後、ほぼ同時に無言のまま互いに掴みかかった。
 髪を掴み合った姿勢から、床に倒れ込んでごろごろと転がり回る。二人の白い太股が見えた時点で、得留之助はそっと部屋を後にした。
 
 
 任せて下さいと言って部屋を出ると、待っていたのはさくらであった。
「シンジ殿なら中ですよ」
「殿じゃなくて、あなたを待っていたんです」
「私を?」
「ちょっと来て下さい」
「あの、もしもし?」
 ぐいと手を引っ張られ、一回転させてみたい気にはなったが、黙って付いていった。
 中庭まで来て漸く手は解放されたが、睨まれているのは変わらない。
「どうしたんですか?」
「どうもこうもありません!どうしてユイさんの所にあんな敵の女を連れて行ったりしたんですか」
「シンジ殿が望んだからですよ」
「嘘です。殿がそんな事言うわけありません」
「確かに元本妻対現本妻の肉弾戦を映像化したい、と思ったのは私ですが――」
 言い終わらぬ内に数歩、かさかさと得留之助は下がっていた。
 さくらの手がすっと鯉口を切っていたのだ。逆立ちしたって、剣ではさくらに敵う訳がない。
「シンジ殿達の事はお話ししたでしょう」
「ええ…この世界で生まれたんじゃなくて、もう二回転生してるって。何だか信じられないお話ですけど」
「魂の転生も知らないお子様は黙ってなさい」
「あ、あたし子供じゃありません」
「ほほう」
 UFOから出てきた宇宙人を見るような視線を向けると、
「剔抉って知ってますか?」
「熱血?」
「剔抉です。ついでに、鉄の血じゃありませんよ」
「そ、それは知らないですけど…」
「ほらやっぱり子供だ」
「くっ」
 口惜しげに唇を噛んださくらに、
「いいですか。本来、この世界限定で言えば赤木リツコが碇ゲンドウをどうしようと、碇ユイの出る幕じゃないんですよ。一度は別れたんだし、むしろ碇ゲンドウが振ったようなもんですからね。でもそこに前世が絡んでくる。確かにユイはエヴァに消えましたが、死亡として確認された訳じゃないんです。だからこそ、ゲンドウもリツコを妻にする事は遂になかった」
「複雑…なんですね」
「ま、単純と言えば単純なんですが。その辺でね、お互いにモヤモヤしてるんですよ。記憶さえ戻らなかったらお律と源道でいられたのに、記憶が戻ったばかりにリツコとゲンドウになってしまった。かといって、記憶を消して何事もなかったようには出来ませんからね。こう言う時は、全部ぶつけ合うのが一番です」
「……」
 空を見上げたさくらだが、
「…ちょっと待って下さい」
「はい?」
「それって卯璃屋さんが記憶を戻さなかったら、それで済んだんじゃないんですか?」
「妻と息子とその一味が戻っているのに?」
「それは…」
「もし、二人の内一方でも命に別状が出るようなら、その時は私を斬るがいい。君の鈍刀でも、私を斬る位は出来るだろう」
「なっ!?」
 それだけ言うと、得留之助はさっさと身を翻した。
 もう振り返ろうともしない。
 
 
 ユイとリツコの闘いは、既に膠着状態に入っていた。
 元々武力の高い方ではないし、意地が絞り出す力にも限界がある。
 その姿は、巻き添えを食ったアスカとレイ以上の惨状になっていたが、目だけはまだ衰えていない。服がボロボロなのは言うに及ばず、全身あちこちに爪痕が残っており、解けた髪がまるで蛇のようにお互い絡み合っている。
 肩で息をしながら二人が睨み合っている所へ、
「お邪魔しますよ」
 大きな荷物を持った得留之助が入ってきた。
 二人の姿には驚いた様子もなく、
「これ、お届け物です」
 よいしょと縄を解くと、中から出てきたのは縛られたゲンドウであった。
「『あ、あなたっ…!?』」
 声が重なった事に、また一瞬睨み合ったものの、すぐ視線を逸らして解きにかかった。
 が、解けるわけがない。
 小刀を使って切る以外、決して解けない結び方なのだ。
「切れませんよ、これがないと」
 差し出された小刀に手が伸びる寸前、それはすっと引っ張られた。
「な、何を…」
「解いてどうする気です?」
「どういう意味」
「今、碇ゲンドウは完全に失神している。その意識が戻ったら本人の前で、また男の取り合いで掴み合いを再開する気で?」
「『そ、それは…』」
「私にとってはどっちでも良いんですが、少々文明的じゃありませんな。どうです、ここは一つ違う方法で勝負しては」
「違う方法?」
「取っ組み合いじゃ、勝負付かないのは分かったでしょ。ちょっと耳貸して」
 何やら囁かれた二人の表情に、微妙な物が浮かんだのはそれから間もなくであった。
 
 
「それで、結局どうなったんですか」
「適当に。まあ、ああ言うのは何とかなるモンです。それよりシンジ殿、さっさと侵攻しちゃって下さい。多分大丈夫だとは思うんですが」
「何かあったんですか?」
「この間蝦夷を急襲した時、信玄が正妻達と風呂に入ってたんですよ。で、バックでやってました」
「はあ」
 信玄の性癖を教えに来たわけではあるまい。
「正妻は三条氏ですが、もう数年間抱かれてないのをご存じで?」
「それって、病気か何かですか?」
「いえ、嫉妬深くて嫌がられたんです。それが今になって抱かれてる、その意味はお分かりですか」
「三条って公家ですよね」
「そうです」
「ふ、む…」
 小首を傾げたシンジが、はっと顔を上げた。
「それって公家を使って後方から…」
「ご名答」
「でもそれなら、そんなに心配しなくても」
「いやそれがね、最中だったって言ったでしょ。若いのから年増まで、みんな裸見られてますし、かなり怒ってましたから」
「卯璃屋さんって…トラブルとかお土産にするの得意ですよね」
「君の関係者を浚いに行ったんだが何か?」
「あう…いいです分かりました。さっさと先手を打って侵攻しますから」
「よろしく」
「……」
 
 
 
 
 
「それでパパ、その後はどうなったの?」
「勝ったよ。毎月一つずつ落としていって、結局武田軍が北海道に逃げ込んだ時にはね、戦力はもう十分の一くらいになってたから」
「捕まえた敵の大将はどうしたの」
「逃がしてあげました」
 娘の髪を軽く撫でながら、シンジは懐かしそうに目を細めた。
 1568年の冬、シンジと愉快な仲間達は天下の統一に成功した。
 本来なら信玄の首は刎ねてどこぞに飾るのだが、得留之助が信玄の妻妾の裸を閲覧したので、その分を差し引いて命は取らなかったのだ。
 天下を取った翌日、得留之助は姿を消した。
「私の役目は終わりました。私はまた、別の碇晋二を捜して天下を取らせなきゃいけません。お元気で」
 妙なメモもまた、最後まで得留之助らしかったが、全国の商人との折衝もあるし一応は探したのだ。それでも、その行方は杳として知れなかったのである。
 
 
 それから数百年後。
 多分繰り返したのだと思う。
 あまりよろしくない待遇だった小父さんの家を出て、第三新東京市へやって来たシンジを出迎えたのは、荒っぽいルノーを駆る葛城ミサトではなく、サイドカーを付けたナナハンに跨ったアスカとレイであった。
 使徒の迎撃は水槽から拾ってきた仲間に任せ、わざわざ三時間も前にやって来たのだ。
 自分と同い年の少女がナナハンに跨っているのを見て、目をぱちくりさせたシンジは、問答無用で近くのホテルに連れ込まれた。
 シンジの記憶が戻ったのは、レイがたっぷりと濡れた秘所へ一気に肉竿を埋め込んだ瞬間であった。
 初号機の暴走に依る事無く第三使徒は倒され、チルドレン共が戻ってきたのは更に五時間後である。
 アスカとレイは泣き腫らした目のくせに幸せそうな顔で、シンジの方は少し恥ずかしそうな――何故か腰をおさえて戻ってきた。
「恥をかかせおって」
 特務機関ネルフ“総司令”冬月コウゾウが、以後十数回にわたって口にする台詞の第一回目となる。
 初号機に吹っ飛ばされた使徒がホテルを直撃し、三人が全裸で逃げ出すのがちゃんと映像に残っていたのだ。
 無論、本来は総司令ではない。
 がしかし。
「じゃあ結局、パパを放っておいてお祖母ちゃん達、子供を作る競争してたの?」
「…そーゆーこと」
 子作り競争――どっちが先にゲンドウの子を産むか、得留之助の囁きは生きていた。
 第三新東京市へやって来たシンジが、自分を放っておいて3Pに励んでいた両親の事を知っても、赫怒したり日本刀を振り回したりせずに済んだのは、得留之助の言葉を思い出したからだ。
 ユイもリツコも、有能ではあるが職務には役に立たず、結局MAGIは創始者が未だに動かしているのである。
 そう、赤木ナオコが。
 ゲンドウの気を惹く為だったのに、その女房と自分の娘が占領しており、自分の入る隙間がまるでない。
 無理矢理三人乗りのプラグを作らせたり、使徒がMAGIに侵入したからと本来の司令を呼び出してみれば、両脇から奪い合うようにしてフェラを受けている最中だったりと、文字通り冬月とナオコに取っては、胃に穴の開く毎日であった。
 使徒を全部倒して、ホッとしたのは間違いなくこの二人だったろう。
 超法規プラス悪の巣窟みたいな物だから、ネルフを解体する訳には行かず、冬月は有無を言わせずシンジを総司令の座につけた。
 ゲンドウはと言うと、リツコとユイ共々放逐である。母親の意志が強く働いていたのは言うまでもない。
 天下人と似たような感じだが、自分で色々やらなきゃならない為、どう考えてもこっちの方が面倒である。
 そんな中、武士のくせに農民に混じって作業をしていた経験が抜けないシンジは、根を詰める作業が性に合わず、時々抜け出して大の字に転がっている。
 両手に花――重婚状態のアスカとレイが、それでも文句も言わないでフォローしてくれるのはおっとりした性格のまま、天下を取った想い人の事をよく覚えているからだ。
 でも、それだって限界はある。
「パパ、そろそろ帰った方がいいんじゃない?アスママとレイ母さんからのメールが十通超えたわよ」
「うん」
 起きあがったシンジが、思い切り手を伸ばして伸びをした。
 こんな時は、周囲が全部やってくれた天下人の方が良かったかなと、少しだけ思ってしまうのだ。
 
「そうだね。帰ろうか――アサカ。多分冬月さんが怒ってるから。また恥をかかせおって…ってね」
「うん。あ、やっぱりルイが来た。最後の使者っていつもルイなんだよね」
 アサカがくすっと笑った。
 どれだけ生でしても、どれだけ危険日を選んでもこの二人以外、子供が生まれる事はなかった。
 アスカの娘アサカと、レイの娘ルイ。
 目の中に入れても痛くない程可愛いのだが、髪と瞳が二人とも黒いのだけはさっぱり訳が分からない。
 無論、シンジが出生を疑った事など一度もないのは、言うまであるまい。
 ルイと腕を組んでシンジが歩き出す。
 その後ろでメールを見ながら、
「今夜は抜かず三発ずつだからね…か。アスママもレイ母さんもえっちなんだから」
 くすっと笑ってから、
「あたしも戦国に転生しないかなあ。勿論…パパが殿様で私が正妻でねっ」
 後半部分は小さな声で言うと、先を行く二人の後を追って走り出した。
 
 
 
 
 
(終劇)

大手門

桜田門