突発企画「奴らが戦国にやって来た」
 
第三十三話:関東の番長
 
            
 
 
 
 関東一円に君臨する北条組。
 もとい北条家。
 祖は北条早雲であり、現在の当主は天下きっての名将北条氏康である。しかも、なぜか先祖の早雲まで配下にいる。
 その辺はタイプスリップだからいいとして、血縁が多いのだ。
 氏照や氏邦だの玄庵だのに加えて、北条綱成なんてのも居て、これがまた結構猛将なのだ。関東の雄と言えば、武田か北条かだったが、武田は東北にずらかっており、残るは北条だけとなっている。
 がしかし。
 これがまた強いのだ。駿河・甲斐でそれぞれ今川や武田と境を接し、反対側にどんどん勢力を伸ばしていった。
 三ヶ月間兵を休め、新妻達の性感帯開発に励んでいた晋二が、どうなったかと間諜を送ると、相模伊豆・武蔵・上総安房・下総・常陸と五カ国まで手に入れており、武田家がずらかったのを機に甲斐まで手に入れた。
 トップが名将であり、しかもこの辺一体は碇家の威光も及んでいない。
 松平元康率いる第三軍団が九州一円の開発を終えたから、東海地方の開発に回し、渚馨率いる第二軍団に東海道を侵攻させた。
 駿河遠江はあっさりと手に入れたものの、武蔵の商人「品川」や相模伊豆の忍者風魔流の反碇家工作に遭い、そのまま攻め込んだ相模伊豆では完全な敗北を喫した。
 国人衆が敵についたのは勿論の事、百首水軍の大砲攻撃に加えて城は天下の名城小田原城と来た。
 無論馨とて、何も考えずに攻め込んだわけではない。
 当主の氏康は甲斐で戦後処理に当たっており、相模伊豆を守るのはボンクラの息子氏政だし、兵力だってこっちが圧倒的に押していたのだ。
 だが負けた。
 一見不可解だが、戦場を見れば理由ははっきりしている。
 戦争に於いて、相手の大将を捕らえるか討つかしない限り城の耐久度は復活する。北条氏政もそれをよく知っており、堅城小田原城から出てこなかったのだ。
 しかも補給部隊が先に叩かれた。
 こうなるともう補給する箇所はなく、しかも敵は雲霞のように押し寄せてくる。いかに渚馨でも、勝つ術は無かったのだ。
 切腹してお詫びすると言いだした渚馨を縛り上げた得留之助は、そのまま美濃飛騨へ向かった。
「あの、馨君沈んでませんでした?」
「切腹するって言ってました」
「ほ、本当にっ!?」
 さっきまで妻達の乳で遊んでいたのか顔がうっすらと上気していたが、得留之助の言葉で一気に青くなった。
「本当ですよ。嘘を言っても仕方がないでしょう」
「そ、それでまさかっ」
「碇晋二如きの為に切腹するのは馬鹿馬鹿しいと言ったんですが聞かなくて。しようがないから縛り上げて駿府館に押し込めておきました。取りあえずは大丈夫でしょう」
「良かった…」
 ほっと胸をなで下ろした晋二に、
「呑気な事言ってる場合じゃありませんよ」
「え?」
「切腹は防ぎましたが、このままだと討ち死にしますよ」
「う、討ち死にっ!?」
「たりまえだっつーの。いいですか?渚殿の所には回復を持った武将がいないんです。つまり、今回手痛い敗北を喫したことで、今度は北条が攻めてきます。今すぐに攻められたら国人衆も向こうにつきますよ」
「じゃ、じゃあどうしたら」
 得留之助はやれやれとため息をつき、
「アナルに突っ込みすぎて、頭鈍ってませんか?この間までなら簡単に手を打ったでしょう」
「す、すみません…あ、あの」
「何ですか?」
「ど、どうして知ってるんですか」
「何を」
「だ、だからその…ぼ、僕が…」
「ちょっと太ったって事?」
「ち、違います、別に太ってませんっ。そうじゃなくて、僕がアスカ達とお尻でばっかりしてるって事ですっ」
 一気に言ってから、唐辛子でも丸囓りしたみたいに真っ赤になった。
「別に調べた訳じゃありませんよ。ただ、先だってアスカ殿達にお会いした時、侍女も連れず妙にお尻を庇って歩いていたんです。痔の薬がご入り用かと訊いたら、今の晋二殿と同じように叫んで自分からばらしてくれました」
(アスカー!)
 と言っても仕方がない。
 まだ赤い顔のまま、
「分かりました…じゃ、いいです。それよりあっちはどうしたら…」
「簡単な事ですよ。取りあえず第二軍団をどこかに移し、アスカ殿と真名殿を前線に出して下さい――アンタも一緒だっつーの」
 得留之助がツッコミを入れたのは、晋二の顔がにへらあっと緩んだからだ。
 この大名が考えた事ぐらい、得留之助は手に取るように分かっている。
 アスカと真名が居なかったらその間に綾と二人でしっとりと――こんな事を考えているのは間違いなく、
「綾殿だけ先に巨乳になったら、あの二人が収まらないでしょうねえ?」
 明後日の方向を向いて言うと果たして、
「ぼ、僕は決してなんにもそんな事はまったくっ」
「私は何も言ってませんよ。じゃ、晋二殿も前線へ?」
「あ、あ、当たり前ですっ」
「ま、そんなにがっかりする事はないでしょう」
「え?」
「第一軍団の精鋭が出陣し、アスカ殿達の大砲部隊を援護すれば、まず負ける事はありません。本陣に人を近づけなければ、二人きりも可能です。戦場でのハードプレイってのもイイモンですよ」
「は、はーどぷれい〜」
 単語だけで妄想してるのか、晋二の顔から魂は抜けている。
 呼び返すのも面倒だと、得留之助は懐からハリセンを取り出した。
 
 
「そうか、わしの命令は守っていたようだな」
 北条氏康は、氏政が渚馨の軍勢を破った報せを躑躅ケ崎館で受けた時、複雑な表情を見せた。
 確かに追い返したのは大いなる功績である。
 だが、これはすべて氏康の策だったのだ。
 国人衆が敵に回れば指揮の回復は荷駄隊に頼るしかない。だから最初に荷駄隊を叩き、その後は小田原城に籠もって出るな、と。
 良い案ではあるが最上ではない。
 そう、渚馨が敗走しても捕らえる事は出来ないのだ。
 つまりまた来ると言う事だ。
 何故そんな策を取ったのか。
 理由は簡単で、大将の氏政が凡庸だからだ。はっきり言えばボンクラである。
 渚馨の攻撃をかわしながらその疲れるのを待つ、そんな所まで持っていければいいが、そんな能力はない。
 自分の父氏綱や自分は優秀だが、なぜか息子達には受け継がれなかったらしい。
 早雲と綱成は常陸にあって斯波氏への睨みに使っているし、外征ならともかく迎撃に使える駒ではない。
 仕方なく氏政に任せたのだが、本人はやる気満々で、氏康は甲斐にあって内心穏やかではなかった。
「取りあえず渚馨は撃退した。とは言え、次は必ず碇晋二が乗り出してこよう」
 数秒考えてから、
「やむを得ぬ、早雲殿と綱成を呼び戻せ。かくなる上は、このわし自らが軍を率いて駿河へ攻め込んでくれる。何としても三河以西に追い返さねばならぬわ」
 決断を下したのだが、これがまさに数日違いであった。
 第二軍団を戻して晋二達が入れ替わる――まさにその間に、氏康率いる精鋭が駿河遠江に攻め込んできたのである。
 消耗が激しいから、一度第一軍団へ合流させる為に解いたのが唯一の救いであり、それが無かったら駿河の地に渚馨は躯を晒していたに違いない。
「しまったー!」
 地団駄踏んだ晋二だが、その顔は妙に緩んでいる。
「…何でそんなに嬉しそうなんです?」
「べ、別に僕はそのっ…」
「まあそれはいいとして晋二殿」
「え?」
「首筋に紅が付いてますよ。それも二種類の」
「うぞっ!?」
 慌てて首筋をぬぐった晋二に、
「何処にも何にも付いてませんが何か?」
「う、嘘…」
 得留之助がにゅっとハリセンを取り出した半刻後、真宮寺さくらに呼び出されていた。
「お呼びですか?」
「お呼びです。卯璃屋さん、最近晋二殿でれでれし過ぎじゃないですか」
「そんな感じです。でも私に言われても…」
「卯璃屋さんが話を纏めたんだから卯璃屋さんの責任です!」
「責任?」
 ろくろっ首みたいに首を傾げた得留之助に一瞬さくらも怯んだが、
「アスカさんと真名さんを納得させたでしょ。卯璃屋さんが悪いんじゃないですか」
 すぐに立ち直ってきた。
 怒ってる方が上らしい。
「まあそれはそうですが…で、私に何をしろと?」
「別にしなくてもいいです。でも、ここまで来て殿が痴情に耽っていたら家臣だって萎えます」
「でも、あれは一応奥さんですよ。それに、昼夜問わず抱き合っていても天下統一は進んでますし。それと、今回は誤算です。真宮寺殿が言っているのは、渚殿の事でしょう」
「……そうです」
「単純に見れば晋二殿の選択ミスですが、実際には渚殿のミスですよ」
「どういう事ですか」
「四方が敵という事は士気の回復に荷駄隊しか使えないって事です。そしてそれは、敵にとっては荷駄隊を最初に狙って来るという事なのです。真宮寺殿なら、荷駄隊の守備を最優先するでしょう。まして、今回はこっちの兵力が完全に上だったのですから」
「……」
「短い間とは言え同じ足利家にいましたし、真宮寺殿が気に掛けられるのも分かります。真宮寺殿はお優しいですから。とはいえ勝敗は時の運ですし、さっさと取り返せばいいのですよ。それに、晋二殿にも早く子供が出来てもらわないと困りますから」
「子供って…晋二殿に?」
「…他の誰に出来るんですか」
「で、でもアスカ殿達に…」
 子供が子供を、さくらの顔はそう言っており、確かにさくらの目から見れば到底子供かもしれない。
「最近まで結構幼児体型だったんですが、ここの所だいぶ成長しましたよ。晋二殿共々大人になってきたようです―とりあえず身体からですが。全員処女と童貞でしたし、共同開発していったようです。どうかしました?」
「べ、別にその…じゃ、じゃあ私はこれでっ」
 いつもの顔で見送った得留之助だが、
「読み間違えた…っていうか完敗ですか?」
 苦虫を十匹まとめて噛み潰したような顔で呟いた。常に情報を元に判断する商人にとって、勢力の及ばぬこの辺りは情報が完全ではなく、分かっていれば甲斐から侵攻させているところだ。
 とまれ、初めての敗戦は軍団一つを失うという大きな物であり、晋二を側で見ている卯璃屋得留之助に取ってもろくでもない敗戦であった。
 
 
「源道、どういう事じゃ。本隊でないとは言え、氏政ごときに敗れたと聞いておるぞ」
 ようやく蝦夷と陸奥の国を慰撫し終えた源道は、信玄に呼び出されていた。
「よく分かりませぬが、どうやら荷駄隊が真っ先に叩かれ、補給路を断たれて壊滅した模様にござりまする」
「そうか…」
「如何なさいました?」
「驕ったか油断したか、それは分からぬ。だが氏康が駿河へ侵攻したと言うではないか」
「御意」
「国人衆と水軍衆が味方になれば、そうそう碇家も攻め込んでは来れぬ。しかしそうなれば北条家の勢力は増える一方じゃ。甲斐は良いとしても、これ以上は看過出来ぬぞ」
「ご安心を」
「何?」
「晋二には卯璃屋得留之助が付いております。あの男は商人ながら悪巧みIQは200に近く、まして今回の敗戦も堪えておりましょう。このまま北条家にしてやられはしますまい。そんな事より御館、今の内にこの辺の防備と開発を進めておきましょうぞ。調子に乗ってやってくる晋二達の出鼻を思い切り挫くのです」
 はっはっはと笑う源道に、何故この男はそこまで見切れるのが不思議に思いながら、その一方でつられるように気が楽になっているのに気が付いた。
 
 
 がしかし。
 確かに源道の言った事は微妙に正解であった。
 得留之助は即座に鉄砲二千丁を用意し、今度は真宮寺さくらを筆頭に第一軍団の精鋭が駿河に雪崩れ込んだ。
 国人衆諸共一蹴し、あっという間に取り返した…までは良かったが。
 翌月相模伊豆へ攻め込み、国人衆を蹴散らして武将を三人捕らえる所までは行ったが、これも結局は敗戦に終わったのである。
 小田原にいたのは名将北条早雲だが、これはもう最初から城を出なかった。しかもさくら達が門を壊す場所は一カ所しかなく、そこは鉄甲船が大砲を向けて待っているところなのだ。
 大砲で壊滅するのは免れたものの、共に防御力の高い小田原・下田両城はいずれも落とす事が出来ず、引き分けに終わった。
 しかも、捕虜を斬るより逃がして相手の石高不足を待った方がいいと斬らず、結局は徒労に終わってしまった。
 ここに来て、さすがの晋二もただごとではないと、自ら先頭にと言いだしたが得留之助が止めた。
「無駄です」
「無駄?」
「何度やってもあそこは落ちませんよ。正面から行ってダメなら搦め手からです。こんなところで手間取ってると背後をかき回される可能性がありますから」
「搦め手って、武蔵から回るんですか?」
「いえ、周囲を全部落として、北条家の武将を全部相模伊豆に集めるんです。苦戦しても他の国は全部落とせます。後は四ヶ月もあれば自滅してくれます」
「で、でも…」
「デモもデルモもありません。たまにはこう言うのも必要なんです。渚殿を始め、真宮寺殿もえらくプライドが傷付いてますから、周囲の攻略は任せていいでしょう。晋二殿は美濃の国でゆっくりと混浴でもしていて下さい」
「混浴…」
 何を想像したのか、小娘みたいにぽっと赤くなった晋二が、
「じゃ、じゃあ卯璃屋さんがそう言われるなら…」
「そう、それでいいんです。この辺はまだまだ未開です。晋二殿が前線に出て、万一の事があったら一大事です」
「分かりました」
 頷いてから、
「あの、卯璃屋さん」
「何です?」
「デルモって何ですか?」
「黒デルモと白デルモに分かれてまして、どちらかと言えば白デルモの方がいいです。下着姿全開で戦うのがまた−」
「黒か白…牛か何かですか?」
「お子様にはまだ早い代物です」
「むうっ」
 と言う経緯があり、ぷいっとふくれて美濃へ行った晋二だが、露天での調教は結構ハードな物だったらしい。
 わざわざ露天へ三角木馬や荒縄、それに蝋燭の類が運び込まれたと部下が伝えてきた。
 無論、卯璃屋から買った品物のお届け先が、美濃飛騨は桜洞の近くにある下呂温泉だった為で、決して盗聴や張り込みによるものではない。
 とまれ、トップが温泉でほっと一息ついて落ち着いた事で、麾下の軍団も落ち着きを取り戻した。
 だいたい、落ち着けば北条ごときに後れを取る軍団ではない。
 レベルが違いすぎるのだ。
 後方で暇を持て余していた島津家と長宗我部家の残党を前線に回し、駿河遠江と南信濃は蟻の子一匹這い出る隙間がない程に警備を固め、その一方で南越後・北越後・上野と落としていき、下野を守っていた名将長野業正と上泉信綱を撃破、一年間は掛かってしまったが、北条家の領地を相模伊豆以外は全て攻略したのだ。
 ただし、それとこれとは別問題。
 そう、相模伊豆がどうしても落ちない。
 武将を全部追い込めば自ずと自滅すると読んだのだが、敵もさるもので無能な者からはどんどん俸禄を削っていき、氏康・早雲・綱成を始めとして十名も残っていない。それに品川の商人から治水可能な絵本を手に入れた為、国自体の石高もやや上がっており、石高不足も解消されている。
 周囲の商人や水軍、更に寺社衆にはたっぷり袖の下をばらまいたから、反碇家工作をされる事は無くなったが、北条家に敵対させるまでには行かない。
 完全に包囲網を作ってはいるのだが、本丸にだけは迫れないのだ。
 美里率いる水軍は、九州地方を制圧したものの、最大海域が十だからこっちまでは来れない。
 戦争となると、国人衆と水軍が向こうについてしまうから、兵数では勝ってもそれ以上は難しい。
 下田城を先に落とす事も考えたが、一城しか落とせないと却って逆効果かもしれないと落とさず、1565年3月の時点で、日本全国の中で碇家が落としてない国は六つだけとなってしまった。
「結構がんばりますねえ」
「そうですね。さっさと落ちるかと思ったんですけど」
「こうなったら晋二殿に言って、先に武田家殺(や)っちゃいましょうか」
 甲斐の躑躅ヶ崎館で得留之助と真宮寺さくら、それに波多野雪が揃ってお茶を飲んでいるところだ。
 体つきもふっくらしてきて、めっきり女らしくなった二人だが、
「縁談ならいいのが倉庫に入ってます。持ってきましょうか」
 得留之助が言った途端、三河は本証寺の軒先から吊され、二度と口にしていない。
 目下の所は、縁談になど興味がないらしい。
「でも武田家だと、また晋二殿が悩むでしょう。そろそろ悩む癖直っても良い頃なのに」
「この間お会いした時、三人の中で誰からにするかって悩んでおられましたけど…」
「しようがないですねえ」
 あっはっはと三人が笑い合っているところへ、間諜が入ってきた。
「ボス、前線より急使です」
「何事」
「過日函館水軍が南下して浦賀水道へ侵入し百首水軍と交戦、これを撃ち破ったとの事です。及び百首水軍の頭領は討ち死にしたとの事」
「!」
 三人の表情が一瞬にして引き締まる。
 函館水軍は北条家と親密ではない。ばらまき次第では十分味方になってくれる。
「これで相模伊豆は落ちましたね」
「ええ。水軍衆がこっちにつけば形勢は決まります」
 さくらと雪が頷き合ったところへ、大きな物音が近づいてきた。
 ゴロゴロ…ゴロゴロ。
「ゴロゴロって落雷?」
 空を見上げたが、快晴であり雷のかの字も無い。
「と言うことは賊?」
 すっとさくらが刀を引き寄せ、得留之助が懐からにゅうと出したのは南蛮渡来の大筒である。
 一体どこに仕舞っておいたのか。
 雪がすらりと引き寄せたのは名槍の呑取であり、静かな殺気が無粋な闖入者を待ち受けたのだが、
「グーテンターク」
 顔を見せたのは大砲をゴロゴロと押してきたアスカであった。
「…アスカさん?何してるんですかこんなところで」
「やっぱり、大砲隊が出ないと小田原は落ちないでしょ。美濃から応援に来たのよ」
「だからってわざわざ押してこなくても…卯璃屋さん?」
 得留之助の視線は一点、アスカの腹部にじっと注がれている。
「応援ってアンタ、妊婦は前線に出るの禁止ですよ。腹帯巻いて安静にしてなきゃ駄目でしょ」
 一瞬静寂が流れてから、
「妊婦ー!?」
 素っ頓狂な声が辺りに木霊し、ばっさばっさと鳥たちが飛び立った。
 
 
 
 
 
(続)

大手門

桜田門