突発企画「奴らが戦国にやって来た」
 
第二十七話:油断大敵伊予炎上
 
 
 
 
 
「なんか、こういうのってイイですよね」
「はいはい」
 ぼーっとして、と言うよりうっとりとしてる晋二の視界の先には、ずらりと揃った碇家の姫武将達が水着で遊んでおり、文字通り百花繚乱の様相を呈している。
 アスカとマナに麗を筆頭に、そしてついこないだ戦功を立てたばかりの波多野雪が、これは三人から羨望の眼差しを受けながら、たわわな胸を大胆に露出させており、その一方では摩耶がこれまた整った肢体を水着に包んではしゃいでいる。
 私はいいですから、と遠慮したさくらも、戦況報告に来た所をとっ捕まって、仕方なく水着に着替えていたのだが−今は一番はしゃいでいるように見える。
 何事かというと、水着を抱えてアスカと真名が四国からやって来たのだ。
 それは別に構わないのだが、
「ここ瀬戸内海あるじゃない。美里の船に乗っけてもらって海行こうよ〜、ねえ晋二ってば〜」
 熊野水軍はもうここの海域を手中に収めており、左右からすりすりとねだるアスカと真名に押されて、じゃあ行こうかと立ち上がった晋二に、
「特定の家臣に依怙贔屓してると、あんたの価値下がりますよ。只でさえ、加賀能登反乱の事はまだ片づいていないのに」
 得留之助の冷たい口調にそうでしたと、家臣の姫武将を全部連れてきたのだ。
 この辺り、晋二はまだ大名としての力量と自覚は足りない。不遇は、しばしば出奔の原因に成りうるのである。
 無論、得留之助が優れているのではなく、単に大名の間をウロチョロしてきたから、そのくらいは知っているのみである。
 得留之助はさっさと帰ろうとしたのだが、
「お、お願いだから居て下さい」
「…なんでです」
「僕の貞操が危ないんです」
 そんなモンは幼なじみにでもあげればいいじゃないですか、と言おうとしたのだが、ふと気付いた−喜々として真っ赤な褌を用意している渚馨に。
 言うまでもなく、虎視眈々と狙うのは晋二の尻であろう。
 はーあ、とため息をついて、
「分かりました分かりました。じゃ、私は帳簿見てますから」
 かくして、二人並んだ男のうち一人は娘達に見とれ、もう一人は帳簿をチェックしているという、なかなか奇妙な光景が展開したのである。
「ひあうっ!?」
 うとうとしていた得留之助だったが、いきなり聞こえた声にはっと目を開けた。
 横を見ると晋二がいない。
(しまった!)
 晋二に何かあれば碇家は傾き、それはそのまま得留之助にとっても商売があがったりで困る事になる。
 さては何者かに拉致されたかと、南蛮渡来の四十四口径の短筒を懐中から引き抜こうとして−その手が止まった。
「……何してんスか」
 得留之助の視界には、首だけになった晋二がいた。
 いや、正確には首から下をすっぽり砂に埋められた晋二が。
 でもって、
「あたしが一番槍〜」
「じゃ、私はこっち」
「私はお尻〜」
 娘達が、晋二の身体にぷすぷすと槍に見立てた枝を突き立てており、どうやらその一本がぷすっと刺さったらしいのだ−渚馨が狙って止まないその場所に。
 無論、本気で刺してるわけではないし、砂の上からではあるのだが、まともに刺さったらしく顔が赤くなったり青くなったりしている。
 慌てて娘達が棒を引き抜くのを見て、やれやれと得留之助は立ち上がった。
 ほんの少し眉が寄っているのは、晋二の事ではなく自分の事であったろう。昨日は睡眠も取ったし、帳簿を見て眠くなる事はあり得ない。
「ささ、卯璃屋殿もどうぞ」
 帳簿を見ながら、勧められた杯に手を伸ばしたのだが、どうやらあれで一服盛られたらしい。
「あの年頃の尻肉は柔らかいから、多少ぶすっといっても大丈夫でしょ。ごゆっくり」
 物騒な事を口にすると、なんとか助け出された晋二を見ながら、得留之助はくるりと身を翻した。
 だがしかし、平穏な時は長く続かなかった。
 希代の謀将毛利元就が、息子吉川元治・小早川隆景を左右に従えて出雲石見・因幡但馬を制圧してしまったのだ。
 おまけに、その勢いを駆って美作へ攻め込んできたのである。
 ここを制圧した将軍は、波多野雪以外は皆詰めており、特に三好政勝と荒木村重がそれぞれ兵千の鉄砲隊を率いて待ち受け、毛利隆元は壊滅に追い込んだものの、毛利元就の特技『混乱』によって混乱に陥り、同士討ちまで始めてしまった。
 なんとか四人とも、命からがら逃げ延びては来たが、兵は尽く失い政勝と籾業は深手を負っていた。
 晋二がその凶報に接したのは、天神山城であったが、がたっと刀を掴んで立ち上がろうとするのを得留之助が止めた。
「ここで燃えたってしようがないでしょ。それよりそんなに力むと傷が開きますよ」
「な、何のこれし…いたたた!」
 この間の『槍事件』で裂傷が出来ており、
「だから僕がもらうと言ったんだ。同じ裂傷なら僕と合体した方が良かったんだ」
 と口走った渚馨は、一晩天守閣から吊される羽目になったのだが、それはさておき。
「も、申しわけござりませぬ…」
 悲痛な面もちで運ばれてきた政勝に、晋二は冷たく首を振った。
「そんな事はどうでもいい。だが責任は取ってもらうぞ」
「わ、分かっております」
「美作はおまえ達が必ず取り返せ」
「…はっ?」
「切腹して責任が取れるなんて思うな。責任を感じているなら、国を取り返して果たせ」
「と、殿…」
 涙が落ちそうになるのを慌てて政勝は拭った。
(よく、よくここまで成長された…)
 晋二が見抜いたとおり、おめおめと敗戦の面を晒しに来たのは、晋二に面通りして謝罪して後、自害する気だったからだ。
「手当てしてさっと治すんだ。いいね」
「…仰せの通りに」
 担架に乗せられたまま政勝が運ばれていったところへ、
「殿、申しわけございません」
 後ろで女の声がして、振り向くと波多野雪が蒼白な顔で立っていた。
「どうしたの?」
「ど、どうしたのって私が残って居れば…あう」
 むにっとその頬を引っ張ってから、
「無理だよ」
「…え!?」
「兵力はこっちが勝っていたし、国人衆は中立だったから数の問題じゃない。毛利元就一人にしてやられたんだ。雪がいれば雪を失った可能性だってある。雪が無傷で残ったんだから、それだけでも良しとしないと」
「殿…」
 初めて見る晋二の表情に、うっとりと晋二を見上げた雪だったが、
「少し戦略を練るからもう下がってくれる」
「は、はい、失礼いたします」
 すすっと雪が下がった後得留之助が、
「で、本音は?」
「お、お尻が痛くてそれどころじゃないんですけど…」
 やはりそっちだったようだ。
 別人の晋二に見えたのも、急激に一皮むけたわけではなく、いきなり立ち上がったせいで傷口が痛んだせいだったらしい。
「急に立ち上がったりするからですよ。それで、美作はどうするんですか」
「あ、あの、どうしましょう」
 一転して弱気になった晋二だが、これを見たら雪は別人だと思うに違いない。
「道は幾つかありますが、とりあえず上策は進撃することです」
「美作ですか。分かりましたすぐ全軍に触れを−」
「そっちじゃなくて」
「え?」
「あっちは謀将元就が、手薬煉引いて待ちかまえているでしょ。なんでわざわざそんな所へ飛び込んでいくんですか」
「じゃ、じゃあどこへ?」
 美濃攻めとでも言うのかと思ったが、
「強きを避けて弱きを突くのは兵法の王道です。安芸備後を落としちゃいましょ」
「あ、安芸備後を!?」
 得留之助の言葉は、晋二に取っては意外なものであった。安芸備後と言えば毛利家の本拠地であり、国人衆と水軍は敵に回るではないか。
「和田惟政を呼んで下さい」
「和田惟政って、元将軍家の家臣の?」
「そうです。能力は平凡より少し上くらいですが、荷駄の兵種があるでしょう。あの人にテントを張らせて中継基地にして、その間に国人衆と毛利勢をまとめて片づけるんです」
「ああ、それなら何とかなりそうです。じゃ、アスカと真名を呼んで−」
「どうするんです?」
「え?」
「あの二人は伊予を抑えていてもらわないと困りますよ。こんな所で呼び戻しては、バランスに問題が出ますが」
 晋二はちょっと考えてから、ゆっくりと首を振った。
「いいんです。元々、四国を統一したら僕の側に呼ぶって言ってありましたから、約束は守らないと。四国には倍の人数を行かせますから」
「分かりました。晋二殿がそこまで考えているなら大丈夫でしょう」
 こうして、アスカと真名が晋二の第一軍団に呼び戻された。
 だが、尼子が滅んで美作を奪われたため、四国へ代わりの武将達を行かせる事は、即座にはできなかったのだ…。
 
 
 得留之助の言った通り、元就は美作におり、元春・隆景と共に守りを固めていた。毛利家の主力は美作にあり、安芸備後は手薄になっていたのだ。
 とはいえ、武将達をかき集めると二千くらいは兵がいたし、分かっていた事ではあったが国人衆は全部敵に回った。
 一番痛かったのは、この海域までまだ美里達が進出していない事であった。文字通り挟まれる形での戦いとなったのである。
 とはいえ、
「全員まとめてぶっ殺す!」
 と気勢を上げて大砲を撃ちまくるアスカと真名に加え、
「剣豪の威力見せてあげます。掛かってきなさい」
 さくらと摩耶の剣豪コンビが晋二と組んで暴れる。
 その上、
「碇家との仲を考えるとお味方せざるをえんな」
 と、あまりやる気の無さそうな台詞の割に、銃口を揃えて撃ちまくる寺社衆の活躍もあり、結局大砲隊にはまったく傷付かずに敵を壊滅させた。
「吉田郡山城と日野山城を落として、新高山城は後にしましょう。向こうは鉄甲船が撃ってきますから」
 さくらの言うとおり、鉄甲船が新高山城のすぐ側に出現するため、近寄って城を落としていると砲撃してくるのだ。
「あー、疲れた」
「撃つのって結構疲れるのよねえ〜」
 我が儘な小娘共だが、これも和田惟政というテントがあるからのことで、程なくして両城を大砲射撃と剣豪コンビによって落とすと、一休みしてから新高山城へ向かった。
 この城は結構距離があるのだが、アスカと真名は大砲で砲撃を加え、晋二は囮となってちょこまかと走り回り、晋二を狙って大砲が飛んでくる間に、他の四人が城をせっせと落とす。
 なお、寺社衆は頼みもしないのにまっすぐ新高山に向かい、勝手に自滅してしまった。
 とまれ囮作戦は成功し、こうして碇家は安芸備後を手に入れたのである。
 アスカと真名は無傷だし、晋二達三人はそれぞれ百人以上を失ったものの、回復の特技は持っているから翌日には元通りになった。
 とはいえ、敵対したから国人衆にはばらまきが必要だし、全国の一向宗はもう押さえてあるから大丈夫なのだが、近隣との関係良化にしばらくつとめる事になった。
 
 
 
 
 
「しまった、碇の小僧めが!」 
 安芸備後陥落の報は、美作にいた毛利元就の元にもすぐ伝わり、元就は脇息を叩いて舌打ちした。
 まさか、安芸備後へ侵入してくるとは思わなかったのだ。
 しかも、安芸備後の最大石高は因幡但馬と変わらぬほど高く、しかも因幡但馬は尼子家との戦争で荒れており、いわば台所を失った事になる。
 しかも、重臣口羽通良・福原貞俊を始めとして、対尼子家戦で下した武将達までも、殆どが討たれてしまったのだ。
 無論、政勝と村重が重傷を負った事への報復である。
 残っているのは元就を含め、息子達三人しか居ない。居る事はいるのだが、兵千を率い手活躍できるのは、この四人しかいないのだ。
「父上、すぐ播磨か備前備中に攻め込みましょうぞ」
「たわけ、誰がそんな事を申したぞ」
 血相を変えている元春を、元就は叱りつけた。
「備前備中に播磨、いずれも寺社衆を碇家は手懐けておる。寺社衆のいる国の守りが薄いのは、何よりの証拠じゃ」
 元就の言うとおり、碇家が守りを固めているのは、国人衆しかいない国である。
 もっとも、その美作を元就は落としたから、一概に手強いとも断じきれないが。
 だが目下因幡但馬しか、寺社衆がいなくて接している所はなく、三城をまとめて落とせるかは自信がない。
 兎にも角にも家臣を失い過ぎたのだ。
 雑魚でも数がいれば、多少は役に立つのだが、いない事には始まらない。
「父上、いかがなさいますか」
 慎重に訊ねたのは隆景であった。兄弟の中では、もっとも思慮深いタイプだ。
「無論、このままにはしておかぬ。とはいえ、こちらから打って出るには兵力が足りぬ。一国を落とせば一国を喪う−碇家は大きすぎるからの。そこで−」
 希代の謀将は何を謀ったのかと、息子達の視線が一斉に集まる。
「島津家が豊後を落とした。その島津家を使うのじゃ」
 元就はゆっくりと口を開いた。
 
 
 
「麗奈、あなたは行かないの?麗奈がいないと、あの子達歯止めが利かないわよ」
「いいんです。私は晋二に興味があるわけじゃないし、四国制圧の間はいい子にしてましたから、ご褒美くらいはあげないと」
 もうすっかり仲直りした唯と麗奈が、宇和島城の天守閣から下界を眺めていた。
 伊予はもう、だいぶ落ち着いており、四国全体も前線の喧噪からは遠ざかっている。
 それもその筈で、本州で接しているのは周防長門だけだが、毛利家が美作で釘付けになっているのは知っているし、九州は大友と島津、それに龍造寺が三竦み状態だから、まずこっちに目が向く事はない。
 それを考えれば、二人がのんびりしているのもさして場違いではなかったろう。
「ねえ母上」
 呼ぶ声も、すっかり実の娘のものだ。
「なに?」
「あの子は、日本を統一したらどうするんでしょうね」
「そうね…」
 遠く瀬戸内海を見ながら、
「私も立たせて置いてなんだけど、本当は天下取れるとは思ってなかったのよ。出来ても畿内統一位までかなって思っていたから。でも、あの子はあの子よ。天下を取って征夷大将軍になってもきっと、農民と一緒に田植えや稲刈りをする、あの子はそう言う子よ」
「そうですね」
 麗奈はくすっと笑って、
「私も、その時は田植えくらい出来るようにしておかないと」
 無論その脳裏には、官位を授かって官女に傅かれている自分ではなく、農民と一緒に田植えをしている自分の姿が浮かんでいる。
 だが次の瞬間、静謐は一気に破られた。
「唯殿、麗奈殿はどこにおいでかっ!」
 勝家の大音声が聞こえてきたのである。
「何事です」
 静かに茶を楽しんでいた二人に気付き、
「も、申しわけござらぬ」
 一瞬頭を下げたが、すぐにそれどころではないと、
「お二人とも、すぐにお退きあれ。豊後より島津家が大挙して攻め込んできましたぞっ」
「何ですって」
「自発的なものか、毛利が唆したのかは不明でござるが、国人衆まで牙を剥いて攻め掛かってきました。ここはわしが守っております故、その間にご退却を」
「そうね」
 唯はあっさり頷いてから、
「勝家」
 静かな声で呼んだ。
「は、はっ?」
「麗奈を頼みます」
「はっ?」「…母上?」
「伊予が陥落すれば、その間に晋二が本州より軍を派遣して奪回してくれましょう。でもその時に、弓しか使えぬ女よりも、騎馬隊を率いる猛将と鉄砲を使える娘がいた方が訳に立つのです。麗奈、勝家と共安芸備後へ退却し、晋二に事態を告げるのです」
 静かに指示しながら、
(ミスったわね)
 内心では幾分自嘲気味に呟いていた。
 窮鼠となった毛利の打つ手を読めなかったこと、なによりもアスカと真名の替わりを晋二に請求しなかったことは、明らかに自分の手落ちだと、唯は既に討ち死にの覚悟を決めていた。
 だが、
「お断りします」
 麗奈は首を振った。
「確かに母上ですが、もしかしたら島津の軍勢に降るかもしれませんから、私が最後まで見張っています」
「麗奈殿っ」
 さすがに勝家が大きな声をあげたが、麗奈は一歩も引かない。
「……」
 唯は刹那瞑目したが、すぐに目が開いた。
「そうね、麗奈の言う通りよ。誰もいなかったら、私も島津家に降ってしまうかもしれないわ」
「ゆ、唯殿…」
「柴田殿」
「はっ…」
「晋二の事、頼みます。あの子の周りにはまだ、一軍を率いる大将は不足しています。なによりも、あの子は裏切る事を知らない−ある意味致命的な一面も持っています。加賀能登の時は、腹心でないから良かったのです。もしもそれが腹心だったら−」
 それ以上は言わず、
「無駄死にするわけではありません。防ぎきれるなら防ぎます。奪回ならなおのこと、兵力はあった方がいい。さ、柴田殿早く」
「御免!」
 一礼すると、勝家は刀を掴んで駆け出した。
 その後ろ姿を見送って、
「これでいいわ。少しでも晋二には兵力を残しておかないとね。でも麗奈」
「はい?」
「あの世で恨み言はなしよ。言っても聞かないからね」
「母上こそ、やっぱり逃げてれば良かったなんておっしゃらないで下さいね」
「いいわ、二人とも恨みっこなしよ」
「ええ」
 島津家が攻め込んできた、その時点で既に圧倒的な兵力の差は分かっていた。島津がわざわざ、海を越えて嫌がらせに来るはずはないのだ。
 事実、当主の貴久を始め義久・義弘・歳久等名将猛将がずらりと揃っており、勝敗の帰趨は目に見えていたのだ。
 まもなく、麗奈の率いる精鋭の鉄砲隊と唯の率いる弓隊が城門に勢揃いした途端、鬨の声が聞こえてきた。
 敵襲かと色めき立ったところへ、一騎の伝令が駆け込んできた。
 既に全身を朱に染めている武者は一言、
「柴田勝家殿、たった今お討ち死になされました」
 それだけ告げると絶命した。
「しまった!」
 唯がこれだけ動揺を見せたのは、生涯中最初で最後であったろう。
 勝家が、のこのこ帰れる男ではないと、どうして分からなかったのか。
 せめて、讃岐か土佐に退却せよとなぜ言わなかったのか。
 一瞬呆然として宙を見上げたが、すぐに振り返った。
「麗奈、本当にいいのね」
「母上一人で逝かせると、私の母と取っ組み合いの喧嘩でもしそうですから」
「……もう、素直じゃないんだから」
「母上だって」
 
 
 
 
 
「い、今…今なんて言った?」
「伊予は陥落、碇唯様・本願寺麗奈様、そして柴田勝家殿…い、いずれもお討ち死になされました」
 知らせを受けた時、晋二は夕食の最中であった。
「母上と姉上が…それに勝家まで…」
 不意に鋭く乾いた音がした。
 晋二の手からと落ちたグラスが、木っ端微塵に砕け散ったのである。
 南蛮渡来のグラスが砕け散った次の瞬間、晋二はゆっくりと倒れ込んでいった。
 
 
 
 
 
(続)

大手門

桜田門