突発企画「奴らが戦国にやって来た」
 
第二十二話:いつの間にか出来ちゃった娘
 
 
 
 
 
 ここ、堺にある卯璃屋得留之助の屋敷では、一人の美少女がちょうど着替えを終えたところであった。
「それでいい。なかなかの上玉だ」
 女衒みたいな台詞と共に得留之助の視線が少女の全身を上から下まで進んでいく。
「このまま放っておくと、碇家は分裂しかねない。ま、分裂したらそれはそれで面白いんですが」
 ろくでもない事を口にしてから、
「さて行きましょうか−父上のところへ」
 声を掛けられた娘は、小さく頷いた。
 
 
 
 
 
 呆然とした表情を何とか引き締めて、
「紀伊が落ちたって…それで、あそこに配属されていた武将はどうなったんですか」
 一瞬麗奈の表情が動いたのに晋二が気付き、
「無事だよ。鈴木重朝も母上も撤退してきた。ただ、母上は少し怪我していたから今は療養してもらってる」
「良かった…」
 ほっと胸を撫で下ろしたさくらだったが、ちょっと迂闊だったかと内心では後悔していた。麗奈と唯の関係を知らないさくらではないのだ。
「そ、それでどうするんですか」
「だから困ってるのよ。確かに採用したのは晋二だけど、持ち込んできたのは麗達だから放ってもおけないし。このままでは、家中の不安や不満を抑えきれないわ」
「あの、アスカさん達を追放って誰が言ってるんですか?」
「新参の武将達よ。城一つからの出発を知らないし、確かに軍紀だけを見れば放置はしておけないもの」
「そ、それで」
「追放などしないわ、安心しなさい。麗は私の妹だし、あの二人だって最初から晋二に付いてきたのよ。それを放逐する事は、この私が許さないわ」
「麗奈さん…」
 普段は得留之助みたいに女三人の−近親相姦含む−晋二の取り合いを見物してる麗奈だが、初めて見せる表情にさくらがほっとした時、
「ま、それが無難ですな」
 聞き慣れた声がした。
「卯璃屋さん、どうしてここに?」
 堺にいると思った得留之助が、わざわざ伊勢志摩にやって来た。
 怪訝な顔で訊ねた晋二に、
「クリスマスプレゼントです。と言うよりメリー薬マス」
「く、薬マス?」
「今の碇家に必要なのは刺激でしょう。尾張の織田家なんですが、俸禄と石高が釣り合わず、武将が出奔しています。で、こちらが猛将柴田勝家、長島をうろうろしていたので連れてきました。こっちは絶対寝返らないから大丈夫ですよ」
「は、はあ」
 よく分からないまま頷いた晋二だったが、
「それにしても、こんな名将が放浪するとは、織田家を継いだ信長もそうとう間抜けなのかしら。それとも、あそこは余程人が余ってるのかしらね」
「麗奈さん、どういうことですか?」
「娘をもらってくれなかったからショックで、織田信秀が死んで信長が跡を継いだでしょう。ただね、能力は高いらしいけど家臣が付いてきてないと噂されてるの。それで、何故浪人に?」
「大殿は、拙者を飼い殺しになどなさらなかった。拙者は自分の居場所を常に見つけられたのでござる。だが今の信長は家臣をただ集めて飼うのみで、使いこなす事などまったく出来申さぬ。あんなうつけの下では、命を投げ出す事など到底出来申さぬ。西国へでも下ろうかと街道を歩いていたら卯璃屋殿にお会いして、碇家では人が足りぬ故付いてこいと言われ申した。碇晋二殿、拙者をお使いになられるか?」
「採用」
 晋二はあっさりと頷き、
「卯璃屋さんの推薦なんですよね?」
 と得留之助を見た。何かあったら、この奇妙な商人に押しつけるつもりらしい。
「そうですな」
 首を縦に振るのを見て、
「じゃ、もうじき紀伊奪回作戦を遂行するから、その時部隊に入って。鬼柴田には期待している」
「ははっ」
 敵国など興味もないような顔をしていても、ちゃんと情報は把握しているらしい。
「ああ、そうだ晋二殿」
 得留之助が思い出したように晋二を呼んだ。
「何か?」
「忘れてました。さ、入って」
 得留之助の声に障子が開き、娘が一人入ってきた。
「卯璃屋殿、この子は?」
 きゅっと得留之助の首が動いて晋二を見た。
「はい?」
「晋二殿のお子ですよ。名前は?」
「摩耶−碇摩耶です」
 娘は小さいながらもはっきりした声で答える。
 次の瞬間、室内の空気が固まった。
「えええー!?ぼ、ぼ、僕の子供ー!?」
 もう、最後は声にならず、口をぱくぱくさせているだけの晋二に、
「間違いなく碇晋二産駒です。はい、これが血統書」
 見るとそこには達筆で、
「父はナリタブライアン、母はヒシアマゾン。父の母はパシフィカス」
 と書いてある。
「ほ、本当だ…」
 納得する方もする方だが、
「晋二、これはどういう事なの」
 麗奈が鋭い視線を向け、
「殿…フケツ」
 さくらもすすっと後退った。
 
 
 
 
 
「お加減、いかがですか」
「ちょっと後悔してるわ−それと感謝とね」
 見舞いに来た得留之助に、美里は微妙な表情を見せた。
「薬ですか、それとも乳ですか?」
「両方とも当たり。でも両方とも違うわ。まさか、直属の家臣でもない海賊の為に、泣いてくれる君主がいるなんてね。アスカ達の賞品にしたのは早すぎたわ−絶対に」
「もう一つは?」
「晋二君はああ言ってくれたけど、やっぱり乳にこんな傷ある女じゃ、男の取り合いからは一歩も二歩も後退−あんたの薬飲んどきゃ良かったわ」
 美里が大きな傷を負ったと聞いた時、得留之助は裏ルートで入手した薬を渡していた。美里の言うとおり、それを飲んでいれば傷跡などは残らなかったのだ。
 だが、美里は晋二の献身的な看病の方を選び、薬を飲む事はしなかった。
 結果として胸に傷は残ってしまったが、晋二の心に改めて触れた事で、やはり自分が毒牙に掛けておくべきだったと、そっちの方を美里は後悔しているらしい。
 ある意味、尤も美里らしい思考である。
「ま、海賊としては傷の一つか三つくらいあった方がいいんですが、うら若き乙女としては大問題です。でも別にうら若き乙女でっ−」
 飛んできた刀からひょいと身をかわし、
「そうそう。晋二殿は近々紀伊を奪還に出る筈です。熊野水軍の力は外せないと思いますよ」
「分かってるわよ。二度とあたしの縄張りで碇家の土地は落とさせないわ−例えどんな手を使ってもね」
 刹那、凄絶な色を見せた美里の表情は鬼神もかくやと思わせる程のものであった。
 
 
 
 
 
「晋二っ、この娘は一体なんなのよっ」
「何時の間にこんな子を−私は見損なったわっ」
「碇君…私を裏切ったのね。父さんとおんなじで裏切ったんだわ」
 三者三様で奇怪な事を口走っているが、無論麗達三人であり、当然ながら得留之助が手を回して呼んだのだ。
 晋二自身がパニクってるそこへ現れたアスカ達に、
「どっ、どうしてこんな事をっ」
 恨めしげに得留之助を見たが、
「晋二殿のご息女ということは、結婚される方に取っては義理の娘。顔を合わせておくのは当然でしょう」
 と、訳の分からない事を口走ると、後はもういつもの通り傍観者と化している。
「そっ、それであの子本当に殿のお子さまなんですかっ?」
 小声で−本人は訊いたつもりだが声量は落ちぬまま−訊いたさくらに、
「本物ですよ」
「お、お母さんはっ」
「いませんよ」
「『え!?』」
 得留之助の声に、アスカ達の喧噪もピタッと止まってこっちを見た。
「だから、居ないって言ったんですよ。別に母親がなくても娘は出来るし、大きくなるでしょうが。ねえ?」
 いきなり晋二の娘として現れ、しかもその膝にちょこんと乗っている摩耶を得留之助が振り返ると、こくんと頷き、何を思ったかきゅっと晋二に抱き付く。
「『!?』」
 一瞬静まった休火山が、あっという間に活火山となり、たちまち大噴火しかけたちょうどその時、
「いいんですか?」
 得留之助が奇妙な事を言いだした。
「いいって」「何の事よ」
「ここにいるって事は、結婚の道具に使われるって事じゃありません。つまり、あなた達と同輩の武将になるって事です。しかも、荷駄隊以外は全部使えるスーパーですよ。これがいわゆるスーパー摩耶ってあれです」
「ス、スーパー摩耶…」
 確かにアスカ達は、鉄砲やら大砲やらには秀でているが、豪雨になったら用無しになってしまう。だから今回の大防衛戦からは外されてしまったのだ。同じ鉄砲隊ながら、三好政勝が使われたのはひとえに、晋二に絡まないからだ。
 そこへどれもこれも万能な、しかも晋二の娘などが現れたら、一気に彼女たちの立場は悪くなってしまうではないか。
「なお、この子の能力値ですが上から、88・56・86…あ、違ったえーと」
 どうやらスリーサイズだったらしいが、とんでもない数値にアスカ達の表情は一瞬にして強張り、それを知った摩耶は怒る代わりに嬉しそうに笑った。
 女同士の初戦は、間違いなく摩耶に軍配が上がったらしい。
「上から88・86・84・15です。間違いなく晋二殿の娘ですな」
「ほ、本当だ…」
 なお四つの数字は左から順に、政治・統率・知力・野望の順となっており、最初の三つは晋二を明らかに凌駕しているが、野望の低さは晋二とそっくりである。
「柴田勝家・碇摩耶。私からの贈り物は以上です。それと、紀伊の葛城美里殿が回復して出陣を待っておられます。それじゃ」
 かき回すだけかき回すと、得留之助はさっさと退出した。
 本当は特技も教えておくところだが、父に似ずスーパー姫武将な摩耶の特技を知れば晋二は失神し、麗達は嫉妬の炎を燃やすから止めておいた。
 ただし、楽しみは取っておくもの、とか考えている可能性はあるが。
「そっか、僕の娘なんだ」
 母は無くとも娘が出来る−奇妙な生態系の事は忘れていたらしい晋二が、
「えーと摩耶、すぐ出陣してもらっていい?」
「勿論です、お父様。私と真宮寺殿、それにお父様と渚殿に元将軍家を加えれば、最強の軍勢が仕上がります。さ、参りましょう」
 きゅっと腕を絡め、しかもちらっとアスカ達を見たものだから、彼女たちが収まるわけはなくたちまち大騒ぎになった。
 喧噪を後ろに聞きながら、
「これでまた、元のうるさい日に戻るでしょう。碇家が沈んでるとウチの商売もあがったりです」
 得留之助はすたすたと城を後にした。
 
 
 
 
 
「兄上、とりあえず紀伊を奪取しましたな」
 ここ紀伊は手取城。その一室で長慶はやっと人の表情を取り戻していた。
「元より紀伊は持っていなかったが…義賢、お前のおかげじゃ。お前の進言無くば、今頃は白地城で悶々としていたであろうよ」
「いえ、勿体ないお言葉」
 元から兄の長慶同様、あるいはそれ以上の力量を持ちながら、決して兄の前に出ようとはしない。
 畿内を失った時に松永久秀と十河一存が討たれ、麾下では随一の存在になっているが、その意志はあくまでも兄を立てる事にある。
 本来は四国の統一でも良かったのだ。
 伊予は群雄割拠で大した事はないし、土佐の長宗我部だって元親が後を継いでいないからこれも一蹴できる。
 だがその後は安芸の毛利か九州の大友に接してしまい、勢力を伸ばすのは困難になる。
 それだったら畿内に地盤を持った方が、万一四国を捨てても余りあると言うものだ。
「碇唯、それに鈴木重朝は逃がしましたが、碇唯は傷を負っています。ここは碇家の者共が押し寄せて来る前に、摂津河内を急襲しましょう。紀伊ではまだ、守るに不安がありますし、石山本願寺に籠もればあそこは難攻不落です」
「分かった。お前の意見を採り入れよう」
 元々良家の血統馬だから鷹揚としており、細かい事にはこだわらない。だから弟の意見もすぐに採り入れたし、それが長所でもある。
「では、それがしはすぐに出兵の用意を」
 義賢はこの時、既に紀伊は半ば捨てるつもりでいた。こんな城の防御も薄い国では、守るに守れない。
 それよりはむしろ、摂津河内を手に入れて、四国から全員を呼び寄せる気だったのである。
 ここで摂津河内を手に入れれば、一気に碇家の喉元に刃を突きつける事にもなる。摂津河内・近江は碇家の台所とも言える程に豊穣で、また開発もされているのだ。
「忘恩の徒に思い知らせてくれる」
 刀を鳴らして歩き出したその途端、近習の一人が転がるようにやって来た。
「も、も、もも、申し上げますっ!」
「何事じゃ」
「碇家の惣流アスカに霧島真名、及び碇摩耶が大砲を、碇麗に本願寺麗奈がそれぞれ鉄砲を率いて進軍してきました!既に国人衆、一向宗の者共も加わって、雑賀城に攻めかかっておりますっ」
「なんだと!」
 まさか、これほど早く進軍して来るとは思わなかった。際どい所であっても、一月の差はあると踏んでいたのだ。
 
 
「言っとくけど、あたしはあんたなんか認めないからね。いきなり出てきて、晋二の娘なんて認められるもんですか」
「別に認めてもらわなくてもいいわ。それと私も言っておくけど、私の名字は碇であってそのへんの某じゃないの。つまり私は主筋であなたは家臣、その事忘れないで」
「な、何ですってえっ」
「今までは家臣の分際でお父様を呼び捨てになんかしていたようだけど、これからは許さないわ。もしどうしてもしたければ、謀反でも起こす事ね。もっとも、その時は姉上と私ですぐに首を落としてあげるから。姉上、そうでしょう?」
「え、ええそれは…」
「ちょ、ちょっと麗さんこの小娘の味方するんですかっ」
「そ、そう言うわけじゃないけど…」
「では姉上は、普段から下克上を起こしているようなこの者達に組みすると言われるのですか?」
「そ、それは…」
 確かに、理屈で言えば摩耶の言ってる方が正しいし、べたべたしていても麗達とは違うそれだから、摩耶に味方した方が自分のためにもなる。
 とは言え、今までの付き合いを捨てて、あなた達用済みとは麗にも言えなかった。
 殺伐とした空気が室内を包み、晋二はと言うと当然のように萎縮しており、縮こまったイソギンチャクみたいなものである。
「……」
 なぜかさくらも口を出さず、このままでは女同士の決闘でも発生しかねないと思われた その時、
「分かったわ。じゃ、こうしなさい」
 口を開いたのは麗奈であった。
「『れ、麗奈さん?』」
「確かに摩耶の言う事は正論だわ。でも、それが効果を伴わなければ机上の空論と言うのよ。暇を持て余して引きこもった挙げ句、関係ないところへあちこち口を出す腐れ儒者と変わらないわ。だからこうしなさい−紀伊の奪回戦で、どちらが功を立てるか競うのよ。もし摩耶が城を落とせば摩耶の言うとおり、でもアスカ達が城を落とせば−摩耶、晋二達の事に口を挟んでは駄目よ」
「あ、あのどういう関係が…?」
「決まっているでしょう。城一つ落とせぬなら、到底殿の役には立たない。その程度で宿将を追い出そうなど身の程知らずもいいところよ」
 いつになく厳しい麗奈の口調に、摩耶のみならず何故かアスカ達もかしこまって聞いている。
 その結果、条件を同じにと言う事で三人が大砲を担いで攻め込んで来たのである。
 
 
「このままでは士気が下がる一方だな」
 大砲を撃ち込んでくる娘達を見ながら、長慶は舌打ちした。
「兄上」
「なんじゃ?」
「私が城門を開けて打って出ます。小娘を一人捕らえて来ます故、兄上はその後打って出てください。一人捕らえれば士気は大きく下がる筈です」
「分かった。ただし鉄砲隊には十分気を付けよ」
「はっ」
 城内のそんな動きも知らず、競い合うように大砲を撃っていたアスカ達だが、アスカと真名のコンビに対して摩耶は一人であり、どうしても効率は悪い。
 とそこへ、
「雨?」
 見上げると、確かにぽつぽつ落ちてきた。
「麗、もういいわ。濡れると美容に良くないから一旦下がりましょう」
「はい」
 麗は雨撃を持っているが、もう勝敗の帰趨は見えたと判断したせいか、麗奈の口調も軽い。麗も同意して付いていったが、まさにこれこそが城方の待っていた瞬間であった。
 雨が降って鉄砲隊が下がる。そうなれば…そう、大砲隊の護衛は居なくなるのだ。
「一人じゃ…やはり士気は下がるわね」
 摩耶は自部隊の士気低下を見て、これも少し部隊を休めており、アスカと真名だけが撃っている。
 義賢が突撃してきたのは、ちょうどその瞬間だったのだ。
「恩知らずの小娘共、この三好義賢が成敗してくれる、覚悟!!」
「『!?』」
 一瞬唖然とした麗奈と麗だったが、国人衆の砦に入ってしまっており、どう飛ばしても間に合わない。一向宗の坊主共と国人衆は、三好軍に蹴散らされているから戦場にはいない。
(しまった!)
 痛烈に後悔したが、娘達を救うべく、現場に軍を急行させた。
「失敗したな−真名、頼んだわよっ」
 一瞬顔を見合わせたが、真名はすぐに頷いて逃げ出した。ここに居ては二人とも掴まるから、真名は一旦退いて義賢に大砲で攻撃する事にしたのだ。
 大砲をゴロゴロと押してきた真名に、
「あの人は放っておくんですか?」
 摩耶は冷静な声で訊いた。
 一瞬キッと摩耶を睨んだ真名だが、すぐに表情を緩めて、
「あそこに居たって逃げられないし、だったら一人が囮になった方がいいでしょ。どちらかが犠牲になったって、紀伊一つ落とせないんじゃ、碇君に顔向け出来ないし。あたし達がつまんない事で張り合った結果が、兵力の消耗だけって言うんじゃ笑い話にもならないわ」
「……」
 摩耶も無論、アスカや真名の事は知っている。
 最初から晋二に付き添っていることも、そして初戦で真名が身を挺して落城を防いだ事も。
 二人の視界に、ちょうど義賢が出てきた所が映った。
 まっしぐらにアスカを目指す義賢を見て、
「アスカをお持ち帰りなんか絶対にさせないんだからね」
 ギリッと真名の歯が鳴った次の瞬間、
「な、なに…を」
 真名は腹部に一撃を受けて昏倒した。
「あの赤い人を逃がすわ、行くわよ」
 摩耶の命令直下、ゴロゴロと大砲隊が進軍していく。
「な、なんだ?」
 当たらぬ距離まで突っ込んできた摩耶の部隊に、義賢は一瞬ぎょっとした表情になり、
「ちょ、ちょっとあんた何やってんのよっ!さっさと下がりなさいよ」
 アスカは大きな声を張り上げた。
「余計なお世話です。言っておきますが、そこにいる赤い人は単なる一武将、この私は碇晋二の愛娘です。価値は比べものになりませんよ」
「あんですってえっ!」
 眉をつり上げたアスカだが、
「そうか、あやつの娘か−その首討ち取って手柄にしてくれん!」
 義賢の狙いが自分から外れた時、摩耶の意図を知った。
「あ、あんた何でそんなっ」
「男なんてしようのない生き物です。だから、自分を取り合ってくれる娘がいないとつまらないでしょう。お父様の事、頼みます」
「ばっ、馬鹿何言ってるのよあんたっ!そんな事して晋二が喜ぶわけないでしょっ」
「理屈をこねてる暇があったら、兵科を増やす努力でもして下さい。折角の知行が台無しです。さ、早く!」
 急かした次の瞬間、三好義賢の騎馬隊が殺到し、摩耶の部隊はあっという間に飲み込まれてしまった。
「摩耶っ!!」
 叫んだアスカの視界に映ったのは−壊滅していく摩耶の部隊であった。
(これで良かったのよ)
 壊滅していく自分の部隊を見ながら、摩耶は平静であった。
 自分が落ち着いていれば、アスカ達とあんな張り合うこともなく、こんな妙な戦をする事もなかったのだ。
 アスカ達との能力差を考えれば、分かり切った事である。
(お父様、ごめんなさい…)
 迫る白刃を見ながら、摩耶は静かに目を閉じた。 
 
 
 
 
 
(続)

嵐世紀やった人なら分かってると思いますが、娘は別に結婚してなくても出てくるし、能力も
時々父を越えたスーパーになります。
脳内補完で創った、とか言う人はいないと思いますが念のタメ(爆)


大手門

桜田門