朝日が、白い建物の中をより純白に近く染め上げる。
全面を白一色で統一され、その様子に反し独特な香りが漂う。
癒しを与える場所にも関わらず、どこか近づき難い様は酷く矛盾しているように思う。
そんな病院の中で、カチ、コチと一定のリズムを刻む古めかしいアナログ時計は、今が朝の八時であることを、短長二本の針で教えてくれる。
あの、化け物騒動から十数時間。
混乱も収まったのか、医師や看護婦は縦横無尽に走り回り、軽傷と思われる患者が世間話に花を咲かせていた。
そんな喉かな状況に、人間の図太さが如実に現れているのかもしれない。いや、違う。
問題はそんなところじゃない。
周りの雰囲気に反し、未だに僕は混乱から抜け出せずにいるらしい。
だからと言って、何か考えるには情報が少な過ぎる。
ボケッ、としていても進展は期待出来ない気がする。
それらの理由から、僕はこうして病院内を散策していた。





知ってしまった事実





ここに来て、判っている事など何一つとしてありはしない。
初号機、レイ、司令、葛城さん、赤木さん、NERV、使徒。
状況だけが一変し、僕自身は何一つとしてその中に組み込まれていない。
『いったい、何の為に僕を呼んだんだろう?』
そう、思ってしまうのは仕方ないと思う。
そんな、不条理極まりない現状に頭を悩ませ、気づいた時にはある病室の前にいた。
名札には、「鈴原 アキ」と書かれていた。
出歩いた直後か、或いはお見舞いに来た人が無用心だったのか。
扉は、僅かに開いていた。



「誰、ですか?」

中にいたのは、大凡中学三年くらいの少女。
開口一番のその一言に、警戒や怪しむような響きはない。
素直な子なのだろう。
驚きに見開かれた瞳は、薄茶色。
首元くらいまで伸ばされた髪を、結ぶでもなく自然になびかせている。
外見、内面、共に可愛いと言って良いかもしれない。
ただ、無目的に中に入った為。
彼女の問いに対する答えを、僕は持っていなかった。

「驚かせてごめん、僕は碇シンジ。」

「碇さん…ですか?」

「そう。ちょっと、迷ってて歩き回ってたら扉が開いていたから…つい…」

結局言い訳も思いつかず、事実のみを伝えた。
知らず、苦笑を浮かべ頭を掻いて。

「そう、なんですか。」

そんな、あまりにも怪しい台詞だったにもかかわらず、向けられた瞳は安堵に変わった。
本当に素直な子だな。

「長居するのもなんだし、そろそろ失礼するね。」

何の関係もない、あかの他人に居座られ居心地が良い筈も無い。
だから、早々にここを去るべきだと思った。
だからこその行動だったのだけど、彼女の一言が僕をここに縫い付けた。

「あの、碇さんてなんだか存在感が薄くありませんか?」

首を横に傾げ、あくまで無邪気に口をついて出た一言。
それが、良くも悪くも僕の心に強く響いた。
もともと、僕自身自己主張の強い方じゃない。
どちらかと言えば、存在感が薄い方だと思う。
だけど、彼女の言葉はそんな事じゃない気がした。
そして、その一言が僕にあらゆる事を理解させる切欠となった。



明けない朝は無い、暮れない夜もまた有りはしない。
どんなに、それを拒否しても、いつかは気付いてしまうのだろう。
ただ、それが遅いか早いかの違いだけ。
薄く、明け始めたばかりの朝日を見つめながら。
僕は、呆然としていた。
眼下に広がる街、僕が呼ばれ、おそらくあの未知の化け物と戦わされる筈だった場所。
そんな、街を一望できる高台から見る朝日は、酷く輝いて見えた。
結局、あの後、僕はアキちゃんと二、三言言葉を交わし早々に退出した。
それから、ただ思い付くままに歩き、辿り着いたこの高台で、日が昇るまでの間考え続けていた。
此処で知ったことは、全て状況から読み取ったものだけ。
誰も説明してはくれなかったし、そもそも僕と会話した人さえいない。
そこで、疑問に感じるべきだったのだ。
いや、もしかしたら知っていて目を逸らしていたのかもしれない。
葛城さんは、写真で知った。
赤木さんは、葛城さんと赤木さんが話している中で聞こえた。
初号機、レイ、司令、使徒、NERV………
全て、あの場にいた人達が口にしたこと。
誰も、僕と目を合せた人はいない。





”そう、まるで僕の存在を感じていないかのように”





よく、意識すれば酷く当たり前のこと。
どう見ても、状況的に無関係ではない筈の僕を、まったく気に止めない筈が無い。
もし、無関係であったとしても、何の反応も無いなんて事は絶対にありえない。
一度、自覚してしまえば、結論を出すのは簡単だった。
今も、それは如実に感じることが出来る。
地面に立っている筈なのに、何の重さも、感触も感じない足が何より強く物語っている。
それに、胸に手を当てれば分るじゃないか。
僕の心臓が、もう動いてないって事が…





Another time...


後書き

最初の投稿から、いったいどれだけ間が空いたのでしょう?
正直、覚えてません。
いい加減な事、甚だしいとは思うのですが、生活面で色々とありまして…
待っている人がいるとは思いませんが、もし読んでくださっていたならすみませんでした。
話の内容は、触れません。
前の後書きで述べたとおり、行き当たりバッタリ故に語れないのが本音です。
こんなのでも、呼んでいただけたら幸いです。
では、またいつの日にか更新出来るよう頑張ります。

※この作品は、「Green Gables」にあるH.M.さんの「イチヂクの中のGHOST」の舞台設定をお借りして作られています。

<自作はろくに更新しないのに投稿だけ貰って更新してる管理人がいるサイトはここですか?>

太政大臣さんに頂きました。
ありがとうございます。

人を表現する場合。
例えば、十五歳くらいまでだと小学生とか中学生とか言えるんだけど、それ以上だと難しい。
『二十歳前後の大学生位の男』…今年で三浪ですが何か?とか。
私的にはやはり童顔で巨(以下省略


<読感>

○ 百年できっちり止まりそうな予感のアナログ時計に萌。
○ 何となく病室に入って来た人に狼狽えない少女萌。
○ 私と同じように心臓の動いていないシンジきゅんに親近感。


不死人話かな?と思ったのですがまだ食い付いちゃいけません。空針です。
次回に期待です。