行く当てもなく、だからと言って居る場所も見つからない。
そんな毎日だったから、特に何も思わぬままに”それ”に従った。
変わることを期待した訳でもなく、”何となく”それが一番近い。
そんな、漠然とした思考の中、鼓膜を揺する摩擦音。
何かが落下するときの風を切る音。
それを耳に留めながら、気にすることもなく。
まるで、瞑想のように深く、無意味な思考に身を委ねて数秒。
突如、瞼をとおしてさえ感じる閃光が世界を白く染め。
僕の意識は途絶えた。





傍観する主役





そして、意識が戻ったとき。
僕は、どことも知れぬ町にいた。
乗っていたはずのモノレールは見当たらず。
まわりに、現在地を知らせるものは何一つとして無い。
意識を失う前、モノレールは目的地のひとつ前の駅に向かっていた筈だ。
だから、少なくとも何故こうなったのかという問題を先送りにしても、ここが目的地でないのは確か。
正直、途方に暮れることしか僕に出来ることはなかった。
なにせ、行った事もない町へ地図も持たぬまま向かっている最中に、見たこともない場所に立たされているのだ。
そんな状態で、いったい何が出来るというのか。
なんとも言えず、呆然としている僕の耳に届くのは、戦闘機の滑空音とミサイルの爆発音。
『そう言えば、何で街中でこんな戦争さながらの光景が展開されてるのだろう?』
まるで、僕の状態を差し置いて世界だけがひた走って行くように、目の前の光景は僕の混乱に拍車を掛ける。



そして、それに止めを刺すかのように、轟音を撒き散らして青い車が目の前を通過していった。
『あの車を運転している人は、法定速度という言葉を知っているのだろうか?』
そんな、馬鹿なことを考えている僕をまるで気に留めることなく、暴走車は近くの建物の目前で華麗なドリフトを決めて急停止する。
停車と同時に運転席のドアが開き、女性が現れた。
年齢は若く見て二十歳後半、服装は赤いジャケットに黒のタイトスカート。
如何見ても、日常の普段着としか思えないその服装が、現状の異常さを混沌へと変えていく。
『もう、現状分析は何の意味も持たないんじゃないか。』
そう考えてしまう程に、今日は異常が連続している。
顔は、何処かで見たことがあるような気がする。
そう、確か写真の女性。
確認するために荷物を探すも、やはりこの近くには無いようだ。
女性は、何かを探すように焼け爛れた建物の近くに視線をさ迷わせ、焦るように車に乗り込むと。
ここにいてもしょうがないと、後部座席に乗り込んだ僕に気付くことなく、来たとき以上の速度で戦場の中を駆け抜けた。



そして今、異常は混沌を経て、喜劇になっていた。
車に便乗して着いた先は、ネルフという秘密組織らしい。
確か、父さんが勤めていた場所だったと思う。
そんな奇妙な場所で、紫色のロボットに見つめられながら二人の女性が言い争っていた。
片方は先程の写真の女性、葛城ミサトさん。
もう片方は、金髪で白衣を着た女性、赤木リツコさんと言うらしい。

「リツコ!シンジ君いなかったじゃない!!」

「なんですって!」

どういうことだろう?
相変わらず、現状だけが僕を残しめまぐるしく変化する。

「司令。」

そう言い、赤木さんが見え上げた場所には父さんが無言で座っていた。
会わなくなって幾年月。
もはや、他人と言って過言ではない時を経て対面した父さん。
なのに、僕の心には何も浮かぶことは無かった。
そして実感する。
もう、僕にとって父親とは書類上の存在でしかないのだと…

「どういうことだ?」

「はっ!私が到着したときには駅は炎上し、モノレールも確認出来ませんでした。おそらくは…」

葛城さんは続きを言い辛そうに言葉を濁し、何とも言えない雰囲気がまわりを覆う。
僕とこの人達とは、何一つとして接点など存在しない。
そんな、見ず知らずの僕に向かい、この場にいる人全てが一様に同情を浮かべている様は、滑稽としか言えなかった。
関わりもない人間について思える感情など、所詮はその程度でしかない。

「初号機のパーソナルパターンを、レイに書き換えろ。」

そんな、紙一枚の意味さえ持たない光景を変えたのは、その中で唯一表情一つ変えずにいたあの人だった。
所詮、あの人にとっても、僕の存在など無きに等しかったのだろう。
有れば有る越した事はないけれど、無ければ有る物で何とかすればいい。
保険や予備と変わらない。

「冬月、レイを起こせ。」

『使えるのかね。』

「死んでいる訳ではない。」

そんなやり取りから数分、一人の少女が移動式のベッドに載せられ運ばれて来た。
おそらく、年は僕と同じ。
でも、何処か幼い。
まるで、無垢な赤子のように何処までも透明な色を連想するような少女。
彼女が”レイ”なのだろう。
そして、”初号機”があの紫色のロボットの名前だと思う。
ならば、これから彼女がすることを想像することは容易。
ここに来る途中に、葛城さんの車の中から見えた巨大生命体。
今ここにあるのは、”初号機”という同じくらいのサイズのロボット。
呆れる程に、事態は物語のように定められた道を進む。



『いったい、ここはどこまで腐敗しているのか。』
”レイ”をロボットに乗せるため、着々と準備を進めている大人達。
搭乗前の彼女の状態を見ておきながら、当たり前のようにロボットに乗せられるその神経を、疑わずにはいられなかった。
彼女は、全身に包帯を巻き、各所を滲み出た血で赤く染めながら、痛みに耐えていた。
ベッドで運んで来たのは、自分で動けない程危険な状態だからじゃないのか。
そんな、分かり切った答えに気付かない。
考えようとしない、これが腐っている以外何と言えるだろう。
そして、彼女は今、戦場に駆り出されようとしている。
『そもそも、勝てると思っているのだろうか。』
考えるまでもない、勝てる筈がないのだ。
平常時ならいざ知らず、彼女は自力で動けない程の傷を負っている。
そんな状態では、ロボットを操縦することでさえ困難のはず。
そして、戦う相手は未知の巨大生命体。
モニタ越しに見た”敵”は、平常時でさえ勝てる見込みがあるようには思えなかった。

「発進準備、完了。」

その言葉と共に、葛城さんがあの人の方を見る。

「構いませんね。」

「勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない。」

あまりの言葉に、笑ってしまった。
ここに来て、”未来”なんて言葉を耳にするとは思わなかった。
襲い来る敵に怯え、”今”を守るために彼女を戦場に送ろうとしていたのは誰か。
理解出来ない”今”から逃げる為、彼女の苦しむ様から眼を逸らしているのは誰か。
それ以前に、こんな淀んだ場所から生まれた未来など、誰一人として望む者はいないだろう。
それ程に、汚れ、穢れ、腐っている。
もっとも、僕自身言えたものではないのだけれど。

「発進!!」

そして、そんなエゴイスト達の懇願を叶える為。
無垢な生贄が、神の使いの前に差し出された。





Another time...


後書き

お読み頂いた皆さん、載せて頂いたURIELさん、本当にありがとうございます。
短編、長編、連載するのかどうか。
何も考えず、ただ何となくでやってしまった事をこの場を借りてお詫び致します。
出来れば、続けていきたいとは思っています。
不定期になるのは確実ですが、せめて皆さんの暇潰しにでもなれば幸いです。
不束者ではありますが、なにとぞよろしくお願いします。

※この作品は、「Green Gables」にあるH.M.さんの「イチヂクの中のGHOST」の舞台設定をお借りして作られています。

<投稿貰って欣喜雀躍のワルツを踊ってる管理人がいるサイトはここですか?>

太政大臣さんに頂きました。
ありがとうございます。

私がシンジ君と同じ立場に置かれたら九割七分二厘の確率でヒキーになるだろうなと、
最近思うようになりました。
てことはつまり、ヒキーにもならず健気にがんがるシンジきゅんに萌。

<読感>

○ ミーたんの車へ勝手に乗り込むシンジ君に萌え。
○ 勝手に乗り込まれて気づかないミーたんに乾杯。
○ そして、やっぱりアルビノの肢体に包帯グルグルのレイたんに燃。

逆行じゃないのはほぼ確定の感じですが、ゲームリプレイ記の最後に逆行を
持ってくる人もいる事だし、最後まで目を離すのは禁止。

次が楽しみです。