シンジと愉快な仲間達−ゴーストバスターズ
封魔カルテ1−H
切り裂かれた体のそれを見て、さすがに巴姫とマユミも睨み合うのを止めた。
が、そんなに驚いた様子もない。
巴姫の方は職業が職業だから別に驚くにも当たらないし、マユミもマユミで、ナルからとんでもない自慢話をされていたのが幸いしたらしい。
とは言え、さすがに巴姫に拳銃で頭を吹っ飛ばされた死体を見ては、一瞬ひっと息を飲みかけたが、それでも平然としている巴姫への対抗心か、すぐに平静の表情を作る。 その手が、シンジの服を掴んでいるのはご愛敬と言えよう。
三人をばっさり斬ったのは、無論ミサトではない。
今シンジが手にしている村正であり、シンジがそれを手にした直後、鞘が天井から降ってきた。
「お呼びになったのですか?」
訊ねた巴姫に、
「いや、ただ血が大好きだから狩りには勝手にくるのさ」
「便利ですな」
感心したようにいった巴姫だが、その刀を見て僅かに顔色を変えた。
「い、碇さんその刀…」
「知ってるのかい」
「し、知ってるも何も鬼包丁のそれは、凶刀としてあまりにも有名で…」
「碇さんには関係ないんですよーだ」
「何!?」
マユミの挑発的な口調に、巴姫の眉がつり上がる。
「どんな刀だって、碇さんにかかったら簡単に操れるんだから。だいたい、おっぱいもないような人は用済み。さっさと帰ったら?」
「ちょっと」
時田が口を挟まなかったら、ほぼ間違いなく平手の応酬になっていたであろう。
一瞬気を削がれた二人が揃って、
「『邪魔しないでっ』」
「邪魔?それはこちらの台詞ですよ」
時田の口調に、危険な物が混ざり始めた。
マユミの裸体、それも妖しく濡れ光っているそれに、男達が何人か前屈み気味になっている。
どうやら、被検体捕獲の荒事は慣れていても、女の肢体には不慣れらしい。
だが、時田は眉一筋動かさない。
耐性がある、のではなくて自分で暴露した通り、幼女にしか感じないようだ。
それ以外は男も女も同じに見えるのか、
「やれ」
と一言命じた途端まるで催眠術のように、男達の金縛りにも似た前屈みが解けて、懐中から一斉に小型の拳銃を取り出した。
いや、拳銃にしては少しおかしい。
それを引き抜いたのと反対の手で、今度はガスマスクとおぼしき物を、懐から取り出したのだ。
何よりも、それには弾倉の部分にコンセントが繋がっているではないか。
毒ガスを蒔くとは思えないし、どう考えても催眠ガスか何かだろう。それも、即効性のかなり強力なやつを。
ただ、それにしてもおかしい。
銃を引き抜いた手、そしてマスクを取りだした動きも決して俊敏ではなかったし、マスクを着けた時などは、あまりにも緩慢だったのだ。
マユミと巴姫はともかく、シンジまでもが眺めていた訳は?
これまたのんびりと引き金に手が掛かった時、
「ちょっと待ちな」
巴姫が、ドスの利いた声で口を挟んだ。
「何か」
その声に何かを感じたのか、手を上げかけた時田の動きが止まった。
「あんたらの用は、この淫乱娘だろ。引き渡してやるから、さっさと引きあげな」
「何ですってっ」
噛みついたのは、無論マユミである。
全裸の姿とは言え、淫乱呼ばわりされて引き下がる筈もなく、
「女として魅力の欠片もない人の方が、生け贄になるのに相応しいと思います。ね、碇さん」
ね、と言われても困りますと、シンジが言おうとするその前に、
「魅力がないとは何よっ」
巴姫がマユミに飛びかかり、女同士が取っ組み合いの大喧嘩を始めた。
互いに髪を引っ張り合い、顔と言わず手の届くところを引っかき合い、まるで猫の喧嘩である。
マユミは元々全裸だし、巴姫の服も見る見る破れ、たちまち全裸の娘二人が組んずほぐれつ、上に下にと凄まじい肉弾戦を展開した。
蚊帳の外に置かれた時田の手が、すっと上がった瞬間。
「2、1…」
突如上がったシンジの声に、一瞬呆気に取られた途端、
「0」
カウントダウンが終了し、それと同時に後頭部に強烈な痛みを感じた。
全員が、ほとんど一言もあげずにぶっ倒れていく。時田を始め、襲撃部隊全員を襲ったのは、四角に切られた屋根瓦であった。
無論−シンジが用意したものではなく。
「少し遅かったな」
シンジは分析するように言った。
「あの二人の喧嘩がなかったら、今頃拉致されていた所だ。でもいいや」
功労者をちらりと見ると、
「いいよ、行ってきな」
無機物の存在でありながらその声が聞こえたのか、床に落ちていた鞘に刀身がすっと収まったのだ。
そして、先端で床を軽く突くと一気に屋根の外へと飛翔した。
時差で瓦の落下を設定した村正は、シンジが言うような自己判断で来た物ではない。
思念に寄る物体の召還、いわゆるアポーツの一種と言うものか、それが少し進化した物と言えよう。
持ち主の念に感応し、自在に動き回るそれは刀自体にも、意志のようなものがあって初めて成立しうる。
でなければ、行っておいでと言われて刀が勝手に飛んで行きはしないだろう。
さて、と床を転がり回っている二人に目を向けると、マユミは巴姫の髪を掴んでいるし、巴姫の方はマユミの乳房に爪を立てている所であった。
コンプレックスの箇所を攻撃し合っているのかもしれない。
しかも。
「でも結構大きい」
呑気に呟いたシンジだが、その言葉通り決して貧乳ではなかった。
ただ、マユミには及ばないだけである。着やせするのか、外見よりずっと大きい乳房が転がるたびにぶるん、と揺れる。
マユミのそれと合わせて、四つの乳房がたわわに揺れている様は、巨乳好きに取ってはたまらないかもしれない。
が、
「ごゆっくり」
シンジ携帯を手に取ると、二人を止めようともせずにボタンを押した。
三回鳴って出た。
「あ、もしもし」
「上手く行ったのかい?」
寝起きらしいナオコの声に、
「寝てた?」
「バチカンにある法王の日記に侵入したもんでね、少し疲れたのさ」
どうやら、法王のコンピューターに忍び込んで、その日記を読んでいたらしい。まさに、神をも恐れぬ所行と言える。
「で?」
再度ナオコが訊いた。
すっと電話を室内に向けると、どたばたと肉弾戦の音がそのまま聞こえてくる。
しかも、上へ下へとなりながら、貧乳だの淫乱だのと、肉体攻撃に走っている口論までも鮮明に聞こえてくるのだ。
「レズかなんかのショーかい?」
とんでもない事を言いだしたナオコに、
「だといいけれど、現在決闘中」
「はあ?」
ナオコの声に、シンジはくすっと笑った。彼女がこんな声を出すのは、半世紀に一度も無いかもしれないのだ。
「相手は」
「五代。助けに来たのはいいけど鉢合わせしちゃって」
「さては二股坊やだね」
けたけたと笑ったナオコに、
「もう少しましな言い方ない?」
「最高の賛辞だよ」
冷たく言い放つと、
「それより、そこに何人転がってる?」
「十二人中、死んでないのが八人」
「ちょっとお待ち」
ナオコの声が、急に職人のそれになると、端末を叩く音がした。
どうやら居場所など伝えずとも、シンジの居場所は分かるらしい。
(ちょっといやだな)
内心で呟いたシンジが目を転じると、相変わらず口論しながら取っ組み合っており、いつ終わるとも知れない延長戦になっている。
止めるのも面倒だしと、シンジは目を逸らした。
その直後、
「内閣調査室の特別行動隊が五十人、そのホテルの回りを囲んでいるよ。おや、どいつもこいつも重装備だね。軽機関銃にガヴァルカン砲に…対戦車ロケットまで持っている奴がいるよ」
「随分と金持ちだな」
「機動隊の連中をそっちに回すかい?二分もあれば、一個師団を行かせられるよ」
まさかそこまでとは思ったが、なにせ相手はナオコである。
以前米軍の某基地にハッキングを仕掛け、あわや弾道ミサイルを社会主義国へ向けて発射させる寸前まで行った事があるのだ。
しかも発射しなかったのは、ばれたからではない。
「もう飽きた」
と、ナオコが手を引いていたからだ。
そうでなかったら、今頃間違いなく世界大戦が起きている筈だ。
見てみたいような気もしたが、
「いや、いいよ」
シンジは断った。
「あれかい?」
「そう、あれ」
電話のこっちでにっと笑ってから、シンジは電話を切った。
さてと戦況を見ると、低レベルな肉弾戦から口論へと化している。
が、所詮は寸胴だの淫乱だのと、その域を脱していない。
「気が済みました?」
シンジの声に、揃ってこっちをじろりと睨んだが、慌てて胸を隠そうとして−服がないのに気づいた。
一枚しかないブランケットを、自分を隠そうとして左右から引っ張り合ったが、すぐに無駄だと知り、瞬時に無言の停戦条約を結ぶと、二人で一枚に収まった。
互いを恋敵と完全に認定しながらも、シンジの黒瞳にその肢体を晒す方が恥ずかしいらしい。
「『は、はい…』」
「で、五代」
「は、はい」
「帰る時、服どうするの」
「あ、あの若いもんに持って来させますから…お見苦しい所を」
まったくだ、と頷いてから、
「何かここの所、こういうのによく遭うな」
シンジの脳裏には、オフィスで展開しかけたミサトとナルの一件が、事件の一つとしてインプットされているに違いない。
マユミを見てから、
「あんなに元気があるとは予想外でした」
無論言外に、あれだけ達したのにと言う意味が含まれている。
そしてそれを気づかないマユミでもなく、
「だ、だって指がその…」
ぼっと真っ赤になった顔に、巳姫の顔に嫉妬の色が浮かんだ。
それを知ってか知らずか、
「女の子同士の肉弾戦もいいけど、もっと面白い物がある」
「『え?』」
「そこに転がってる物体、これに役立ってもらおう」
シンジが指した先には、まだ目覚めぬ時田達が転がっている。
そのすぐ横には、村正にばっさりやられた死体が転がっており、マユミと巳姫は死体のそばで取っ組み合いを繰り広げていた事になる。
ある意味、何とも豪快な話と言える。
二人の娘が見つめる中、シンジの取った行動は一種異様な物と言えた。
倒れているそれへ近づくと、そのこめかみへいきなり人差し指を突っ込んだのだ。
ずるり、と出血した様子もなく第二関節まで吸い込まれた時、二人は小さな悲鳴を上げて抱き合った。
女、と言う性別が優先され、この怪奇現象には恐怖の方が先立ったようだ。
指を差し込んだまま、待つこと五秒。
すっと抜き出したシンジは、次々とその作業を繰り返し、倒れている八人全員にその作業を繰り返した。
それが終わると、ちらりと二人に視線を向けて、
「仲直りしたの?」
うっすらと笑いながら訊いた。
それを聞いて弾かれたように…離れなかった。
やはり、恐怖の方が先のようだ。
「あ、あのそれどうされるんです?」
訊いたのは巳姫。
「傀儡(くぐつ)使役の術、見ておくといい」
「『は、はい』」
自分たちのどたばたを眺めていた時とは違い、どこか鬼気にも似た物を感じて、二人の背に冷たい物が走った。
その頃、ホテルから数十メートル離れた所では、既に対戦車砲がその照準を定めていた。
いずれも迷彩服に身を包み、完全武装している。
「隊長、まだですかい?」
見るからに筋肉を持て余していそうな男が、銃身を肩付けしたまま、振り返った。
「まだだ、もう少し待て」
隊長と呼ばれた男が首を振る。
「あの方がまだ中だ。無理はできん」
「でも、生体反応が薄いですよ」
別の男が口を挟んだ。
「血中の粒子は…こりゃ殆ど失神ですぜ…ありゃ?」
報告した男が、はてと首を傾げた。
「どうした」
「大将達、どうやら起きたようですぜ」
「本当か?」
「ええ、今こっちに−あ!?」
封魔師としてのシンジの名は、彼らの間にも知れ渡っている。
職業の通り、魔を封じるのに用いる技は、彼らの頭脳を持ってしても計り知れない物があり、背広組は最初からさして信用していなかったのだ。
血液中に追跡粒子を注入し、その生命状態をすべて捕捉したのもその表れだし、もしそれが止まったとなれば、何ら躊躇はなく対戦車砲をぶち込む用意は出来ている。
穏便に、あるいは小手先で連れ出すのは時田達背広組の役割であり、特別行動隊の彼らに与えられた使命は、死骸でもいいから山岸マユミの躯を持ち帰る事である。
毛髪一本しか残っていない状況では、さすがにきつい物があるが、別に小指一本でも構わなかったのだ。
本命は、その遺伝子の解析にあったのだから。
そして今、時田達の生命反応が微弱になり、さてはやられたかと突入を決定したところへ、急激にその反応が活発になり、しかも彼らが戻ってきたのである。
おかしい、と最初に気づいたのは、戦車砲の射手に任じられていた男であった。
蹌踉めいている、のはまだいいとしても、その足取りにどこか意志が無かったのだ。
しかもそれに加えて、
「あれは…刀だ。げっ、ありゃ鬼包丁!?」
叫んだ瞬間、時田から伝わる鬼気に気が付いた−明らかに、殺気を含んだその気に。
「撃てっ」
叫んだ瞬間、横にいた男がウージーの引き金を引いていた。
45ACP弾を40発詰め込んだマガジンから、フルオート・マチックで全弾を叩き出す。
この辺り、時田達と違って躊躇はないが、フルオートでたたき込む辺り、背広組への反感もあったのかも知れない。
全身に穴が開き、血液と臓物も辺りに散布する…筈だった
だが。
「きいええええっ」
奇怪な声を上げると、下向きに妖刀を構えて時田は突っ込んできたのだ。
服は破れ、全裸になっているが、その身体にはまったくダメージが見られない。
「野郎っ」
銃撃は効かない、そう悟った瞬間、彼らの手には一斉にコンバットナイフが握られていた。
研ぎ澄まされたそれは、チタンさえも断ち切ると効果を実証済みだ。
矢のように伸びたそれを、時田は妖刀で受け止めた。
「……っ」
声にならない叫びは、二つに折れたそれを見た口から上がった。
古くさい鉄の塊が、最新鋭の合金ナイフを二つに分断したのだ。
だが、彼らは一人ではなかった。
この場にいるのが十五人、続々と応援部隊も駆けつけて来るだろう。
村正が男の胴を二つに割った時、空を切って二本のナイフが飛来した。任務を遂行する時、仲間の死体を踏み越える事になんの躊躇もない。
鍔迫り合いににもならない、そう判断した時、他の者達は投擲を決意した。
時田の細い胴にコンバットナイフが深々と突き刺さり、そして−
「効いてねえのか!?」
「刺さった…だけだ、なんてこった畜生」
しかし、刺さった瞬間僅かによろめいたのだ。
それを見た者達から、一斉に死の刃が時田に向けられた。
ハリネズミと化す筈であり、そうなってはさすがの時田も保つまいと思われた刹那、その上体がぐらりと揺れた。
そう、一緒にいった男達だ。
攻撃は完全に時田に任せ、彼らは身をもって盾となるように、プログラムされたと見える−誰かに。
明らかに身体能力を超えた動きに、彼らは妖刀の独壇場と化している事を知った。
斬るも突くも、すべては妖刀の意のままに−
いわばゾンビと化し、すべての攻撃が通じない時田。
そしてその時田を、好きなように操って殺戮の宴を繰り広げる妖刀。
それの組み合わせを知った時、そして特定年齢以下にしか見せぬ笑みを、時田が彼に向けた時、最精鋭の男達は死神の迎えを知った。
「う、嘘…」
「こ、これが妖刀の力…」
惨状も忘れ、呆然と呟いた巳姫とマユミ。
屋根に穴が開いており、既に隣のホテルへと移動した。
現在は、室内から時田達の仲間退治を、モニター越しに観戦している最中である。
なお、マユミと巳姫は現在ガウン姿。着替えるのも面倒だと、シンジがこれで来るように命じたのだ。
彼らが感嘆した死人を操る術−操屍術。
これこそが、碇シンジの真骨頂である。
指一本で仮死状態に追い込み、その持てる以上の力を発揮させる事、これが成し遂げられた時、もはやその前に敵はいない。
火すら受け付けぬそれは、身体を吹っ飛ばす事によってしか、もはや防ぐ事は出来ないのだ。
そして二十分後。
既に誰一人として、生きている者はその場にいなかった。
五十人からなる精鋭部隊、その最後を始末し終えた時、時田達の身体もまた地に倒れ伏した。
倒れる寸前、その手から妖刀が滑り落ち、血を振り払うかのように、自ら数度左右に振れた。
血の一滴もつかぬ、妖光を放つ刀身と化したそれは、ひょいと宙に浮上した。
それが室内に戻ってきたのは、三十秒後の事である。
「満足したらしいね」
手に自ら収まったそれを、シンジは一通り眺めてから鞘に戻した。
あれだけ斬っても、刃こぼれの一つも見あたらないそれを。
「あ、あの連中はあのままで?」
震える声で巳姫が訊いた。
「やくざなら別だけど、政府筋の連中だから、警察より前に違う奴らが持って行くはずだよ。ほら」
言ってるそばから黒服の、これは屈強な男達が数十名、現場に到着した。
まるで生ゴミでも入れるかのように、麻の袋に死骸を詰めていく。
手際よく遺体は片づけられ。数分と経たぬ内に辺りは血痕すら消されていた。
男達が次々と袋を車に積んでいくのを見て、
「こ、ここに来るんでしょうか?」
いや、とシンジは首を振った。
「関連はないし、それに操屍術の原理を分かる者はいないからね」
確かに、誰一人その原理を分かりはすまい。
何よりも、時田の身体にはそこら中に穴が開いているのだ−味方が開けた穴が。
「でもまだ完全じゃありません」
「え?」
「あなたの能力に目を付けて、更に追っ手を出してくる可能性もある。やはり、あなたにも助手になってもらいましょう」
「も?」
「もう一人のあなた、ナルさんの方には助手になってもらう約束でした」
「なあんだ」
突如上がった声に、視線がそっちを向いた。
「助手って言っても、あんたのことじゃ無かったんじゃない。何を勘違いしてるんだか、この子は」
この子と言われて、マユミの眉がすっと上がる。
だがそれを、シンジが視線で止めた。
「五代」
「え…はい」
「妙に色っぽい格好をしているね」
マユミと巳姫、二人とも素肌にガウンしか羽織っておらず、その顔がかーっと赤くなる。
「こ、これはその」
「責めてる訳じゃない」
シンジの口調が妙に優しい事に、ミサトなら気が付いたかも知れない。
「え?」
「実はさっき」
とシンジは言った−妖しさを帯びた口調で。
秀麗な美貌に見つめられ、二人の顔が意志を喪って溶けていく。
「今日は宿泊で借り切っておいた。止まっていくか?」
ぶんぶんと、二人揃って勢いよく頷いた。
火花が散る事もないのは、既にシンジの術中にはまっているからだ。
「では決まりだ、二人とも面倒見てあげる」
少し奇妙な台詞だが、二人の目に色が浮かんだ。
そう、明らかに欲情の色のそれが。
「その前にシャワーを浴びてきて」
とシンジは告げた。
「そうだ、仲直りの印に二人で入ってくるといい。いい?」
シンジの眼力に虜になっている二人が、どうしてその言葉に逆らえよう、早くもガウンを脱ぎ捨てた歩き出した丸い尻をシンジは呼び止めた。
「あちこちに擦り傷が付いている、これを飲んでおいて」
振り向いた二人は、前を隠そうともせずに歩いてくる。
成熟した裸身に視線を向けたシンジだが、それはどこか、その肢体を通り越しているようにも見えた。
こくん、と揃って飲み込んだのを見た時、シンジの口元に危険な笑みが浮かんだことを、無論二人は気づいていない。
白い錠剤は、ストレートに二人の食道に滑り落ちた。
それだけである、他に何の変化もない。
二人の肢体に変化が訪れたのは、一歩浴室に入った途端であった。
股間から走った電流のようなそれは、文字通り脳天まで突き抜けたのである。
「あっ、ううんっ」
最初に艶めいた声を漏らしたのは、既に敏感になっているマユミであった。
処女なだけに、快楽の伝わり方も尋常ではなかった。
続いて巳姫、これはマユミ程ではなかったが、かみ殺して耐えられる程の物でもまた無かった。
既にシンジの黒瞳に魅入られた二人、目許を妖しく染めた顔のまま。お互いに向き合った。
「熱いの…すごく熱いのっ」
叫ぶようにマユミが言うのと、
「あたしもよ…ねえ、しよう、今すぐにここで」
頷いたマユミが、すぐに両手を伸ばしてくる。
先に唇を付けたのは、そして先に舌を絡めていったのはどちらだったのか。
ぴちゃっ…ちゅくる…んうっ…。
激しく舌を絡め合い、たっぷりと唾液を相手の咥内に流しこむ。
女同士の濃厚なキスは、たちまち周囲に濃厚な淫香を振りまいた。
到底足りぬように、固く火照った乳首を相手のそれと押しつけ合うと、二人の背が一瞬びくりと反った。
すぐに相手の股間に手を伸ばし、激しく指で愛撫する。
びしょびしょに濡れたそこは、僅かな指の動きにもいやらしい音を立てて喘ぐ。
あたかもソープ代わりにするかのように、二人は手にした愛液をお互いの身体へとなすり付けていった。
「ではごゆっくり」
浴室から聞こえてくる、女同士の交歓の喘ぎを耳にすると、シンジは妖刀を手にしてすっと立ち上がった。
「二人一緒に欲情したし、満足出来るでしょう」
感情の感じられない声で呟いたシンジ。
面倒を見る、と言うのはどうやらこの意味だったらしい。
「よく効く薬だから、四十八手やり尽くしても多分飽きない。お互い、壊れないようにね」
にっと笑うと、そのまま出口へと向かった。
既に支払いは済ましてあるから、泊まり逃げで捕まる事はない。
「雨降って何とか」
一つ頷くと、
「葛城に、ケーキでも買っていくか」
歩き出したが、
「こんなの持っていけないな。今日はお疲れ、遊んでくるといい」
ぽいと放り出された刀が、たちまち虚空の彼方に消える。
ケーキの種類を頭に浮かべて歩く姿には、封魔師としてのそれは微塵も感じられなかった。