恋人達の事件簿:リクエストモード「一服盛りで行こう」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「地天使堂」
 町の外れにある小さな商店は、一見小さな店だが中には色々な物が置かれていると、情報通の間では囁かれている。
 しかし奇妙な事に、ドアを開けて中を見た限りでは、殆ど品物など陳列されておらず、どう見ても夜逃げの用意完了の店に見える。
 そう、何せ棚にはまったくと言っていいほど品物が置かれていないのだ。裏ビデオの専門店じゃあるまいし、普通は棚に幾ばくかの商品は置いてあるものだ。
 そんな地天使堂は、名前からして普通の店ではあるまい。そしてその店に訪れる客もまた、普通ではないのだ。
 
 
「媚薬、ですか?」
「はい…」
「何にお使いです?」
 店の主人は、カタログを眺めたまま訊いたが、客−碇シンジの視線は、その左手が壺の中に入っているのに気付いていた。
「か、彼女がその…け、潔癖性なんです。せ、性交渉は結婚してからとか言って、だけど僕が風俗に行ったりするとカンカンに怒るし…」
「食う寝る遊ぶは人間の三大欲求、それを教えたいという事ですな」
「は、はい」
「分かりました、お売りしましょう」
 全身をフードに包んだ主人は軽く頷いた。声からすると男だが、全身を真っ黒な衣装で覆っているからよく分からない。よっぽど後ろめたい事でもあるのかと思ったが、その割には平然と営業を続けているから実態は闇の中だ。
 すっと壺から何かを取りだし、薄い紙に包まれた粉薬をシンジの前に置いた。
「効きます−以上」
「あ、はい…え!?」
 頷いたが、十秒経っても主人は何も言わない。
 まさかこれで説明終わりではないだろうと思ったが、言葉が出てくる様子は微塵もない。いくら媚薬とは言え、用法ぐらいはちゃんと教えられると思ったのだが。
「料金は三百円になります」
 二言目がこれであった。
「あ、あのっ」
「何か」
「つ、使い方とかはその…」
「必要ですか?」
 不意に主人が顔を上げる。
 その双眸に、目的も魂胆も全部見抜かれている気がして、シンジは硬貨を置くと慌てて店を出た。
 
 
 
 
 
 事の起こりは数日前に遡る。
 男−碇シンジ。
 女−惣流・アスカ・ラングレー。
 一応彼氏彼女もどきの関係だが、実は一年半付き合ってキス一つしていない。と言うより、出来なかったのだ。
 別にシンジが女恐怖症だった訳でも、アスカが凄まじい潔癖性だった訳でもない。
 単に…アスカが女王様だったのだ。
 デートとは名ばかりで、シンジは常に荷物運搬人だったし、サイフロプスを兼ねなかったのはまだ幸いだったろう。
 しかし歩く金庫男にならなければいい、と言うものではなく、
「ちょっとシンジ!箱の五個や六個でふらふらしてるんじゃないわよ!」
「そ、そんな事言ったって…」
「なーんか言った?」
「な、何でもない…」
「ふん、じゃあさっさと歩きなさいよ、まったく愚図なんだから」
 一体いかほどの値段で人権を売り渡したのかと思いきや、二人の間には交友関係はあっても金銭関係は全くない。
 しかも、このシンジ自体がアスカ一人でもないのだ。
 取り立てて特技があったり優秀だったりするわけでもないが、人から好かれるのはそんな物より性格であり、その点シンジはかなりの上玉であった。
 一時流行った三高の条件が崩れてきた今、段々中身重視へと変わってきたおかげかも知れない。
 そんな関係の二人だったが、珍しくアスカがシンジの家に来た−それも酔っぱらって。
「シャワー浴びるから…貸してぇ」
 酔いで照れを隠し、と言うか単に酔っぱらってるだけだったが、シンジにしてみれば心臓大騒ぎで待っていたのだ。
 ところが。
「何よこれはー!!」
 シャンプーとリンス、それにボディシャンプーで普通の風呂場だが、アスカの使ってる物とはストライクゾーンが違ったらしい。
 当然と言えば当然なのだが酔っぱらいに理論は通用しない。可哀相にシンジは、ボディシャンプーの一撃を受けてその場にぶっ倒れてしまい、その上をぐしゃっと踏んづけてアスカは帰ってしまった。
(ぜってー許さない)
 風呂場から漏れてくる湯気に包まれて、シンジの中で危険な何かが発芽したのは数分してからであった。
 
 
 
「と、止まらない…」
 地天使堂で媚薬を、と言ったら渡された包みだが、説明書も保証書も付いてない。いや保証書はともかく、薬なら説明書くらい付いていて当然だがそれもない。
 で。
 仕方ないから自分で試してみた。と言っても、ほんの少しだけ水に溶かして飲んでみたのだ。
 この間行った飲み会で、誰かがバイアグラを飲んで風俗に行ったら、抜かずで五発だったとか言うのを聞いてまさかそんなのと笑ったのだが、シンジはその男の気分をいやと言うほど味わうことになった。
 400%に充填された股間が、どうやっても鎮まらないのだ。
 普通一人でする時は、続けては二回位だが、五回連続もまったく衰える気配が無い。
 しかしさすがに飽きてきた。
 積まれたティッシュの山を見ながら、
「こうやって使えばいいんだな。でも…よく考えたら何で男の僕に効くんだろう?」
 びん!と上を向いた股間を見ながら首を捻ったが、無論その薬が尋常の薬でない事まではシンジは知らなかった。
 
 
 
 数日後。
 
「お、重いよう…」
 普段通り、アスカに引っ張り出されて荷物持ちに任じられるシンジの図があった。
 しかも今日は快晴であり、汗をかきたいと思ったら重い物を持つのが非常に適している天候でもある。
 さすがにアスカも気が咎めたのか、
「あ、あんた、少し上がってく?」
 ぐったりと伸びて、日向に出たミミズ状態になってるシンジに声を掛けたが、
「…う、うん…」
 なんかこう、潰れたような声が返ってきた。
 アスカの家に入ったものの、女の子の部屋もへったくれもなく、シンジはソファで伸びている。
 それを見てこれは大丈夫と思ったか、
「あたしシャワー浴びてくるから、冷蔵庫の中にある物適当に飲んでおいて」
「う…」
 覗くんじゃないわよ、とは家に入れた初めての男なのにもかかわらず、アスカは言わなかった。
 無論シンジが、バケツで水をかけないと元に戻らない、干しわかめみたいな状態になっているからだが、シンジがポケットに入れている物とぐったりと下を向いた表情とを知れば、絶対にそこから離れなかったろう。
 いや、間違っても家になど入れなかったに違いない。
「チャーンス」
 以前として格好は潰れたカエルのままで、シンジはにやあと呟いたのだ。
 
 配役が違うような気がした方は気のせいである。そう、間違いなく。
 
 男を置いてシャワーを浴びたアスカだが、洗面所につっかえ棒もしなかったし、覗いてないかと気配を窺いもしなかった。
 よく言えば信用だが、単にシンジを男と思ってないだけである。
 それでもバスタオル一枚、なんて事はなく一応着替えてきた。ただ、ショートパンツにタンクトップ−中はノーブラなのは、これはもう性格から来た物だから仕方ないだろう。
 アスカが出てくると、
「あー、生き返った」
 干しわかめが烏龍茶のボトルを空にして、人間に戻ってきた所であった。
 でも、ちゃんともう一つのコップに入れてあるのは、やはりシンジのシンジたる所以である。
「あ、アスカもらったよ」
「見りゃ分かるわよ。で、生き返ったみたいね」
「うん、なんとか」
 やれやれと苦笑しながらテーブルにつき、
「ふーん、ちゃんと氷も入ってるじゃない」
 コップを取り上げて一気に飲んだ。
 食堂を落ちていく液体が、火照った身体を覚ましていく。
「ふー、やっぱりシャワーの後はオンザロックに限るわね」
 訳の分からない事を言うと、運搬人に運ばせた戦利品に目を向けた。
「シンジ」
「何?」
「あそこにある荷物全部開けて、ハサミは引き出しに入ってるから」
 その時、何となくシンジがリズム良く立ち上がったような気がしたが、気のせいだろうともう一杯注いで一気に開けた。
「あー、おいし…!?」
 むず、と感じたのは僅かな痒みであった。だがむず痒いようなそれは一瞬で凄まじい快感となって体内から膣奥へと押し寄せた。
(う、嘘っ!?)
 まずは足が、そして手がアスカの支配から離脱し、ゆっくりとグラスが宙に舞った。
 ブルブルと手足が震え、体中の力が抜けていく。
 そして…わずかに歪んで見える視界の中で、くるりとシンジが振り向いた。
「やっぱり即効性…良かった、僕だけじゃなくて」
 身を以て体験した事を告げる台詞に、アスカは自分が罠に落ちた事を知った。
 
 
「ひ、ひきょうものぉ…」
 怒鳴ったつもりだったが、声帯までもフル稼働を拒否し、さっきのシンジよろしくかすれた声しか出ない。
「僕がしたのはちょっと手を拘束しただけ。他には何もしてないよ?」
 邪悪な笑みを浮かべたシンジの視線の先には、手錠をかけられたまま苦しげに身もだえするアスカの姿があった。
 既に口はだらしなく半開きになり、両足は摺り合わせるのが精一杯になっている。
 体中を覆っていた熱が快感に、いや欲情に変わるまで数十秒と要さなかった。
 どんなに欲求不満の時の自慰でも経験した事無い量の愛液が股間から溢れ出し、既に下着が防波堤にならず太股まで流れ出している。
 恥辱も屈辱も既に消え、躰が求めているのは満足感であり、嗜虐欲であった。
 犯されたい、組み敷いて無茶苦茶に、熱いのをあたしの中に入れてほしい…ほしい、シンジのが欲しい…。
 アスカの目から理性と怒りの色が消え、代わりに欲情と濃い性欲の色が支配する。
 怪しげな薬の前に、アスカは容易く陥落した。
「ねぇ…シンジの…ちょおだい…おねがいよう…」
 だが帰ってきた声は、
「やだね」
 であった。
「アスカは僕の何かいらないんだろ。したければ自分ですればいいじゃないか」
「そ…ンな事言わな、で…お、おねがい…」
 口からは動物のように涎が止まらないアスカ−無論下の口からも。
 アスカの愛液が溢れているのは、既にシンジからも見えているが、ここであっさりとアスカの願いを叶える気は、シンジには無かった。
(そうだ)
 ぽん、と脳内に電球の灯ったシンジがアスカに近づいていく。
 おねだりを叶えてくれるのかと、潤んだ瞳で見上げたアスカだったが、
「ああっ…あああんっ」
 普段は騒音がどうのと気にするアスカだが、もうそんな事を気にする余裕も無くなっていた。
 シンジがパンティーのふくらみを、上からきゅっと押したのだ。
「アスカのここ、こんなになってる…泣いたの?」
 シンジの台詞にかあっと真っ赤になり、一瞬怒りの色が瞳に浮かんだがそれもすぐに消え、
「や、やあ…い、言わないでぇ…」
 か弱く首を振るのが精一杯であった。
 どんな女でも寝顔は可愛いと言うが、普段は自尊心と高慢が全成分の九割を占めているようなアスカの場合も例外ではなかった。
 まして、上は硬く尖った乳首がタンクトップに当たってずきずきと疼き、下は愛液で淫毛までびしょびしょに濡れた秘所が、満たされぬ欲求不満で強烈に身を灼いてくる。
 シンジがこれを自分に試し、とんでもない勃起現象に襲われた事などアスカは知らないが、シンジが入れたのは自分に試した三倍の量であり、媚薬本来の役目を考えれば危険域と言える。
 精神を喪ってはいないものの、呼吸の一つ一つが喘ぎと化し、身もだえする度に淫香が漂ってくるアスカの仕種に、ついシンジは心が揺れた。
「そんなに欲しいなら、自分でしてみせてよ」
「…え?」
「オ・ナ・ニー」
 一文字一文字区切るように囁くと、顔を赤くするかと思いきや、
「オナニーしたら…シンジのくれる?」
 泣き出しそうな声で訊ねたのだ。
「いいよ、自分でイクところを僕に見せてくれたらね。ちゃんと、股開いて自分で指入れるんだよ」
「うん…言うとおりにするね…」
 
 男など、所詮は女の影を追い続ける生き物なのかも知れない。
 
「じゃ、アスカがひとりエッチする所見せ…!?」
 手錠を外した途端、それまでも喘ぎも悶えもまるで嘘のように、豹のような動きでアスカがシンジに飛びかかった。
 全身は高ぶりを示したまま、それでも目には爛々と光を湛えて、
「やってくれるじゃない?バカシンジのくせに」
 すっと右手があがるのと、シンジのジーンズのホックが吹き飛ぶのと、殆ど同時であった。
 無論シンジは飲んではいないが、アスカの痴態と今の切なげな声に股間が反応してしまっている。
「アンタなんかで勿体ないけど、この際だから我慢してあげるわ−今バイブの電池切れてるのよ」
 とんでもない台詞と共に、シンジの上にまたがって性器の入口に肉竿をあてがう。
 そのまま一気に腰を降ろした。
「アスカっ!?」
 思わずシンジが大声を上げたのは、亀頭が何かを突き抜けるような感触に包まれた直後、結合部から鮮血が流れ出して来たからだ。
 シンジとて、それが意味する事くらいは分かる。
 だがアスカは僅かに顔を歪めて、
「ま、前に破っちゃったから、しょ、処女膜再生しといたのよっ。そ、それよりおっぱい揉んでよっ」
 貫かれて取りあえず栓はされ、ほんの僅かながらアスカも落ち着いたらしい。しかしまだ声にも表情にも欲情がみなぎっており、シンジが言われるまま良く張った乳房に手を伸ばすと、
「もっと、もっと激しくしてっ」
 役立たず、と言われたような気になって、乳房が変形するくらい荒々しく揉みしだくと、
「そうよ、やれば出来るじゃないの…い、行くわよほらっ」
 下から揉む動きに合わせるように、アスカが腰を使い始めた。
 何故か腰ではなく、乳房を揉む動きに合わせて膣内が締め付けてくるのが、何となく気になったが、快感と苦痛の入り交じった顔で腰を振るアスカを見て、シンジもまた頂点へと向かっていった。
 
 
 で…三十分後。
「アスカ…お願いだから少し休ませ…ああっ」
「なーにいってんのよ、男のくせにだらしないわねっ…ほらまだまだ行けるじゃん、次行くわよ」
 最初はアスカが二分と保たずにイッた。
 シンジがイッたのは、アスカが三回目に達した時で、正常位から肉竿を抜いて、アスカの白い腹の上に熱い精液をぶちまけていた。
 ところがアスカの性欲は衰える所を知らず、それどころか痛みから快感に変わってくるにつれてますます増量の感すらある。
 既にアスカは十六回イッており、シンジだって九回は放出している。そんなに早漏でもないが、性欲が比例するかのような膣の動きで、いやでも精を搾り取られてしまうのだ。
 おまけに、もう駄目だと思ってもアスカが口をすぼめて含むと、あっという間にムクムクと起きあがってくるから始末に負えない。
「アスカもうほんとに…」
「訴えてもいいのよ」
「え…」
「あんたがした事は、りっぱな婦女暴行未遂罪なんだからね。親告罪が適用されるのなら、あたしが訴えればいいのよねえ?」
「そ、それは…」
「それともあんた、あたしのことダッチワイフ代わりにしようと思ってたわけ?」
 実は思っていた。
 いや、やってそのままポイとまでは思っていなかったが、これを機に関係を逆転させてやろうとは間違いなく思っていた。
 だが口をついて出たのは、
「そ、そんな事無いよっ」
 と言う、かなり弱気な答えであった。
「そう、じゃあ許してあげる。さっ、スルわよ〜」
 にっこりと笑い、四つん這いになったアスカ。
「な、何してるの?」
「あんたバカァ?う…後ろからしていいって言ってんのよっ」
 そう言いながらも、くぱっと割れ目を拡げたアスカは、こっちからは見えなかったが真っ赤な顔になっていた。
 今日は安全日だからとアスカは言ったが、シンジの熱い放出を受けてますます物欲しげにひくついているそこを見て、シンジは吸い寄せられるように腰を沈めていった。
(やっぱり、僕には支配とか向いてないのかな)
 と、アスカのナカで一層硬さを増した肉竿とは裏腹に、小さく溜息をつきながら。
 
 
 
 
 
「予約は別として、他人に売る注文は受けていませんが」
「分かってるわよ、そこを何とかしてって言ってるの。これが買いに来る奴よ」
 わずかに眉をひそめた主人の前に、アスカは一葉の写真を差し出した。
「お知り合いですか」
「あ、あたしの…げ、下僕になる男よっ。こいつが来たら、媚薬に勢力増強剤も混ぜて売っといて。頼んだわよっ」
 投げ出すように札束を置き、逃げるように出て行った娘の後ろ姿を見ながら、
「自分を犯す薬を売らせるとは…変わった客もいたものです」
 地天使堂の主人は、水晶を見ながら呟いた。
 
 
 
 
 
 教訓:いきなり薬は止めときましょう。いや…マジで危険だから、ね。
 
 
 
 
 
(了)

迷人氏からのリクエストです、ありがとうございました。
LAS、年齢問わずだったので、必然的にこうなります<ナゼ!
しつこいようですが、いきなり薬使うのは止めようね。