恋人達の事件簿「奇妙な初体験をするヒト達」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「と言うわけで」
 主語・述語、そして目的語と言う日本語のルールなど無視して、ゲンドウが口を開いたのは夕食後の事であった。
「何?」
 既にいつもの事だし、今更もう慣れきっているからシンジは少しだけ顔を動かした。
 ボードを挟んでビショップを見ながら唸っているアスカは、顔も上げない。
 二十五勝二敗、ここまでは完璧にシンジの流れであり、アスカの一方的な惨敗に終わっている。
 そのため、
「今日こそは勝つのよ!」
 と、毎晩のように来ているアスカに取って、ゲンドウの台詞などどうでもいいのだ。
 そんな事よりも、もっかのこのビショップに玉砕を命じるかどうかの方が、大きいのである。
 そんな子供達の様子を見ながら、ゲンドウはにっと笑った。
(その様子がいつまで続くかな)
 そして、おもむろに咳払い一つしてから、
「お前達二人には、お使いに行ってもらう。そう、泊まりがけでな」
「『え?』」
 一瞬声が重なり、そしてきっちり五秒後。
 「『ええーっ!?』」
 叫んだ二人に、ゲンドウは唇の端を奇妙に曲げた。
「別に叫ぶことでもあるまい。別にラブホテルに泊まれと行ってる訳では…つう!」
「当たり前です!下らない事を言わないで下さい」
 スリッパでツッこむのは、いつもどおり妻のユイだ。
 たいていの場合、絶妙なタイミングで突っ込むため、もしかして前世から漫才コンビでも組んでいたのかと、子供達は疑うときがある。
「あ、あのおば様どう言う事なんですか?」
「あ、ああ、あのね大した事じゃないのよ」
「『絶対怪しい』」
 と思ったが、口にはしなかった。
「ただね、ほらお正月だからあなた達を二人っきりでのんびりさせてあげようと思ったのよ」
「はあ」
 頷いた時点で、だいたいの筋書きは読めていた。
 既に高校生の子供を持ちながら、アスカの両親もシンジの両親も、それこそ不気味な位に仲がいいのだ。
「で、何をして来ればいいんですか?」
 訊ねたとき、既にアスカの思考は宿泊先へと飛んでいた。
 
 
 
 
 
「ぜーったい姫はじめよ」
「…え?」
 ポカッ。
「いたっ」
「あんた、人の話を全然聞いてなかったでしょ!」
「だ、だってアスカが機嫌悪そうだったから…」
 シンジの言う通り妙に不機嫌そうなアスカに、シンジはさっさと読書に逃げ場を求めていたのだ。
「あんたの両親のせいでしょうが」
「父さんと母さんの?」
「決まってるじゃない。だいたい、何であたし達がこんなおせち用の重箱を、わざわざ取りに行かなきゃならないのよ。こんな何処でも売っていそうな物、宅急便で送ってくればいいじゃないのよ」
「それはほら…きっと、二人きりになりたかったんだよ」
「それが嫌だって言うのよ。何で姫はじめにあたし達が付き合わなくちゃならな…どうしたの?」
「あのさ、さっきから訊こうと思ったんだけど…」
「え?」
「姫はじめ、ってナニ?」
「はあ?」
 アスカは唖然として、幼なじみの顔を眺めた。
(あたしよりよっぽど本読んでて、あたしよりずっと頭いいのに…知らないの?)
「あんた、本当に知らないの?」
「うん、正月関連の行事かな、とは思うんだけど。もしかして、初めて着物を着ること?」
「……」
 アスカはキリキリ痛むこめかみを押さえたが、ふとにんまりと笑った。
(そうだ、今日泊まるホテルの部屋を一緒にして、からかっちゃえ)
「まあ、似たようなものよ」
 着物を着るんじゃなくて脱ぐのよ、とは言わず、
「今晩、シンジに手取足取り教えてあげるわよ」
(…僕に女装させる気なんだ…)
 怖い考えが脳裏を過ぎったが、ここで逆らうと後が怖いから、取りあえずうんと頷いておいた。 
 
 
 
 
 
 がしかし。
「うーん、結構歩くわねえ」
「ねえじゃない!アスカが寄り道しようなんて言うからだよ」
「うるさいわねえ、あんただって楽しんでいたじゃな…ひたたた」
「僕は観覧車の中で、誰かさんにこぼされたアイスの始末で大変だったんだ」
「そ、そうでした」
「そんな事よりさあ…」
「ん?」
「どうしよう…」
「僕に聞かないでよ、そんな事」
 そう言うシンジも、どこか語尾が心細い。
 それもその筈で、用が済んだら一旦ホテルまで行っておけばいい物を、何を考えたのか必ず持ってくるように言われた重箱を、アスカは宅急便で送ってしまったのだ。
 しかも列車で一時間以上かかる遊園地まで、シンジを無理に連れ出したのだ。
 シンジが行きたくないと言ったら、シンジが持っていた本までも荷物に詰め込んでしまった。
 仕方なくシンジも付き合ったのだが…道に迷った。
 それはもうきっちりと、間違えようもないくらいに迷った。
 で、二人が何をしているかと言うと、山道をあちこち彷徨っているのだ。
 普通なら、シンジが空を見て星達に道を聞くことも出来るのだが、生憎と今は曇天で天までもが二人にそっぽを向いているらしい。
「あ、そうだアスカ」
「え?」
「これ着ておいて」
「あ、ありがと」
 遊園地で特撮戦隊物のヒーローにさんざん興奮した挙げ句、そのノリでシンジを引っ張り回したのだが、アスカが汗をかいていたのに気付いていたのだ。
 そんなに大量ではないが、冬とあっては話は違う。
 ましてこんな、妙に冷え込んだ冬の山中とあっては。
 が、
「ちょ、ちょっと待ってよシンジ」
「何?」
「あんただって上着の下、そんなに厚着して無いじゃないのよ」
「ああ、僕は大丈夫だから」
「駄目だって、ほら!」
 シンジに、無理に上着を返したアスカだが、何を思ったかシンジにそれを羽織らせた。
 続いて自分が。
「ちょ、ちょっとアスカ?」
「ほらこうすれば暖かいじゃない。ちょ、ちょっと何顔赤くしてんのよっ」
 そう、羽織った上着の中に、自分もすっぽりと収まったのだ。
 二人羽織にも似たような格好で、互いの体温が伝わってくる。
 顔を赤くしているシンジを見つけたアスカだが、その顔もやっぱり赤い。
「ア、アスカ、この格好で移動するの?」
「そ、それはその…」
 何やら考え込んでいたアスカだが、ふと名案を思いついたように手を打った。
「そうだ、良い案があるわ」
「良い案?」
「今日はここで野宿しちゃおうよ」
「え゛!?」
「だってほら、シンジだってお腹空いたでしょ。空腹で動き回ると体力消耗するし、それにこの格好ならきっと凍死しないかなって、その…」
「う、うん…」
 確かにアスカの言うとおり、二人とも既に空腹の虫が騒ぎ出している所であり、その上方角も適切に掴めているわけではない。
 幸い、辺りには草の茂っている所もあるから、そこでなら二人固まって夜を明かせない事もない、とは思われた。
 が、それはすなわち高校生の、つまり盛んな頃の男女が二人で一晩くっついて過ごす事であり、シンジに取っては、
(せめて連絡くらい入れないと、おばさん達が心配するだろうし…やっぱり、電波の届く所に迄はなんとか行った方が…)
 律儀に心配していたが、
(で、でもそれって一つ屋根の…じゃなくってこ、これがあの青姦ってヤツ!?いきなりそれになっちゃうのっ?)
 ある意味呑気な事を考えているアスカは、一人で顔を赤くしていた。
 が、結局、
「いいよ、そうしよう」
 とシンジが頷いたのは、むやみに動いてアスカに怪我でもあってはと、そっちを懸念したのだ。
 アスカも、いい友人を持ったと言える。
「じゃ、じゃあ…」
「うん。でもここは草が低いから、もう少し草の高い所に行こうよ」
(草の高い所?それって「せっかくの初体験なのに、草がベッドで悪いけど…」「いいのよ、シンジが相手なら何処だって…」ってそんな感じ?キャッ)
 足元が見えないところで妄想に耽るものじゃない。
 しかも、体勢は殆ど二人羽織状態なのだ。
 ずる、と足を滑らせて転び、しかもそのまま回転してしまった。
 幸い、数メートルも行かずに止まり、慌ててシンジが起こしに来た。
「な、何やってるんだよもう、大丈夫?」
「あ、あたしは大丈夫だから」
 まさか瞬間トリップした等とは言えず、
「シンジと二人もいいかなあ、なんてちょっと思って…あっ」
 晩ご飯を考えた、とか明日の事を考えたとか言うと、雰囲気が暗くなるかと思ってわざと逸らしたのだがそれが裏目に出た。
「ア、アスカその…」
「な、何を別にあたしは…」
 何やら妙な空気が流れたが、ちょうど次の瞬間。
「今晩は〜」
 「出たあーっ!お化けーっ!!」
 アスカはともかく、周囲から秀才の呼び声も高いシンジまで逃げかけたのは、失礼と言うものだろう。
 その証拠に、
「ちゃんと手も足もあるよ。心配しなくてもいいさ」
「恐がりなのね」
「『え?』」
 と、二人は揃って振り返った。
 
 
 
 
 
「まあまあ、アスカ」
 ぶっ殺す!と危険な台詞を喚くアスカを後ろから抑えて、シンジはよく似た容姿の二人に、
「じゃあ、ここへは宿を探しに?」
「うん、前にも来たからね」
 青年の方は銀髪、連れの娘は蒼髪であった。
 ただ二人に共通しているのは、色素を喪ったように白い肌と滴る鮮血を凝縮したような赤い瞳。
「前?」
 治まったらしいアスカに、やっとシンジは手を放せた。
「この近くに、大きくは無いけれどホテルがあるのさ。今からそこへ行こうと思っていたんだけど…」
「迷った訳ね」
「あなたもでしょう」
「何よあんた!」
「ちょ、ちょっと止めてよアスカ」
「止めなよレイも」
 蒼髪の娘も、アスカに比せる程の美人だが、美人同士は相容れないと言う法則でもあるらしい。
「ふんっ」「……」
 二人は同時にそっぽを向いた。
「やれやれ、困った物だね」
 カヲルに笑みを含んだ赤瞳を向けられ、
「う、うん…」
 シンジは曖昧に笑って誤魔化した。
「さてと、姫達がまた揉めない内に、宿を早く捜そうか」
「そ、そうだね」
 何となく、奇妙な視線を向けられているような気がしたが、経験者に勝るものはないしと、シンジは頷いた。
 ところが。
 
 
 
 
 
「え?部屋が空いてない?」
「はい、全室満室となっております」
「ど、ど、どういう事よっ」
 どうもこうも、現在は冬休みの最中であり、ホテルに空室を求める方が難しいのかも知れない。
 まして、明日はもう正月である。
 この時期に空いてるとしたら、ホテル側も困っただろう。
「そんな事言ってあんた、困ってるあたし達を放り出そうって言うのっ?」
「そ、そう言われましても…」
 とその時、シンジが壁にある物を見つけた。
「あの、その部屋は?」
 その途端、あきらかにぎくりとなったフロントが、
「い、いえこれはそのっ」
「空いてるんですね?」
 職質を受けた逃亡中の強盗みたいな態度に、一応シンジが聞くと、
「ええ…」
 頷くのと、
「じゃ、さっさと貸しなさいよっ」
 アスカがひらりとカウンターを乗り越えて、壁からキーを取るのとがほぼ同時であった。
「あ、あのちょっとお客様っ」
「これで文句無いでしょっ!」
 バン、と叩き付けるように置かれたゴールドカードに、
「け、結構でございます…」
「ふん、最初っからそう言えばいいのよ。さ、シンジ行こ」
「待ってアスカ」
「え?」
「カヲル君達も泊めてあげようよ」
「えー!いやよ、あたし。なんであいつらまで一緒に」
「だってほら、会わなかったらこの場所だって分からなかったんだから。ね、いいでしょ?」
「うー…」
 不満げだが、シンジの言うことは正論である。
「わ、分かったわよもう」
 明らかに不満げな顔ではあったが、
「あんた達も一緒に来るのよ、ほら!」
 反応も待たずに、すたすたと歩いて行ってしまった。
「いいのかい、シンジ君?」
「ああ、いいんだよ。だって、カヲル君達に会わなかったら、今頃野宿している頃だから」
「そうか、じゃ遠慮なくお邪魔するよ。さ、レイ行こう」
「ええ」
 自分とアスカ、二人分の名前を記帳してから、
「じゃ、カヲル君達も名前書いておいてね」
 シンジはアスカの後を追った。
 が。
 
 
 
「カヲル君達?あの青年は何を言ってるんだ?」
 歩いていくシンジ達を見送ったフロントの男は、怪訝な顔をして呟いた。
 
 
 
 室内には、ダブルベッドが二つ置かれており、
「カップルで、それぞれベッド一つだね」
 当然のように言ったカヲルに反発しかけたアスカだが、
(と言うことは…あたしとシンジでベッド一つ?)
 考えるまでも無い結論に、すうっと顔が赤くなった。
 あんた達は床よ、そう言おうとしたが寸前で止めた。
 一つ床で…と言う思想が勝ったのである。
 その後は、食べに行こうとしたらアスカとレイが険悪になったので、仕方なくシンジ達はルームサービスにしたり、シャワーの順番でまた二人が喧嘩したりと色々あったが、シンジの胃の粘膜を傷つけて、ようやく就寝時間になった。
「じゃ、じゃあ電気消すよ」
「うん、いいよ」
 掛けた声が、どこかげっそりしているのは、仕方のない事だったろう。
 電気を消した後、
「ちょ、ちょっとアスカ」
「何よ」
「あんな喧嘩する事無いじゃない。どうしたの?」
「気に入らないのよあの女。それともシンジ、あたしよりあの女の味方するって言うの?」
「いや、そう言う訳じゃないけどさ…」
「じゃ、放っといてよ。女同士の問題なんだから」
「は、はあ」
「もう寝るわよ!」
 反対側を向いたアスカだが、気分は最悪であった。
 とにかく、綾波レイと言う女が気に入らないのだ。
 それも悉く。
 こんな事なら、シンジと二人夜空の下でも過ごした方がましだったと、思い切り後悔している所だ。
 加えて、初めての外泊とは言えこんな状況では、ムードも何もあったものではない。
(どれもこれも全部、あの女のせいよっ!)
 明日の朝、浴場で頭から沈めてやろうと固く決意したアスカだが、何時しか眠りに落ちていた。
 
 
 
 
 
(あ、トイレ…ん?)
 ふとトイレに行きたくなり、アスカは目が覚めた。
「あっ、はっ、はあっ、ああんっ」
(!?)
 くぐもった声に、瞬時に意識が覚醒する。
(あの女、やっぱり病気持ちだったのねっ)
 レイが何か病気を持っていて、うなされていると思ったのだ。
 浴槽に突っ込んでやると決意していたが、その前にうなされていると気味が悪い。
「全く何やって…!?」
 女が二人絡み合っている−アスカの目には一瞬そう映った。
 そう見えるほど、仄かに浮かび上がった二つの裸身は真っ白だったのだ。
(あ、あの女と渚?)
 俯せになった腰を上げたレイが、背後から責められており、カヲルが腰を動かす度に、肉のぶつかる音がする。
「あ、あいつら…」
 アスカとてもう、尻に蒙古斑のある娘ではない、彼らが何をしているか位知っている。
「カ、カヲルぅ、もっと、もっと奥までえ、ふああっ」
(ちょ、ちょっとやだ…)
 ふと頬に手をやると、急激に熱くなっていた。
 電気の下で見れば、きっと真っ赤な顔に違いない。
 取りあえず、シンジをたたき起こして文句の一つも言ってやろうと、
「ちょ、ちょっとシンジ起きてよ」
「んあっ?」
「ちょっとほら起きてってば」
「んげ?」
「んげ、じゃなーい、起きろー!!」
 つい大きな声を出してしまい、シンジが床に転がり落ちるのと、カヲル達の動きが止まるのとが、ほぼ同時であった。
 
 
 
 
 
「な、何をしているの…?」
 これも、一瞬で意識が戻ったシンジが、どこか震える声で聞いたが、カヲルは悪びれた様子もなく、
「ご覧の通り、愛の証さ。まさか、君たち未体験な訳じゃないだろう?」
 当然のように聞き返されて、
「『そ、それは…』」
「あの娘では手を出す気にもならないわ。さ、カヲル後六十二回よ」
 尻から貫かれたままのレイが、冷静な顔で促した。
「あ、あんたっ!」
 思わず掴みかかろうとしたアスカだが、
「ん?」
「どうしたの?」
「なんか焦げ臭くない?」
 さあ、とシンジが首を捻った所で、また前後の運動を開始したカヲルが、
「ひどい話だと思わないかい?」
 とても、女を貫いているとは思えないような声で話しかけた。
「な、何が?」
「大晦日にね、ホテルに泊まった恋人達がいたんだ。ごく普通の仲がいいカップルだったよ。ただ問題は、女の子の方が少しエッチだった事だ」
「『?』」
 二人揃って首を傾げたところで、
「あっ、ふふあっ」
 レイが高い声で喘ぎ、仲良く頬を赤らめた。
 それに気付いたのかどうか、
「彼女が彼氏に除夜の鐘を、すなわち百八回突いてと言ったんだ」
「ひゃ、百八回?」
 二人とも痴態から視線が離せず、それでいて性的興奮が妙に冷めているのを感じていた。
「そう、百八回さ。その回数連続して突くまでは、体位を変えて何度でもと言ったのさ。彼氏の方はなんとか応じようとしたけれど、なかなかそこまで行かなかった。だから、イク度に彼女がくわえて、口の中で大きくした。なんとか持ちそうだったのは、五回目に正常位を取った時だった。でもね、八十三回までしか保たなかったんだよ。どうしてか分かるかい?」
「そりゃ勿論、男の方が短小早漏だったからに決まってるじゃな…ふぐっ」
「アスカ!」
 口を手で押さえて置いて、
「…それは…奥まで突かれた彼女が、ぴんと足を突っ張った時に、何かを蹴飛ばしたんじゃないのかい?」
「え?」
 何を言い出すのかと、シンジの顔を見たアスカだが、
「その通りだよ、シンジ君」
「!?」
 愕然と振り向いた。
 そう、その幽鬼のような声に。
 それと同時に気が付いた−はっきりとした、物の燃えている臭いに。
「ど、どういう事よシンジっ?」
「四十八手を全部試そうとしたわけではないわ。ただ…百八回突いてって言っただけ。それなのに…何が悪いの?」
 じゅぶ、と肉竿がレイの中から引き抜かれ、レイは股間から愛液を滴らせたままこちらを向いた。
「間違いよね」
 立ち上がったレイが言った。
「間違いだよね」
 とカヲルが言った。
 股間の物を、隆々とそびえ立たせたままで。
「『愛し合う恋人達が、火事なんかでそれを邪魔されるなんて』」
 死神のような声を聞いた時、やっとアスカにも分かった。
 迫ってくる炎を見た時、やっとアスカは気が付いた。
 すなわち、その恋人達とはカヲル達の事なのだ、と言うことに。
 そして快感で足を突っ張らせ、蝋燭を蹴飛ばしたのはレイのなのだということに。
 おそらく、大晦日だったせいか、ムードを盛り上げるべく室内は蝋燭になっていたのだろう。
 或いは、蝋燭を使った前戯でもあったのかも知れない。
「あ、あんた達…」
「教えてくれるわよね?碇君」
 艶めいた肌になったレイが、その手を伸ばしてきた。
「言ってくれればいいんだ。そう、僕達は死んでいないっていう事を。そうしたら教えてあげるよ」
「な、何をよ」
 不思議と声は出た。
「百八回、突き上げられる快感よ。スワッピングもいい物よ」
「なっ!?」
 次の瞬間、アスカは身体が宙に浮くのを感じた。
 正確には、自分が抱き上げられたのを。
「悪いが、初体験は生者とのセックスに決めてるんだ。死者とは、交われないよ」
 言うが早いか、シンジはアスカを抱いたまま一気に窓へと跳躍した。
 派手な音と共にガラスが割れて、アスカはシンジに抱かれたまま落下していった。
 
 
 
 
 
「それにしても、色んな意味で初体験て感じだったね」
「まったくあの馬鹿経営者がー!!」
 思い出しても腹が立つ、と言った感じのアスカの口調に、シンジはうっすらと笑った。
「もういいじゃないの」
「良くないわよ!」
「これでも?」
「う…」
 自分が勝手に泊まると言ったにも関わらず、あの部屋に幽霊伝説があった事を知ったアスカは、ホテルのオーナーからとんでもない額の慰謝料をふんだくった。
 そしてその戦果が、部屋の隅に山と積まれた品物なのだ。
 荷物持ちにされたシンジは、さすがにぐったりしている所だ。
 そのシンジにぴとっとくっつくと、
「ねえシンジ」
「何?」
「百八回ってさ、多分普通でも行ける回数だと思うのよね」
「え゙!?」
「だからさ…試してみようよ」
「ア、アスカっ?」
「だってさ、親軍団が誰もいないんだもの。ね?」
 アスカの言うとおり、碇家も惣流家も、親は誰もいない。
 電話で詰問したら、数日は泊めてくれるように向こうの家に頼んだのだと言う。
 自分達が温泉に行っている所を見ると、最初から厄介払いのつもりだったらしい。
「ア、アスカ初めてなんじゃ…?」
「分かってないのねえ、シンジは。いい?姫はじめっていうのは松の内の間に処女を喪うことで、その子は一生幸せになれるって言われているのよ。あたしのために、協力してくれるわよねえ?」
 言うが早いか、アスカはさっさとシンジに唇を重ねていく。
 刹那躊躇ったシンジだが、一気に侵入してくる舌を柔らかく受け止めた。
 そのまま、ゆっくりと二人はソファの上に倒れ込んでいった。
 
 
 
 
 
 この数日後、妙に肩を寄せ合った親たちが帰ってきた。
 さっさと子供達が帰ってきた事を知り、ご機嫌取りにあれこれ買って置いたのだが、
「お帰り〜」
 もっとも扱いに困ると思われた娘が、妙に機嫌のいいことに気が付いた。
 そして両家の母親が、どうも歩き方が変だと気付くのは、その数時間後の事であった。
 すなわち、自分達が初めて抱かれた後のそれに、よく似ていると。
 
 
 
 
 
 姫はじめとは、正月早々処女喪失じゃあ、ありません。
 勢いでヤルと、成人の日辺りにはもう後悔する物です(大謎)
 
 
 
 
 
(了)