恋人達の事件簿「星降る夜にあなたと」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(まーた、あの馬鹿居眠りしてる…)
 ふと、ノートの手を休めたアスカの耳に、すやすやと寝息が聞こえてきた。
 音源は斜め前の碇シンジ。
 完全に突っ伏して、静かだが寝息を立てている。
 ま、授業中は退屈な物と決まっているし、たまに寝るにはさして支障もあるまい。
 ただし、この少年最近は殆ど寝ている。
 このあいだ職員室へ行った時、何人かの先生たちが話しているのを、アスカは聞いてしまったのだ。
 もっとも、誰が見ても一目瞭然だから、別に驚くことでもないのだけれど。
 が。
 今は寝るにはもっとも間が悪い、と言える。
 何しろ、“金髪のお時間”なのだから。
 
 カッカッカッ。
 
(ほら来た、あの馬鹿)
 黒板に、ここがポイントだと書いていた赤木リツコが、つかつかと歩いてきたのだ。
 左手には教科書を、そして右手には勿論。
「相変わらず良い度胸ねえ」
 その手にある小さな袋を見た時、逆に全員が引いていた。
 彼女が袋の中から取りだしたのは、結構大きい氷だったのだ。
「こら、起きなさい」
 とこれは、蚊の鳴くような声で耳元に囁いた。
 当然起きない。
 ささやきを三度繰り返した後、仕方ないわねえと嬉しそうに呟く。
 そして、おもむろに氷を取り出すと、よりによってシンジの襟元から中に入れたのだ。
 
 「うっひゃあああっ!?」
 
 さすがのシンジも、これにはたまらずがばと跳ね起きた。
「おはようシンジ君。良い夢見れたかしら?」
「あ、赤木先生…」
「何度呼んでも起きなかった君が悪いのよ。それと、今度からこうやって、ひんやりと起こしてあげるからそのつもりでいてね?」
 冷たすぎて、むしろ背中が痛い位になっているシンジに、どこか危険な笑みを見せたリツコ。
 半端に染めた金髪が、それに危険な雰囲気を添えている。
「そ、そんなあ」
 何とかして氷を取ろうと、もじもじしているシンジに、
「ああそれ、あと三十分は絶対に取れないわよ」
 とんでもない事を言いだした。
「え!?」
「私の授業はあと三十分、起きているにはちょうどいいでしょう」
 確かに正論だが、その辺の体罰教師も真っ青な事を言ってのけると、
「さ、授業を続けるわよ」
 その言葉に、半ば呆然としていたほかの生徒たちも、慌てて教科書に目を戻した。
 
 その様子を見ていたアスカは、
(い、いくら何でもやりすぎじゃないのよっ、あの金髪女がー!)
 内心で毒突いてから、自分でも驚いた。
(あ、あれ…あたしが何でそんな事気にして…)
 なぜか顔が赤らんでいると、自分でも気づいたアスカは、うち消すようにぶんぶんと首を振った。
 が、早速リツコの目に留まり、
「はいアスカ、続き読んで」
(ふん、あたしが引っかかる訳ないでしょうがっ)
 ちゃんと付いていっているんだと内心で舌を出したが、無論表面には出さず、
「はーい」
 楚々と立ち上がって、続きを読み始めた。
 
 
 
 
「はい、今日はここまで」
 チャイムが鳴り、号令が掛かって全員立ち上がり、一斉に座るのはいつもの光景。
 そして、
「いい、黒板はちゃんと綺麗にしておくのよ」
 と、リツコが念を押すのを忘れないのも、いつもの光景だ。
 そして。
「あ、あのさ惣流さん…」
 と、シンジがやって来るのも。
「何?」
「あ、あのさ…ノート、見せてもらってもいいかな」
 いつもの台詞をシンジが口にする。
「んー、別にいいけどさ」
 差し出したノートを受け取りながら、
「いつもありがとう」
 いつものように、軽く頭を下げるシンジ。
「いいわよ、いつもの事なんだから。それよりあんた」
「え?」
「背中大丈夫なの?」
「あ、ああこれ?」
 ちらっと背中を見やってから、
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
「ばっ」
 ぽっと赤くなり、
「べ、別にあたしはちょっと気になっただけでっ。そ、それよりほらさっさと写しなさいよっ」
「ああ、そうだね」
 ノートの模写を始めるシンジを見ながら、自分の表情がシンジに悟られなかったかと、アスカは内心どきどきしていた。
 だがそれも一瞬のことで、すぐにシンジが写している姿をぽうっと眺めていた。
(ふふ、写してる写してる。ま、きれいに書いてあるんだから当然よね)
 でも、最初から整然と書いてあった訳ではないことを、ふとアスカは思い出していた。
(初めは何時だったっけ?確か…)
 
 
 
 
 
 初めは、ただの居眠りだと思っていた。
 だから、英語の時間に居眠りしていて、担当の時田に立たされていたシンジに、
「ほら、今日の所試験に出るんだから、写して置きなさいよ」
 と、ちょっとぶっきらぼうにノートを渡したのだ。
 線も細いし結構いい感じだと、女子からは密かな人気も高いらしいシンジだが、アスカには関係なかった。
 学校は勉強しに来る所と言う、今の教師が聞いたら泣いて喜びそうな発想も、アスカにとっては当然なのだ。
 最難関の国立大学、親は私立に行ってもいいと言うが、栄光は自分の手で取ってみせると、アスカには第一志望しか存在しない。
 だから今まで、勉強のみにその才能を向けてきたし、学校へのんきに来る連中の方が、却ってアスカには奇妙であった。
(いったいあんた達、何のために生きてるのよ)
 こんな事をアスカが考えるのは、どうせ漫然とここを出て、適当に就職して適当に家庭を作る、要するにありふれたレールの上を歩くのだと分かり切っていたからだ。
 そのアスカから見れば、殆どの授業ですやすやしているシンジは、外道以外の何者でもないような感じだが、最初はたんなる気まぐれだったろう。
 でも、自分専用にびっしり書き込んであるそれを、
「ノート有り難う。惣流さんのって、丹念に書いてあって、まるで先生のノートみたいだね」
 なんて言われた物だから柄にもなく、
(それって、ごちゃごちゃして見づらいって事かしら?)
 などと思ってしまい、
「ほら、どうせ要るんでしょ」
 ちょっとヤな感じで貸した二回目には、ちょっとノートの内容が変化してみたり。
 何時からだったろう、
「惣流さんのノートって、見やすいよね」
 シンジにこんな事を言われると、頬がちょっと赤くなるのを自覚するようになったのは。
(あたしの目標は変わっていないし、別にシンジなんかには興味ないわよ)
 と内心で言いながらも、シンジが自分のノートをほぼ毎時間写しているのを、殆どその度に目で追ってしまうし、そして。
「終わったよ。いつもありがとう」
 シンジが席を立って返しに来ると、
「べ、別にいいわよ。こんなのわざわざやってるんじゃないし」
 可愛くない事をつい言いながらも、内心では褒められているようでやっぱり嬉しいのだ。
 
 
 
 
「ところでさ、碇」
 アスカがシンジに声を掛けたのは、その日の昼休みであった。
 何となく声を掛けたのだが、今までノート以外の件では殆ど話などしなかったから、シンジもちょっと驚いたようにアスカを見た。
「え、何?」
「い、いや用って言うほどの物じゃないんだけど…ちょっと付き合わない?」
「う、うん」
 先に歩き出したアスカに、引かれていくようにシンジが続く。
 二人が出ていく所へ、珍しい事もあるものだと周囲の視線が一瞬向いた。
 ただし、冷やかす事もないのは、アスカに友人がいないからだ。
 勉強が出来る云々より、目的が違う連中は相手にしないと、しばしばアスカが態度に出してしまうせいで。
 
 
 
 
「何?惣流さん」
 アスカが着いた所は、屋上であった。
 普段なら何人かいたりするのだが、今日に限っては誰もいない。
 もっとも、アスカに取っては入学当初の校内見学以来、一度も来たことはない。
 思いつく所、と言えば図書室とか用具室位しかなく、前者は人がいっぱいいるし、後者はさすがにちょっと変だとここにしたのだ。
「あんたさあ…何で寝てるの?」
(そ、そうじゃなくてっ)
 こんなトゲトゲした言い方をする気じゃなかったのに、と思ったがもう遅い。
 シンジは気を悪くした様子はなかったが、
「め、迷惑だったかな」
「え?」
「ノート、いつも借りっぱなしじゃ迷惑だよね」
 もういいから、と言われそうな気がして慌てて、
「べ、別にそれはいいのよ気にしなくて。寝てる人がいて、落第したらクラスメートとして気分が悪いじゃない」
 だが、赤点取るなんて人間の出来損ないよ、と普段アスカは堂々と公言している。
 単に、シンジが知らないだけだ。
「ただ、最近よく寝てるじゃない。どうしてかなって思って」
 訊ねてから、ふとアスカは後悔した。
 もしそれが、家の事情で内職をしているとかだったら、悪いと思ったのだ。
 それに、普通に考えればそっちの理由の筈なのだ。
 いくら何でも、高校生になってまでゲームに毎晩はまってもいないだろう。
 が、シンジは奇妙な行動を取った。
 すぐには答えず、上を見上げたのだ。
 つられてアスカも上を見上げ、
「いたたたた」
 首が変な音を立てたから、慌てて元に戻した。
「ちょっと碇!」
「星なんだ」
「え…?」
 言われて、今度は首に手を当てながら上を見たが、別に星など見えない。
「そんな物ないわよ」
「夜だよ」
 くすっと笑いながら、シンジがアスカの顔を見る。
 なぜかその顔がまぶしく、アスカは視線を逸らして、
「て、天体望遠鏡で見てるわけ?」
「違うよ」
 とシンジは首を振って、
「夜の学校は、結構簡単に入れるんだ」
「あ、あんた夜ここに来てるの?」
 うん、とシンジは薄く笑って、
「さすがに天体望遠鏡は持ってこれないからね。それに」
「それに?」
「直に見てる方が…なんて言うか気持ちが優しくなれるんだ」
「あ、あんたねえ…」
 バッカじゃないの、と言いかけてさすがにアスカは止めた。
 自分の生き方、常に高みを見る生き方が、今の時代に流行らないのは十分に分かっている。
 でもアスカに取って、それを変える気は全くないし、それを見下すような奴がいたら、絶対に許さないだろう。
 違う生き方、それを容認できないほどアスカは狭量ではなかった。
「でも碇、あんたさ」
「え?」
「今はお星様を眺めてます、でもいいけどさ、将来はどうするのよ」
「将来?」
「ずっとここの校舎に侵入して、屋上から星を眺めている訳にも行かないでしょ」
「ああ、そうだよね。でも…今は考えていないかな」
 別にシンジが悪い訳ではない。
 目標を上方に置き、それに向かって邁進しているアスカを馬鹿にした訳ではないのだ。
 だが、なんとなくむかむかして、
「そっ、まあせいぜい一生眺めるのねっ」
 呆然としているシンジを置いて、走りだしてしまったアスカ。
「そ、惣流さ…」
 手を伸ばしかけて、その手が空中で止まる。
「何か悪いこと言ったかな…」
 首をひねったシンジだが、無論答えは出てこなかった。
 
 
 
 
 
「何よバカ…」
 自分が悪いのは分かっている。
 勝手にシンジを引っ張り出して事情を聞き出した上、急に怒り出したのだから。
 それに。
「あたし、どうして怒ったんだろ…」
 シンジの言いぐさがしゃくに触った、訳ではない。
 別に嫌な事を言われた、訳でもない。
 ではどうして?
 自分でも出ない答えに、少しもやもやした気分のまま、アスカは廊下のゴミ箱をぽかっと蹴飛ばした。
 そこまでは良かったが−いや器物の破損は良くないが、
「惣流アスカね?」
 後ろから聞こえた声に、びくっとその肩が動いた。
(げっ、葛城ミサト…)
 振り返らなくても分かっている。
 リツコとは対照的な性格で、たいていの事にはおおざっぱである。
 従って、どちらかと言えばリツコ的な性格のアスカとは合わない。
「廊下の物に八つ当たり、男にでも振られたのかしら」
「よ、よ、よけないお世話よっ」
「そう、余計なお世話よ。でも、器物損壊の責任は取ってもらうわよ。さ、来なさい」
 優等生で知られるアスカだが、この初めて始末書を書かされる羽目になった。
 
 
 
 
 結局、教室に帰ってきたアスカは、シンジと口をきく事はなかった。
 シンジも訳が分からないから、話しかけたそうにしてはいるのだが、その度にアスカの無視に会って仕方なしに視線を戻す。
(あたし、何してんだろ)
 一言、ごめんねと言えば済む話なのだが、どうしても言えずに結局午後の二時間過ぎてしまった。
 授業が終われば、後はゼミへ直行のアスカはさっさと教室を出た。
 ただ、背中に刹那視線を感じた足取りは、普段の数倍重く。
 帰ってくる模試に、かなりの自信があるにもかかわらず。
 
 
 
 
 
「シンちゃーん」
 はーあ、と廊下をとぼとぼ歩いていたシンジに、後ろから脳天気な声が掛かった。
 なんか今日は気分が重く、星を見に来るのも止めようかと、かなりブルー状態である。
 なお普通、そんな時に脳天気な声はかなり響く。
 シンジも例外ではなく、
「な、何ですか…?」
 半分死んだような声で返したから、これにはミサトがびっくりして、
「どうしたのよ?まるでゾンビみたいな声しちゃって」
 ゾンビの屍声を聞いた事があるのか、突っ込む気力もなく、
「いいんです、放っておいてくださ…うっ」
「だめよん」
 言い終わらぬうちに、シンジの顔はミサトの胸に埋もれていた。
 僅かに香る甘い匂いに、シンジの表情が陶然となるのを体で確認してから放した。
「で?」
「そ、それがあの…」
 言いよどんだシンジに、何となくぴんと来たミサトは、
「さ、お姉さんに話してごらんなさい。ゆーっくりと訊いてあげるわよう」
 がしっとシンジをつかむと、そのまま連行していった。
 
 
 
 
「ふうん、なるほどねえ」
 シンジの話を聞いたミサトは、ふふふと笑った。
「な、何ですかっ」
「ま、大丈夫よ」
「はあ?」
 何が大丈夫なのか、さっぱり分からない顔のシンジに、
「ま、あの子も一応女の子だからね。ぎりぎりの所で大丈夫でしょう」
「ど、どういう事ですか?」
「心配しなくてもいいって事よ。ま、お茶でも飲んでいきなさいよ」
 がたっと立ち上がって、薬缶を火に掛けたミサトに、
「何が大丈夫なんだろ…」
 さっぱり分からないと、相変わらずシンジは首を傾げていた。
 
 
 
 そしてその晩。
 
 
 
「なんか…あまり綺麗じゃない気がする」
 ごろんと屋上に寝転がったシンジの視線の先には、瞬いている星空がある。
 気温はちょうど良く、昼間の温度がまだ残っているから、下は冷え切っていない。
 適度な感じで暖かかいから、半袖でもちょうどいいのだ。
「今日のあれ…何が悪かったんだろう」
 
 
 別にシンジは悪くない。
 
 
 ただ、進路に賭けている心理は、シンジには分からない。
 しかも、ミサトの言葉でいっそう迷っている状態だ。
 だから、星が少し曇ってみるのも仕方ないかも知れない。
 はああ、とため息をついた時、後ろの方でドアが開いた。
「えっ?」
 びくっと一瞬起きあがったが、その目が点になった。
「そ、惣流さん…」
  
 
 
 
 
「な、何であたしがこんなの…」
 アスカが書棚から取ったのは、“コミュニケーション”と題した本だが、副題には“彼氏・彼女と喧嘩した時の解決法”と書いてある。
 辺りを見回してから、さっと手に取ったのだが、“万引きは即通報します”とあちこちに書いてあり、挙動不審なアスカの様子に、店員の目が光った事に気が付いていない。
 ふんふん、と読んでいく様子に、とりあえず万引きではないと知ったらしいが、今度ははたきを持って立ってきた。
「おほん、ごほごほんっ」
 わざとらしい咳払いに、何すんのよと言おうとして、それが店員だと気が付いた。
 そして、自分が店内で立ち読みならぬ座り読みしている、唯一の客だということにも。
 この日彼女は、生まれて初めて恋愛系の本を買うことになった。
 
 
 
 
 
「あ、あのさ…」
 ゼミの帰りに立ち寄ったアスカの脳裏には、本に書いてあった内容がインプットされている。
 
 あたしが悪いんだし、取りあえず謝らなくちゃ。
 
 そう思って来た。
 でもって、シンジの横に腰を下ろすまでは何とか出来たのだが。
 さりげなくが基本だけど、完全にロボットみたいな動きは怪しすぎる。
 一体どうしたのかと、と言うより怒られるような気がして、シンジの方はアスカの方をちらちら見ている。
 だものだからアスカも、何となく切り出しづらくて、お互いにちらちらと相手を見ては、さっと逸らすのが続いた。
 そして数十秒後。
「『ごめんっ』」
 二人の第一声がこれであり、二人で顔を見合わせて笑い出したのは数十秒後の事であった。
 
 
 
 
「なんだ、碇も気にしてたんだ」
「だって、惣流さんが急に怒るから」
「あれはさ…私が悪かったのよ、悪かったって」
「そんな事ないよ、僕も余計な事言ったから」
 どこかお人好しにも聞こえるその言葉に、
「やっぱりいつも星を眺めてる人は違うわよねえ」
「え?」
「あたしも星とか眺めれば、も少し可愛くなれるのかな…」
 つい呟いたアスカに、
「そんな事ないと思うよ」
 シンジは、上を見上げたまま首を振った。
 聞き逃す所だったが、
「い、今なんて…?」
「だって、惣流さんって頭もいいし、それに僕なんかにノート見せてくれるし、や、優しいと思うよ」
「そ、そんなこと…」
 かあーっと赤くなりながら、
「で、でもさ…ほ、褒められていやな気のする女の子って…い、いないわよね」
「え…んっ」
 小さく開いたシンジの唇に、キスした気分は自分でも分からなかったかも知れない。
「そ、惣流さん…」
「ほ、ほらこんなにドキドキしてる…」
 シンジの手を、言葉の通り大きく上下した胸にそっと当てた。
「あ、あの…」
「だ、だ、だからその…し、静めてくれる…?」
「う、うん…」
 身を起こしたシンジが、そっとアスカを抱き寄せると、そのままアスカをゆっくりと倒していく。
「や、優しくしてね…」
「うん」
 僅かに荒い息が二つ。
 そしてその一方が、だんだんとあえぎに変わるのに、さほど時間は掛からなかった。
 
 
 
 さて次の日。
 
「惣流さん、どうしたの?」
 アスカが学校に来なかったもので、シンジが見舞いに行ったのだが、
「こら、違うでしょ」
「え…あ、ああごめん…ア、アスカ」
 一晩で呼称が変わったようだが、何とか言えた。
「そう、よろしい」
 偉そうに頷いたが、ベッドの中ではあまり効果がない。
「それで…大丈夫?」
 怪我した様子もないし、別に病気にも見えない。
「風邪?」
「違うわよ」
「…おたふく?」
「違うっての」
「怪我?」
「違うわよ、ほんとに鈍いんだから…」
 その時やっと、シンジはアスカの顔が赤いのに気が付いた。
「…になっちゃうのよ…」
「え?」
「股になっちゃうの…」
「はあ?」
「だ、だからがに股になっちゃうのよっ!これじゃ処女無くしたってすぐばれちゃうでしょっ!!」
 その途端、二人揃って真っ赤になった。
「そ、それはその…えーと、な、なんか欲しい物ある?」
「薬があるのよ」
「じゃ、水汲んでくるよ」
「ち、違うわよ」
 何?と一歩近づいた所で、ぐいと手を引っ張った。
「ちょ、ちょっとっ」
「これがく・す・りよ」
 昨日からは、想像も付かない甘い声で囁くアスカ。
 ただ、初めてシンジに開発された時、高く喘いだ声からは、何となく想像が付かない事もない。
「ね、も一回しよ」
「で、でも…」
「大丈夫、今日絶対安全日だから。膣(なか)に思いっきり出してもいいわよ」
「そ、そうじゃなくて…」
「うちの両親、今日は泊まるっていってたから大丈夫よ。さ、シンジ〜」
 押し切られるような形で頷いたシンジに、アスカはにっこりと笑って唇を押しつけていった。
 
 
 
 
 
(了)