妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第九十三話:艦長総受けからの〜?居候総受け!
 
 
 
 
 時は、シンジが気乗りしない表情と態度を隠そうともしないまま、ナタルを目覚めさせた晩より三日前にさかのぼる。
 時間の約束はしていないが、夕食もそこそこに部屋へ戻ったマリューが、姿見の前で鏡に映った自らのあちこちを弄りながら、もう三十分近くが経とうとしていた。
 小さく咳払いして髪に触れる。
「おかしくない…わよね?」
 問うてみても、鏡に映る僅かな緊張と期待で目元をうっすらと染めている女は何も答えてこない。
 抱かれるのは初めてではないし、それどころか身体の隅々まで知られてしまっている相手だが、正装してお待ちしています、などと言われると気恥ずかしくてたまらない。
 まるで、異性と初めて会う乙女のように、もじもじしながら同じ動作を何度も繰り返す。
 ただし、格好はTシャツにデニムパンツとこの上なくシンプルなものだ。
 軍人、それも艦長としては不適極まりないが、肉弾接待を受けるにはちょうどいい。 既に夜更けだし、誰かに出くわす可能性はまずない。
 一番大事な――薬の予備も持った。
 ゆっくりと深呼吸して、マリューは姿見に背を向けた。
 部屋を出ると艦内は静まりかえっており、人の気配も全く感じられない。
 ふと窓から外を見ると、白く輝いている月が見える。
 冷たく見下ろしている月を見上げるマリューの脳裏に、砂漠でのことが昨日のように鮮明に浮かんでくる。
(あの時も…月がきれいだった…)
 冷たく接していたのは飽きたり嫌われたからではなく、ナタルとの関係を考えたからで、マリューが心の内を隠しきれないからだと聞かされ、泣きながらシンジに抱きついた。
 一面の砂漠から突如湯が噴き出す、という理解不能な現象にも違和感を感じる事なく、貪るようにシンジに跨がって腰を振り自らの乳首に吸い付き、獣のようなうなり声を上げながら何度も達したのだ。
 何度達したのか、自分でもわからない。
 ただ、噴き出す自分のミルクにまみれながら達する自分と、それを冷たく見下ろす月は記憶に残っている。
(やばっ、濡れてきちゃった…)
 たっぷりと膣内に出され、満足げに上体を倒してシンジにもたれかかった時のことを思い出すと、下半身がもやもやと疼いてくる。
 このまま月を見ていると、記憶だけで軽くイッてしまいそうだと、身を翻そうとした瞬間、腰に固い物が押し当てられた。
(!?)
 刹那、身体を硬直させたマリューだが、すぐにその表情は緩んだ。
「こんな夜更けに何のご用かしら、ミーア?」
「…もう、つまらないですわ。どうして私だとおわかりになりましたの?」
「艦内に外部から敵が侵入するのは不可能だからよ。それと、この艦内でこんな事をするのは二人だけ。もう一人があり得ない以上、貴女しかいないでしょう――で!」
 んっ、とミーアが小さくあえぐ。
 振り向かぬまま、にゅうと手を伸ばしたマリューが腰に押し当てられたものを掴んだのだ。
「この黒くて固くてあつーい銃は何かしら?」
「も、もぅ、マリュー様、そんなにきゅっと握られたら出てしまいますわ。マリュー様の手に掛けてもよろしくて?」
「大迷惑よ」
 手を離したマリューが振り向くと、そこにはうっすらと頬を染めたミーアが立っていた。
「それで、私に牝ちんぽを押しつけて、何の用だったの?」
 さっさとシンジの部屋へ急ごうと思っていただけに、マリューの声が多少尖っているのはやむを得まい。
「もう一人があり得ない、という事は今宵は逢瀬のお楽しみですわね?でも今晩は、わたくしにお付き合いしていただけませんか?」
「…あなたに?」
 はい、とミーアは微笑って頷いた。
 邪気などみじんも感じられない笑顔であった。
「マリュー様は身も心も満たされておいでです。でも艦内の女達が皆、同じというわけにはいきませんわ。身も心も、どころか身体すら満たされずに持て余す女もいる。艦長として、そんなクルーを放置されるのはいけないこと、そうは思われませんか?」
(……)
 ミーアに害意がなさそうなのは、何となくわかる。
 と言うよりも、今この艦内で自分に手を出せば、それは自らの死刑宣告に直結するからだ。先だって、マリューとミーアが全裸で淫闘を繰り広げた時も、圧倒的優位だったにも関わらず、余計な事を口走ったせいで、大事なところをこんがりと焼かれる寸前だったのだ。
 いくらミーアとて、それをきれいに忘却しているとは思えない。
「一応聞くけど、私に選択肢はないの?」
「いいえ、ありますわ」
 ミーアはあっさりと首を振った。
「碇様はご了解済み。でも、二人きりの濃くてあまぁーい夜を無理矢理妨げる権利など、私にはありませんわ」
 じゃ、私はこれで、とマリューが身を翻さなかったのは、何かは不明だがミーアがカードを持っていると気付いたからだ。
 いくらシンジとて、マリューに付きあわせることまで承諾するとは思えない。
 何を切ってくるのか知らないが、カードを見てからでも遅くはあるまい。
「ただし」
 す、とミーアが取り出したのは黒い小瓶であった。
「お渡しした分は順調に消費中。そろそろ補充が必要な頃ではありません?」
 単純かつ想定外の代物に、マリューはひとつ肩をすくめた。
「残念だけど、それじゃ無理ね。じき、私には不要になるもの」
「不要?」
 刹那、ミーアの双眸に危険な光が宿ったが、マリューは気付かない。
「もうオーブは目前よ。オーブに着いたらシ――」
「碇様はこの艦(ふね)から降りる。私はただ見送るだけ、と?」
「そ、そんなことは…」
「では何故ご不要に?独自に入手するルートをお持ちですの?」
「それは…その…」
 考えたくない事だが、シンジは宇宙にいた時からオーブで降りると公言しており、一度も翻意していない。オーブに着いた後、どうなるかはわからないが、関係が続くと確信するほどマリューは自信家ではない。
 ミーアの笑みは崩れぬまま、瞳はじっとマリューを見据えている。
 その視線に耐えきれず俯いたマリューに、
「想いは告げたし、おっぱいもお尻もおまんこもたっぷり可愛がってもらったから、オーブに着いたらあとはハンカチを握りしめて見送る、なんて事は言わないわよねぇ?」
「……」
 ミーアのストレートで明け透けにも程がある物言いに反応する事も出来ず、マリューが小さく頷く。
「ではこれを、受け取っていただけますわね?」
「…わかった、もらっておく」
「ふふ、それでこそマリュー様ですわ。では、今夜は私にお付き合い下さいませ」
(ん?)
 シンジの部屋へ行く途中、後ろからいきなり牝ちんぽを押しつけられた筈なのに、いつの間にこうなったのかと、首を傾げたが答えは出ない。
(むぅ)
 嬉々としてマリューに腕を絡めたミーアに先導されながら、呑み込んだはずの獲物に内部から体内を食われたヨーロッパクサリヘビみたいな表情をしていたマリューだが、ミーアが医務室の扉を開けた途端、思わず立ちすくんだ。
「な、なによこれ…」
 人の姿は見えないが絶え間なく嬌声が響き、何よりも、鼻をつくような濃密な牝の臭いが漂ってくる。
「もうすっかり出来上がってるようね。ざ、マリュー様、中へどうぞ」
「……」
 高価な私服も軍服も乱雑に脱ぎ捨てられ、危険なほどに牝竿を勃起させた女達が互いに向けて激しく牝竿を扱き、悲鳴のような声を上げて腰を震わせる度に、放出される白濁した愛液が互いの身体に降りかかる。
 顔から腹に掛けて、どちらのものともわからぬ愛液で白く彩られた女達が、とろんと蕩けた瞳をこちらに向けた。
「あ〜、ラミアス艦長ぉ、おそいわよぉ〜はやくはやくぅ〜」
「だめよぅ、パイズリしてもらうのは私が先なんだからぁ。さ、艦長はやくおっぱいぃ〜」
 マリューの眉がピキ、と上がったのを見てミーアは内心で舌打ちした。
(ちっ、こいつら出来上がるのが早すぎるわよ。そんなにアヘ顔晒しまくったら艦長がドン引きしてるじゃないのよ)
「…それで?私はこの欲情したクルー達の身体のうずきを癒やせば良いのかしら?」
(へ?)
 乗り気な事を言い出したマリューに、ミーアは慌てて首を振った。
「ま、まさか。あんなアヘ顔晒して、牝ちんぽもまんこもぐしょぐしょになってる女の相手なんかさせたら、私が黒炭になってしまいますもの。収まるまで、私が相手をしますわ」
 そう言って、ミーアが服に手を掛けた途端、一斉にブーイングが起きた。
「えぇ〜、やだやだかんちょぉがいい!艦長のデカパイでパイズリがいい!」
「艦長のデカパイでパイズリしてもらうまでここから動かないわよ」
(こいつらぁ〜)
 綾香はともかく、軍人のレコアまで牝竿から白い愛液を滴らせながら、デカパイだのパイズリだのと連呼する姿は実に浅ましい――を通り越して腹が立つ。
 確かに、サイズでは若干マリューに負けているのは事実――全裸で乳比べしたから間違いない――だが、ミーアとて決して貧乳ではないし、そもそもこの二人にパイズリなどしてやった事は無い。
 ミーアの乳に飽きたから、という事はそもそもあり得ないのだ。
「…で、どうして私では不足なのかしら?」
 額の青筋を抑えながら訊いたミーアに、
「なんか使い古しみたいだし」「ラミアス艦長と違って、手慣れ過ぎてる予感がするもの」
 それを聞いてミーアの顔から表情が消えた。
「私が使い古し、ねぇ?牝ちんぽ生やしてもらった途端に、アヘ顔晒しながら牝ちんぽ扱いて愛液ぶっかけ合ってたビッチ共にしてはおもしろい事言うじゃない。淫乱ビッチ共にはお仕置きが…ん!?」
 激情、どころか周囲の温度を数度下げたような口調で、ろくでもない事を口走るミーアの肩にそっと手が置かれ、振り向いた途端にいきなり唇が奪われた。マリューは、両手でミーアの顔を捉え、口腔内に侵入してきたマリューの舌がミーアの舌を優しく絡め取る。音を立てて舌を吸われ、口の中を舌で嘗め回されるとミーアの体から徐々に力が抜けていく。
 目を白黒させてキスを受け入れていたミーアの双眸が、濡れてきたのを確認してマリューは顔を離した。
「そんなに怒ったら、折角の可愛い顔が台無しよ、ミーア」
「マリュー様…」
 私は分かっているわ、と大人の風情で頷いたマリューが、綾香とレコアに向き直った。
「ミーアが薬だけじゃなく、この私まで引っ張り出して疼く身体持てあましてるクルーを慰安してくれるっていうのに、言い過ぎじゃ無くて?」
「『…すみません』」
「私に謝るの?」
 声を荒げる事も表情を変える事も無く、糺すマリューに興奮も幾分収まったのか、綾香もレコアも、ミーアに向かって素直に頭を下げた。
「興奮して言い過ぎたわ、ごめんなさい」「あたしも…その、悪かったわ」
「こんな事言ってるけど、どうする?許さなくてもいいわよ」
 暗に謝れと言っておきながら、えらい言い草である。多少口が過ぎたとは言え、火消しさせておいてまた燃料を投下しようとは、いくら艦長でもあまりに横暴だとマリューに二対の恨みがましい視線が向けられたが、無論マリューにそれを気にする様子はみじんも無い。
「うーん…」
 ミーアは少し考えていたが、
「私が許さない、と言ったら?碇様にお話ししてお仕置きを?」
「『!』」
 綾香とレコアの表情が一瞬で青くなったが、マリューは首を振った。
「そんな事しないわよ。今日はこれでお開きにするだけ」
「じゃ、マリュー様は?」
「用が無いのに居ても仕方ないでしょ。私はこのままシ――あ」
(しまったー!)
 元より気乗りしていないし、解散ならさっさとシンジの部屋に行ける、と企んでいたのだがミーアには見透かされていたらしい。
 ミーアがにっこりと笑った――たっぷりと邪気を含んだ笑みで。
「折角マリュー様に来て頂いたのに、寝室へとんぼ返りさせてはあまりにも無粋というもの。ね?」
(ね?じゃないっつーの。私のばかー!)
「そ、そうね。今日は付き合ってあげると言ったんだし、ミーアがいいならそうしないさい」
「はぁい」
(ど、どうなってるのよ)(あ、あたしだって分からないわよ)
 二人には、マリューとミーアの心理戦は分からない。マリューがシンジの部屋に行く途中だった、という事はそもそも知らされていないのだ。
 さっきまでは、切れたミーアをマリューが宥めている煽っているのかよく分からない
弄り方をしており、確かにマリューの方が上位にいたのに、今のマリューは口惜しさを抑えている表情に見える。
「あーもう!分かった、今日はたっぷり付き合ってあげるわよ!」
 何やら諦めたような口調で言うと、マリューは勢いよくTシャツを脱ぎ捨てた。漆黒のハーフカップごと勢いよく揺れる乳房に、綾香とレコアの目が釘付けになる。
 綾香はまだ実物を見たことはなかっし、レコアはあってもこういう状況では無い。
 マリューがナタルと裸で決闘した時とか、常に診る立場からで、こういう状況で見るのはやはり別物だ。淫らに挑発しているようにも見える巨乳からは、どことなく甘い香りが漂っている。
「使わないけど、あたしだけ生やさないのも無粋ね」
 ジーンズのポケットから小瓶を取り出したマリューの手を、今度はミーアがそっと抑えた。
「ミーア?」
 ミーアがふるふると首を振った。
「く・ち・う・つ・し」
 言うなり、今度はミーアの手がマリューの顔を捉えた。軽く目を閉じたマリューにミーアが顔を近づけていき、影はひとつに――ならなかった。
 顔が触れる寸前でミーアの顔が止まる。
 唇を舌で柔く突かれ、マリューが薄目を開けるとそこには誘うように小さく開いたミーアの唇があった。
(えーと?舌?)
 ミーアの意図が分からぬまま、差し伸べた舌がミーアの唇に触れた瞬間、マリューの舌がぱくっと飲み込まれた。
 びくっと身体を強張らせたがそれも一瞬のことで、ミーアは頬を窄めると顔を前後に動かして、マリューの舌を出し入れし始めた。
(こ、これって…舌フェラ!?)
 ブラ越しでも、マリューの乳首が屹立しているのが分かるようになった頃、ミーアはやっとマリューを解放した。
「うふ、舌って牝ちんぽより敏感なのよ。気持ちいいでしょぉ?」
「……」
 マリューは答えなかったが、硬くなった乳首と染まった頬が快感の度合いを物語っている。
 マリューを解放したミーアが、ポケットから小さなカプセルを取り出すのを見て、口移しと言いながら、未だ移していなかったと気づいた。
 もう一度唇を重ねると、今度は嬲ったりせずに舌を絡ませて移し入れる。マリューがカプセルを嚥下するのを確認してから、くい、と自分を指さした。
「私のはもらったわよ?」
 口元を拭ったマリューに、
「…マジで殺すわよ」
 どんな立場であっても、自分たちは絶対に言えないと、見ている二人の背を冷たいものが走ったが、ミーアの表情は本気に見える。
「もぅ、ジョーダンよ冗談」
 薬を口に入れたマリューがミーアの顔を持ち上げて唇を重ねる。ミーアのように舌を弄ったりはしなかったが、すぐには移さずねっとりと舌を絡み合わせた。
 マリューの舌が引けばミーアの舌が追いかけ、ミーアの舌が退がればマリューの舌が後を追う。重なり合った口の間に、時折出来る隙間から二人の混ざり合った唾液が滴り、二人の胸元を伝い落ちる。
 後ろに手を回したミーアがマリューのブラホックを外すと、マリューも応じてミーアの背に手を回し、器用に服を脱がせていく。
 トップレスになると、マリューだけでなくミーアの乳首もまた、完全に勃起して尖っていた。上半身裸で抱き合う二人の間でわずかに大きさの違う巨乳が押し合い、硬くなった乳首がこすれる度に、マリューとミーアの肩がぴくっと震え、淫らで荒い鼻息がもれる。
 混ざり合った唾液で乳房が濡れるのを気にするどころか、乳房を押しつけ合い、唾液をまぶすようにしながら勃起した乳首を弾き合うマリューとミーアの痴態に見とれる内に、マリューに叱られて幾分萎えていた綾香とレコアの牝竿もまた勃起してきた。
 それでも相手に触れることも自慰もしないのは、牝の本能で察しているからだ。
 そう、目の前の二人からもたらされる快楽には遠く及ばないということを。
 吸い合う唾液の音と喘ぎ混じりの鼻音を聞く度に、綾香とレコアの牝竿は角度が上がっていき、切なげに身悶えする二人の前でマリューの牝竿もジーンズを持ち上げはじめ、いつの間に移されたのか、ミーアの牝竿もくっきりと形が分かるようになった頃、漸くマリューとミーアは顔を離した。
 二人とも、互いの混ざった唾液で口元から胸にかけて、淫らに濡れ光り、その顔には揃って欲情の色が浮かんでいる。
「ごちそうさま」
と、ミーアが唇を妖しく拭えば、
「こちらこそすっかり乳首勃起しちゃったわ」
と、マリューが自分の乳房を持ち上げ、ぺろりと乳首を嘗めてみせる。
「『か、かんちょぉ〜』」
 痴態の競演にたまりかね、綾香とレコアの情けない声がシンクロする。
「なに?」
「『…え?』」
 服を脱ぎ捨てたマリューの牝竿はこれも勃起しているが、目は未だ冷静、寧ろ冷徹に二人を眺めている。
「それで?私に何を要求したいのかしら?」
 いきり立った牝竿を押さえながらもじもじしている女二人に、手をつけるどころか、上から見下ろしているマリューを見て、ミーアはその場を後にした。
 受話器を取り上げて番号を押す。
「うーい」
 酔っ払いみたいな声がすぐに出た。
「ミーアです。こんばんは、碇様」
 すぐには反応が無く、数秒経ってから、
「今日は月が綺麗と見えるね」
「どうしてですの?」
「ミーアの機嫌が良さそうだ。声に艶がある」
 ふふ、と微笑ったミーアが、
「やっぱり碇様には一度、一晩掛けて女の扱い方を教えていただく必要がありますわね」
「そんな経験値も知識も持ち合わせていないよ。で?医務室で宴会やってるから来いとの誘いじゃあるまい」
「はい。今夜一晩ラミアス艦長をお借りしますわね。その代わり、キラ様とステラ様を可愛がってあげて下さいな」
「艦長を貸せと、その意味は分かっているね」
 負の感情は全く感じられない、何ら変わらぬ声なのにミーアの背につうっと、冷たいものが流れた。
「も、もちろんですわ。私の名に賭けて、傷など決してつけずにお返しします」
「結構だ。では、良い夜を」
 通話が一方的に切られた後、おやすみなさいと呟いて、ミーアは受話器を手に暫く立ち尽くしていた。
 マリューがシンジの元へ行く予定だったのは分かっている。
 ただ、マリューが来ないと知ったシンジの声が、女を取られた男の声には到底聞こえなかったのだ。
(なんか導火線に火種投げ込んだっけ?)
 姉御でもなく、マリューでもなく、艦長とシンジは言ったのだ。
 ふっと浮かんだいやな予感を、ミーアは首を振って追い払った。元よりマリューを痛めつける気はさらさら無いし、交換条件はマリューだって呑んだのだ。
(三人まとめて、アヘ顔さらしてもらいましょ)
 邪悪に笑ったミーアが、乳と牝竿を揺らしながら戻ると、話がついたのか、三人ともベッドの上に移動していた。
「お話はまとまりましたの?」
「どうしても私に抜いてって言うから、二人まとめて手でしてあげようかなって」
「私は?」
「後回し」
 あっさりとマリューに切り捨てられ、ミーアがぷうっと頬をふくまらませる。
「いいわ、そんな冷たい艦長には投薬を減らします。半分しかあげないんだから」
「あ、あのさ。あたしが言うのもなんだけど、半分は減らし過ぎじゃない?」
「そうよ、ミーアのくせに吝嗇なんだから」
 異議を唱えたのは、当のマリューではなく綾香とレコアだ。全裸で、しかも牝竿を勃起させた状態で口論してもみっともないだけだと、分かっているからマリューは黙っていたのだ。
「私の薬飲んでおいて、文句あるの?」
「そ、そういう訳じゃないけど…」
 今晩の事を企画したのはミーアだし、何よりミーアの薬がなければ変形した股間をしごいて愉しむ事などあり得ない。
 招待主(ホステス)のミーアに一瞥されると、二人はそれ以上言えなかったが、
「私が冷たいかどうかは別として、いくらなんでも三人まとめては無理よ。だから、少し待っていて?」
「…じゃ、仲間はずれにしようとか思ってない?」
「勿論よ。あなただけそんな思いさせたら、折角集まったのに、つまらなくなっちゃうでしょ?」
 マリューの柔らかい声にミーアの表情が戻った。
「じゃあ、良い方法がありますわ。マリュー様が三人を一度に相手に出来て、マリュー様も愉しめる方法が」
 ミーアはベッドに腰を掛けると、脚を広げた。
「さ、マリュー様どうぞ」
 片手で自分の牝竿を握り、マリューを見ながら、片手で自分の股間を指し示したミーアは、何故か誇らしげである。
「どうぞって…そ、そこに乗るの?」
「ええ、勿論。ちんぽに背を向ける騎乗位だから背面騎乗位。いいネーミングだと思いません?」
(知らんがな!)
 全員が内心で突っ込んだ声が、音になる事はなかった。
「じゃ、じゃあ」
 マリューの牝竿も勃起しており、ここに居る女達全員が牝竿を勃起させた状態だ。マリューがミーアの脚の間に入り、背を向けてそっと腰を下ろそうとした瞬間、にゅうとミーアの腕が伸びてマリューを軽々と抱え上げた。
 あっ、と思わず小さな声をあげたマリューに、
「こういう時は、攻めがリードするものですわ」
(せ、攻め!?)
 攻めって何!?と思う間もなく膣口にミーアの牝竿が触れ、熱い肉塊が襞をかき分けて一気に侵入してきた。
「んうっ」「あふっ」
 挿れた方と挿れられた方と、両方の女が同時に喘ぐ。
「んっ、やっぱりマリュー様のおまんこは生に限りますわね。これでOKですわ」
「な、生とか言わないでっ。そ、それにこれでどうするのよ」
「そこのお二人、左右にいらっしゃいな」
 顔に?マークを浮かべたまま、綾香とレコアが左右に展開すると、ミーアはマリューの手を取り、それぞれ二人の牝竿に導いた。
「マリュー様が二人の牝ちんぽを手コキ、私がマリュー様の牝ちんぽを手コキ、マリュー様は私の牝ちんぽを名器で扱く。名案でしょ?」
「…手コキってなに?」
「手でちんぽを刺激して抜く事ですわ。別名hand job。通常は男性のそれだけど、牝ちんぽも一緒でしょう?」
 ミーアと居ると淫らな知識が――要不要は別として――増えていく。テロリストならぬエロリストを自称するだけあると、三人は妙なところで感心していた。
「マリュー様、二人の牝ちんぽはお任せしますね」
「え、ええ…」
 膝立ちになった綾香とレコアの牝竿は、これも熱く脈打っている。どういう仕組みでこうなるのかは不明だが、完全に男性器のそれに見える。
 マリューが手を伸ばして牝竿を軽く握ると、綾香に加えレコアまでもが小娘のような嬌声を上げて身を反らした。
「ふふ、良い感じよ。この間教えた事の復習よ、出来るわね?」
 シンジの膣出しを賭けてミーアと張り合って負けたマリューは、ミーアの牝竿に手で奉仕する事を強いられた。
 ただその時は、手コキなどという単語は使っていなかった。あの時はシンジがいたし、今は女しかいない場だから気が変わったのだろうとさして気にも留めず、マリューは小さく頷きゆっくりと手を動かし始めた。
 ミーアにした時は思わず掴んでしまったが、今回は経験値も上がっており、握りしめることもなく、二人の牝竿に指を這わせ前後左右にと器用に動かしていく。
 マリューとミーアの痴態にあてられた所為か、数回しごかれただけで、呻くと同時に二人とも放っていた。
 何度も放出した後にも関わらず、白濁した愛液が勢いよく飛んでシーツに降りかかる。
「あらあら、三擦り半ですわね。マリュー様のやらしー手つきの威力はさすがですわ」
 あまり嬉しくない賞賛と共に、マリューの耳朶がかぷっと甘噛みされた。
(ひゃ!?)
 想定外の快感に、マリューの牝竿も愛液を迸らせていた。
「きゅっ、急に甘噛みしたらだめでしょっ、出しちゃったじゃないの」
「だあってぇ、マリュー様の手つきがすっかり上達しておられるんですもの。これなら碇様もまんぞ――くうっ!」
 言い終わらぬ内に、マリューの膣が強烈に収縮し、ミーアの牝竿にぬるぬると絡みついて締め上げた。身体をぶるっと震わせたミーアの牝竿から噴き上げた愛液がマリューの膣内を叩き、思わず手に力の入ったマリューに牝竿を掴まれ、綾香とレコアはたまらず二度目の放出を強いられた。
「も、もー艦長!出したばっかりなんだからエロい手つきで握らないで下さい。い、今は牝ちんぽが敏感になってるんですからっ」
 さすがに我が身となると、未だ単語に忌避感があるのか、レコアが顔を赤らめて早口で抗議すると、綾香も目元を染めて無言で抗議してくる。
「ごめんねふたりとも。こらっ、ミーもご!?」
 ドミノ連鎖でミーアに抗議しようと振り向いた口は、そのままミーアの口で塞がれた。空いた歯の隙間から舌を侵入させようとするミーアと、そうはさせじと舌で対抗する二人の舌が絡み合い、ぽたぽたと涎が顔を伝って流れ落ちる。
 十数秒続いた舌の攻防戦は、マリューの防衛で幕を閉じた。
「マリュー様がいきなり締め付けるのが悪いんですわ。あんなにおまんこをうねらされたら誰だって放ってしまいますわ」
 何故か、と言えばミーアがシンジの名前を出したからだが、マリューもそこを突かれると弱い。
 頬を赤くして柳眉をやや上げているマリューに、
「さ、今度は私がマリュー様の牝ちんぽを可愛がってあげます。マリュー様は二人のを続けて。キスしながら、手と膣で牝ちんぽを弄り合いましょう?」
 うまく誤魔化された気もするが、こんな体勢がいがみ合っても仕方ないと、
「ん、分かった。二人ともいい?」
 マリューが問うと、綾香とレコアが恥ずかしげに小さく頷いた。
「『お、お願いします…』」
 ミーアは片手でマリューの牝竿を扱き、もう片方の手はマリューの乳房に伸ばしてやわやわと揉みたてる。マリューはミーアと、ぴちゃぴちゃと音を立てて舌を絡め合う一方で、手は左右に伸びてそれぞれ綾香とレコアの牝竿を刺激する。
 綾香とレコアは手を後ろに突き、シーツを掴んで快感を堪えていたが、徐々に恥じらいが消えてきたか、三度愛液を放った頃から、徐々に腰を前に出すようになってきた。
 膝立ちになり、もっと扱いてと言わんばかりに腰を前に出し、空いた手で自分の乳房を持ち上げて乳首に吸い付く。手が暇を持て余していた綾香も倣うが、どうしてもマリューとミーアの巨乳が目に入ると、自分の胸と比較してしまう。
 小さくはないのだが、サイズ的には明らかに見劣りする為、ほんの少し俯きがちになった綾香にマリューが気づいた。
(この娘、牝ちんぽがちょっと萎えてる…?)
 綾香を見やると、自分の胸とマリューの胸の間で視線を行き来している綾香に気づき、微笑ってみせた。
「この艦でミーアにエロいこといーっぱい教わって、やらしー身体になって戻るといいわ。ね?」
 膣に牝竿を受け入れながらその両手は二本の牝竿を扱き、顔にも濃い欲情の色を浮かべているマリューが淫らな口調で言うと妙に説得力がある。
「は、はいっ」
 得心したように腰をくねらせ、自らの乳房を吸う綾香の牝竿は、またむくむくと大きくなってきた。
(若いっていいわね)
 内心で呟いたマリューが指先で牝竿の先端をきゅっと絞ると、熱い吐息と共に二人の牝竿はほぼ同時に愛液を吐き出した。
 女達の牝竿が互いの手と膣でしごかれ、室内に淫らな匂いが充満してきた頃、ミーアの動きが最初に止まった。
「ふぅ…マリュー様のおっぱいも手もおまんこも、私たちの牝汁でべとべとね。でも、それだけじゃ艦長総受けで終わって芸が無い。最後はミーア様が見本を見せてあげるわ」
「み、見本って?」
「総受けのお・手・本。上の口と下の口、両方使って牝ちんぽ全部受け止めて差し上げますわ」
 淫らと邪悪の入り混ざった表情で笑い、
「マリュー様、降りていただけます?」
 ぬぷ、とマリューの膣内からミーアの牝竿が抜かれると、マリューの膣内から混ざり合った白い愛液が太ももへどろりと伝っていく。数度放ったミーアの牝竿を始め、全員の牝竿はさすがに最初ほどの角度はないが、それでも未だ萎えているものは一本も無い。
 ミーアが仰向けに横たわり、大きく脚を開く。
「さ、マリュー様。今度は私に挿れて下さい。お二人には同時にフェラしてあげる。ダブルフェラってされた事ないでしょ?」
「あの、それって二人がかりでするやつじゃないの?」
「そう考えるのが素人の浅はかさ。おちんぽが二本でもする方が一緒でもダブルでしょ」
 訊ねたレコアに性の達人の風情で応じると、さあとマリューを手招きする。
 変化する牝竿は、陰核が変化したものではなく、会陰下部が変化したので、普通の正常位では挿入できない。
 ミーアの脚の間にマリューが腰を進めると、片手で大陰唇を左右に広げ、片方の手で牝竿をずらし、マリューの牝竿を招き入れる。二人の牝竿がこすれ合いながら、ミーアの膣はマリューの牝竿を根元まで受け入れ、二人の唇から艶っぽい吐息がもれる。
「子宮(なか)に出してほしい時は、こうやって脚を――ね?」
 微笑ったミーアが、マリューの腰に脚をきゅうっと巻き付けた。続いて綾香とレコアの牝竿を握ると軽く引っ張り二人を自分の方に引き寄せた。
「おふぅっ!?」「くひっ!?」
 二本まとめて口に含み、口の中で牝竿同士をごりっと擦り合わされ、二人の口から奇声が上がる。
「牝ちんぽを擦り合わせると気持ちいいでしょ。さ、あとは好きなだけミーアのおくちまんこと、名器まんこに出してくださ…うぷっ!?」
 言い終わらぬ内に、ミーアの顔へ二本の牝竿から同時に愛液が飛び散った。誘いながらも手は同時に動いており、扱かれた牝竿が耐えきれなかったのだ。
「もぉ、二人とも早漏なんだから」
 ぶつくさ言いながらも、その表情は満更でもないように見える。
「次はマリュー様ですわ。私の膣でどれだけ我慢できるかしら」
 ミーア総受けとは言いながら、実際はミーアの掌の上で弄られているようなものだ。自分まで好きにはされないと、ミーアの乳に手を伸ばし、むにゅむにゅと揉みしだきながらかくかくと腰を動かし始めた。
 が、ミーアはマリューの腰に絡めた脚を器用に動かして腰の動きを制限し、ミーアが微妙に腰を動かす度に熱く柔らかい膣襞がマリューの牝竿に絡みつく。
 そして三分後――。
「『〔出るっ、出ちゃうううぅっ!!〕』」
 綾香達が三度放つまでは何とか耐えたものの、マリューも耐えきれず、綾香・マリュー・レコア、と全員揃って牝竿を爆発させた。
 ミーアもつられて放ち、ミーアの顔から胸から、そして膣まで、女達の混ざり合った愛液で白く彩られる。
「あふぅ…さ、さすがに…三人いっしょに牝汁出されると…け、結構キますわね。私も…出してしまいましたわ…。でも、まだまだよ。ミーアの上と下の口を牝汁で満たしてくださいな」
「の、のぞむところよっ」「嫌って言っても止めないからねっ」「あたし達の牝ちんぽが萎えるまで付きあってもらうわよっ」
 堰を切ったように襲ってくる牝竿を、ミーアは愛液にまみれながら愉しそうに受け止めた。
 数時間後、もうどれだけ出したのか出されたのか、数えるのも面倒になる程、出し出され、女達の股間は誰の物とも分からぬ愛液にまみれ、殆ど失神したような状態で眠り込んでいた。
 シャワーも浴びず着替えもせず、四人は裸のまま雑魚寝で寝入っている。
 やがて、人影が一つ身動ぎして起き上がると、音も無くその場を後にした。
 その十数分後、
「ん…うん?」
 ぶるっと身を震わせたマリューが目を開き、ゆっくりと身を起こした。
「あ…」
 自らの尻を左右に開いたレコアに、ミーアと二人で前後から挿入し、綾香が口に牝竿をねじ込んだところまではぼんやり覚えているが、その後の記憶がない。
 とりあえずシャワーでも浴びようかと顔を動かすと、外を見上げているミーアに気付いた。
 シャワーを浴びてきたものか、生臭い情交の痕は見られない。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか」
「ううん、何となく目が覚めただけ。それよりミーア、身体は大丈夫?」
 三本の牝竿をまとめて相手にしていたのは、ミーアが一番時間は長かった筈だが、
「あの程度、欲情したあの方の本気をお相手するよりは楽ですわ。今回はそんなにお薬の量もセーブしてありますし」
「そ、そうなんだ…って、あの方?」
「私を見いだした方。そして、私に身体の使い方を教えた方ですわ――プラント評議会のエザリア・ジュール議員」
「ふ、ふうん…」
 それが女であることに、何故かほっとしている自分にマリューは気付いた。
「ところでミーア、一つ訊いていいかしら」
「何なりと」
「この間、私にその…牝ちんぽの使い方を教えるって言った時、生やした女と闘う為って言ったわよね」
「ええ」
「そういうことって、ザフトではよくあるの?」
「いいえ」
「?」
 頬に?マークを浮かべたマリューに。
「オーブに着けばマリュー様はただの艦長。着いたら降りる、とずっと公言なさっている碇様をこの艦に留めておくのは無理。それに、碇様もオーブでいい人を見つけるかもしれない。そんな時女の最後の武器は自分の身体ですわ。そうでしょう?」
「え、ええ…でも、相手の女も生やしてるとは限らないんじゃ…」
「その通り。でも、直接対決する事があれば、絶対有利になるでしょ」
 そうね、と頷いたマリューだが、本当にシンジを賭けて闘う事になるとは想像していなかった。しかも、その時には牝竿など全く使わず、牝竿の用途が艦長業務として必要になるとは、全く想定もしていなかった。
 ミーアはふふっと微笑って、
「攻撃は最大の防御。この場合の攻撃とは、牝ちんぽを使って訓練する事でマリュー様のごほーしスキルを上げること。男の上に跨がって、腰振りながらセルフパイ舐めしてみせるだけじゃ不足ですわよ」
「な、なんでそれを知ってるのっ!?」
「…え?」
「……え?」
 騎乗位で自分の乳を舐める程度なら、サイズさえあれば誰でも出来る。ミーアは例えで言ったのだが、マリューにとってはまさに図星で思わず過剰反応してしまい、室内に奇妙な空気が漂った。
 けほん、と咳払いしたミーアが、
「…今のは聞かなかった事にしておきますわ。それより、シャワーを浴びられた方がよろしいかと。体中がべたべたでしょう?」
「そ、そうねありがと。ちょっと行ってくるわ」
「はい」
 立ち上がったが、さすがに体力を使い果たしたか、ふらりと蹌踉めいたのを慌ててミーアが支える。
「これでは、シャワーの下で座り込んで立てなくなりそうですわね。私がご一緒します」
「あ、ありがと」
 一体どこにそんな体力が残っていたのか、ミーアの方は肩を貸すどころか軽々とマリューを背負ってシャワー室へ向かった。
 入る直前、にゅうとミーアの片手が動きマリューの尻の割れ目に差し込まれ、奇妙な喘ぎがマリューの唇を割る。
「マリュー様のお尻をなで回してたら、また欲情してきちゃった。さ、レッスンの続き続き。夜はこれからですわよ」
「ちょ、ちょっとっ!いきなりお尻に指…あぁーっ!?」
 くぐもったようなマリューの悲鳴に、すぐに艶が混ざり、間もなく聞こえなくなった。
 淫女たちの夜は、まだまだ終わりそうになかった。
 
 
 
 
 
 オーブのとある一軒家で、一人の男性が暖炉の前で胡座していた。
 薄茶色の衣をまとった小柄な老人だが、その耳は左右に大きく張り出しており、明らかに人間離れしている。眉間に刻まれた皺は、老人の半生を物語るものなのか。
 もう数時間も身動き一つせず、胡座をかいた膝に置かれた手も動かさず、目を閉じた姿勢のまま少しも動く気配は無い。
 このまま、生きた彫像と化すかと思われた時、不意にその目が開いた。
 強い意志を感じさせる双眸であった。
「オウカ」
「はい、マスター」
「入るがよい」
「失礼致します」
 扉が開き、音も無く一人の女を吸い込んだ。
 長い緑色の髪と金色の瞳、和服に身を包みながら殆ど足音も衣擦れの音も立てぬ辺り、よほどの訓練を受けてきたのだろう。
 ただし、整った美貌と肢体を持ちながら、その表情は未だ幼くまだ二十代にもなっていまい。
 マスターと呼んだ老人の後ろで着座し、楚々と両手を突く。
 老人は後ろを振り返らぬまま、
「お主のフォースが乱れておる」
「わたくしの…?」
「お主の内面から来るものではない。それは外から来るものじゃ。だが、お主もそれと無縁ではおられぬ。よくよく注意するがよい」
「かしこまりました。マスター・ヨーダ」
 ヨーダと呼ばれた老人は初めて振り向き、ひとつ頷いた。
 
 
 
  、
 
(第九十三話 了)

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