ここが暖かいのは、多分あいつのせい。


「ニューホープ内で破壊活動確認!エックス達は直ちにポイントF‐16に急行してください!繰り返します・・・」
うるさい警報音と繰り返される声で、あたしは起き上がった。
「・・・緊急指令・・・こんな時間に・・・?」
ベッドから這い出すと、頭痛がした。
最近よく起こることだ。きっと疲れてるせいだろう。
最近は元の稼業だけじゃなくレジスタンスの活動もあって、かなり忙しいから。
休まなくちゃいけないと思っても休む暇が無い。
「行かないと・・・」
ふと、飾り気の無い部屋の窓際に置かれた写真立てが目に入った。その中には小さな子供達と、その子らと一緒に笑うあたしが居た。
怪盗になる前、昔過ごしていた医療施設で撮った写真だ。
(こんなの、あの子達の痛みに比べたら・・・)
あの子達はもっと苦しい思いをして、もっともっと痛い思いをしている。
それに比べれば、こんな頭痛なんて。
だから頑張らないと。
あの子達のためにも。

「おーいマリノー?指令だとよ、起きてるかー?」
「マリノさーん、遅れちゃいますよー」
「起きてるよ!今行く!」
扉を叩く音、次いでスパイダーとシナモンの声が聞こえた。あたしはいつもと同じように返事をして、扉を開けた。
「お、起きてた」
「おはようございますー」
「ああ、おはようシナモン。スパイダー、起きてるって言ってるだろ。朝から緊張感のない男だねあんたは。シナモンにもうつってるじゃないか」
「それが俺のポリシーでね。何事にも自然体ー・・・ってマリノ、お前大丈夫か?顔赤いぞ?」
急にスパイダーが覗き込んできて、少しだけドキッとした。ホントに急だったから、危うくこけるとこだったよ。
しかしその目はとても真剣で、あたしは何だか竦んじまった。
「風邪ですか?」
シナモンまで泣きそうな顔で言うもんだから、あたしは慌てて取り繕おうとした。
「だ、大丈夫だよ!別にどこもおかしくなん・・・か・・・」
唐突に、目の前が暗くなった。

あれ?
こんな筈じゃなかったのにな。
体中が熱いや。


ゆっくりと、世界が堕ちていく。


スパイダーの腕が、あたしを抱きとめてくれた。
「マリノッ!おいしっかりしろ!」
間近でスパイダーの声がした。ぼんやりと霞む視界に血相変えたあいつの顔が映った。
「・・・うるさ・・・い・・・ねえ・・・だい・・・じょ・・・ぶだっての・・・」
「何が大丈夫だよ!?ふらふらじゃねえか!!」
「わ、私どうすれば・・・!?」
「今すぐガウディル呼んでこい!あとエックス達にマリノが倒れたって連絡取る!」
「は、はい!」
シナモンの走り去る音が聴こえて、あたしは相変わらずぼんやりとスパイダーを見ていた。
こいつの瞳、こんなに紅かったっけ?
ルビーみたいで綺麗だなぁ、とのんきに思った。
「・・・ったく」
スパイダーは大仰にため息を着いて、あたしを抱きかかえてあたしの部屋に入っていく。
あいつはあたしをベッドに寝かせて、布団を被せた。
「ガウディルが来るまで寝とけ」
「でも・・・指令・・・」
「つべこべ言わない!」
スパイダーはあたしを怒鳴りつけた。
・・・仕方ないから、言われた通りにするしかなかった。
睡魔はすぐに襲ってきて、全ての気配を絶っていく。
でも、スパイダーの気配は消えなかった。
安心した。


「・・・過労グワね」
眠りから覚めたぼんやりとした中で、ガウディルのしわがれた声が聴こえた。
「大方ろくに休みもせんと、どこぞかを走りまわとったんじゃろうな。それに加えて日頃の指令グワ、今まで倒れなかったのが不思議グワよ」
「そっか・・・マリノ、頑張りすぎると自分の事見えねえもんなぁ」
「とりあえず、今日は一日安静グワ。エックス達にも言っておくグワ」
「ん、サンキューなガウディル」
パタン、と扉の閉まる音が聴こえる。多分ガウディルが出ていったんだろう。
急に、部屋の中が静かになった。

あたしはあいつの名を呼んだ。
「・・・スパイダー」
「あ、ごめん。起こした?」
「別にいいよ・・・」
「どうよ気分は」
「・・・大分、楽になった」
「ほれ見ろ、休んで正解だったじゃねえか」
そう言って、スパイダーはあたしの額に手を置いて、もう片方の手を自分の額に当てる。
「・・・うーん、ちょっと熱あんな。どっかで氷もらってくるわ。お前寝てろよ」
「・・・や」
立ち上がったスパイダーの手を、あたしはとっさに掴んだ。
「傍に、いて。頼むから」
あいつは驚いたように目を見開いてこっちを見てきた。はっとなって、あたしは手を離す。
「ごめ・・・なんで・・・」

・・・なんで、こんな気持ちになったんだろう。
解らなかった。
ただ、スパイダーが傍にいるとすごく暖かくて。
傍にいて欲しいと、思った。

「・・・・・・しゃーねぇなぁ」
スパイダーはそう言って、もう一度椅子に座った。
「俺様優しいから、お姫様の願い事叶えてやるよ。ほら、これでいいんだろ?」
スパイダーは手を伸ばしてあたしの前髪を撫でた。
それがとても優しくて、心地良くて。
なんだか、嬉しかった。

「スパイダー」
「どした?」
「・・・また、あの手品やってくれない?」
「あの手品って・・・ああ、あれか」
「うん。元気になる奴」
「んー、どーしよっかなー」
「やってよ」
「ヤダ」
「・・・やれ」
「嘘だって、やるよ」
そう言って、あいつはいたずらっぽく笑った。
(・・・性悪)
あたしは心ん中でぼそっと言った。
「でも寝たままだと見にくくねえか?起きる?」
「・・・うん」
言われて、あたしは起き上がった。でも突然力が抜けて、危うくベッドから落ちそうになる。
でも横からスパイダーの腕が伸びてきて、助けてくれた。
「っと、危ねぇなー」
「・・・ごめん」
「いいって事よ。それにこの方が・・・」

いったん言葉を切ると、スパイダーはあたしの頬に軽くキスした。

「位置的に大変ありがたいので」
「―――ッ!!??」
何すんだいこの男は!?
「あ、もしかしてこっちの方が良かった?」
そう言って、スパイダーは自分の唇を指差す。
「良くない!」
「マリノ顔赤い」
「誰のせいだとッ・・・」
「悪かったよ、ほら」
そう言うと、あいつの手からぽんと花が現れる。
あの白い花だ。
あたしは少しだけ表情を緩ませた。
「まったく・・・」
「なんなら、もっと出しましょうか姫様?」
言いながら出してるくせに。
まあ、いいか。
そう思って、あたしは笑った。



それからしばらく、スパイダーはずっと傍にいてくれた。
傍にいてくれるだけで暖かかった。
こんな気持ちは、あいつがいる時だけ。
でもそれは、もう少し秘密にしとこう。

いつか、平和な時が来るまで。


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どもー、テスト前になると無性に小説書きたくなる水月ですー。
火曜日から受験あるけど書いてしまいましたスパリノでございます。書いてしまいましたとも。
スイマセン。最後の一文、ありえないと思いつつ書いちゃいました;
だ、誰か、スパイダーとマリノ姐さんに平和な時間をあげて下さい!\(゜ロ\) (/ロ゜)/←挙動不審。
皆様、過労とインフルエンザにはお気を付けなさいませ。
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うわーい、マリノさん可愛いですーv 病気になると心も弱くなってしまうもんだから、こういう時は素直に甘えた方が良いですよねv
さり気なくキスする、スパイダーも抜け目無いと言うか・・流石だ(笑!
蒼夜さんの描かれる小説でも充分スパイダーとマリノさんは平和で幸せな時間を過ごしていますよ!これからも期待しております!頑張って下さい!
素敵な小説を有難うございました!


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