誰かの笑顔のために何かしたいと思うなんて、初めてだった。
それはとても不確かなもので、不明瞭なもので。
ただ、笑ってほしいと切に願った。


月の綺麗な夜だった。
妙に目が覚めて、何となくヘリポートに出てみたら、彼女も居た。
始めは普通に声かけようかと思ったけど、やめた。
“普通に”をやめた。

「マーリノっ」
「きゃあぁっ!」
びっくりするかと思って後ろから抱きついてみたら、案の定びっくりしてくれて。
彼女は涙目で、でも明らかに怒っている目で俺を睨んだ。

「スパイダー!何するのさびっくりするだろ!」
「んー、てかそれが狙い?マリノでもきゃあなんて言うんだな」
「当たり前だろっ女なんだから!」
「解ってるよ、悪かったって」
俺は適当にいなしてマリノの隣に座る。彼女は相変わらず半眼で俺を睨んでいた。
「ったく・・・本当に反省してるのかい?人が真剣に考え事してたってのに・・・」
「何、なんか悩みでもある訳?」
「・・・色々あるよ・・・」
彼女はとても寂しげに言った。

「もしリベリオンを倒してギガンティスが平和になったら、エックス達は本国に帰るだろう?そうしたらあたしは元の稼業に戻るし、シナモンやガウディルも研究所に帰っちまう。レジスタンスもきっと解散する。スパイダーも、どっか行っちまうだろう?」
「まあ、やる事ねえからな。俺達はバラバラになるだろうね」
「そう。あたしは、それがすごく嫌なんだ。いつからか知らないけどさ、なんかこう、絞めつけられるみたいに痛いんだよ」
マリノは自分の胸を指差す。俺はただその横顔を見つめた。
「皆と過ごすのがすごく暖かくてさ。だからいつか離れると思うと、すごく辛い・・・」
「マリノ・・・」
「ずっと一人で盗賊やってきたのに、今更おかしいよね・・・なんかさ・・・馬鹿みたいだよ。こんな事で不安になるなんてさ」
そう言って、彼女は笑った。
でもそれはどこか無理をしてるような微笑で。
今にも崩れそうで。

―――俺は、彼女にもっと楽しそうな顔で笑って欲しかった。
だから、唐突にあんな事思いついたんだと思う。ガキくさかったかもしんないけど。
「・・・じゃ、不安になってるお姫様のために、手品でもやったるか」
「はあ?」
怪訝な顔をしてマリノが俺を見た。俺はポケットからカードを一枚出す。
「ここに出しますは、何の変哲もない一枚のカードでございます」
「あんた本当に何やる気よ?つか、何その口調」
「ただのカードまるごとカード」
「まるごと無視かい」
よっしゃいい度胸だ来るならこいやぁ、と俺の手にあるカードを睨むマリノ。俺はくすりと笑った。
「しかしこのカード、実は大変な秘密がありまして。こうやって空へ飛ばすと・・・」
そう言って、俺はカードを高く投げた。空中を切るように閃いたそれを、マリノの視線が追いかける。
とんぼ返りして戻ってきたものは、薄っぺらなカードじゃなかった。
「不安な姫を元気付けるために、花となって戻ってくるのでした」
俺の手の中にはカードでなく、白い花が一輪だけあった。途端、マリノがぱっと目を輝かせる。
「うわぁっ・・・すごいよスパイダー!どうやったのさ!?」
「お褒めに預かり大変光栄。でも種は教えてやんない」
「それなら盗んでやるっ」
俺はそれを聞いて、思わず吹き出しちまった。
「ばーか、俺様が簡単に盗ませると思うかよ。それよりほら姫様、手ぇ出せや」
俺は笑いながら、マリノに花を渡した。彼女ははにかむように笑って、恐々と白い花弁に触る。俺は黙ってそれを見ていた。

「綺麗だね、これ・・・」
ポツリと、マリノが呟いた。俺は彼女の顔を覗き込みながら聞いた。
「どうよ、元気出た?」
「・・・スパイダー」
「うん?」
「・・・ありがと、ね・・・」
そう言って、彼女はとても綺麗に笑った。

花なんかより、ずっとずっと綺麗な笑顔。
その笑顔に不安の色は微塵もなかった。
俺はそれがとても嬉しかった。


「じゃ、俺もうそろそろ戻るわ。お前も風邪引かないうちにさっさと寝ろよ」
「あっ、スパイダー!」
立ち上がってきびすを返した俺を、マリノが呼び止めた。
俺が見ると、彼女は顔を赤くして俺に聞いてきた。
「・・・いつかさ、お礼させてもらっていいかい?」
「別にいらねえよ。俺が好きでやった事なんだし」
「でも・・・さ・・・」
なおも渋るマリノを見て、俺は少し考えた。

「・・・じゃあ、いっこだけ」
「あ、先に言っとくけどキスとかは駄目だよ。問題が別だから」
「解ってるよそのぐらい」
「で、何?」
マリノが改めて聞いてくる。俺は一呼吸置いて、言った。

「ずっと、笑っててくれ」
マリノは驚いたように目を開いた。何か言いたげに見てくる。
「ずっとずっと、今日みたいに笑っててくれよ。じゃないと、俺が辛いからさ」
俺はそれだけ言って、その場から去った。


俺の正体は、いつか絶対にばれるだろう。
それまで、彼女が笑ってくれればいい。
その時が来るまで。


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ども、蒼夜水月です。初コマミネタにて初スパリノでございます。
いっつもゼロネタばっかりやってる(つかゼロしか書いたことねえ)+シリアス(・・・なのか?)一人称で書くの久しぶりなもんだから、真面目に意味わかんねえっ!何が書きたかったんだ俺?(知ルカ)
と・・・とりあえず同盟様に献上いたしますっ!
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わぁわぁ!有難うございますー!
「きゃあ」とか手品や花を見て喜ぶマリノさんが女の子してて凄く可愛いですーv
蒼夜さんの描かれるスパイダーは女心が良く分かっていらっしゃる!凄くかっこいいですねv
手品をするトコの二人の駆け引きが凄く、らしくて大好きです!
ラストのあれは・・やっぱりあの展開をさしているんですよね・・・ううう・・(泣。ずっと正体ばれなくて良いから二人で笑顔で居て欲しいですー!


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