追憶の破片
No.060 空色さん
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 思えば、日が一際赤くなる時期にしか会った記憶がなかった。
 純白のアーマー。少年を抜ける一歩手前のあどけなさを感じさせる、そういう奴だった。
「ダイナモ、か」
 だが、赤い日のせいで、アーマーはいつも赤く光っていた。
「がんばってる?」
「まあまあ。傭兵の仕事に比べたら、エネルギー探して生きていくのはマシだろ?」
「どっちもどっちだね」
 少し重みのある皮袋を投げた。彼はすまないね、といって、ライフエネルギーを投げ返した。
「いいのか? ヒュレット」
「ちょっとばかり、今回は盗ったから」
 まあ、相手が生活できるぐらいに抑えたけどな。
 ヒュレットと呼ばれた少年は、空を見上げる。
「ダイナモ」
「ん?」
「ちょっと、頼まれてくれる? それで」
 何かあったのか、とダイナモは真剣な顔つきになった。
「人間のことなんだけど」





 深夜の闇で姿はあまり見えないが、すさんだ世界だった。
 栄えた建物は今や崩れ、人間に従うことを忘れたレプリロイドが潜んでいる。
 人間はそれをイレギュラーと呼び、恐れた。そのイレギュラーも、ハンターによって狩られて少なくなってきている。そして、ダイナモもその一人だった。
「うーん、同じイレギュラーとも知らないで、傭兵として雇うなんて人間って馬鹿だねえ。まあ、変装してるんですけど」
 彼の仕事内容は、豪邸の周囲警護。それなりの金が出たので、それなりの働きをする予定だった。
 こんな世界になっても、地位についている奴の生活は変わらないのが人間社会らしい。 
 などと考えていると、悲鳴が、耳に届いた。位置は近い。光が六つ輝いて、止んだ。乾いた音が耳に届く。
「こりゃあ、バスターじゃなくてガンかな」
 また光が光りだした。弾丸があるとみた。
「非武装かもなあ。セイバー持ってるかも知れないけど」
 ため息をつき、よっと立ち上がってはた、と気が付いた。
「………イレギュラーハンター、来るかなあ。ほかの奴ら、連絡しただろうなあ」
 早く片付けよう。青く長い髪がアーマーに入っていることを確認し、現場へ向かう。
「白いアーマーだ!」
「はいよ!」
 他にも雇われていた仲間に、一声かけられた。
 気配を消し、死角から相手を視界に捕らえる。
 あ、こいつ殺そう。
 弾切れを確認して、Dセイバーを投げつける。




「この辺だって? エイリア」
『通報によると、このエリアよ。かなり近い』
 深夜に叩き起こされたエックスは、白いアーマーのイレギュラーを探していた。
『追加情報よ。この近くの人間の家を、護衛中の傭兵レプリロイドがいるみたい。間違えないでよ』
「嫌なフレーズだね」
 傭兵。超巨大コロニー「ユーラシア」を落とし、世界を騒がせた犯人の職業だった。個人的に嫌な思い出のあるエックスは、考えにふける。
 ふいに、金属音がした。
「誰だ!」
 音のする方に振り返り、エックスは凍りついた。
 正体は、腕と頭がない、レプリロイドだった。
 哀れな残骸だった。胸の動力は動いているらしいのだが、足がありえない方向に曲がっていた。間接部分をどうにかされたのだろう。そのアーマーは赤いオイルに染められているが、元の色は白だ。
「これが、………イレギュラー?」
『………誰かいるわ』
 エックスは周りを見回す。右、左、背後、上。
 影があった。
「お前がやったのか!?」
 右手のバスターを影の方に向けて、叫ぶ。
 影は、何か長細いものを後ろに投げた。そして、返答もせずに丸いものを無造作に投げた。
 エックスは自分の方へ向かってくる丸いものに狙いを定め、慌ててやめた。とっさに左手で受け止めたそれは、―――頭だった。
「まあ、頭のメモリーでも調べてみたら?」
 頭に電撃が走る。この声は覚えがある。知っている。
「ダイナモ!」
 ダイナモはDブレードを回した。それは盾となり、狙い違わず発射される光を弾き飛ばす。
「じゃあな!」
 何もなかったかのように言うと、ダイナモは後ろに引いた。影となって、見えなくなる。エックスは後を追うが、追いつかない。
 舌打ちをしてエックスは頭をよく見た。通報通りの白いアーマーが頭を守っている。顔立ちから見ておそらく、同じ年齢ぐらいだろう。ぼうっとした表情でエックスを瞳に映していた。その瞳をそっと伏せる。
『ダイナモが、いたの?』
 曖昧に返事をして、エックスはハンターベースに戻った。




 次の日の夕方、エイリアは、エックスからもらったレポートをシグナスに見せた。
「………ダイナモを逃がしたことを書くのはまずいな。特に上層部には」
「あの子は、きっと書き換えないでしょうね」
 シグナスはそれを察する。エックスは、ダイナモを許していない。そして、事実ダイナモは行方不明扱いだった。ハンターの名誉を守るためである。
 結果、レポートは発見当時、すでにイレギュラーは大破していたということに書き換えられる。
 そして、この事件はレポート上終わりを迎える。



「と、いうことになったから」
 エイリアは淡々と伝えて、頭を取り上げた。
「あなたが見る必要ないわね。見たら後悔するかもしれないし。まあ、ダイナモを追ってみれば?」
 エックスは何か言うそぶりをして、やめた。かわりに、お墓を作ってあげたいと言った。
「そんな暇、あるの?」
 そうだよね、とエックスは肩を落として、去っていくエイリアを名残惜しそうに見ていた。
 彼女は自室に戻り、少し頭をいじって記憶を映像に映し出した。




「あのさあ、人間って、何食べるか知ってる?」
 頭の声がして、ダイナモが鮮明に映った。ダイナモは頭にどんな人間なのかを聞き、どの店で何をするのかを教えた。
「人間を助けて、どうするんだよヒュレット」
 ヒュレットと呼ばれた頭の持ち主は、親を探してやるんだ、と答えた。
 ダイナモと別れたあと、ヒュレットはクマのヌイグルミを抱いた、小さな女の人間に、教えられた通りに食事をさせて古ぼけた廃屋で眠った。
 次の日、ヒュレットは人間が集まるところに行った。ヌイグルミと女の人間も一緒だった。
 もう少しで着くところで、ヒュレットはパンの入った袋を人間にあげた。人間は、必死になって食べた。
 そして、食べ終わった頃、遠くで声が聞こえた。
 人間の男と女の成人の声で、花の名前を呼んでいた。人間は反応して、パパ、ママと叫んだ。そう呼ばれた二人は、やがてここに辿りつく。三人は抱き合って、泣いて喜んでいた。



 しばらくした後、男は見ていたヒュレットに歩んできた。
「本当にありがとうございました。よろしかったら、理由を聞いていってください」
 男は、使用人タイプのイレギュラーが事故を引き起こしたこと、その際、はぐれてしまったこと、捜索をしてくれる組織がなく二人で探していたことなどを話した。
「そういえば、よく見つけられたよな」
「ああ、娘のヌイグルミには発信機が付いているんです。なにぶん、科学者でして、つい」
 ヒュレットは、へらりと笑った男にもう一つ聞いた。
「じゃあ、もっと早く見つけられたんじゃないのか?」
 男は返事をせずに、液体をスプレーで拭きかけた。目をやられてよろめいたヒュレットに、体当たりをして上に乗った。首に手をかけて力を入れる。
 苦しむヒュレットに、男はやっと口を開いた。息が荒かった。
「何故かって? それはな、お前がそばにいるのが分かったからだよ! いつイレギュラーになってしまうかもしれないお前がな!」
 ヒュレットは、右手を上げようとした。うまくいかない。
「事故を起こしたイレギュラーは、なんて言ったと思う? 『俺たちは道具じゃない』だと!」
 右の脇に辿り着き、止まった。
「道具だよ! 考えれば分かる! 機能を果たさなくなった道具は捨てられる! だからお前達はイレギュラーになったら処分されるんだ! 修理する馬鹿なんていない!」
 ポケットが開いた。そこには、ガンが入っていた。
「死ね! 道具のくせに!」
 安全装置を外した。
「道具のぐっ!」
 男の口の中に、ガンの先を突っ込んだ。首にあった手の力がゆるんだ。
「違う………俺はヒュレットだ………道具じゃない………」
 トリガーを引いた。
「道具なんかじゃない!」
 男の頭が吹っ飛んだ。赤い液体を飛ばして、仰向けに倒れた。女から悲鳴が起こった。近くの人間が来るのを恐れ、ヒュレットは声の方向に撃った。胸から赤い液体が飛び出た。小さな人間は硬直する。
「………人間のくせに」
 軌道修正をして、小さな人間に向かってトリガーを引いた。ビクン、とはねて、赤い液体を撒き散らした。そして、男から財布を抜き取ると、全速力でその場から離れた。




 エイリアは、そこまで見終わると頭を机に置いた。後ろにあったドアを開いた。
 そこは寝室で、ベットが置いてあった。そこには、メットを取った、長い青い髪を持った紺のアーマーのレプリロイドが横たわっていた。
「ダイナモ」
 エイリアはレプリロイドの名を呼んだ。
「静かに泣いてるんじゃないわよ………」
「………あれ」
 ダイナモは泣いていた。驚いたように目元に手を当てる。
「まったく、ベットを乗っ取って泣くなんて、子供みたい」
 エイリアはダイナモの涙を拭う。ダイナモは起き上がって言ってみた。
「襲っていい?」
 頭を殴られて、ダイナモはがっくりうなだれた。その間に、エイリアは頭を持ってくる。
「はい。お墓、作ってあげるの?」
「その前に泣くんだけど〜」
 ダイナモはふざけてエイリアを抱き寄せてみた。エイリアは、悲鳴をあげてガンガン叩いた。まあ、胸にダイビングできたので、ダイナモの中では良しとする。
「何処から入ってきたのかしらね」
 頭を受け取って、窓から出発しようとしてとき、エイリアがそう呟いた。
「魔法って言うことに、しときますか。依頼人」
 ダイナモは代金代わりの唇を掠め取って、相手の文句を聞かずに外に飛び出した。
 目前で沈み行く太陽。あれがいつも見えるところに埋めてやろう。
 ヒュレットのメットが、いつものように赤く光っていた。



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まだ、ダイナモはハンターベースにいなくて、エイリアと逢引(笑)しながらふらふらしているときの話、という感じで読んでもらえるといいかと。
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密会って感じですかね?人前で堂々とラブラブも良いですけど、こういう関係も良いですよねvエロ弱いダイナモさんも新鮮ですね!!
つかヒュレットさん、可哀相です・・。レプリロイドは道具じゃないですよね。タダの道具で良いなら、心なんて必要ないワケですし。


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