迷宮で八葉が現代にきたのはクリスマス前のこと。
でももしハロウィンの時期に来ていたら…こんなことがあったかもしれません。
大きな二つのカボチャを前に、玄武組は悩んでいた。
望美の提案で、有川家では八葉全員参加のハロウィンパーティーの準備が進められている真っ最中である。
リズウ゛ァーンと敦盛に任されたのはジャックランタン作り。
「先生、神子はこの瓜に顔を彫って欲しいと仰っていましたが…どのようなものを彫れば良いのでしょう?」
「そうだな…。こういう時は最も知る顔、つまり己の顔を彫るのが良いだろう。」
「勝手が分からないからこそ、慣れたものをということですね。」
「その通りだ。」
普段から木彫りなどをして手馴れたリズウ゛ァーンの手元は軽快に。一方敦盛は、少しぎこちない手つきながらも一心不乱に。
半ばまで彫り進めたところで、リズウ゛ァーンはふと手を止めた。
「しかし己の顔を彫ると言っても、それだけではつまらぬな。神子は宴に飾るものだと言っていたから、今少し目立つように飾り付けた方が良いだろうか。」
「そうですね。宴の飾りですから、もう少し華やかな方が良いかもしれません。」
どうするべきか。
しばし思案していた二人は、やがて思いついたように顔を上げた。
「私は飾りつけに必要なものを調達しに行くとしよう。敦盛、おまえも来るか?」
「いえ、お言葉はありがたいのですが、少し心当たりがありますので。」
「そうか。互いに良いものが出来るといいな。」
「はい。微力ながら皆さま方のお役に立てるよう頑張ります。先生もお気をつけてお出かけください。」
「ああ、分かっている。」
かくして、リズウ゛ァーンと敦盛はそれぞれ工夫を凝らし、ジャックランタンを完成させたのだった。
会場に置かれた二つのランタンを前に、有川兄弟は悩んでいた。
正直に言ったらまずいだろうか。きっとまずい。けど言いたい。
迷いつつも、譲はおもむろに口を開く。
「…なんていうか…先生も敦盛もよく頑張ったよな。」
「リアル過ぎるだろ。あの二人は揃ってなんでこうなんだ?」
「真面目なんだよ、二人とも。…一生懸命やることが必ずしも良い方向になるかは別だけど…。」
「ああ、確かに別だな…。」
将臣と譲ははっきりと口には出さなかったものの、同じことを思っていた。
不気味だ、と。
「だいたい、何だよこれ。先生のはススキとかビー玉使ってんのはまだ分かる。けど敦盛のこの角と耳はどうなってんだ?こんなものどっから持ってきたんだよ。」
「この耳と角、ゴム製みたいだ。そういえば一昨日、敦盛がヒノエと何か話してたのを見かけたけど…。」
一昨日、というとちょうど望美がリズウ゛ァーンと敦盛にランタン作りを頼んだ日だ。
それだな、と将臣は頷く。
「こういう妙なもんを入れ知恵すんのはヒノエだろ。あいつ、最近、ロフトが面白いって言ってたし。あそこならパーティー用の変なかぶりものとかあるから、大方、その辺りで適当に仕入れて敦盛に渡したんじゃねぇか?」
「その結果がこれか…。」
もう一度、目の前に置かれたランタンを見る。
やっぱり不気味だ。
「まぁ、これはこれでいいだろ。印象に残る。」
「そうだよな、力作であることには違いないよな。」
不気味だけど。
二人は自分を強引に納得させると、再びハロウィンパーティーの準備へと戻っていった。
そして迎えた当日夜、意外にもこのランタンは他の面々に馬鹿ウケすることになった。
これが時代感覚のズレだろうか、と考えないでもない将臣と譲である。
望美も気に入っていたことについては、もちろんあえてスルーした二人だ。
中でも九郎はリズランタンに感銘を受け、「さすがは先生、素晴らしい出来栄えだ!俺ももっと精進します!」と目を輝かせていたとか。
翌日から、木彫りにますます精を出す九郎の姿が目撃されることになったというのは余談である。
ともあれ、パーティーの間中楽しそうな声が途切れることはなかったという。
「宴を盛り上げるお役に立てて良かったですね、先生。」
「うむ、神子も喜んでいたな。」
玄武の二人はとても満足していた。
10’10,31 Happy Halloween! 不破&くらてち
ハロウィン後記
ハロウィンおバカ話でした。
本人達は至って真面目なんだけど、感覚が少し世間ズレしている玄武組が大好きです。
そして玄武カボチャを描いてくれたくらてちさんに感謝です。ありがとうございました…!
完成した絵を見て、水虎ランタンの予想を上回る出来の怖さに吹き出したことは忘れません。