発端はきっと、還内府殿のこんな一言。

「せっかくたくさん取れたんだし…時期的にハロウィンってのも悪くねぇかもな。」
「はろ…?」
「ハロウィンだ。顔を彫るんだよ、瓜に。」
「瓜に…顔を…ですか??はぁ…。それで、その後は。」
「飾る。」
「…飾ってどうされるのですか。」
「楽しむ。」
おかしい。聞けば聞くほどはろうぃんというものが分からなくなってゆく。
人の顔を彫った瓜など、飾っても気持ち悪いだけだろう。
時折聞く将臣の世界の話は奇妙なものが多いが、これはいよいよもってわけが分からない。
満面の笑みで微笑む将臣と、激しく悩む経正。
そんな二人の間に、いかにも皮肉たっぷりな声が割って入る。
「ク、ようやく実った食物を無駄にして楽しむとは…兄上もずいぶんお変わりになられたようだ」
「るせ。無駄にするわけじゃねぇ。ただ、たくさん収穫出来た嬉しさとか喜びを表すってことで、みんなで瓜に顔を彫って祝ったらどうかと思ったんだ。」
ようやく見えてきた将臣の話に、ああと経正は合点がいった。
「つまり…はろうぃんとは、収穫を祝う祭のようなものなのですね?将臣殿の仰りたいことは、その年の秋に取れた作物を神への供え物にするということでしょうか。」
「そうそう、それだ経正。…まぁ、実際のハロウィンとは違うけどな。あ〜…、いちいち説明すんの面倒くせぇからパスな。とにかく、理由はなんだっていいんだ。皆で慣れねぇことして必死で耕して面倒見てきた畑に、こんなに作物が実ったんだ。今日ぐらい騒いだってバチは当たらないだろ?」
「大層、都合の良い話だな…。」
わざとらしいほど大きい溜息が聞こえても、将臣はこの思いつきを止める気にはならなかった。
「なんだよ、不服か?こういう時だからこそ、嬉しいことは皆で喜ぼうぜ。馬鹿みたいに笑えることの一つや二つ、あった方が良い。」
お前は尼御前や安徳の楽しそうな顔を見たくはないのかよ、とまで言われれば、さすがの知盛も頷かざるを得ない。
都を追われてからというもの、平家の暮らしは厳しくなる一方だ。
母や帝の御顔も自然、曇りがちであることを知盛が気にしていないわけがなかった。
こんなことでも少しは慰めになるのかもしれない。
そう思うと、将臣の提案に乗ってやるのも悪くはない気がした。
「…どう、彫るのだ。」
「私にも教えていただけますか?将臣殿。」
「そうこなきゃな。」
将臣に教えられるまま、各々適当な瓜を手に取ると、思い思いに彫ってゆく。
今年訪れた喜びを皆で分かち合うために。
来年もたくさんの収穫があるように、感謝と祈りを込めて。
これが彫りあがったら、さっそく皆に声をかけて宴の準備だと将臣は心の中で一人ごちて、口元に緩く笑みを作る。
久々に晴れやかな気分だ。

かくして10月31日の夜、平家邸内で行われた宴に不思議な瓜が四つ、飾られるのだった。


             08’10,31 Happy Halloween!     不破&くらてち




ハロウィン後記 ※08,11,07のブログより

限定企画は毎度毎度、私の思いつきによって始まります。
大好きなハロウィンで何かやれないものか、でもそもそも平安時代に南瓜がまず存在しないよなー…
などと考えていたら、「この時代に存在した瓜でハロウィンしたらどうだ!」としょうもないことを思いつきました。
そこでくらてちさんに「平家瓜を描いてくれないか!」と頼み込んだところ、快諾(笑)

さて、頂いた絵をどう演出するかは私の担当ということで、平家瓜に絵本風に文字入れしたりして、遊ばせてもらいました。
ただ、時間の都合上、惟盛を登場させることができなかったのが悔やまれます。
あの後、瓜に顔を彫る三人を見かけて「…何をしているのですか?」と惟盛が不審そうに声をかけるんですよ。
それでこうこうこういうわけだと将臣が説明すると、「馬鹿馬鹿しい!」と言いつつも「全くあなた方のは美しさに欠けていけません。本来ならばこのようなことに私が手を割くなどありませんが…見るに堪えないものを並べられては困りますからね。」と一緒に彫り出すツンデレ行動に出れば良いと思うんだ。
平家を想う気持ちに変わりないので参加したいが、将臣主導というところに矜持が邪魔をして素直になれない惟盛を書きたかった!
ちなみにこの話は平家みんなで畑を耕すドラマCDの内容を下敷きにした設定ですが、私はそのドラマCDまだ聴いてません。
なんとなくの内容を聞いただけで人はこんなに妄想できるんですねーあっはっは。とりあえず笑っときます。

今回もまた私のしょうもない思いつきにのって、こんなに素敵な平家瓜(特にコレ瓜が秀逸。)を描いてくれたくらてちさんに感謝です!
限定企画はまた機会と思いつきがあった時に出来たらと願いつつ…
お付き合いいただき、ありがとうございました〜!