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「王道バトン」より
2.相方をかばった怪我が原因で記憶喪失に。記憶を失ったのは?


譲をかばった怪我が原因で将臣が記憶喪失

 ※暗いので注意。



その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
「なんでだよ!なんで…!……俺は…っ、俺は頼んでなんかないだろ!?」
気が付けば、肩を掴んで叫んでいた。
両親の静止する声が聞こえたような気がする。
定かじゃない。
それだけ譲は他のことが考えられなくなっていた。
「それなのに…っ、なん…で…なんで記憶喪失になんかなってるんだよ…!」
指が食い込むほどに強く掴まれたからか。
それとも譲の声が痛々しいほどに震えていたせいか。
将臣は苦しい表情を浮かべながらも、黙って譲の言葉を聞いていた。
「兄さんは…っ、兄さんはいつもそうだ…!」
どこかで止めろという自分がいるのを感じる。
けれど昂ぶった感情は止まらない。
一度溢れ出した不満も。
「そうやってなんでも勝手に決めて行動して…こっちの気持ちなんて全然お構いなしで…!一言もなしに先に行ってしまう。」
ずっと心の奥に秘めていた言葉だ。
兄弟喧嘩の際も決して言いはしなかった。
「兄さんは俺がいつもどんな気持ちでいるか、少しでも考えたことがあるのかよ!?」
将臣が譲をかばって怪我を負った時、また、と思ったのだ。
また俺は守られた。
幼い頃から自分はいつだって大切な人に守られてばかりいる。
両親、兄、そして幼馴染の女の子にまで。
それが嫌で、自分で出来ることは精一杯してきたつもりだ。
いつか守りたいと思う人を自分の力で守れるように。
そんな譲にとって、それを意識するでもなくやってのけてしまう将臣は最も身近な目標だった。
もっとも本人にはもちろん、周囲の誰にもそんなことは言わなかったけれど。
「俺は…っ…兄さんは…っ」
白くなるほど掴んでいた手が徐々に力を失い、やがて落ちて行く。
それに合わせるかのように譲は崩折れた。

もうこれ以上堪えるのも限界だった。
将臣のいるベッドにうつ伏し、顔を見られないようにして譲は大きく肩を震わせた。
上から、悪ぃ、と小さく呟く声が耳に届く。
譲も分かっていた。
悪いのは将臣ではないことぐらい。
この怒りは、大切な人に守られるのはもうごめんだったのに何も出来なかった自分自身に対してなのだと。
自分を守った結果、大切な人が失われてしまうなんてどうすればいい。
その悲しみと恐怖に駆り立てられ、ずいぶんとひどい言葉を投げつけた。
勝手なのはどちらだろう。
助けてもらったのにまだ感謝の言葉も言っていない。
それどころか相手に謝らせている。
顔を上げれば、そこにはきっと自分以上に傷ついた顔があるはずだ。
なのに背をなでる手は温かく、それがかえって譲の嗚咽を抑えられなくする。
本当にすまない、兄さん。
だけどもう少し。もう少しだけこのままでいさせてくれないか。
このまま、怒りも悔しさも何もかも全部出してしまいたいんだ。
そうしたら兄さんに謝って、きちんとお礼が言いたい。
自分がどれだけ情けない顔をしていても良い。
届くはずだ。
兄さんがこうして手を伸ばしてくれているのだから。

俺はどこまでも兄さんには敵わない――そう、思った。






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            バトンで回答した設定で突発的に書いたオチなしの小ネタ。
            私にとって有川兄弟はもはや凶器です。萌えすぎて不整脈が起きる。
            自覚していないけれど譲は将臣に実はけっこう依存しているところがあ
            るといいなと思います。
                                     
不破(07.12.30)