バラストランプについて 

時田元昭(exJA0DW)さんのラジオ工房掲示板への寄稿(2006年10月29日)から(貴重な記事ですので、本人の了解をいただきここに掲載します)

ちょっと覗いて見たらバラスト管の話題が出ていたので、少し書き込みさせていただきます。
バラスト管はもともと電話器の中継増幅器に真空管が使われた頃からのもので、ウエスタン・エレクトリック(WE)にはたくさんの品種がありました。
その頃の電源はバッテリーで、通常は2.0Vでも、放電終期には1.8Vになり、充電完了時には2.8Vくらいまで上がりますから、真空管のフィラメント電流を一定にするためだったのです。
当然NECでもたくさん製造しました。
NECと東芝はラングミュアの特許のことで、NECは有線通信用(つまり電話の中継増幅器)だけ、
東芝は無線通信用(つまりラジオ用)だけという協定をしましたから、
東芝がバラスト管を作ったのはトランスレスラジオが推奨されるようになった昭和15年頃からでしょう。
NECでは電話の中継増幅から始まって、搬送通信になってもたくさん使いました。
最初の頃は真空管は101-Fのような直熱管でした。
傍熱管の時代になって、NTT(当時は逓信省)が通信用真空管を規格化し、CY-501-Fとか、CZ-501-D、CZ-504-Dなどができました。
これらはヒーターは電圧基準ではなく、電流基準で、最後の文字のYは0.5A、Zは1.0Aでした。
こういう球を使うときにバラスト管が必要だったわけです。
なお、NECと東芝とのこの協定は満州事変が始まる昭和5年頃からは軍の命令でNECも無線用真空管を製造するようになり、有名無実になりました。
バラスト管は単純な球のせいで、正しい使い方に関する記述の本が皆無に近いです。
「電子計測」という本の昭和34年10月号にNECの石原さんという人が書いているのをコピーを持っているのですがスキャナーを持っていないのでここに掲示できません。
ぼんやり点いている状態で使うのが原則です。
バラスト管はフィラメントは鉄線、封入ガスは水素です。
抵抗の温度係数が大きいこと、熱放散を大きくするためにそうしたのですが、普通の電球でも結構の定電流特性が得られます。
ヒューレットとパッカードが、ターマン教授の特許であったCR発振回路の発振器でヒューレット・パッカード社として事業を始めたときの発振回路では、
波形を正弦波にするために振幅制限回路をつけましたが、このときの負帰還回路に入れたのは電球でした。
私が初めてバラスト管にお目にかかったのは、長野にいた昭和25年頃、友達が信濃毎日新聞社の電送写真室にいて、
そこにNECの電送写真装置があったのを見せてもらったときです。
昭和5年頃に製造された機械でしたが、真空管は101-Fでした。
自分で使ったのは、アマチュア無線で最初に許可されたのは7050kc、7087.5kcというように固定周波数だけだったのでしたが、途中でVFOが許可になりました。
そのとき、VFOを作るのに、ジャンク屋で仕入れたバラスト管と定電圧放電管を使った記憶があります。昭和28年頃は電圧変動はひどいものでした。

バラスト管はスイッチオンのときの突入電流を抑えるために、直列にサーミスタのような、温度が上がるにつれて抵抗が下がるようなものを封入することも行なわれました。
1920年代にはサーミスタと言う言葉は無かったので、サーミスタとは言っていませんでしたが、材料は酸化ウラニウム(UrO2)でした。
そこで、ウラニウム・ディオキサイドから、ウルドックス(Urdox)という商品名のバラスト管がありました。
この説明は例えば、浜田成徳著、「真空管工学」p258〜261(理工学出版 昭和12年9月)にあります。
当時はウラニウムは特に重要な物質ではなく、陶磁器の絵付け、釉薬、ガラスの着色くらいにしか使われなかった時代でした。
現在は、ご存知のように原子爆弾のような核兵器の材料であり、原子力発電の燃料であり、それに使われない廃棄物は劣化ウラン弾の材料という物騒な物質になって、進んで使う人はいません。
でも、ウラニウムを0.1〜1%含むウラン・ガラスは紫外線で蛍光を発するため独特の、妖しげな光を放つので、ウラン・ガラス器のコレクターは結構いるそうです。

参考資料(管理人準備)

NEC製バラストランプの規格

2006年10月30日

真空管



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