ラジオの常識・非常識

真空管ラジオが生産を終了してから、30年以上経過しました。
世代が代わり、自分が常識と思っていたことが通用しなくなりました。
自分なりにラジオの常識を整理しようと思います。
数回に分けてUPします、今月中にとりあえず第1編をまとめる予定です。

1)アンテナ
ラジオのアンテナは電線(裸線でもビニール線でも)を空中に張った物です。
MWの場合、出来るだけ高く張るのが良いのです、水平部分も多少効果が有りますが、
本当に効果が有るのは高さです。
アンテナの評価値に実効高と言う言葉があるのはこの為です。
水平部12m 高さ8mの逆L型アンテナを我が国では標準アンテナと呼んでいました。
このアンテナを使う事を前提に、ラジオの感度階級の目安としていました。
この標準アンテナの実効高は6.4mです。
2)アース
地面に銅板等を埋めて、アースにします。
出来るだけ湿り気の有る土地に、出来るだけ大面積の銅板等を埋めると良いアースが出来ます。
昔は水道の蛇口につなぐのが常識でした、でも最近は水道管が塩化ビニールですからこの手は使えません。
間違ってもガス管をアースに使わないように。
マンション等はアースに困る事が有るのでは?、窓枠がアースに良いとの話もありますが?。
3)電界強度
電界強度10mV/m等と言う表示がありますが、これは実効高1mのアンテナに誘起する電圧を示します。
例えば標準アンテナとアースを使えば、受信機に64mVの電圧を送り込める事を意味します。
ゲルマラジオの場合、増幅素子が有りませんので、アンテナの実効高が音量を左右します。
昔の並四等はアンテナが無いと、よほど電界強度の強いところで無いと受信できません。
4)真空管ラジオのアンテナ
真空管ラジオは必ずアンテナとアースが必要です。
アンテナ端子とアース端子にはアンテナコイルの1次側コイルが接続されています。
1次コイルに流れた高周波電流で2次(同調)コイル選択(同調)された放送波が誘起されるわけです。
この場合、2次側では回路のQ倍の電圧になっています。
コイルのQを云々するのはこの為です。
このようにアンテナ端子に電流を流さぬと、実用的な受信は出来ません。
TRラジオになれた方は不思議でしょうが、普通の真空管ラジオのアンテナは外付けが原則です。
一部のラジオにはトランジスターラジオと同じバーアンテナを内蔵した物が有ります。
5)電灯線アンテナとアースアンテナ
5球スーパーなどでアンテナ端子にアースを接続して聴取する事が一般的です。
これを普通アースアンテナと呼んでいます。
この場合のアンテナは実は電灯線で、アンテナはアース端子、アースはアンテナ端子側になります。
電灯線は実効高2〜3m有ると言われていますが、各戸によりまちまちです。
特にマンションなど鉄筋の家は実効高が極端に低いらしいです。
マンション等で、真空管ラジオの受信が思わしくないのはこんなところに原因が有ります。
並四を電界強度の弱いところで使うには、この方法は苦しいです。
6)キャパシティアンテナ
キャパシティアンテナと呼ばれる簡易アンテナが有ります。
これは、アルミ箔を張った紙や金属板がキャビネットに貼り付けてあり、これがアンテナ端子に接続されています。
でもこの板は実際はアースの働きをしています。
電波は、電灯線→シャーシ→アース端子→アンテナコイル→アンテナ端子→金属板→対地との容量
のルートで電波の通り道が出来るわけです。
昔 アマチュアー無線をやった方なら理解出来ると思いますが、カウンターポイズに相当するわけです。
5球スーパーのアンテナ端子に結んだ、ビニール線を少し伸ばすと受信出来るのも同じ原理です。
7)ゲルマラジオの電灯線アンテナ
ゲルマラジオのアンテナとして電灯線を使う事が有ります。
必ず、AC125V以上の耐圧がある100pFか250pFのコンデンサーで絶縁して使って下さい。
DC耐圧の場合、500か630V耐圧の物が良いでしょう。
偶にコンデンサーが無い物を見かけますが、危険です。
8)ループアンテナ

@ループアンテナは電波のうち磁力線に感じるアンテナで、指向性があります。
これだけでアンテナと、同調コイルの働きをします。
Aアンテナとしての実効高は非常に低くcmのオーダーです、しかし同調するとQ倍の電圧が取り出せます。
バリコンのQはコイルより格段に高いので、取り出せる電圧はコイルのQで左右されます。
例えば同調回路のQ(≒コイルのQ)を100とし 実行高3cm 電界強度10mV/mとすると
30mV(=0.03m×10mV/m×100)がループアンテナから取り出せる。
B日本では電池管ポータブルラジオに多用されました、アメリカ製ラジオではAC電源のラジオにも散見されます。
金属に近づけるとQが急激に落ちる欠点があります。
C外部アンテナを接続する時は数回コイルを巻いて、ここから外部アンテナに接続します。
Dトラッキング調整はコイルの巻き数を増減させて行います、実際やると非常に不便です。

9)バー(μ)アンテナ

@ループアンテナが空芯だったのに対し、磁気コアの棒にコイルを巻いたもので、
同じような特徴があります、金属に近づくとQが落ちる欠点は多少軽減されています。
AQが高く、200〜300くらいあります。
B日本でも電池管ポータブルラジオに使われ、ループに代わって昭和27年頃から使われるようになりました。
そのままトランジスターラジオに引き継がれました、現在のラジオでも使われています。
C外部アンテナを接続する時は数回コイルを巻いて、ここから外部アンテナに接続します。
D同調コイルの位置を移動させることでインダクタンスを増減でき、トラッキング調整に非常に便利です。

10)ラジオの感度
奥沢さんの「ラジオ設計自由自在」によれば、
50mWの出力を出すのに必要な感度は下記のように記載されています。
第1世代並四  27 26 12A 12B                  6mV
第2世代並四  57 56 12A 12F                  4mV
並3        6C6 6Z−P1 12F                  2mV
高1        6D6 6C6 6Z−P1 12F             0.5mV
5球スーパー   6BE6 6BD6 6AV6 6AR5 5M−K9    0.03mV
          12BE6 12BD6 12AV6 30A5 35W4   0.1mV

真空管ラジオはアンテナを使いますので、厳密な事は抜きにして実効高6.4mの標準アンテナを使えば、
第1世代の並四では1mV/mの電界強度があれば、50mWの出力が得られる事を意味します。
11)ラジオの動作開始時間
トランジスターラジオはSW ONですぐ動作します、でも真空管ラジオは十数秒かかります。
昭和初期のラジオ(227等を使ったラジオ)はさらに数倍の時間がかかりました。
電池管を使ったラジオの起動時間はトランジスターラジオほどでは有りませんが早いです。
12)ツマミの固定
先日BCLラジオを修理していて、ツマミが接着剤で固定されているのを発見。
真空管ラジオのツマミはネジで固定しますが、TRラジオはローレットツマミが多いようです。
緩くなったら、間の割れ目を広げてください、間違っても接着剤を使わないように。
13)直熱整流管のラジオ
傍熱の出力管のラジオで、12F等の直熱管を使った物は、SW ON後、B電圧が一時的に急上昇します。
これは無負荷状態で、整流管のみ動作するためで、Bの無負荷AC電圧の1.4倍の直流電圧が出ます、
ケミコンの耐圧に注意ください。
特に47Bの代わりに3Y−P1を使った時に要注意。
14)建物の遮蔽効果
地下室やマンションの室内では電波が遮られて、電界強度が極度に落ちます。
また電灯線のアンテナ効果(実効高)も落ちますので、別にアンテナ線を引き込むと理想的です。
15)火災に注意
真空管ラジオは比較的新しい物でも製造後30年以上、古い物は75年たっています。
コンデンサー等は新品に交換するにしても、トランス等殆どの部品はそのままです、自然劣化しています。
不在時はコンセントからコードを抜くなど火災予防に充分注意しましょう。
SWがOFFだからと安心しないように。
16)コンデンサーの耐圧
真空管ラジオ時代には小容量のコンデンサーは耐圧は普通500V程度有りました。
したがって、この時代の書籍には特に耐圧の指示が無いのが普通です。
しかしトランジスターラジオの時代になり、最近では 小容量のコンデンサーは500V耐圧は珍しいです。
結合用(0.01)や高周波バイパス用(250P)のコンデンサーには注意が必要です。
ゲルマラジオの電灯線アンテナに使う絶縁用コンデンサー(100p〜250P)は特に耐圧に注意。
ケミコンは昔から低圧用があり、耐圧指示が普通あるので、間違いは少ないと思います。

17)回路図について

回路図には省略があります。
雑誌の回路図をみて、そのとおりに製作しても不具合が発生することがあります。
これは当然 皆が知っている前提で、一部の回路を省略して書いてあるからです。
代表的なことは
@6D6等は必ずシールドケースを使い、かつアースすること。
点線でシールドケースだけを表示することはありますが、アースまでは記載してありません。
シールド線を意味する点線もアースしますが、配線図ではこの部分が省略されていることがあります。
AIFTのシールドケースはアースする。
BmT管のセンターピンはアースする(整流管や電力増幅管は不要)。
GT管でベースシールドがあるものは1番ピンはアースします。メタル管は全て1番ピンはアースする必要があります。
これらは配線図に記載されていないことがあります。
Cトランス式ラジオの場合、ヒーター配線は片側をアースするのですが、配線図に書き忘れがあります。
この配線図を見て、アースしなくて大丈夫と誤解しないように。
D2連バリコンにトリマを書いてないことがあります。
これはバリコンにトリマが付属している前提で書いてあるからで、不要という意味ではありません。
必須の部品ですから、注意しましょう。
MWだけのスーパー用バリコンはトリマつきが標準だった時代(昭和20年代末頃まで)があり、この時代のものは当然のごとくトリマがバリコンについていました。
日本短波放送が誕生した頃から、トリマはコイルに付属させるため、バリコンはトリマ無しが多くなったのです。
E真空管ソケットは回路図には書いてありませんが必要です。また真空管のベース接続は底面から見た図です。
F雑誌記載の回路図にも間違いがあります、自分なりに検証して利用すべきです。
例えば、下記の回路図で平滑回路の3KΩ 2Wの抵抗は間違いです。全てのB電流が流れますので、発熱が多くて、とても耐えられません。
電磁型のスピーカーを使ったスーパーから、パーマネントスピーカーに置き換えた場合に多いようです。


回路図は

初歩のラジオ別冊 (昭和45年発行)「真空管 トランジスタ- セット製作実験集」から

Cヒーターの片側がアースしてありませんが、省略と考えた方がよいでしょう。
同じ記事に実体配線図があり、そちらではヒーター回路は片側がアースされています。

Dトリマが配線図にはありませんが、実体配線図でのバリコン側には付属しています。
回路図のみを見て、短絡的にトリマは不要と誤解しないように。

00/11/28
2008年9月20日:15,053 17)回路図についてを追加。



2006年7月2日よりカウント

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