放送局型受信機(放送局型ラジオ)と国民型ラジオ

1)放送局型123号受信機

放送局型123号
右上標準型(正規型とも呼ばれる)
右下戦時標準型。

左上 標準型の123号の元箱
左下同じく標準型の123号
メーカーが違ってもまったく同じ外形。
放送局型123号受信機をご存知ですか?、昭和10年代後半を代表するラジオです。
(ラジオは昭和16年にラヂオから書き方が変わりました、123は双方の期間に 生産されていますが、ここではラジオで) これは4ペンで、現在の言葉では高1です。
この他3ペンの122号が有りました。
この兄弟は大変な問題児で、すぐ故障するので有名でした。
初歩のラジオの26年11月号に「局型トランスレスの修理のヒント」の 記事が有ります。
修理のこつは「御断り」が得策、「君子レスに近寄らず」と書かれています。
でもこの123号は時々市場に出てきます。私はこのラジオが好きなので、 見ればすぐ買い込んでしまいます。
修理する時は、下記を注意してください。
ケミコンなどの部品は交換し、さらに十分なチェックをしてから通電する事。
紙ケースの当時のケミコンは間違っても使わないように。

ケミコンは8とか10マイクロ程度の規定のものを使ってください。
安易に大容量の物を使うと整流管が危険です。
平滑抵抗を通った後のCは大容量でも大丈夫です。
B37とかB49の安定抵抗管が切れている場合は抵抗かコンデンサーで代用できます。
ただラジオが鳴り出す時間は少し遅くなります。
放送局123号は大別して2種有ります。
また過渡期の製品で仕様が混在したものも有ります。
戦後の国民型1号を含め、修理には同じような注意が必要です。
放送局型受信機についてはラジオ科学社の「ラジオ受信機の解剖」に詳細に解説が有ります。

A)標準(正規)型 (123号受信機)

日本放送協会の仕様で、各社キャビネットのデザインから、回路まで同じ。
12YーV1  12VーR1  12Z−P1 24Z−K2  B37
コイルはシャーシの上にあり、大型のシールドケースに入っている。
ダイアルはバーニア機構になっている。
球のシールドは普通の筒型。
ヒーター接続はB37ーPLーK2ーP1ーR1ーV1の順
メーカー名は認定番号か、銘板でしか判別できない。
回路図はここに有ります。
戦時型に比べれば少ないが、統計では11万台は作られたようだ(東京で4.8万台、大阪で6万台、神奈川 0.5万台)。

B)戦時標準型 (123号受信機)

昭和17年3月 戦時体制で、さらに省資源化。
これも日本放送協会の統一仕様で、各社キャビネットのデザインから、回路まで同じ。
写真(上)の物は昭和17年11月製と記載有り。現在市場に出てくるのはこちらの方が多い、NHKの放送博物館のパンフレットに 放送局型123号(昭和15年)と紹介されているのはこちらの方。
外観に大きな変化は無いが、同調ツマミの位置が微妙に違う(直結の為)。
球の構成は同じだが、接続順は
PLーR1ーP1ーB37ーK2ーV1の順
ダイアルは直結、コイルはシャーシの上下でシールドケースは無い。
検波管のシールドケースも統3号(キャップ型)に変更、RF用は無し。 整流管のP回路に電流制限用のRあり。
ただ資材の在庫状態により、外観は標準型で中身は戦時標準型の物が混在する。
なお写真下は戦時標準型で有るが、デザインが異なる。
キャビネットの材料の質が一段と低下している、ツマミはオリジナルでは無い、白山電気製。
戦争末期(18〜20年)に作られたものらしい。
キャビ底面に回路図あり、放送局型123号受信機結線図(臨時) 昭和17年2月と書かれている、したがって回路は同じようだ。

ただ不思議な事に、123号の回路図として雑誌や書籍で紹介されているのは、コイルにシールドケースを意味する点線で囲まれた当初設計(ここでは正規型と呼んでいるが)の物が大部分で、戦時規格の物は殆ど無い。
また呼び名も放送局型123号しか表示していない事が大部分である。
ここでは、標準(正規)型と戦時標準型と区別してあるが、公称は無いようだ、区別のため上記名前を使わせていただく。
下記の回路図は実物のキャビネット底面に貼られた回路図を参考に定数を入れたものです。
(B電源の回路に間違いがあり、修正しました 2011年7月11日)
戦後発行された書籍や雑誌では、国民型1号と123がまぜこぜになっているのかもしれぬが、
資料によって、この数値が微妙に異なる。
あるいは実際のラジオでも違っているのかもしれない、今後確認したい。
特に不思議なのは結合用のC11でこれが0.05になっている、雑誌等では0.01の事もある。
ただし放送局型1号 3号受信の時代には、0.1を使っているので、0.05で正しいようだ。
?マークの部分は回路図が破損しているため、現時点未確認。
テレビアンは戦前 戦中 戦後と一貫してこの種ラジオを生産したので、国民型1号にも123号の影響が色濃く残っている。
テレビアンの国民型1号受信機の回路図と比較して見てください。

         放送局型第123号受信機結線図(臨時)17年2月

C1 0.001μF   C11 0.05   R1 10KΩ   R9 250K
C2 0.05   C12 0.001   R2 300   R10 1M
C2 0.05   C13 5   R3 20K   R11 700
C6 0.05   C14 4   R4 30K   R12 30K
C7 0.05   C15 6         R13 2K 3W
C8 0.00025   C16 8   R6 2M   R14 60
C9 0.05   C17 8   R7 30K   R15 100?
C10 0.0001   C18 0.01?   R8 1M      

写真 上
標準型
コイルの大型シールドケースが見える、コイルは2本ともシャーシ上面に配置。真空管にもシールドケースあり。

写真 下
戦時標準型
コイルはシャーシの上下に配置され、省略されている。
真空管の配置も変更され、シールドケースも奥にキャップ形の統3号が見える。
なおこの裏側は戦時標準型の17年11月製の方である。
戦争末期に作られた(上記写真下)方もシャーシは同じ。


タイガー放送局型123号受信機の分解例(偶然同じ日に購入しました)

  シャーシ上面 使用真空管の例 概要
正規 @コイルはシールドされ、シャーシ上
A真空管のシールドケースは筒型
B真空管は刻印でRF管のプレートの外観が古い24Bと同じ。
但しこれは最初期だけで、
真空管は変わった可能性が高い。
戦時標準 @シャーシ上にはアンテナコイルのみ。
A検波コイルはシャーシ下。
B真空管のシールドはキャップ型。
C真空管は捺印タイプ、RF管のプレート外観が変わっている。
Cこのシャーシは同軸のバーニア機構が付いている、比較的古いタイプか?。


C)国民型1号 受信機

戦後日本放送協会の管理を離れ、同協会の検査なし。
123が改名したもの、各社独自仕様だが回路は123と概略同じだが、微妙に異なる(ヒーター接続順とコンデンサーの値の違いが主)。
キャビネットの形は各社独自仕様、厳密には123とは呼べない。
国民型は1〜6号まで制定されている。
この規格は使用真空管やスピーカーなど概要を規定したもので、細部はメーカー独自。
この内放送局型123号の後継機がこの国民型1号。
国民型3号は同じ球の構成でスピーカーをダイナミックにしたもの。
なお国民1号〜6号と略す事が多いが、正式には国民型1〜6号と「型」を入れるのが正しい。
戦前に松下が「国民4号」とか「国民5号」等と言う受信機を出していたがこれとは全然無関係。
松下(無線)の国民4号等は商品名と思われる。
戦後の国民型は規格だが、雑誌の紹介記事や回路図集には「国民1〜6号」云々と記載有り、「松下の国民4号」等と混同し易いので注意。
勿論松下は「国民型受信機」も製造した。
写真は東芝の国民型1号(ツマミはオリジナルでは有りません)。

東芝の国民型1号の裏側。
真空管の配列。
左奥がV1 右奥がR1、中がP1、手前がK2、
中央後列がB37。
此の為、ヒーターの接続がPL B37 K2 P1 V1 R1となっている。
球に無理がかからず、かつ雑音が少ない理想的なヒーター配列と思われる。
下のテレビアンのヒーター接続は123(戦時)の影響をそのまま受けていて、あまり望ましくないと思われる。
東芝は恐らく戦後この受信機を設計 生産したのに対し、テレビアンは123号の大メーカーだったので、継続して生産したためと想像される。

テレビアン国民型1号受信機回路図

D)放送局型123号受信機の恐ろしいところ

「初歩のラジオ」誌の記事によれば、真空管のHとKの間に、下記の電圧が 加わっている。
6D6や6ZP1等は、HK間は45Vが規格だが、12V管になってこんな凄い電 圧が加わって大丈夫なのでしょうか。
資材不足時代に急に高耐圧の球ができたとは考え難いのだが。
こんなところに故障が起こり易い原因がありそう。

  V1 R1 P1 K2
正規 117V 134V 168V 185/190V
戦時 116V 237V 220V 151/141V

 常識的にはPL  B37  V1  P1  R1の接続順が良いと思うのだが。
なぜこのようなヒーター接続順になったかは理解できない。
ただ部品配置上配線が最短で省資源が理由で、戦時型の結線が決まった????。
昔は電解コンの故障が多かったが、交換すればこれは解決する。
後は球の問題でしょうね。HとKの絶縁不良が発生すると、ごそごそと音がするようです、御注意。

なお123号を実用的に使う場合、ヒーターの接続を正規型または東芝方式にして、
8μFの電解コンデンサーも規格どおりの物を使う事をお勧めします。
抵抗を経由した6と4は大容量でもOK。

 

2)放送局型11号受信機

放送局型受信機は1号と3号で始まりました。
この現物はNHKの放送博物館で見る事が出来ますが、中古市場ではまず見かけません。
ほんの少数しか作られなかったと言うのが実状でしょう。
そういう意味で量産1号機がこの11号です。

1号と3号のいかにもお金がかかっていると言う感じの外観に比べ、相当省資源型になっています。
トランスさえ、単巻き方式で資材が節約されています。
修理する場合、シャーシに電灯線の片側が接続されているので注意しましょう。

回路図

11号の裏側です、部品も少ない。

3)放送局型受信機の生産台数

昭和15、16年度(17年3月まで)の放送局型受信機の生産台数。

  11号 122号 123号
東京 47800 45100 48300
大阪 24500 29900 60000
神奈川 3000   5400

この数値は20年前国会図書館で調査してメモしたもので、出典が明確でない。
数値は丸めてある。
123号は正規(標準型)の物で、合計で12万台は作られたようだ。
17年3月以降は戦時標準型に移行しているので、少しはこの中に混在している可能性がある。
大阪の生産が多いのが目立つ、神奈川は東芝のようだ。

放送局型受信機回路図
1号受信機

3号受信機
11号受信機
122号受信機
123号受信機(正規)

4)国民型受信機

戦前の放送局型受信機に対し、戦後国民型受信機が制定されました。
放送局型は回路やキャビネットまで同じでしたが、国民型は球の構成が主で、メーカー独自の回路で作成されています。
昭和22年2月号の電波科学によれば、国民型受信機に対する政府の施策は下記のとおり。
逓信省 標準型受信機として推奨。
大蔵省 日本放送協会の認定試験に合格し、統制価格以下で製作するものは免税。
商工省 資材の割り当て。

種類 使用真空管 感度 出力 小売価格 摘要
1号 12Y−V1 12Y−R1
12Z−P1 24Z−K2
微電界級 300mW以上 600円 トランスレス
マグネチックSP
2号A 6D6 6C6 
6Z−P1 KX−12F
微電界級 300mW以上 600円 トランス付き
マグネチックSP
2号受信機代表回路図
2号B 12Y−V1 12Y−R1
12Z−P1 KX−12F
微電界級 300mW以上 600円 トランス付き
マグネチックSP
3号 12Y−V1 12Y−R1
12Z−P1 24Z−K2
微電界級 300mW以上 1025円 トランスレス
ダイナミックSP
4号A 6D6 6C6 42
KX−80
微電界級 1000mW以上 1025円 トランス付き
ダイナミックSP
4号B 6D6 6C6 6Z−P1
KX−12F
微電界級 300mW以上 1025円 トランス付
ダイナミックSP
4号B代表的回路図
5号 UZ−57A UZ−56A
UX−12A KX−12F
弱電界級 300mW以上 402円 トランス付き
マグネチックSP
6号 UZ−58A UZ−57A
UY−47B KX−12F
微電界級 300mW以上 582円 トランス付き
マグネチックSP


高1の代表的な回路図

国民型4号Bに相当する回路図については下記も参考にしてください。
男の自由時間 真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦 111ページ記載の回路図です。
原図はNHKのラジオ技術教科書記載のものです。



なおケミコンの容量は6μF 4μFとなっていますが 6は22μF、4μFの方は10〜100μFでも良いでしょう。
ここで6μFに相当する部分はあまり大きくすると12Fに無理が加わりますので 程ほどに。

VRはできればC型が良いが 入手困難なので その場合B型を使います。
出来れば30mmφが欲しいが 24mmφでも可。

6.3Vの電源はもう少し余裕が欲しい 1.5A程度。

6Z-P1のプレート回路の電源は平滑回路の2KΩ抵抗の出側に接続されているが、B電圧が低い場合は、入力側に接続する。
但し G2は必ず 平滑回路を経由した先に接続の事。

出力管のカソードバイパスは大きくても問題ない。

6C6と6ZP1の結合コンデンサーは普通は0.01μFで良い。

再生が効きすいて ミゼットバリコンを抜いた位置でもピーと発振が止まらないときは 
6C6のプレートとアースの間に47PFや100PF ・・・などを接続すると正常になる。


国民型受信機の解説が掲載されている電波科学。
昭和22年2月号(電波科学復刊3号)。
表紙は日立のサンライト 国民型4号A受信機。
このラジオは踏み台にしても大丈夫か試験したという逸話があるらしい。

おそらく日立の量産の1号機か2号機と思われる。
(別に全波受信機を以前発表している)

メーカー各社が当時製作していたラジオにリストは新ラジオ資料館の国民型ラジオをご覧ください。
日立の国民型ラジオの回路図もあります2009年4月4日。

平成14年5月17日更新 
2002年9月22日 ラジオ工房5に移転

2009年4月4日再度移転

2010年5月1日:6,210 日立国民4号Bを追加
2011年7月11日:9,754 戦時標準型 回路図修正。
2013年10月26日;15,821 男の自由時間 真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦 111ページ記載の回路図を追加。

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