mT管トランスレス5球スーパーは、昭和28年頃から盛んに製造されました。
真空管ラジオとしては、比較的新しいと言えます。
したがって通電すると、そのままで動作するものも沢山あります。
ただ鳴るといって、そのまま使うのは危険です。
エンジンが動作するからと、ブレーキを確認しないで車を運転するのと同じです。
必ず確認して使いましょう。
GT管のトランスレス・スーパーも同様に修理することが出来ます。
トランスレス・ラジオで、特に注意することは、トランスが無いので、途中で絶縁するものがありません。
回路が電灯線に直結されています。
不注意で感電したり、漏電遮断器を働かせて、家中、停電になる恐れがあります。
理想をいえば、絶縁トランス(100V入力、100V出力)を準備すると良いでしょう。
シャーシアースとフローティング・アース
トランス・レス・ラジオにはシャーシに直接電灯線の片側を接続するシャーシ・アースと、
浮かせるフローティング・アース方式があります。
日本でmT管トランスレスラジオが作られ始めた頃の製品は殆どこのフローティング・アースです。
アース母線をシャーシと絶縁して別に張る必要があり、感電防止には効果的なのですが、コストがかかります。
この為か その後生産されたものは殆どシャーシに直接電灯線を接続するようになりました。
なおフローティング・アース方式のラジオを修理する時、電圧測定の基準はアース母線です、シャーシとは直流的に絶縁されていることが多いです。
経験を積んでも 勘違いしやすいので注意しましょう。
ケミコンのマイナス端子を基準に選ぶのが間違いが少ないです。
回路図が無く、区別がつかない時は、テスターでACプラグの端子それぞれとシャーシの間の抵抗を測定してください。
どちらかで、0Ω近い値が測定できれば、シャーシが直接アースされています。
もちろん電源スイッチはON、 ヒューズが正常なことは事前に確認しておいてください。
1)シャーシの取り出し
まずキャビネットからシャーシを外す必要が有ります。
この種のラジオでは殆どの場合ダイアルの指針はキャビネットに、ダイアルの糸はシャーシに組み込まれています。
シャーシを取り出すには「指針止め」からダイアルの糸を外す必要が有ります。
真空管を取り外して中を覗くと「指針止め」が見えますから、糸を外してください。
「指針止め」は機種により多種多様です。
ネジ止めされているものや、3本の突起で固定されているものがあります。
さらに外れないようペンキを塗っている場合もあります。
元に戻すために、よく観察しておいて下さい。
注意 ダイアルの糸を切らぬよう注意してください、元通りに糸かけするのは大変です。 初心者はシャーシを取り出したら、糸賭けの状態を写真に撮影しておいた方が良いでしょう。 |
スピーカーやイヤホーン・ジャックも外したほうが便利です。
スピーカーを外す時は、コーン紙を傷つけぬよう注意してください(穴の開いた厚紙でカバーするなど)。
シャーシを取り出したら、掃除機でゴミを吸い取り、汚れを落とします。
バリコンの羽根を触ると変形します、またシャーシ内部の清掃時 部品同士を接触させないように注意しましょう。
2)外観検査
*電源コードやプラグの確認、この部分は意外と不具合が多いです。
*正しい規格のヒューズが装着されているか?、規格外のヒューズがついていたり針金で代用されていることすらあります。
*ブロック型ケミコンに変形は無いか、電解液が漏洩していないか確認。
*パイロットランプが切れていないか、配線が他の部品と接触していないか確認。
特に一時期のナショナルラジオのビニール配線はぼろぼろになっているものがあります、そのまま通電すると35W4を断線させる恐れがあります。
3)ケミコンの確認
10章で説明するケミコン・テスターを準備してください。
もしテスターが無い場合は10章−4の「レス・スーパー試験用ACコンセント」で確認してください。
ケミコンテスターの+−のリード線を接続します。
マイナスリードはケミコンのマイナス端子、プラスリードはケミコンのプラス端子に接続します。
この時は真空管はそのままでも、外しておいてもかまいません。
まず60Vを加えます、一瞬メーターが大きく振れます、段々電流が少なくなって1mA程度以下になったら、
次に150Vを加えます、この電圧でも最初は多量の電流が流れますが、ケミコンが正常であれば1〜2分程度で1mA程度に減少します。
漏洩電流が1mA以下になればとりあえず合格とします。
この試験器は容量の測定はできません、通電しても危険が無いか試験するための物です。
容量が極端に大きなケミコンの場合、漏洩電流はもっと多くとも正常ですが、ラジオに使われているもの程度の目安とお考えください。
この状態で次に出力管のグリッドと前段の結合コンデンサーの絶縁を確認します。
出力管のグリッドの電圧を測定します、少しでも+電圧が出れば結合コンデンサーのリークです。
一般に良く使われているペーパーコンデンサーは絶縁不良が多いです、90%以上使用できないと思った方が良いでしょう。
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ボタンを押すと電流計のレンジが3mAフルスケールに切り替わる。 |
4)動作試験
10章の「レス・スーパー試験用ACコンセント」で確認した場合も共通に使えるよう記載してありますので、内容が一部重複します。
通電後、まずB電圧を測定します、100V前後あることを確認してください。
異常に低い時は整流管の劣化かケミコンの漏洩電流が過大になっている可能性があります。
次に出力管30A5(35C5)のG1の電圧を測定してください、内部抵抗の高い、デジタルテスターが良いでしょう。
ここに+電圧が出ると結合コンデンサーの不良です。
チューブラ型のペーパーコンデンサーが使われている場合、リークが酷く使え無いことが殆どです。
漏洩試験をする代わりに無条件にフイルムコンデンサーに交換するほう効率的です。
なお非常に稀ですが、出力管の不良でG1に+電圧が出ることがあります。
一般に真空管を抜いた時も+電圧が出るのがリーク、抜いたら+電圧が消えるのが真空管不良です。
しかしレスラジオは真空管を抜くと、B電圧も出なくなります、ケミコンにB電圧が残っている一瞬のうちに測定する必要があります。
通電すると20秒程度で何らかの音が聞こえます、完全に無音だった場合も含め、表のような原因が推定できます。
順次確認解消してください。
なお長期間保管されている間に、複数個所が壊れていることが多いです。
故障箇所は1つだけと思い込まないように注意しましょう。
現象 | 故障原因 | 備考 |
通電できず | *ACコード断線やプラグの破損破損 *ヒューズ断線 *真空管の断線 *真空管とソケットの接触不良 *電源スイッチの不良 *真空管ソケットの不良 |
*コード類で外見上危険と思われたときは交換する。 *真空管は1本でも断線していると、全体が点灯しません。 個別に3番ピンと4番ピン間の導通を試験してください。 35W4などの整流管は6番ピンにPL用タップが出ています、 この為4番ピンと6番ピン間が良く断線しています、確認してください。 *真空管を軽くゆすってみると回復することがあります。 基本的にはソケットの接触面を清掃することと真空管ピンの清掃が必要。 |
完全に無音の場合 | *B電圧が出ていない、整流管の不良 抵抗(R10 R11)の断線。 *出力トランスの断線、スピーカーのボイスコイル断線、 出力トランスに並列に接続されたコンデンサーのショート。 *出力管の不良、カソード抵抗の断線。 *真空管ソケットの不良。 *スピーカー配線のはずれ |
*出力管のPやG2に電圧が加わっていない事があります。 ソケットの金属端子が破断している事が稀に有ります、 真空管のピンそのものの電圧を測定してみてください。 |
ブーンと言う音が大きい | *平滑コンデンサーの容量不足 *部品同士の接触や真空管の不良 |
*真空管ラジオに小さなブーンと言うハム音は基本的にはつき物です、 電池動作のトランジスターラジオと比較してはいけません。 小さくブーンと音は出ます。 このクラスのラジオではスピーカーへのB電源で3V程度のリップルは普通です。 平滑回路を出た部分のリップルは0.3V程度。 |
音が小さい | *出力管の劣化、スピーカーや出力トランスの不良、出力トランスに並列に挿入のコンデンサー不良。 *特にスピーカー不良の場合、音が歪むことが多い。 *イヤホーン・ジャックの不具合。 真空管ラジオのイヤホーンはクリスタル・イヤホーンを使うことが多いです。 このため出力管のグリッド回路に入れて使います。 |
*カソードバイアス電圧を測定してみて、3V以下だと劣化を疑うこと。 スピーカーを交換してみる。 PU端子から入力を入れてみて、AF部分(12AV6 30A5)が動作しているか確認 |
音が歪む | *スピーカー不良 *30A5バイアスの不良 *カップリングコンデンサーの絶縁不良 *AVC回路の不良 *グリットバイアス回路の抵抗断線 |
*楕円型スピーカーは経験上、湿気などでコーンが変形し不具合になっていることがある。 *ローカルの強力な放送局で歪む時はAVC回路を確認すると良い。 |
感度が悪い | *アンテナが接続されていない *鉄筋の建物で、元々電波状態が悪い *真空管の劣化 *IFTの不良(IFTのコイルの焼損やコンデンサーの劣化)や調整の狂い。 *バンド切替スイッチの接触不良 *アンテナコイルの断線 *バイパスコンデンサーの容量抜け。 |
*IFT調整時 ピークが確認できない場合はコンデンサーの劣化の確率が高いです。 |
PU入力はOKだが、 受信できない |
*バンド切替スイッチの接触不良 *真空管の劣化 *CR(コンデンサー 抵抗)の不良。 *IFTを含むコイル類の断線、バリコンやトリマのショート。 |
*何度がまわしてみると回復する、接点復活剤の使用は避けたほうが無難。 *真空管は良品と交換してみる *アンテナコイル、発振コイルやIFTの断線はテスターで確認。 更に発振回路のC4のオープン R1の断線を確認。 |
一部の周波数で受信できない | *バリコンの羽根がショートしている *局部発振回路の劣化(コイル やコンデンサー)。 *パディングコンデンサーの容量抜け→受信周波数が上側にずれる。 |
*バリコンの不良は配線を外して、テスターで導通を確認。 *トランジスターラジオを横において、局発信号をモニターしてみる。 正常なら「受信周波数+455KHz」の信号が確認できる。 パディングコンデンサーの容量抜けは意外と多い。 |
発振する (ピー音がする) |
*真空管の不良 *部品不良 配線のはずれ *バイパスコンデンサーのオープン *外部の電波(温水便座など)による妨害 |
メーカー製受信機で発振する場合は少ないです、 それでも発振したら真空管の不良や半田付け不良を疑ってください。 *温水便座のごとく、455KHz付近の電波を出す機器が出回っています。 同調するとラジオから、IFの発振と間違えるようなピー音が出ます。 妨害を出す機器の電源を切ってみると区別できます。 |
雑音がでる | *「かりかり、がりがり」雑音はコイルの切れ掛かりやコンデンサーの不良でおきやすい。 *接触不良 *外部雑音 |
*遠雷のような雑音は本物の雷の他にコイル類の切れ掛かり、 コンデンサーの不良でも発生します。 *接触不良は「揺する、軽く叩く」で見つけます。 *外部雑音かどうかは別のラジオで聞き比べます。 |
真空管の足が曲がった | ![]() |
ラジオペンチで大まかに修正後、 7章で説明したピン・ストレートナーで仕上げの整形をする。 優しく扱わないとガラスが割れます。 |
5)オンキョー OS-195の回路図と実測例
上記で解決できない場合、各部分の電圧を測定、標準値と比較して見てください。
テスターはDCの場合 20KΩ/1Vの内部抵抗のテスターで測定しました。
電圧は放送を受信していない時の値です。
受信するとAVC電圧でB電流が減少、結果的にB電圧が上昇し、括弧内の電圧になります。
6)かなりやQの回路図と実測例
6d−File0060
↓
35W4のプレート | 95V | この場所はAC電圧です、ヒーターやPLの抵抗経由ですから100Vから数V低下しています。 |
35W4のK | 98V(DC) | プレートに加えたAC電圧より、少し高い電圧になります。 測定誤差もあるので、多少の上下は有ります、自分のテスターで目処をつけておくと良いでしょう。 ☆電圧が90V程度以下 @整流管が劣化している。 AB電流がが大幅に増加している。 Bケミコンの容量不足(ブーンと言うハムが出ること多い)。 |
平滑後 | 87V |
ローカル局受信時にはAVC電圧でB電流が減少、結果的に電圧が数V上昇します(82Vから86Vへ)。 ☆平滑抵抗の両端で電圧降下が少ない時はB電流の減少を示します、原因は。 @出力トランスや30A5のカソード抵抗の断線、G2へ電圧が加わっているか。 A30A5の劣化 BIFTの断線、12BE6 12BA6の不動作。 ☆電圧が異常に低い時(平滑抵抗の両端で電圧降下が多い) @出力管への結合コンデンサーの絶縁不良 A平滑抵抗の変化(熱による抵抗値の増加や断線) B平滑コンデンサーの絶縁不良 |
30A5のプレート | 93V | 出力トランスの巻線抵抗で、98Vから93Vへ電圧降下する(ただしトランスの巻線抵抗は製品により異なる)。 |
30A5のカソード | 5V | 3Vくらい以下だと真空管の劣化、6Vくらいだとコンデンサーのリークでグリッドに+電圧が加わっている可能性あり カソード抵抗も念のため確認すると良い、稀に断線していることがある。 0V近くの場合 出力管が働いていない(真空管不良、ソケット不良 配線はずれ ソケット不良など) |
30A5のG1 | 0V | 出来るだけ入力抵抗の高いテスターで測定し、0Vであることを確認。 0.1Vでも出れば結合コンデンサーの不良か、真空管の不良。 |
30A5のG2 | 87V |
真空管ソケットの端子が断線していることあり、真空管のピンで測定すると。 ※1 |
12AV(T)6のプレート | 50V | 負荷抵抗が高いので、測定するテスターで電圧の表示は大幅に変わります。 30〜70V位にばらつついても可。 電圧測定時スピーカーからクリック音が出ます。 |
12BA(D)6のプレート | 87V | 電圧が出ない時はIFTの断線、電圧測定時スピーカーからクリック音が出ます。 ※1 |
12BA(D)6のG2 | 87V | 真空管ソケットの端子が断線していることあり、真空管のピンで測定すると。 ※1 |
12BA(D)6のカソード | 0.2V | この電圧はローカル局を受信している時です。 受信していない時は上昇します。 これは12BA6のB電流がAVC電圧で変動する為です。 |
12BE6のプレート | 87V | 真空管ソケットの端子が断線していることあり、真空管のピンで測定すると。 ※1 |
12BE6のG2・4 | 87V | 真空管ソケットの端子が断線していることあり、真空管のピンで測定すると。 ※1 |
※1 AVC電圧の変動により12BE6と12BA6のB電流が増減します、この為B電圧は数V程度これにつれて変動します。
ローカルの強い局を受信するとAVC電圧が高くなり(マイナス電圧)、これにつれてB電流が減少し、結果的にB電圧が上昇します。
7)調整方法
調整方法は8章 をご覧ください。
8)ラジオ修理完了
修理が完了すれば、キャビネットに入れるわけですが、裸のスピーカーで確認した場合、意外とハムに気づかぬ事が有ります。
箱に取り付けると低音が出るようになり、ハムで困ることがあります。
大部分は電源のケミコン容量の不足です、箱に入れる前に確認した方が楽です。
9)慣らし運転
調整が済めば、念のためエージングを兼ねて、動作試験をします。
なおトランジスターラジオに親しんだ人は、真空管ラジオにアンテナが必要とは思わない人もいるようです。
是非アンテナをつけてきいて下さい。
出来れば、アースも欲しいです。
昔のラジオの感度階級は高さ8m 水平部12mの標準アンテナを接続する前提で、計算されています。
コラム 結合コンデンサーの絶縁抵抗が30MΩ有るとすると、グリッドリークを500KΩとして、 12AV6のプレート電圧を分割して、計算上1V近い電圧がG1に加わることになります。 この分バイアスが浅くなりプレート電流が増加します、出力管や整流管に無理が加わり、劣化を早めます。 チューブラ型のペーパーコンデンサーの絶縁抵抗は、現時点 ほとんどの物がこれ以下の絶縁抵抗しかありません。 乱暴ですが、出力管の結合コンデンサーは無条件にフイルムコンデンサーに交換したほうが無難です。 結合コンデンサーの絶縁が大丈夫でも、30A5の不良で+電圧が出る事はあります、確率は非常に低いです。 |
コラム 100V 0.15Aのヒーター電流ですから666Ω有るはずですが、真空管が冷たい時は数分の1程度しか抵抗はありません。 またメーカーによって抵抗値(冷たい時の)は多少違う可能性があります。 あまり神経質に測定する必要は有りません、目安です。 |
ペーパーコンデンサーについて 一般に全数交換した方が良いことすらあります。 @電灯線に直結されている回路に使われているコンデンサーは安全規格の認定品に交換することをお勧めします。 Aその他のコンデンサーも絶縁不良になっていることが多いので、できればフイルムコンデンサーに交換した方が良いでしょう。 (テスターで測定して、絶縁は大丈夫と思っても、100Vを加えると、漏洩電流の多さに驚くことがあります) 容量計によっては漏洩電流があると、容量が増加したように表示するものが有ります、間違わないように。 抵抗について mT管のレスラジオの場合、抵抗は殆どそのまま使えることが多いです。 稀に断線や焼損があります、外見で焼けたようなものは抵抗値を確認ください、できれば交換した方が良いでしょう。 |
パイロットランプ ![]() トランスレスラジオでパイロットランプが点灯しない時は、整流管が断線する危険があります。 |
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ヒューズについて 普通は1Aか0.7A程度の物が使われています。 一部のラジオでヒューズが無い場合があります。 整流管35W4を断線させることでヒューズ代用にしています。 当時は35W4が安かったので、合理的な考え方ですが、 最近は高価な真空管なので、断線させないように注意しましょう。 心配な方は ヒューズを別に準備した方が安心です。 |
ご注意:真空管ラジオは製造後、半世紀以上経過した電気製品です。
これらは、当時の安全基準で作られています、筆者は修復品の安全性を保証をするわけではありません。
使用時の火災予防など、全て自己責任です、安全に充分配慮して作業してください。
参考文献 真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦! 技術評論社 こだわりの真空管ラジオつくり 技術評論社 |