6−2 mT管5球スーパー(トランス付)の組み立て

mT管5球スーパーを、出来るだけ秋葉原などで販売されている部品を使用して、組み立てることにしました。
真空管は、当初 6BE6 6BA6 6AV6 6AR5(or6AQ5) 5M−K9を使用し、IFTはラジオ少年製のものを利用する予定でした。
結果的には、IFTはスター(富士製作所)A4 B4を、IF増幅管は6BD6に変更しました。

シャーシは、ミズホ通信製の5球スーパーシャーシーが販売されているので、利用しました。

1)回路図

6−1章 ST管5球スーパーは、少し簡略化しましたが、こちらは標準的な5球スーパーの回路としました。

抵抗値 W数 備考
R1 20KΩ 1/4W〜 発振グリッドのバイアス用、電流は0.5mA程度流れる、一般的には20KΩが使われている。
R2 330Ω 1/4W〜 IF増幅管のカソードバイアス R2=Eg/(Ip+Isg) 3V/(8.2mA+2mA)=300Ω、入手できなければ330Ω。
R3 10KΩ 3W G2の電圧が70〜100V程度になるよう抵抗値を決める、電流が多いのでW数注意。
R4 1MΩ 1/6W〜 C4とあわせAVCのフイルター用
普通はCRの時定数を0.1秒程度に選ぶ(0.1μF×1MΩ)、メーカー製では0.05と2MΩの組み合わせも多い。
短波主体の通信型受信機では短い周期のフェージング対応に時定数を更に短くした物もある。
R5 47KΩ 1/6W〜
R6 5.6MΩ 1/4W〜 6AV6のグリッドバイアス用、2〜10MΩ。
R7 220KΩ 1/4W〜 6AV6のプレート負荷、100〜250KΩを使う。
≒Rpか その2〜3倍程度に選ぶ。
ハムを嫌う場合、6AV6にもシールドケースを使い、プレート回路にも47KΩ+程度のデカップリング回路を追加すると良い。
R8 47KΩ 1/4W〜 6AV6のプレート回路デカップリング抵抗
R9 470KΩ 1/6W〜 R7の2〜3倍
VR 500KΩ A型またはD型 滑らかな音量調整の為にはAまたはD型のカーブを持ったものを使う。
感度重視の場合1MΩを、音質重視の場合100KΩを使うこともある。
R10 470Ω 2W 6AR5のカソードバイアス用、470〜560Ωでも可。  
R11 100KΩ 1/6W〜 AVC回路のデカップッリング用
R12 220Ω 2W 平滑抵抗
R13 3K 3W 今回は2W 1.5Kを2個直列で使用した。
C1 100PF 50V耐圧で可 発振回路との結合用 50〜100PF 。
C2 0.1μF 耐圧50V AVC回路のデカップッリング用
C3 0.1μF 耐圧DC250V以上 RFのバイパス用 。
整流管に12Fを使う時は400V耐圧が望ましい。
C4 0.1μF 耐圧50V IFのバイパス用 
C5 0.1μF 耐圧12V IFのバイパス用
C6 100PF 耐圧50V IFのフイルター
C7 100PF 耐圧50V IFのフイルター 
C8 0.01μF 耐圧50V 希望音声周波数を通過させる値 0.005〜0.01を通常使用。
C9 200PF 耐圧DC250V以上 音声周波数では減衰が少なく、IFでは減衰する値、100〜250PF。
IF信号のバイパス用です、これを入れないと出力管で漏れたIF信号が増幅されてトラブルの元になる。
C10 0.01μF 耐圧DC250V以上 高い絶縁抵抗が要求されます、フイルムコンデンサーかセラミックコンデンサーが無難。
ペーパーコンデンサーは未使用品でも使わない方がよい。
C11 0.005μF 耐圧AC250V以上 高周波バイパスや音質調整用に挿入。
音質調整を別につけた時でも高周波バイパス用に0.002μF程度は入れたほうが良い。
出力トランスにパラに入れるので、思わぬ高電圧が加わるので耐圧の高い物を選ぶこと。
C12 0.01μF 安全規格認定品 安全規格に合格した品質の物を選ぶ。
C21 22μF 耐圧100V 6AR5のカソードバイアス用 10〜100μF、手持ちの関係で100Vを使用したが、50Vでも勿論大丈夫。
C22 22μF 耐圧315V以上 容量が大きいと整流管に無理がかかる、22μFが適当、大きくても33μF以下に。
C23 22μF 耐圧315V以上 容量が大きくとも問題ないが、この程度で充分。
C24 22μF 耐圧315V以上 容量が大きくとも問題ないが、この程度で充分。
C25 2.2μF 耐圧315V以上

2)使用部品

まず部品を集めてみました、結果的に変更したものもありますが、ものが集まると具体的構想が湧いてきます。



@真空管




A電源トランス

東栄のTYPE P-60を使うことにしました。

   

Bコイルとバリコン

現在でも入手できる部品を使用して組み立てるという趣旨から、バリコンはポリバリコンを使うことにしました。
最大容量340PFのポリバリコンと組み合わせられるコイルということで、アサヒ通信製の5球スーパーコイルを使用します。
紙ボビンに巻いてあり、多少安っぽい感じはしますが、値段も他社の物に比べ数分の1です。
調べてみると
同調コイル:280μH
アンテナコイル(1次):1.3mH
1次側のインダクタンスが少ないことを発見、ナチュラルが放送波帯に入り込みそうです。
標準アンテナを使う前提で作られているようなので、短いアンテナを使う時は要注意。


Cシャーシ

穴あけが大変なので、ミズホの復刻版5球スーパー・シャーシを使うことにします。
元々はST管用ですが、アダプターが付属しているのでmT管用として使えます。
アダプターは半分に切断して使います。

東栄トランスのP−60タイプを組み込む時は取り付け穴の位置を2〜3mmずらす必要があります。





このアダプターの真空管取り付け穴は15mmφです。
RF用のソケットは、組み込めましたが、センターピンの無いAF用ソケットは、大きくて組み込めません。
ヤスリで穴を広げる方法もありますが、今回はソケットは、同じRF用で統一しました。
なお別メーカーのRF用ソケットも、写真のように組み込めませんでした。
出来れば、改良して欲しいです。





このシャーシはビニールの保護膜があります。折角ですから残すことにしました。
ただmT管アダプターの部分は残すと接触不良になるので、この部分は取り外しました。


mT管アダプターを組み込んだところ。

DIFT
ラジオ少年製のIFTを使用する予定でしたが、ミズホの復刻シャーシと相性が悪く、使用できませんでした。
このIFTはmT管用のシャーシに合う様に作られているようで、ST管用の復刻シャーシとは寸法的に異なるのは当然かもしれません。
スターのA4 B4タイプを使うことにしました。




3)組立作業
IFT、バリコン ケミコンなど比較的軽い物から組み込んで行き、最後に重いトランスなどを組み込みます。


スターのIFTを使うことにしましたが、ミズホのシャーシで、IFTのビス穴が横位置のみなのが多少不満です。
縦方向にもあけてあれば、更に良かったと思います。

なお アンテナコイルはある程度配線が終わってから組み込みます。
コイル自体はひ弱な構造なので、最初から組み込んでおくと壊れやすくなります。



真上から見たところ。


シャーシ内部の様子。
まずこのようにソケットを取り付けて、配線してゆきながら、
真空管ソケットの方向などは、必要に応じ変更します。

本来は組み立てる前に、図上で良く検討して組み込むべきですが、
試行錯誤して、組み立ててゆく方が楽しくて実用的です。
組み立て完了写真と比較すると、変更箇所がわかります。


バーニアダイアルは、カプラーを途中に入れて組み込みます。
これを入れると、軸の偏芯を多少補ってくれます。
カプラーをいれずに直結すると、不具合が起きやすくなります。
カプラーとバーニアの間の延長軸は、
市販されている6mmφのアルミ丸棒を、適当な長さに切断して利用します。




カプラーはいろいろな形があります。
寸法が許せば、S字型の構造の物が柔軟性があってよいでしょう。

4)配線
部品をシャーシに取り付けてから、配線を始めます。
昔 JIS規格で使用する場所ごとに、ビニール線やエンパイア・チューブの色分けが決められていました。
しかし、これを守って作ったラジオは殆ど見かけません。そんなわけで、自分の好みで決めてよいでしょう。
筆者は、B電圧の加わる部分は、赤や橙を、ヒーターには青、アースは黒を良く使います。
感電の恐れのある部分は、危険表示の意味もあって、赤のような目立つ色にしています。

順序として、まずアース母線を張ります。次にヒーターの配線をします。
特にヒーター配線は、大きな電流が流れます。それに耐えられる太さの電線を選びます。
今回は標準的な方法で配線しましたが、普段はヒーターは片線をアース共通とし、6.3V側のみビニール線で配線しています。
なお、高周波部分のソケットのセンターピンのアースは、忘れないようにしましょう。

@発振コイルの組み込み

アサヒ通信製の5球スーパーコイルと、組になっている発振コイルは、10mm角のTR用IFTのケース入りです。
このままでは組み込めません。




ラグ端子にケースを半田付けして、シャーシに組み込むことにしました。



事前に、パデイング・コンデンサーやリード線を、半田付けしておく必要があります。
コイルに同梱されている資料に、容量の指定はありませんが、330PFを使います。


最終的に組み込んだ様子です。
写真 右側のソケットは6BE6用です。
発振コイルのコアが調整できる位置や、方向に取り付けてください。

A平滑用の抵抗の取り付け方
最近の抵抗は、小型化されてるので、昔の大型の物に比べ、放熱面積が狭く、高熱になります。
ラグ端子に取り付けてください。
合理的と思って、ブロックケミコンの端子を利用すると、熱でケミコンを暖めます。
今回は、3KΩ 3Wの抵抗の手持ちが無かったので、2W 1.5KΩの抵抗2本を直列に接続して利用しています。
これで4W 3KΩ相当になります。抵抗値やW数不足の時に、応用してください。

出力トランスの二次側に、回路図に無い100Ωの抵抗が入れてありますが、これはスピーカーとの接続が外れた時、無負荷にならぬように配慮した為です。
これを入れると出力は損をしますが、微々たる値です。



Bラグ端子利用上の注意事項

ラグ端子で、B電圧が加わる端子とG回路のような、ハイ・インピーダンス回路が隣接する場合、写真のように中間の端子をアースします。
べーク板は長い間に絶縁不良になることがあり、グリッド回路にB電圧の一部が回り込むことがあります。
中間をアースしておくと、これを防止できます。



5)組み立て後の確認と動作試験
全ての配線が終わったら、間違いが無いか再度確認してください。
配線の間違は、必ずあると思って、見直す態度が肝心です。
再確認が済めば、整流管のみ抜いた状態で通電し、ヒーターが正常に点灯しているか確認します。
ここまで大丈夫であれば、整流管を挿して通電します。この時、煙や臭いにも充分注意してください。
怪しいと思ったら、即 通電中止です。
スピーカーの配線を忘れやすいので、注意しましょう。
音がでれば完成ですが、経験上そう簡単にはいきません。
正常に動作するまで、原因を追究してください。
不具合が残る場合、各部分の電圧を測定して、下記の例と比較してみると、部品不良や間違った配線の発見に役立ちます。
カラーコード部品は、違う値の物を組み込むことがあります。抵抗値も測定してみるのも一つの方法です。
B電圧は強力な放送を受信している時と、そうでない場合では、電圧が違います。
これは、受信することで、AVCが働き、B電流が減少するためです。
ローカル局受信時の電圧は、調整済みの場合です。
組み立て直後の場合は、無信号時の電圧に近いと考えてよいでしょう。

測定場所 無信号時の電圧 ローカル局受信時の電圧 参考
5M−K9のプレート電圧(AC) 227V 228V トランスの表示値より低いです、この方が好都合。
5M−K9のカソード電圧 242V 247V AC入力電圧より、多少高い直流電圧が出る。
平滑回路220Ωの出力側 233V 238V
平滑回路3KΩの出力 175V 195V
6AR5のプレート電圧 227V 232V P電圧が0Vの場合、G2のみに電圧が加わると、出力管が劣化。
6AR5のG2電圧 175V 195V =B電圧
6AR5のカソード電圧 10.6V 12V
6AV6のプレート電圧 80V 85V テスターで測定する時クリック音がする、音が出ない時は低周波段の不良。
6AV6デカップリング回路出力側 158V 175V
6BD6のプレート電圧 175V 195V ≒B電圧
6BD6のスクリーングリッド電圧 90V 98V
6BD6のカソード電圧 3.2V 0.8V
6BE6のプレート電圧 175V 195V ≒B電圧
6BE6のスクリーングリッド電圧 90V 98V



完成し 通電試験中の5球スーパー。



IFT
スターA4 B4について
この製品は、高感度のスーパーが出来ることをコイルメーカーが競い合っていた、比較的初期の製品のようです。
元々6D6用に作られているので、gmの高い6BA6に使用すると発振しました。
その為、IF増幅管は急遽6BD6に変更しました。これで正常に動作するようになりました。
同じ型名で長期間製造されていたので、構造が異なる物が有ります。
これは改良されている可能性はありますが、IFTによっては発振することがあると、記憶しておいた方が良いでしょう。

6)調整方法

標準的な調整方法は8章に記載してありますので、参考にしてください。

ここでは、周波数直読ラジオを使った変わった”5球スーパーの調整方法”を紹介します。
この方法は、慣れると簡単ですが、手順が多少煩雑ですから、経験を積んでから試してみると良いでしょう。
まず、受信周波数が直読できるラジオを準備します。
ピークの確認方法は、IF増幅管のカソード電圧を、テスターで測定しながら行うのが、簡単で便利です。
AVC電圧が高くなると、IF増幅管のカソード電流が減少する原理を応用した方法で、電圧が最も低い時がピーク(同調した時)です。

@IFTの調整
局発の周波数は、常に受信周波数+455KHzを発振しています。
なお局発の信号は、キャリアー(搬送波)だけですから、信号は強いが、受信しても無音です。
判別はSメーターの振れか、受信した時、雑音が消える現象を利用して確認します。
最初は戸惑いますが、慣れると簡単です。

*IFTの同調周波数を揃える。
まず、ローカル局を受信します。IFTのネジを調整して、ピークを確認しながら調整します。
この時点では、コイルを全て455KHz付近の”ある周波数”に揃えた段階です。
これで、ある程度感度がよくなったはずです。
ネジは無闇に回すと、元に戻せなくなります。戻せる範囲に限定してください。
出来るだけ、アンテナは短くして、AVC電圧が高くならないようにした方が、判りやすいです。

*IFTを455KHzに追い込んでゆく。
ローカル局の周波数を、例えば594KHzとします。
直読ラジオの受信周波数を、1049KHz(=594+455KHz)に設定します。
この時、Sメーターが強く振れる(S表示LEDが沢山点灯する)と、IFTは455KHzにほぼ合っていると考えます。
もしSメーターが振れなければ、1049KHz付近の電波を捜してみます。付近に必ず強く振れるところがあります。
例えば、1064KHzで局発信号が受信できれば、IFTは15KHzずれた470KHzに同調していることになります。
再度、直読ラジオの受信周波数を1049KHzに戻します。
5球スーパーでは、ローカル局(594)が受信でき、直読ラジオでは、1049KHzの局発信号が受信できるよう、IFTと局発コイルを相互に調整して、追い込んでゆきます。
これで、IFTが455KHzに調整できたことになります。
なおローカル局の周波数が612KHzの場合は、1067KHz(=612KHz+455KHz)というように換算して応用します。

A受信周波数範囲の調整
530〜1605KHzを受信する為に、局発は985〜2060KHzの範囲を、可変できなければいけません。
直読ラジオを隣において受信してみると、カバー範囲が容易に判明します。
多少の余裕を見込んで、970〜2135KHzでキャリアーが確認できれば良いでしょう。
バリコンの容量最大の部分で、970KHzを発振するように発振コイルのコアを調整します。
バリコンの羽根が抜けきった位置で、2135KHzを発振するようにトリマを調整します。
なお使用した部品や配線方法で、受信範囲が狭くなることは原理的にあります。
この場合は、地域の放送が全て受信できる範囲に、割り切ることも大事です。

Bトラッキング調整
周波数の低い方は、コイルを調整。高い方はトリマで調整します。
地域の放送局で一番低い方でコイルを、高い方でトリマを調整すればよいでしょう。
ちなみに首都圏では、JOAK(594KHz)とJORF(1422)を利用すると便利です。
コイルの巻数が不足した時は、コアの破片を中に入れる。多すぎる時は、巻数をほどくなど、カットアンドトライで調整します。
とは言うものの、ソレノイドコイルの調整は面倒です。
感度がある程度有れば、低い方の調整は、省略しても良いでしょう。


高い電圧を扱います、感電には充分注意してください。