電源回路

2007年7月2日

真空管回路にはA B C電源が必要です。
ただマイナスのC電源(バイアス用)は殆どの場合カソードバイアスを利用しますので、簡単に説明します。
ラジオで使う真空管の構成が決まったら、規格表から大よその消費電力が計算できます、この数値から必要な電源を設計します。
一般にA電源はヒーター電圧や用途でグループわけして準備します。
電圧は規定のもの、電流は多少の余裕を見込みます。

B電源は使われる真空管により電圧が変わります。
電圧は自由度があります、電流は計算値を目安にします、このあたりがA電源と違うところです。
6Z−P1を使ったものはこの真空管のスクリーングリッド電圧の制限が180Vですから、カソードバイアスの電圧10Vを加味して、
平滑回路を通った後の電圧が190V以下になるようにします、平滑抵抗の電圧降下を見込んでトランスのB巻線は230Vくらいでしょう。
ただB巻線の電圧が180V程度でも充分実用になります、低いほうが何かと便利なことが多いです。

6AR5や42であればスクリーングリッドに250V(+バイアス)加えられますので、これが目安になります。
古い時代のラジオのB電圧は高いものが多いですが、時代が新しくなるにつれ、200V程度のものもみかけます。
現時点 トランスまで設計して注文することは無いでしょうし、入手できたトランスを使用することが殆どでしょう。
トランスを選ぶことが出来ればB電圧は200〜220V程度の低いものが使いやすいです。
出力電圧の高すぎるトランスは電圧降下用に大型の抵抗が必要です。
特に電磁型スピーカー用のトランスはB巻線が330Vくらいあります、普通のスピーカーを使う時は採用を避けたほうが無難です。

昔のラジオは真空管の性能を限界まで引き出すように、B電圧も高めに設定されていました。
現在は「楽しく受信する、しかも寿命も長くなるように」を目標とすれば、B電圧は低いほうが良いでしょう。

A電源

真空管のヒーターを点火する場合、同じ電圧のヒーターを並列に接続する場合と、同じ電流のヒーターを直列に接続する場合があります。
後者は一般にトランスレス(トランスを使わない)受信機に利用されます。
戦前のトランスつきラジオでは2.5Vヒーターの真空管が多用されましたが、戦後は6.3Vのものが多いです。
整流管用のヒーターは別に必要です。
戦前の並四受信機のごとく真空管のヒーター電圧がまちまちなものはヒーター巻線の数が多くなります。

普及型の(トランスつき)5球スーパーの例





電圧 電流
6W−C5 6.3V 0.35A 6.3V 1.45A
(PL含む)
6D6 6.3V 0.3A
6Z−DH3A 6.3V 0.3A
6Z−P1 6.3V 0.35A
12F 5V 0.5A 5V 0.5A
PL(ランプ) 6.3V 0.15A

ラジオを組み立てる場合、ここで計算した数値に多少の余裕をみてトランスを選んでください。
マジックアイや複数のPLを接続することもありますので、忘れないように。
常識的には2A程度のものが良いでしょう。


戦前の並四受信機の例


昭和14年頃から盛んに作られた並四受信機。
当時は国策型とも呼ばれました。
このほか真空管が57 26B 12A 12Fのものがあり、
2.5V 1.5V 5V 5Vの4個の巻線が必要でした。 

電圧 電流
57 2.5V 1A 2.5V 2.3A
(PL含む)
56 2.5V 1A
12A 2.5V 0.25A 5V 0.25A
12F 5V 0.5A 5V 0.5A
PL(ランプ) 2.5V 0.3A

2.5VPLの電流は0.3Aより多いものもあります、また複数つけることもあります。
このタイプの電源トランスの新品はありません、昔のラジオを分解したものを流用することになるでしょう。
ただ物不足時代のものは、細いエナメル線を巻いた電圧変動率の悪いものがあります、
表示電流の半分程度の電流で使う時は実使用状態での電圧を確認しておいた方が無難です。

トランスレス5球スーパーの例

ヒーター電圧はそれぞれ違いますが、電流が150mA等に統一されていて、直列に接続して使います。
ヒーター電圧を合計すると100Vになるように真空管を選ぶとA電源用のトランスが不要になり、経済的です。
真空管の直列接続では、起動時間を揃える、ヒーターカソード間の絶縁の向上など製造技術の向上がかかせません。
日本の真空管製造技術の向上もあって、昭和30年頃から急速に普及してきました。

ヒーターの接続順には決まりがあります、雑音の影響を受け易い12AV6をアース側に接続します。
12BA6と12BE6はメーカーによってこの逆の接続(12BA6がアース側)も多いです。
その次がパワー管 整流管の順序になります。

電灯線に直接されるので、電源インピーダンスは0に近い為、整流管を保護する目的で、
PLや真空管のヒーター抵抗を利用した回路が工夫されています。
さらに安全性を考慮して、R2を追加したものもありますが、普通これは省略します。

B電源

B電源は直流です、トランスで200〜300Vに変圧して、これを整流管で直流に変換します。
簡単な受信機では半波(片波ともよぶ)整流を、B電流が50mA以上の場合 全波(両波)を使うことが多いです。

基本的な整流回路

半波整流は交流電圧のプラスになった半分だけを使う方式です。
これに対し、全波整流は中点タップのあるトランスを利用し、極性を逆転させて両方の電圧を直流に変換します。
トランスが複雑になること、全波整流管が必要なことから、電流が比較的多い場合に使われます。




上記のような整流回路に電圧を加えると、
半波と全波の場合図のような波形の電圧が負荷抵抗に出ます。

これはコンデンサーが無い場合の電圧波形です。
平滑用コンデンサーを付加すると、
流れる電流波形は異なってきます。

平滑回路
真空管で整流した波形は直流分に交流波形がのった脈流です。
これではブーンと言う音がして、とてもラジオは楽しめません。
平滑回路を通して、ラジオに使える直流にします。
この回路は直流は通過しやすく、交流分を阻止するフイルターです、LCフイルターが効率的ですが、
物資が不足した昭和14年頃からチョークコイルの代わり抵抗を使ったRCフイルター方式が多くなります。
チョークコイルは電流が比較的多い高級品に使われました。

Lは10〜30H
C1 C2は2〜4μF











R:3KΩ
C1 C2:4〜(時代や用途で大きく変わる)


整流管のプレートに加わる電圧です。









整流管のプレートを流れる電流です。
平滑回路のコンデンサーがありますので、
プレート電圧がコンデンサーに充電された電圧以上になった瞬間だけ電流が流れます。
最大出力電流の6倍以内に抑えないと真空管が痛むので、電源インピーダンスを無闇に小さく出来ません。


上記回路のB1の位置の電圧です。
負荷電流やコンデンサーの値により大きく左右されますが、
普通の5球スーパークラスですと実効値2〜3Vの交流が重なった程度の山谷があります。
この部分をリップルと言います。


B2の部分の電圧です。
誇張して書いてありますが、実際の出力波形は殆ど平坦です。
殆どリップルの無い、直流に近い波形になります。

平滑回路はもともと コンデンサー チョーク コンデンサーのπ型と言われる回路が使われていました。
ペーパーコンデンサーで大きな容量は望めないので、2μF程度のコンデンサー2個と、30Hのチョークコイルを組み合わせた平滑回路です。
昭和10年代中頃になって、物資不足となり、チョークコイルの銅や鉄が入手できなくなり、3KΩ程度の抵抗と数μFのコンデンサーで代用するようになりました。
これは10Hのチョークの50Hzのインピーダンスが3,000Ωから決められたようです(2πfL=   2×3.14×50×10=3,000)。
低音が出ないマグネチックスピーカーとB回路の消費電流が小さい時代のラジオなのでこの程度でよかったのですが、
戦後スーパーが流行、消費電流が多くなって、スピーカーも低音の出やすいダイナミックスピーカーに代わったので平滑回路も変わってきました。
40〜50mAくらい消費するスーパーの場合、3KΩの平滑用抵抗を従来の回路で使うと電圧が降下して実用になりません。
幸い電力増幅用の5極管やビーム管は内部抵抗が高いので、プレート電源としては多少リップル分があっても大丈夫なので、
整流管のカソード(フィラメント)から直接供給する工夫がしてあります。
もちろんスクリーングリッドの電圧はリップルがあるとハムの原因になりますので、平滑回路を通った後から供給します。
こうすることで効率的に動作する工夫がしてあるのです。




C1の値は戦時中〜昭和20年中頃までは6μF程度が使われましたが、
その後ST管時代には10〜20μFが使われ、
昭和30年以降 mT管時代になって20〜40μFくらいに増加してゆきました。













3極管は内部抵抗が低いので、5極管と同じ方法では使えません、
幸い12Aはプレート電流が少ないので、フイルターを出たところから供給します。
2A3のように大電流が流れるものは、チョークコイルを使った平滑回路を使います。



大型のスピーカーを使い木箱に入れると、この方法ではハムが気になります、その場合はもう1段フイルター回路を入れて使います。




この回路はメーカー製Hi Fiラジオに良く使われています。
電源のリップルが電気的には同じでも、キャビネット スピーカーまで含めると大きな違いになります。
プラスチックケースと小さなスピーカーの組み合わせだと低音がでず、ここまでの回路は不要です。

電源トランスと整流管の選択

電源トランスはA電源 B電源を供給しますので、使われる真空管の消費電力(電圧と電流)を計算して決めます。
主な受信機の消費電力はおおむね表のとおりです。
パイロットランプ(PL)を含んでいませんので、その分を加えて計算してください。
殆どの場合 既製品のトランスを使いますので、A電源は10〜30%程度の余裕があればよいでしょう。
B電源の場合、表の数値は最大値になっています、実使用時は減少しますので、A電源ほどの余裕は必要ありません。
良く使われる整流管は別表のとおりです、合計のB電流によって適宜選んでください。
ST管のスーパーにはには12Fや80BKなどのST管が使われることが多いですが、性能的には5M−K9でもかまいません。

例えば6Z−P1を使った5球スーパー@の場合
6.3V 2A、5V 0.5A、200V 45mA程度のトランスでよいことになります。
整流管は12Fでは計算上少し不足ですが、事実上問題はありません、実際の製品ではこの組み合わせが多いです。

42を使った5球スーパーの場合、80BKや80HKを使う例が多いです。
mT管の5球スーパーの整流管は5M−K9か6X4が使われます、使うトランスによってどちらかを選ぶことになります。

なおトランスはレギュレーションの良し悪しが製品で異なります、余裕があり過ぎると電圧が高くなります。
このようなトランスを使う場合、念のため、実負荷で確認しておいた方がよいでしょう。

整流管の5V巻線が12F用の0.5Aだが、0.6Aヒーターの5M−K9や80HKで大丈夫かと心配される方も多いですが、
他の巻線(ヒーターやB)に余裕があれば実際上問題は無いようです。
ただ戦時中の物不足時代のトランスのように細いエナメル線を巻いたものは、実際の端子電圧を確認しておいた方が無難です。

真空管名 ヒーター電圧 ヒーター電流(A) プレート電流(mA) スクリーングリッド電流(mA)
並四 57 2.5 1 2 0.5
56 2.5 1 2.5
12A 5 0.25 8.5
12F 5 0.5
2.5V 2A
5V 0.25A
5V 0.5A
B 13.5mA
高1 6D6 6.3 0.3 8.2 2
6C6 6.3 0.3 2 0.5
6Z−P1 6.3 0.35 16 2.5
12F 5 0.5
6.3V 0.95A
5V 0.5A
B 31.2mA
5球スーパー@ 6W−C5 6.3 0.35 3.5 8.5
6D6 6.3 0.3 8.2 2
6Z−DH3A 6.3 0.3 0.5
6Z−P1 6.3 0.35 16 2.5
12F 5 0.5
6.3V 1.3A
5V 0.5A
B 41.2mA
5球スーパーA 6W−C5 6.3 0.35 3.5 8.5
6D6 6.3 0.3 8.2 2
6Z−DH3A 6.3 0.3 0.5
42 6.3 0.7 35 9.7
80BK 5 0.7
6.3V 1.65A
5V 0.7A
B 67.4mA
5球スーパーB 6BE6 6.3 0.3 2.9 6.8
6BA6 6.3 0.3 11 4.2
6AV6 6.3 0.3 0.5
6AR5 6.3 0.4 35 10
5MーK9 5 0.6
6.3V 1.3A
5V 0.6A
B 66.2mA
5球スーパーC 12BE6 12.6 0.15 2.6 7
12BA6 12.6 0.15 10.8 4.4
12AV6 12.6 0.15 0.5
30A5 30 0.15 43 11
35W4 35 0.15
B 79.8mA

名称 ヒーター電圧 電流 最大出力電流 交流入力電圧
5M−K9 5V 0.6A  60mA 350V
5R−K16  5V 1.2A 150mA 330V
5Y3 5V 2A 125mA 350V
6X4 6.3V 0.6A 70mA 325V
12F 5V 0.5A 40mA 300V
80 5V 2A 125mA 350V
80BK 5V 0.7A 70mA 350V
80HK 5V 0.6A 65mA 350V
35W4 35V 0.15A 90mA 117V




チョークインプット回路

殆どのラジオではコンデンサー入力の整流回路が使われていますが、電蓄など例外的にチョーク入力の整流回路が使われます。



普通のコンデンサーインプットの場合、出力電圧が高くて良いのですが、B電流の変化で出力電圧が変動します。
チョークインプットの場合、直流出力電圧は低いのですが、比較的安定した電圧が取り出せます。
この為2A3PPなどB電流が多くかつ変化が多い終段を持つ電蓄やラジオに良く使われました。

L1はチョークコイル、L2はチョークコイルかまたはフィールドコイルを利用します。

AC用直熱真空管のバイアス回路
ラジオ用の26B 12Aや電蓄の出力管として有名な2A3などを自己バイアスで使う場合、カソードがありませんので、
フィラメントの中点を基準にします、この為トランスのフィラメント巻線に中点タップが必要です。
トランス巻線にタップがない場合、ハム・バランサーを使います。
26Bや12A用のハムバランサーは最近では見かけません、必要な場合20Ω程度の固定抵抗を2本直列に接続して代用してください。



C電源

ラジオ創世記の電池管ラジオの時代にはバイアス用のC電池が使われましたが、
昭和の初め頃 交流電源を使うエリミネーター式ラジオ作られるようになってから、殆ど使われていません。
これはC電源用に整流管や平滑回路がもう1組必要なので不経済だからです。
多くはカソードバイアスやグリッドリークバイアスを使う事で解決してきました。
昭和20年代に流行した電池管ポータブルラジオの場合、B電源の1部を利用して、マイナス電圧を作る方法を採用しました。
電池管ポータブルの回路例
B電池のマイナス側に抵抗をいれ、この部分の電圧降下でマイナス電圧を作り、これを出力管のバイアスに利用します。
抵抗820Ωには真空管4球分のB電流が流れます、抵抗の値はバイアス電圧と電流から簡単に算出できます。
こうするとB電池の電圧を損することになりますが、余分に電池を準備するより、合理的です。
軍用受信機など特殊なものではバイアス用に別途水銀電池などを組み込んだものもありますが、例外です。


半固定バイアス
B電源回路のマイナス側に平滑用チョークやスピーカーのフイールドコイルをいれ、
そこで発生するマイナス電圧を利用するもので、半固定バイアスと呼んでいます。
数として多くは有りませんが、時々見かけるので、知識として承知しておくと良いでしょう。
この回路例は無線と実験昭和15年1月号のジャープ 普及3号型受信機(58 57 47B 12F)の例です。
半固定バイアスは電圧の有効利用と言う面で非常に合理的なのですが、
グリッド抵抗の断線時など部品の故障時 プレート電流が沢山流れるなどの危険性があります。
ケミコンのマイナス側が共通に出来ない、部品の数も増える為か、メーカー製ラジオでの採用例は少ないです。

固定バイアス
別途バイアス用の電源を準備する方式です。
カソードバイアスより多くの出力が取り出せるので、
2A3PP(プッシュ・プル)や807PPなどの大出力アンプには固定バイアスが良く使われます。
ラジオでは まず使われません。



固定バイアス
独立したマイナス電源をもった物ですが、2A3プッシュプルなど大出力の電蓄などに利用されました。
普通のラジオでこの回路は見たことがありません。

余談
@昔の木箱入り真空管ラジオは箪笥の上において、家中で聞くと言う前提で作られていました。
したがって ブーンと言うハム音は多少出ても正常と考えてください。
真空管ラジオでもパーソナル用に作られたものはベッドの横に置いて聞く人が多かったのか、比較的フイルター回路に重点が置かれているようです。
さらにプラスチックケースに小さなスピーカーで低音が出にくいためかハム音は小さいようです。
どちらにしても電池だけで動作するトランジスターラジオより、ハム音が大きいことは確かです。
A24Z−K2を使用した倍電圧整流方式については、放送局型123号受信機の項をご覧ください。
B35W4などのトランスレス用整流管を使用したB電源回路は基本的に同じですが、
100Vを直接整流する為、電圧が低いです、平滑回路での電圧降下を避ける工夫が必要です、平滑抵抗を低く、コンデンサーを大きくします。
☆整流管のカソードに直接接続するコンデンサーは無闇に大きくしてはいけません、40〜50μFが限度とお考えください。
☆アウトプットトランスへの給電を整流管カソード直結とした場合、どうしてもハムが出ますのので、もう1段簡単なフイルター回路を入れた方が良いでしょう。
☆平滑抵抗を出た後は大きくても大丈夫です。
☆パイロットランプ(PL)は整流管の6ピンと4ピンの間の電圧を利用します。
単純な接続だと暗いので、PL経由で整流管のプレートに供給する回路が良く利用されます。
こうするとラジオが働き出した時 B電流が重畳するので明るく光るようになります。
逆にPLが断線すると、整流管のヒーター6ピンと4ピンの間の電流が規定以上に増加するので、真空管が断線することになります。
PLが点灯しない時は すぐ交換しましょう。

☆トランス式の整流管の場合 トランスの巻線抵抗が結構高いので、殆ど意識して使いませんが、
AC電源直結の35W4の場合、電源インピーダンスにも充分注意が必要です。
電源インピーダンスが0に近いので、整流管のプレートに流れるピーク(ホットスイッチング)電流が規格値を超える恐れがあります。
35W4の場合、7Ω以上必要です。
PLランプの回路が含まれますから、省略したラジオもあります、しかし安全を見込んで追加したラジオもあります。