真空管ラジオでは受信した微弱な信号を順次増幅します、信号の電圧が大きくなると考えるとわかりやすいです。
しかしスピーカーは電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する部品です。
電圧を加えるだけでは動作しません、その為電力増幅回路が必要になります、ここで使う真空管が電力増幅管です。
3極管 5極管 ビーム管など電力増幅用に作られた真空管が沢山あります、下記に代表的なものを示します。
ラジオ用の電力増幅管は並四に使われた12A 、普及型の5球スーパーでは6Z−P1が使われました。
効率の良いマグネチックスピーカーと12Aの組み合わせは、 当時の家庭の茶の間で家族でラジオを聴くには充分な音量でした。
また昭和20年代全盛だった6Z−P1を使った5球スーパーも、家中聞こえるくらい 大音量でした。
最近 売られているスピーカーは、変換効率より音質に重点を置いた物が多いです、6Z−P1の数倍の出力があるのに、
音量が小さいこともあります、真空管ラジオではスピーカーをうまく選んでください。
下記の数値はあくまで電気的出力で、スピーカーの変換効率により音響出力が大きく変わってきます。
主な電力増幅用真空管の動作例
ヒーター | P電圧 | P電流 | P損失 | G2電圧 | 電流 | G2損失 | Ec | 入力信号電圧 | rp | 負荷抵抗 | 出力 | |
12A | 5V 0.25A | 180 | 8.5 | ー | −15 | 15Vpp | 4.15K | 10K | 270mW | |||
47B | 2.5V 0.5A | 180 | 20 | 180 | 4.8 | −19 | 19Vpp | 45K | 6K | 1.4W | ||
6Z−P1 | 6.3V 0.35A | 180 250 |
16 17 |
4W | 180 180 |
4.5 4 |
0.6W | -10 | 10Vpp | 130K 150K |
12K 12K |
1W 1.5W |
42 | 6.3V 0.7A | 250 | 36 | 11W | 250 | 10.5 | 3.75W | -16.5V | 16.5Vpp | 80K | 7K | 3.1W |
6AR5 | 6.3V 0.4A | 200 250 |
28 35 |
8.5W | 200 250 |
7 10 |
2.5W | (350Ω) -16.5 |
11Vpp 16.5Vpp |
ー 65K |
5500 7000 |
1.7W 3.2W |
6AQ5 | 6.3V 0.45A | 250 | 47 | 12W | 250 | 7 | 2W | -12.5 | 12.5Vpp | 50K | 5000 | 4.5W |
35C5 | 35V 0.15A | 110 | 41 | 4.5W | 110 | 7 | 1W | -7.5 | 7.5Vpp | 13K | 2500 | 1.5W |
30A5 | 30V 0.15A | 100 | 43 | 7.5W | 100 | 11 | 1.5W | -6.7 | 6.7Vpp | 22K | 2400 | 2.1W |
mT管の5球スーパーを例にとると、6AV6で電圧増幅、6AR5で電力増幅を行います。
電圧増幅は負荷抵抗(RL)を大きくとれば、大きな出力電圧が得られます、しかし電力(=電流×電圧)増幅ではプレート電流も沢山流す必要があります。
電流が流れるとプレートで損失が発生します、それに耐えられる真空管が必要になってきます、これが電力増幅管です。
6AV6は100〜250KΩの負荷抵抗を使い、バイアスはグリッドリークバイアスを利用します(−0.5V程度)。
増幅率は数十倍で、ここまでは電圧増幅で、プレート電流も0.5mA以下です。
6AR5はスピーカーを駆動する電力が必要です、プレート電流も沢山流す必要が有ります。
6AR5はプレートとスクリーングリッドに250Vの電圧を加え、
グリッドに−18Vのバイアス電圧を加えた状態でプレート電流は32mA流れます。
グリッドに6AV6の出力の音声信号を加えると、電圧の大きさに比例した電流が負荷に流れます。
この場合負荷抵抗は7600Ωです。
グリッド電圧が0になるまでの入力(実効値で12.7V)を入れた時の出力が3.4Wになります。
例えば規格表では6AR5でプレート スクリーングリッド電圧266.5V、カソード電圧16.5の時、 グリッドに11.7V(16.5Vpp)の音声信号を入れると、3.2Wの出力が得られます。 この部分が電力増幅回路です。 |
バイアスの加え方
真空管にバイアスを加える方法に別にC電源を準備する固定バイアスと、ラジオでよく使われる自己バイアスがあります。
自己バイアスではカソード電流をバイアス用の抵抗に流した電位差を利用する方法と、
数MΩの抵抗をグリッド回路にいれ、真空管の微弱なグリッド電流によるバイアス法があります。
後者は1V以下のバイアス電圧しか得られません、欠点もありますが、回路が簡単なので6AV6のような高増幅率の3極管に利用されます。
真空管を2個使ったプッシュプル回路
真空管1本では出力が不足する時に使われますが、主にアンプ用で、日本製ラジオで使われた例は極めて少ないです。