U-Stage 流 英国の楽しみ方

 なんて大層な題をつけたが、クス以外、一向に原稿が集らぬまま3人は帰ってしまった。この旅全体が一つの表現なのである、と言う私の目論見は残念ながらしっかりとは理解されていなかったようだ。
 英国の楽しみ方は沢山あると思うが、とにかく奥が深い国だ。私は英国人の隠し物好きと呼んでいるが、なかなか本性は現してくれない、大事なものはしっかり隠してある。それを探し出す楽しみ、宝探し、迷路、お城に市場、教会…、ドラゴンとの闘いこそ無いが、ロールプレイ・ゲームの現実番という感じだ。街並みだって中世が沢山残っており、それだけでも十分楽しめる。
 で、私が特にお薦めしたいのは、Pub 巡りはクスが書いているので、蚤の市と教会だ。
 蚤の市、これは日本でも随分流行ってきたが、何と言ってもアンティークの本家本元、古い物好きの英国人、面白いものが沢山ある。とくに私達のようなド貧乏な旅行者には、日常品を買うのに重宝する。英国を旅行するのに、何時何処で市が開かれるかという情報を知ることが出来、それに合わせて日程を組めれば、日本から何も持って来る必要は無い、必要品は全て揃う。£15(\3000)もあれば革ジャン、ジーパン、パンツに靴下、取り合えず揃えられるだろう。ただし情報が難しい、何て言ったって宝捜しの国だから…。
 さて一番のお薦めは教会だ。しかも教会は探しまわらなくても町に行けば直ぐに判る。教会なんぞ何が面白いのかと思われる方も多いだろうが、先ずその建物、色々ありますよ、四角いのや丸いのや尖っているのやら…。内には美術館と見まがうばかりの絵画や彫刻があったり、美しいステンドグラス、パイプオルガンも様々。ある時刻になると響き渡る鐘の音、未だに太いロープをひっぱって鳴らす所もある。聖人達の像、良く見ると首から上が無いものが多い、今は修復されているものも多いが、ある教会など、何千とある絵や像の全ての首が切り落とされていた、ご丁寧にほんの1cm 程の小さな絵ですら…。宗教戦争の名残と片付けてしまえば簡単だが、英国教会や英国人達の屈折した歴史を考えるにはもってこいだ。お祈りをする椅子の下に面白い彫刻があったり、ドアに小さなネズミの精巧な彫り物がイタズラ(…だと思う)してあったり、宝捜しを始めると、幾らでも変な物に出くわす、教会で、だ。残忍さや遊び心、弱さや力の誇示やら、文化、歴史、全てがある。何と言っても緊張感のあるあの雰囲気がいい。何かがある、そんな感じだ。静かで落ちついた佇まいの中に人間のドラマが凝縮されている、それが教会だ。

「One Pint of Bitter Please」 楠 良命
Kusu. bitter いよいよ、このツアーも2ヶ月を過ぎ、私を含む、達也、亜生の3人には、帰国のカウントダウンさえ楽しみの一つになり始めた。日本はさぞかし暑いことだろう。11ヶ月になる我が娘はアセモが大変らしい。女房殿、もう少しだ、頑張って頂戴。そんな中、父親である私は延べ70日以上の英国滞在中に、一体何件のPub に通っただろうか。今思えば、1件ごとに写真かメモを残しておけば良かった…、なんて事、家族には言えないぞ。
 とにかく私にとって英国の素晴らしい点の一つがPub である。昼間からうまいBitter が飲めるのは極楽至極。あの独特の絵看板を見つけると、電球に群がる蛾のようにふらふらと引き寄せられる。そして冒頭のセリフだ半年程前、ブラジルあたりに逃亡した列車強盗の一人が、「Pub でBitter を一杯やりたい」と言う理由で、彼の母国であるこの国に帰って逮捕されたニュースが報じられたが、うーん、何となくわかるぞ。警察も一杯ぐらい飲ませてやれよ。そしたら「さすが英国、懐が深いぜ」って思うのに…。
Pub では何と言ってもBitter である。日本のビールに近いラガーや、リンゴ酒の炭酸割りのようなサイダーなどもあるが、Bitter の苦味とコクのある味がこの国には合っている。不思議な事には、白・赤問わずワインやカクテルを飲んでいる客はいるが、スコッチなどのいわゆるウィスキーを飲んでいる客はほとんど見かけない。Pub ではBiter を飲んで、自宅に帰ってからウィスキーというのが英国流なのかもしれない。(London でお世話になったイアンさん。自宅のスコッチ空にしてごめんなさい。)
 Pub にはほぼ100% 男子トイレにコンドームの自販機が備え付けてある。女子トイレには無いらしいが、まあ、あちらの方もお盛んな国柄だし、勢いやノリも必要だからなぁ。そう考えるとこの国は酔った勢いで子孫繁栄を成している国である。もし戦争や疫病以外の理由でこの国の人口が減少したら、何件かのPub がつぶれたと考えていい。それぐらいPub は英国では重要な場なのだ。
 さてここでお薦めのPub を一つ。ロンドン郊外のレイナーズレーンという町にある「?」ここは何と£1.05 でBitter が飲める。又、飯も美味い。ただし私達が行った時には酔っ払いがいてこれがからんできた。でも大丈夫。どうやら彼はブルースリーらしいので、からまれたら「I'm Jackie Chain」と言えばよい。そうすると彼は大喜び。私なんか2杯もBitter をおごってもらった。
 それから今いるPub。何だか変な雰囲気だ。客は男ばかりで、ガーデンで男のヌード写真を廻し読みしてたぞ。皆ベタベタしてるし。お前等近寄りすぎだろう。あっ、目が合った。ウィンクしたぞ。さぁ、急げや、急げ。まあ、そちらに興味のある方はどうぞ。
 とにもかくにも私はあと2週間でこの国とおさらばである。恐い、じゃない、愛しい女房殿と一緒に、それぞれの田舎に帰って親に孫の顔を見せてあげよう。田舎は、長崎と広島。東京と違い、まだまだ自然が残っている。英国の自然も素晴らしいが、日本の田舎だって捨てたもんじゃないぞ。娘はすぐに忘れるかもしれないけど、今のうちに見せてあげよう、体験させてあげよう。英国は大きくなってからでも遅くはないけど、残念ながら日本は何でも急ぎ過ぎちゃうから。今のうに…。でも父親の私のこの癖は直らないだろうな。「焼酎一杯。お湯割りで!」

7月28日 Exeter のPub 「North Bridge Inn」にて

追伸:Pub でおそらく最も多い店名は「Red Lion」だ。私達の獅子舞も赤い獅子頭を使っているが、獅子舞にはお神酒が付き物。英国も日本も赤いお獅子には酒が似合うらしい。