キャスト スタッフ
杉本雄一 山本 達也 照明 須賀知恵子
高木 嶋崎 靖 音響 斎藤美佐男
丸山 楠 良命 舞監 菊池 寿剛
六助 小池純一郎 山本一朗太
ポチ 田中 晶 宣美 岸 南美子
ジュン 今津留美子
青山 村上 智子
星野 加藤 千代
町子 菅 京子

太古の闇には(鳴澤 清一)
 東京の空は、いつまでも明るい。物音も絶えない。地方から上京した十八の僕は、星も見えない夜空に驚いた。地方では空は、大地より広く大きい。けれど、東京の空は、ネオンや街灯に染め上げられてしまうほど狭い。排気ガスに包まれてしまうほど小さい。
 かつて、夜の暗がりに物の怪がいることは常識だった。闇の中に恐怖があれば、助けてくれる神様も当然いた。月があれば影ができ、星が瞬けばもちろん恋も生まれた、昔は。闇の中には、万物の主が目を光らせていた時代があった。東京では、遥か太古の時代のようだが、田舎ではつい最近までその時代であった。物陰にはコンギツやタヌキにムジナがいた。ムジナがいかなる物か知らないが、友人の中村君はたしかに見たと言う。どうせ見るなら、僕はUFOの方がいいと思う。ムジナから守ってくれる八百万の神様には、今も年寄りは頭を下げる。道の道祖神に、御神木に、古く奇怪なもの、大きなものにありがたそうに頭を下げる。子供は「川の神様どいとくれ」と言って小便をする。しないと曲がってしまう。田舎者はそのため曲がり○ンポが多い。今も闇の沢山ある田舎ではムジナも多いが、罰当たりも多い。迷信の、単純のとバカにするなかれ。闇への恐怖から生まれた創造物は、原始的であり、根源的である。闇こそ創造の源でもある。街は、電力会社の陰謀に光り輝くが、闇と共にあった神様も失った。代わりに街は劇場の闇を持つ。十八の驚きから時を経て、いつの間にか僕も、縄のれんをうろつき、電力消費に加担し、東京の不夜の片棒を担いでいる。そしてなくした神様を劇場の闇の中に創ろうという自己矛盾に陥り、おまけにそこは更なる迷路でもあるようだ。

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