1992年 夏
 我が青春のFZ250最後のツーリング。
 22歳(1987)の春、失恋をきっかけに、さだまさしの歌のとおり取得したオートバイライセンス。初めは免許だけ取っておこうとしたものの、免許証が届いた翌日に15万位の中古バイクを探しに行ったばかりに、衝動買いした新車のFZ250(フェザー)。小さくて力(45ps)があり、きびきび走るいいバイクだった。
 想えばツーリングという走りはほとんどしていなかったような気がする。峠を攻める(でもない)漫画のまねごとばかりしていたようで、いま考えるともったいない。まあ、このバイクを発端にして、若い連中のライダース・エッグというサークルもできたことだし、青春のバイクといえる。
 
8月8日 (土) 晴れのち曇り
 10:10酒田を出発。今夜は函館か。最近調子の悪かったエンジンもしばらく走るうちに絶好調になる。なにせ結婚してから丸一年は乗っていなかったわけで、これでは調子など良いわけがない。つい先日まではアイドリングすらまともにしない状態だった。なんとかエンジンは掛かる状態なので、これは走り足りない証拠だと今回のツーリングを企画したものだ。
 まあ、ひたすらR7を北上する形で、青森を目指したわけだが、案の定青森県にはいるとエンジンの調子が悪い。スロットルを戻すとアイドリングが出来ないのだ。スロットルを入れながらだましだまし青森のフェリー埠頭へとたどり着く。いつ完全に止まるかと想うと冷や汗ものである。最近乗ってなかったせいもあり、体の方も不調を来たし、けつが痛いのなんのって・・・。思いつきで始めたツーリングだったため何とも前途多難である。 青森のフェリー埠頭につくと何とも悪い予感がした。しっかり芝生帯にテント村が出来ているではないか。案の定受付に行くと30時間後来いとのこと。一昨日きやがれよりはずっとましであったが、30時間後といえば、あさってのこと・・・。1987年に予約なしにすんなり渡れたのは知らぬが仏の奇跡というもの。とりあえずは芝生帯の空いているところをなんとか探して、テントを張った。あたりは学生さんが多いようで、2〜3日位待たされてもいいやといった感じで、キャンプをエンジョイしている。しかしバイクが心配だ。少し休ませるとエンジンが掛かるようになるので、時間が来たらこのまま北海道へ渡る気で居た。
 その他の心配事として台風が来ている。欠航によって船の便数が減れば、それだけ渡るチャンスがへるのだ。15日には酒工会もあることだし時間がないのだ。何で予約しなかったのだろう。テントで気象情報を聴こうにもラジオは電池切れ、おまけにアナウンスのスピーカーは24時間鳴りっぱなしだしそのたびに動くバイクの音はブンブンとうるさい。
 なんとなく今回のことで、夏に燃え上がったものが薄れていく。2日後に渡ったとしても帰る予約はまったく取れずであり、終わったかなと想いつつ酒を飲む。
 
8月9日(日)雨のち晴れ
 夜中から強い雨が降り続いている。フェリーに乗れるのはまだまだ明日の朝。テントはビシャビシャ、なんとなくやる気がなくなり、5:30頃からターミナルへ行きトイレや朝飯のサンドイッチを買い込み、台風情報など見る。やはり今日は一日雨。サンドイッチは400円もしたが朝昼に分けて食べることにする。テントに戻ると全然やる気がなくなり朝から酒を飲みふて寝をしていた。
 目が覚めたのが16時頃、バイクが心配でエンジンを掛けてみたが、最初は掛かり何回もするうちにだめになる。バッテリーが心配でやめるが明日の朝までまとう。
 諦めて歩いて買い出しに行く。30分くらい歩いたところにマルホンがあり、乾電池とラーメン、ジュースを買う。これでラジオが聴ける。明るいうちは港をうろうろし、日が落ちるとフェリーターミナルでテレビを見ていた。それにしてもすごい人だ。21:30にテントに戻り寝る。
 
8月10日(月)晴れ
 夜中何度も目が覚める。予約の時間だなーと想いながらもテントを畳む気もおきず、ごろごろしていた。バイクは完全に壊れているし、向こうへ渡ったとしても帰れる保証(予約)はない。
 朝起き出すと、プラグの掃除をしてみるが変わりなし。とりあえずバイクは動くようなので、バイク屋まで行くこととする。その前に3日も風呂に入ってなかったため体中不快感いっぱいだったため、来る途中見つけた風呂屋へ行くことにする。1,700円と高いが、何とも背に腹は代えられないと行った感じである。しかし一つ早く国道を横切ったところに300円の風呂屋があり、ラッキーと入る。その風呂屋のタウンページでYSPを探しだし、向かうこととする。しかし向かう途中エンジンは不調の一途をたどりとうとう死んでしまった。30分炎天下の青森を歩きYSPへ到着。すく診てもらえたことには感激した。待つこと5時間、ずっとバイク雑誌を診ていた。なんとかエンジンが掛かるようにして貰ったのだが、請求金額は30,900円。一気にやる気がなくなる。しかし5時間も試行錯誤してくれた代償としては正当と思える。バイク屋さんのとどめの一言「結局古いということですね。」
 あーあこれではもう既に今回の予算オーバーである。晩飯のつまみを買いつつテントに戻り酒を飲む。今夜で3泊目。
 
8月11日(火)曇り時々晴れ
 5:00起床。湿っぽいバッグや合羽や寝袋をテントの外に出して、朝食。ターミナルで買ってきたご飯にレトルトの激辛カレー。ここにいる限り食いっぱぐれはないだろうが、このままでは夏が終わらない。目標を北海道から東北一周に変えて出発だ。
 そそくさとテントを片付けて7:30出発。バイクはすこぶる調子がよい。3万もかけたのだから当然である。青森ベイブリッジからアスパムへぬけ混雑したR4を、東へひた走る。なんとなく荷物が偏るので気になり、気になり出すと注意が散漫になるので、前の車に追突しそうで危険である。すぐに直す。
 R279に入るとどんより雲が出てきて肌寒い。バイクの人はしっかりジャンパーを着ている。今回、私の場合は、Tシャツで走るつもりで長袖は1枚しか持ってきていない。いま想えばこれで北海道になど渡ろうとしたのが甘いのだ。あめがぽつぼつ来たので、観光センターでホタテの串焼き(200円)を食べ休憩。止まっていれば暖かい。さすがに本州だ。走ると寒いのでヤッケを着るかどうか迷ったが、かっこわるいので結局着なかった。
 道路は雨上がりで濡れていたため調子こいてコーナーを攻めたところもろに後輪がずるむけに滑り転びはしなかったもののかなり焦った。今回タイヤを替えたばかりでバイクを倒さなければ当たらない部分のグリップが無い状態だったのだ。ほっとしたところにまたもや冷や汗な事件が起こった。なんとガソリン切れによるエンスト。ガソリンが少ないのは知っていたが、予備タンクに切り替えてからでいいやと想っていたところ、昨日のバイク屋さんがご丁寧に予備タンクに切り替えていてくれた。近所の人にスタンドはどこかと聴くと、10分くらい行ったところとのこと。ちなみに歩いてですかと聴くと「車でだ」・・・。まいった。困ったそぶりをしていると、ちょっと隣に聴いてくるとのこと。何とも優しい人だ。これだから青森の人はいいと思う。隣の家にガソリンがあるとのことでドラム缶から7lほど分けて貰った。ただとはいかないので2千円払う。このころガソリンは100円/l位だったのだが、想わぬスピード解決だったので良しとする。
 下北半島を北上しせめて本州最北端の大間崎へとバイクを走らせるが、あたりの景色は一面の原野。こんな所でガソリンが切れなくてよかった。しかしこの先に結構大きなむつ市とかがあるはずなのに、なんと寂しい道だろう。むつ市を通過して、大間崎で写真を撮ったり少し休憩する。本当は下北半島も一周したかったのだが、砂利道らしいのでパス。 帰りも同じ寂しい道を走り八戸へ。本屋にかけ込み今日のねぐらとなるキャンプ場を探す。R45号沿いのキャンプ場に種差キャンプ場というのがあり、そこを目指す。行く途中に白浜キャンプ場というのもあったが、まあ向こうを見てからでも遅くないとおもい、種差へ向かう。こちらの方がテントも少ないし、家族連れらしかった。向こうはあんちゃんばっかりでうるさそうだったし、なんといってもこちらは近くの旅館で風呂にはいることが出来る。これには何者も勝るものはない。受付ではじめ2,500円といわれてびびったが、バイクの人ならと500円にしてもらった。これならば明日雨でも停滞が出来る。早速風呂に行きビールとつまみを買い込んでテントで飲む。ラジオは高校野球ばかりで、天気予報をやらない。かなり風が強い。
 
8月12日(水)曇り時々雨
 朝起き出すと霧雨だった。停滞は覚悟の上だったが、何とも中途半端な天気だ。これから崩れるのであえば、なるべく距離を稼いでおきたい。ラジオでなかなか天気予報をやらないので駅まで歩いて、NTTの天気予報を聞きに行く。やはり曇りのち雨とのことで、今は降っていないのだから以降と決心してテントをたたむ。
 合羽を着込んで荷物もビニールで包みしっかり雨装備だ。おやっグローブがない。バックに入れてしまったのか、また荷をほどくのも面倒だがこの寒さでグローブなしではつらい。仕方なく開けて取り出す。
 走り出すと、あたりが霧に包まれだし今にも降り出しそうな雰囲気だったが、ポツポツ位しかふらず結局良かったが、宮古の当たりはかなり晴れていて真っ赤な登山用の合羽
が恥ずかしかった。
 11:40宮古でラーメン屋に入って少し早めの昼食。岩手といえば冷麺とのことだったので食べるが、やはりラーメンにしておくんだった。
 そこからは真っ赤な上下の合羽は恥ずかしいけれども寒いので上だけ着て走る。三陸のリアス式海岸は海が入り組んでおりとても美しいが、道路もかなりのワインディングロードとなっている。昨日転びかけたものだから、怖くてバイクを倒せない。初心者マークに抜かれたのはショックだった。
 14:00には大舟渡に着いてしまい、あと4時間も走れば酒田かなと思いつつも尻も痛いし、碁石海岸のキャンプ場に泊まることとした。ここは前に自転車で回ったときに来たことがあるが、風呂もないし(今はシャワーがあるが)店も遠くかなり不便だ。おまけに一泊1,000円も取られる。近くで焼いていたホタテを2つ買ってきてそれを肴に酒を飲む。
 
8月13日(木)雨
 今日は朝から雨。出発するまでは小降りだったが、走るうちに本降りになってくる。R45から古川にぬけR47を酒田へ。雨でずたずたになるし、バイクも止まりがち。なんとかたどり着くことが出来た。
 
 この後やはりバイクの調子は戻らず、酒田のバイクルショップ五十嵐にて生涯を閉じる。処分料5,000円也。