最終更新日:2004年03月31日

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表紙 > バックナンバー > 第6号 > 獣欲


獣欲 
−病む父親を殺し、看護する娘を輪姦する−

小林武司


 それは1942年8月上旬、「浙かん作戦」の時である。浙江省江山県城に駐屯していた磯塚大隊木村隊(中隊長中尉木村一夫)が、城外南方約12キロの某部落を中心に略奪を目的とした掃討を行ったが、その時私小林一等兵が犯した犯罪である。

 部落手前で墓地のある高地に侵攻した木村中尉は、双眼鏡を取り出してジーッとのぞき込んでいたが、朝もやのためよく見えないのだろうか、腹立たしげに側にいた機関銃手の桑田に「おい、機関銃をぶち込め!」とかなり立てた。ダダ、ダダッと朝もやをつんざいて機関銃の銃口は火を噴き、群雀が一斉に飛び立つと、部落は一瞬どよめき立った。中太(中隊長のこと)は、軍刀を地上につっ立てながら「掃討!」と怒鳴った。

 部落を吸いつくように見つめていた兵隊たちは、まるで野良犬が獲物目がけて飛びつくように、我先にと部落目がけて散って行った。やがて門をけやぶる音、家具をうち壊す音、それに続いて兵隊の怒号に混じる悲鳴も聞こえる。

 墓地の土慢頭から蝮のように頭をもたげた村上上等兵の「おい、小林!」のどなり声に、はじかれたように飛び上がった私は、村上に続き部落南側の家屋目がけて乱入していった。門は閉ざされていたが、銃尻でクイと押すと難なく開いた。二、三歩後ずさりした村上は、ヘルメット帽をあみだに被り直すと、眉毛をピクピク動かしながら、用心深く中へ入って行く。竈には慌てて灰をかぶせたらしい薪がくすぶり、鍋からは飯のこげつく匂いが漂っている。

 すると、奥の方から重苦しい咳声が聞こえてきた。
「おやっ、誰かいるぞ」と近付いて見たが、ドアは固く開ざされていて開かない。私はドアを激しくけりつけ、「開門、開門!」(開けろ、開けろ!)とたて続けに怒鳴り立てたが、咳混じりの声がするだけである。

「畜生、閉けやがらんな!」、私と村上はドアに体当たりしてぶち壊し中に侵入した。差し込む光で室内を見回した瞬間、「おおうっ!」とばかり二人は声を詰まらせた。つばをゴクリと飲み込んだ村上は、ニヤリ、ニヤリしながら手のひらで鼻をしゃくり上げると、「おう、こりやぁよい獲物がいるぞ」と言う。そして舌打ちしながら、「親父を片付けてしまえよ」と、私に対してしきりに頭をしゃくり上げる。

 そこには、「鬼子」(日本兵のこと)の侵入がわかっても逃げることもできない老人が寝台に横たわり、息苦しく咳をしており、そばには年の頃23、4歳の娘が看護に当たっていた。不安と恐怖で全身を小刻みに震わせながらも、父親をかばうように立ちふさがり、室内には花瓶にもられた花の柔らかな香りが漂っていた。

 私は病父と娘だけだと見てとると、姑娘服から露出した腕、ふっくらと盛り上がった乳房に、吸いつくような獣欲の目を浴びせかけた。私は銃を肩に引っかけ、のそりのそりと寝台に近付いて、娘の顔をのぞき込むと、額をクイと押したが、娘はその手を激しく払いのけると、父親のふとんをかけ直した。

 70歳を超えたらしい病父は、真っ白い顎ひげをつけ、娘の手を軽く握りながら、苦しそうな息づかいをしていた。

「ホウ、こいつはもう片足棺桶に突っ込みかけているな。この老いぼれを追い出したら、ことは簡単に行くぞ」「オイ、起来(起きろ)、起来!」と枕を引っ張って怒鳴りつけたが、病人は目を娘に向け直したままで、口を開こうともしない。村上は「チェッ、なめくさったな!」と言うや、枕をたたきつけ、足を寝台にかけながら「このくたばり親父、おい、起来、起来!」と、揺さぶりながらわめき立てた。私も「この死にぞこない奴、ふてえ目つきをしやがって」と、やにわに布団をはぎ取ろうとしたが、娘は「父親、有病!(父親は病気です)」と、布団の端をしっかりと抑え、その鋭い瞳は怒りに燃えていた。

「こいつ柔らかに出れば反抗する気だな!」私はいきなり銃で床をドスン、ドスンとつくと、「この野郎!」と娘を蹴飛ばした。椅子諸共にもんどり落ちた娘は、「アイヤー!」と叫ぶが早いか素早く起き上がり、唇をかみしめ、怒りの涙を拭おうともせず、私をキッとにらみ返した。

 私は、目を病父にむけるや、「この野郎、ずぶとい奴だ」とばかりに、胸元を銃尻で小突き回した。

「我、我、不能起来、有・有病(私は病気で起きられない)!」と、込み上げる咳で喉を詰まらせ息もとぎれとぎれに叫んだ。娘もたまりかねて、銃を強く払いのけると、父親にすがりつき、胸元をさすり、痰でぬれた顔を拭きながら、「起不来、父親有病(起きられません。父は病気なんです)」と、涙に光る目で私をキッと睨みつけた。

 戸外からは兵隊に追われる豚の断末魔の声、鶏の悲鳴、ガチャン、ガチャンと家具をぶち壊す音、兵隊のどなり声が喧しく聞こえてくる。焦りを感じた私は、額から流れ落ちる汗を袖口で拭うと、いきなり光る剣先を娘の胸元に突きつけた。娘の顔は一瞬蒼白になり、涙に光る顔がピリッとひきつったが、その腕は強く父親を抱きしめている。

 父親は、娘の涙をしなびた手でこすりながら、とぎれとぎれの言葉で娘にささやきかけた。娘はためらう様子を見せながらも、うなずくと立ち上がり、寝台の下から素焼きの壷を取り出して前に置いた。壷の中には卵が入っていた。私は、「フ、フン、これと引換えにしてくれか、馬鹿にしていやがらぁ」と、それをひったくり憎々しげに床に投げつけた。せめても病父のためにと蓄えておいたらしい卵は、床をペットリ黄色く濡らしてすべて壊れた。

 今までじれったく行ったり来たり、あちこち手当たり次第蹴飛ばしたり、また戸外を盗み見ていたりした村上は、急に腕まくりして蚊帳を引きちぎると「なにをモサモサしとるんだ。この老いばれ奴」とばかりに、父親の頭をけりあげた。「ウーン」と悲鳴を上げた父親は、憎しみの目でにらみつけながら、「我有病、好老百姓」(私は病人だ、ただの百姓だ)と叫ぶなり、グッタリとし全身をブルブル震わせている。「この野郎、まだか!」村上は父親の腕をつかむや、布団諸共寝台から引きずり落とした。それでも老人は寝台の端につかまり起き上がろうともがいている。そこへ村上の足が横腹に飛ぶと、握り締めた手を高く振り上げながらあおむけに倒れた。娘は駆け寄り、父親の上にうずくまった。青ざめた病父は、苦しみもだえながらも、娘を逃そうと娘に何事かを訴えたが、娘は首を横に振り、父親の胸元に頬をすりつけ、父親の体を揺すりながら、込み上げてくる悔しさと憤りでただただしゃくり上げている。父親は村上の方へ目を向けると、怒りをむき出しにしてにらみつけた。

「なにッ、このくたばりじじい奴!」口から泡を飛ばし、額に青筋を立てながら、ヘルメット帽を投げつけた村上は、「ブチ殺してしまえ!」とわめき立てると、やにわに側にあった椅子をつかみ、ガムシャラに振り回した。娘は怒りと反抗の顔を上げると、村上を一にらみして、父親の上に覆いかぶさった。私は「こいつ、まだ反抗する気だな」と言いながら、娘の肩を蹴り飛ばし、病父の頭目がけて殴りつけた。ウーンとうめき声を上げると、大きく伸び上がり、「日本鬼子」と怒りもあらはに叫んだ。ドクドクと流れ出る血は白い髪を染めたが、彼はしっかりと握った布靴を振り上げざま私に投げつけた。娘はなおも父親をかばうようにしっかりとしがみつきながら、憤怒と憎しみの眼で私をにらみつける。

「ざまあみやがれ!」私は帯剣を寝台に突き立て、その娘の髪の毛をわしづかみにクイと引き寄せた。然し、娘は怒りの声を上げると、その腕は更に強く父親を抱きかかえた。「馬鹿野郎、こうするんだ」と、銃を投げつけるように私に放り出した村上は、娘の両足をつかみ引きずり回した。娘は靴を飛ばしながら、付上の顎や腕を蹴りつけ必死にもがく。顎を蹴りつけられた村上は、パッパッと唾を吐きながらも、両足を高く持ち上げると下腹を鋭く蹴りつけた。「アイヤー!」と叫びながら大きくもんどりうった娘は、うめきながらもまた父親の衣服をつかもうとする。その腕をねじ上げた村上は、「おい、グズグズせずに早く親父をたたき出せ!」とどなり散らす。

 私は病父の片足をクイとつかんだ瞬間、激しく蹴飛ばされた。「何おっ、この死にぞこない奴」とばかり何度も何度も蹴り返した。病父はその度ごとに怒りをあらわにしたが、やがて目を閉じ、ぐったりと床に崩れ落ちてしまった。娘はワッと悲痛な叫び声を上げ、胸元に握り締めた手は怒りに震えていたが、忽ち寝台に突き倒されてしまった。

 村上の「ぐずぐずするな!」のどなり声に、私は血に染まった病父の髪の毛をつかむと、中庭の石畳の上に引きずりだして、叩きつけた。「この老いぼれのくせに、ずいぶん手間取らせやがったなあ」と、フウフウ息をはずませていると、中から「おおい、よく見張っておけ!」のどなり声に混じり、娘の怒りの叫ぴ、被服の裂ける音、土器の転がり落ちる音・・・・がした。

 わたしは、「チェッ、手前ばかりがうまいことしやがって、馬鹿馬鹿しい」とつぶやきながら、目を病父に向けると、ウ、ウ、ウと呻きながら手足をピクリ、ピクリ震わせていたが、目をカッと見開き私を睨みつけている目とぶつかった。「ううん、執念深い奴だ。こいつまだ睨みつけていやがるな」と、いきり立った私は、更に銃で殴りつけると、胸元を思いっきり踏みつけた。ボキリと不気味な音がし、カァと開いた口からどす黒い血の固まりを吐き出すと、そのまま動かなくなってしまった。「とうとう、お陀仏しやがった」とつぶやきながら、私はその死体を蹴り転がした。

 村上は、シャツの袖を半分引きちぎり、胸を丸出しにし、帯剣を肩に引っかけ、フウフウ息を弾ませながら出てくると、いきなり私に向かい「おい行ってこい!」と言う。乱れた髪が額にもつれたままの娘は、引き裂かれた衣服をかき集めるようにして乳房を抑え、赤く腫れ上がった瞳は悲痛のどん底にいながらも、強い怒りに燃えたぎっていた。だが、獣欲に飢えた狂人さながらの私は、この娘に襲いかかり、犯した。

 私が出てくると、村上は煙草をふかしながら、娘からぶんどったハンカチを鼻先にひらめかし、「一番戦果はこれでよし、お次の獲物と行くか」と言う。いつの間にか出てきた娘は、父親にすがりつき、「父親、父親」と叫びながら、父親を抱き起こしにかかった。ペットリと胸元から石畳を濡らしたどす黒い血の塊を見た途端、娘は怒りを込めて「日本鬼子!」と絶叫した。その形相のすさまじさに、二人は震えながらその場を逃げ出した。

 日本の兵隊どもは、鶏を腹にぶら下げながら、なおも獲物をあさって駆けめぐり、「中太」(中隊長)は、木陰の椅子にふんぞり返り、逃げ遅れた部落民の怒りの目におびえながらも、軍刀片手に「おい、これだけの人数では、とても戦果を運搬できやしないぞ。もっと付近を掃討して奴等を連れて来い!」とどなりつけている。

 なんの罪もない病父を殴り殺し、その娘を獣欲の毒牙にかけ、平和で幸福であった生活をかたっぱしからぶち壊し、荒れ狂った殺人鬼の私、それが今その親兄弟たちの温かい懐に抱かれて生きていることを考えると、強い慙愧の念に耐えない。そうだ、戦争だ。天皇や財閥の奴どものために、もう二度と人殺しの武器なんか手にするものか。

 俺の前途には、中国人民の踏んだ血で綴られた真理の道、働く全世界人民の突き進んでいる平和への道があるのみだ。

(こばやし たけし 中国帰還者連絡会会員)

【略歴】
本籍地 広島県
職務階級 銃手・陸軍兵長
所属部隊 第39師団第232連隊第1大隊機関銃中隊

 

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