親知らずの話(その1) |
親知らずは第三大臼歯の俗称で臨床的には歯列の上下左右の最後方部で真ん中から数えて8番目に位置しているので歯医者は通常8番と呼ぶことが多いようです。またドイツ語の8から「アハト(acht)」と言う横文字かぶれの歯医者もいます。
英語では正式にはthird molar(第三大臼歯)ですが、分別のある大人になって、つまり知恵のついた頃に生えることよりwisdom toothとも呼ばれますので、その日本語訳として智歯と云う呼び呼び方も一般的です。 親知らずの語源は萌出時期が20歳前後で親の知らない間に生えてくるので親知らずと云う説と寿命が短かった昔には生えてきた頃には親はすでにいなくて、親を知らずに生えてくることよりこのように呼ぶと云う説があります。 文明の進化とともにあまり噛まなくてもよい加工食品を食べるようになり、顎は小さくなる傾向にあります。親知らずの萌出する時期にはすでに顎の発育が終了し、第二大臼歯後方に十分な萌出スペースが得られず顎の中で垂直方向のことや斜めや水平方向で埋まったままになったり、頭の部分が一部口の中に見える程度でそれ以上生えてこないなどの萌出困難な状況に陥ってしまいます。 親知らずは人間の進化の過程では退化傾向にあるとも云われ、最近では親知らずを持たない人もたまに見受けられます。そのうち親知らずの有無で文明人かどうかの区別ができるようになるかも・・・ |
親知らずの話(その2) |
親知らずがもたらす不快事項のひとつとして智歯周囲炎と云うのがあります。 歯の頭の部分(歯冠部)を覆うエナメル質には歯肉は付着しませんので、未萌出であっても親知らずの歯冠部の周りは歯周病で云うポケットと同じ状態となります。 親知らずの歯冠部が顎骨内から粘膜下に出てきて、口腔内と第二大臼歯の後ろのポケットと交通するようになると、歯冠部周囲は口腔内細菌の絶好の隠れ家となります。 したがって粘膜の抵抗性が弱まったり、体の免疫力が低下したりすると容易に炎症を引き起こすようになり。炎症の波及方向により口があけにくくなったり、つばを飲み込むときに痛みが出たりします。 |
親知らずの話(その3) |
さて治療ですが、智歯周囲炎が反復するようであれば一般的には炎症を抗生剤で抑えてから抜歯と云うことになりますが、親知らずの位置や歯冠の方向によっては歯冠部を覆う弁状の粘膜を切除するだけでよい場合もあります。 粘膜下や顎骨内にある親知らずの抜歯では歯肉切開をして、状況に応じ骨の削除や歯の分割が必要になります。この際、下顎の場合には親知らずの根の先には下歯槽神経血管束が走行しており、また歯冠部の内側には舌神経が走行し、手術操作上これらの神経を損傷するリスクを伴います。 これらは知覚神経ですので知覚の鈍麻が、下歯槽神経の場合同側の下唇に、舌神経の場合は同側の舌にみられます。知覚鈍麻は程度の差はありますが局所麻酔がいつまでも効いている感じです。 勿論術者はこれらの神経を損傷しないように最大限の注意を払い施術するわけですが、不可避な場合も少ないながらあります。 そのため十分なインフォームドコンセントの基に抜歯を受けることが必要です。 |